【御主人様のお気に召すまま-036】
「ほれ」
眼前に突き付けられたのは、とんでもなく卑猥な格好で身悶える女性の裸体踊る雑誌。
要はエロ本である。
イワンは頬を染めて視線を逸らした。
「れ、レッド様。おやめください・・・・・・・・」
恥ずかしがる姿は初々しくて可愛いのだが、レッドは不満げだ。
鼻を鳴らして雑誌を投げ、苦無で壁に縫い留める。
「ちっ、つまらん」
予想ではもっと慌てる筈だったのだ。
うぶなイワンにしては反応が薄い。
「余りいびると嫌われるぞ・・・・・・」
いつも通り余り血色の良くない顔を僅かに上げ、幽鬼が忠告した。
彼はアルバム整理をしているようだ。
「イワン、すまないがそこの上から2番目のアルバムを・・・・・・あぁ、それだ」
周りの写真を踏まぬように、イワンは言われたアルバムを手渡した。
幽鬼はそれを開き、僅かに笑んだ。
「懐かしいな」
立っているイワンを見上げ、写真を見せる。
「二十年前のだ」
「面影がありますね」
「まあ、根本顔の造りは変わらんからな」
今より若いカワラザキと、そのスーツの端を掴んだ不健康そうな子供。
痩せすぎの肩に合わないのか、黄色のパーカーがずり落ちかけている。
そしてその側には。
「・・・・・・・・・・・」
幸せそうに、しかし切なげに笑んだイワンに、幽鬼は苦笑した。
写真に写っているのはリーダー時代のカワラザキと拾われて間もなくノーランクの幽鬼、有望株で若手十傑だった樊瑞。
そして十傑衆入りしてすぐの衝撃と幻惑。
この頃にはもう盟友だったらしいが。
イワンがその瞳で見つめるのは他の誰でもなく、年若い主の姿。
どこまでもアルベルトに恋する姿がいじらしい。
「持っていくか?」
「えっ、あ、しかし・・・・・」
遠慮深いイワンに苦笑し、幽鬼はアルバムを捲った。
一枚抜いて、白い指に渡す。
「こちらなら遠慮もいるまい?」
誰がどうやって撮ったのか、葉巻をくゆらせる主のアップ。
若々しさが鋭い視線をより引き立てる。
髭は無く今程ダンディではないが、少し崩した髪に男の色気が溢れていた。
「有難うございます・・・・・・・」
大事そうに両手で包む仕草に、幽鬼は優しく笑った。
「・・・・・・・・・・?」
夜半に従者の部屋を訪れたアルベルトは怪訝そうに眉を寄せた。
ノックしても反応が無かったので勝手に入ったが、イワンは留守ではなかった。
てっきりシャワーかと思い待つつもりだったが、イワンはソファに座っていた。
瞳は手元にいっている。
よく見れば写真を見ているらしい。
「・・・・・・・・・・」
アルベルトの眉間の皺が深くなる。
イワンは主の来訪にも気付かずに写真を見つめていた。
僅かに口元を綻ばせ、野苺の色に頬を染めて。
誰の写真か知らないが、面白い筈が無い。
足を踏み出すと、イワンがはっとしたように顔を上げた。
「あ、アルベルト様っ」
咄嗟に写真を隠した仕草に益々機嫌が下降する。
アルベルトはイワンに手を伸ばして腕を掴んだ。
半ば引き摺ってベッドに放り投げ、顎を掴む。
何か言おうと薄く開いた唇にむしゃぶりつき、激しく口づけた。
ぢゅっ、ぢゅる、と舌を絡め吸われ、イワンが苦しげに鼻を鳴らす。
「んっ、んん」
左頬の内側に舌を突っ込んで掻き回す。
くぽくぽと空気が入る音を聞きながら、互いの唾液を混ぜてイワンの喉に流し込んだ。
生ぬるい多量の唾液は慣れぬ葉巻の苦みを含み、上手く飲み込めないようだ。
普段は流れ落ちるに任せる。
だが今日は違った。
飲み零せば飲み零した分また送り込み飲み込ませる。
「んはっ、は、はぁっ」
やっと飲み切った時には、イワンの顎や首筋は唾液塗れになっていた。
長く口内を愛撫されて潤んだ目。
アルベルトはイワンを押し倒してワイシャツの上から肩を噛んだ。
「んっ・・・・・・・・」
痛みに眉根を寄せ、イワンは甘く息をついた。
主の歯の感触。
硬く冷たく、揃った歯列。
些か鋭い犬歯が食い込むと、我知らず身が震えてしまう。
わななく身体を俯せに返し、アルベルトは柔らかい項に噛み付いた。
「あ」