【御主人様のお気に召すまま-034】



ある日魔王は考えた。

そうだ、頑張っている人にご褒美をあげよう!

カワラザキには休暇(3日)

幽鬼にも休暇(2日)。

あの二人は多分これで良し。

怒鬼は血風連の装備を新調。

彼は家族思いなので。

十常寺は実験用モルモット(三人)。

返却時には健康体で返すよう言ってある。

残月は古書。

部屋の整理をしていたら出てきたものだが、持って歩いていたら彼が興味深げに眺めていた。

煙草よりはまだましだろう。

と言うかあんな老成した19歳の欲しいものなど解らない。

セルバンテスは花冠。

いや、馬鹿にしているのではない。

サニーが庭で編んでいるのを嬉しそうに見ていたから、後で彼女に理由を話して譲ってもらい渡したのだ。

セルバンテスは酷く驚いたようだったが、サニーが編んだと聞いて嬉しそうに活けていた。

レッドは破壊活動、ヒィッツは女遊びが過ぎる「悪い子」なのでご褒美は該当せず。

さて。

残るは衝撃のアルベルト。

彼は最近仕事が早い。

それが一刻も早く恋人に触れたいからだという事は分かっているが、仕事に支障をきたすのではなく手際が良くなった事は賞賛に値する。

・・・・・しかし何をやればいいのか。

魔王は安直だった。


「イワンにリボンでも掛けて渡しておくか」


・・・・・・ただの悪乗りしたおっさんだと思ってはいけない。

樊瑞は素でとんでもない事をやることがある。

十傑衆に常識など求めてはいけないのだ。





アルベルトは部屋の前にたたずんでいた。

手には鍵。

前回もこんな事があった気がする。

嫌な予感バリバリだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


鍵を開ける。

中にいたのは、やっぱり半裸のイワン。

だが・・・・・・掛かっていたのは蜂蜜ではなく真っ赤なリボン。

いや、これだけならいい。

正確には全く良くないが、まぁまだ許容範囲だ。

問題はそのリボンはさらしのように丈夫で、イワンを椅子に大開脚膝折りで縛り付けていることだ。


「っアルベルト様・・・・・どうか、見ないでください・・・・・っ」


涙ぐんで哀願するイワンに我に返り、アルベルトは取り敢えずドアに鍵をかけた。

分かっている、分かってはいる。

所詮B級エージェントでしかないイワンが十傑衆の、それもリーダーを請け負う樊瑞から逃げ仰せはすまい。

だが何故皆こういう・・・・・もういい!

アルベルトは髪をぐしゃりと乱して葉巻に火を点けた。

紫煙を吐きながら従者を見やる。

うなだれたイワンは羞恥に身を染めながら申し訳なさそうにしていた。

主の顔も見れないでいる彼の裸体を眺め回す。

生まれたての子猫のように震える肌は仄かに色付いて震えていた。


「・・・・・・・・」


溜息を吐き、魅力の過ぎる恋人の頬に手を這わす。

軽く触れただけだが、イワンは身を竦ませた。


ぎゃり、かつん。


耳に届いた小さな金属音に、アルベルトはほんの僅かに眉をひそめた。

金属同士が擦れ合う不快な音は、時折耳に入り込んでくる。

音源を探したが見当たらない。

軽く苛立った手が無意識にイワンの耳や首を愛撫して気を紛らわせていたのだが。


かつん、かつ。


「・・・・・・・・」


音が自分の手・・・・・いや、イワンが身じろぐのに同調している事に気付き、アルベルトは思い切り眉間に皺を寄せた。

明らかに気に召さない不快感を表わした鬼の形相の主に、イワンは涙ぐんで怯えながら頼んだ。


「どうか、見ないでいて下さい・・・・・・・・」


ぽろっと涙が落ちる。

きりっと金属音がした。

主が離れた事にほっとしたイワンだったが、椅子を掴んで戻ってこられて顔を引きつらせた。

考えてみれば簡単だった。

主は自分に罰を与えるだろう。

主の罰は痛みだけではない。

それだけは許してほしいと思うような事を強要する。

見ないで欲しいと言えばいつまでだって眺めているだろう。

怒りが鎮静化するまで、ずっと。

アルベルトはイワンの真正面に椅子を引いてきて腰掛けた。

葉巻をふかしながらイワンの頭の上から、胸、腹、脚、爪先・・・・・と視線を這わせる。

鋭く冷たい視線が肌を這う感覚に、イワンは唇をわななかせた。

恥ずかしくて足先が丸まる。

涙を滲ませた目が頼りなげに揺れた。


「腹の中身は何だ」


問われ、イワンは泣きそうになるのを堪えて目を閉じた。

主の問いに答えなければと思うが、とても言えなかった。

首を振ると、アルベルトの眉間の皺が深くなる。


「言えんのなら自分で出せ」

「!」


信じられない事を言いだした主に、イワンは弾かれたように顔を上げた。

言葉にならずに口が開閉する。

アルベルトは冷たく目を細めた。


「球ぐらい構うまい」


アルベルトの言葉にイワンがうなだれた。


「いくらでも待ってやろう」


主の言葉に、イワンは身を震わせた。

そんな恥知らずな事をするくらいならこのままでいたほうがマシだ。

だがこうしている限り主を拘束してしまう。

任務あけのその身を休める時間を食い潰してしまう。

イワンは血が滲む程唇を噛んだ。

そして俯いたまま、消え入りそうな声で主に懇願した。


「不様だとお笑いになってくださって構いません。恥知らずと軽蔑してくださってもいいのです。ですからどうか」


見ないでください・・・・・・。

涙声で言って、イワンは深く俯いた。

頬を涙が伝うが、歯を食い縛る。

少し上半身を丸めて腹に力を入れる。


「っつ・・・・・・ぅ」


ぎゃり、ぎりっと強く擦れ合う金属音がする。

腹の中が傷付いて痛い。

中身を知る前に噴き零れた血液にアルベルトは思わず息を止めた。

顔を苦痛に歪める従者は血の匂いに気付いている筈だ。

第一に痛みもあろう。

だが・・・・・・。


「っぁ、っ」


カツーン・・・・・・・。


絨毯の敷かれていない床に金属が落ちる。

銅銭だった。

これが腹の中でかち合えば巻き込まれた粘膜が傷を負うのは当たり前だ。


「っもうよい!」


アルベルトの言葉に、イワンは堪え切れずに嗚咽を零した。


「も、ぅ、止まら、な・・・・・」


粘膜を薄く引き千切られる痛みに跳ねる身体に足早に近づき、縦に横にと拡げられながら血にまみれていく後孔に指を入れる。

中にはまだ残った銅銭がひしめいていた。


「ぁ・・・・・ぁ・・・・っ・・・・・・・」


せき止められた苦しさにイワンが身を捩る。

手を伝い落ちる鮮血を感じ、アルベルトは葉巻の吸い口を噛んだ。


「・・・・・・・何故言わなかった」


球か何かだろうと思ったから命じたのだ。

掻き出すならまだしも、銅銭など押し出せば擦れ合ったそれで傷付くのは分かっている。

イワンは小さく首を振った。


「罰、ですから・・・・・」


いつだって主ではなく自分を責める従者に、アルベルトは奥歯を噛み締めた。

この性格がなおせるようなものでない事は知っている。

第一そんなイワンに惚れたのだ。

ならば自分が察してやるべきだ。


「・・・・・・・・・・」


黙って抱き上げ、部屋に二つある寝台の一つに運ぶ。

床に時折血が落ちた。


「・・・・・・少し我慢しろ」

「は、い」


喉を震わせて返事をするイワンの鼻頭を軽く噛む。

入れた指を慎重に銅銭に掛け、掻き出した。


「ぅん、っ・・・・・」


ひくつく孔を縦に押し拡げ、体液と血にぬめる銅銭が覗く。

直径を過ぎると、締まる孔からちゅぐっと飛び出す。


「っあ、っぁあ」


泣きながら銅銭を排出する姿を痛々しく思う。

だがそれと同時に、血に濡れた孔から飛び出すぬらぬらと光る銅銭に興奮を禁じ得ない。

無意識に唇を舐め、アルベルトは指で銅銭を探り出しながらイワンの首筋に舌を這わせた。

今日帰還した任務に発つ前につけた花弁を唇で辿る。


「ぁ・・・・・っ・・・・・・」


擽ったさに気を取られたイワンに愛しさを覚えながら、二の腕の内側の痕に柔く吸い付き、何度も甘く吸う。

柔らかな感触が心地好い。


「ぁ、ゃ・・・・・・」


後孔の痛みと、肌に与えられる甘い愛撫。

イワンの唇から切ない吐息が漏れた。


「・・・・・・痛むか」


奥まで指を入れて全て掻きだした事を確かめる。

身を退こうとするアルベルトに、イワンは手を伸ばした。

主の気と身体が昂ぶっているのは感じていた。

気難しく気分屋な主は口数もそう多くはない。

だが自分はそんな主を慕っているのだ。

ならばその口から出ない思いは自分が汲み取るべきだ。

イワンは痛みにぎこちなくなりながら、精一杯微笑んだ。

伝う涙が口の端から唇に染みて少し辛い。


「我慢などなさらないでください」


健気に、精一杯の恋慕を伝えようと微笑う恋人がどうしようもなく愛しい。

アルベルトはイワンの頬を舌先でなぞって涙を舐め取りながら彼の脚を折らせた。

傷付いた後孔に取り出した自身をゆっくりと差し込んでいく。


「っん・・・・・・く」


眉をひそめ辛そうに息を吐くイワンを掻き抱いて奥まで押し入る。

傷付いた後孔は血液が溢れて滑らかだ。

だがいつものように激しく突きはせず、好いところを狙って柔く突き上げる。

肉管はいつもの焦らしが無い鋭い快楽に悶えアルベルトを締め付けた。


「あっ、あ、ぅぅふっ」


乾き始めた血に引っ張られた後孔が開いてぐぱぐぱと音がする。

シーツを掴む白い指に烈しく噛み付き、アルベルトはイワンの中に精液を注ぎ込んだ。

腹の中を逆流する熱い奔流に、イワンも身を痙攣させて熱を放つ。

中で混じり合う赤と白の生命の根源。

決して新たな生命を形造りはしないが、イワンはそれらが混じり合うのを感じて幸福だった。

その残酷な幸せにたゆたう姿を見つめ、アルベルトは咬み跡から血を流す白い指を口に含んだ。

背に傷を、肌に花弁を、身体の中に蜜を血を残し、存在を感じる。

それに幸せを見いだしながら、アルベルトはイワンにゆっくりと口づけをおくった。





「何故私には褒美が無いのだ!」

「褒美というのはそれに見合う働きがあってこそだ」

食って掛かったレッドを軽くいなした樊瑞に、アルベルトは葉巻を床にゆっくりと落とした。

絨毯が焼け焦げる。


「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」


ただならぬ殺気で衝撃派を構えるアルベルトに誰も動けない。

何をそんなに怒っているのか。

アルベルトの怒りMAXな冷たい目が樊瑞を見据える。


「貴様に働きに見合った「褒美」をやろう・・・・・・・」

「いや、あの・・・・・・・?」

「銅銭三十四枚だからな・・・・・相当高くつくぞ・・・・・・・・?」


遠慮なく受け取れ!





***後書***

うちの魔王はロリコンとボケ担当。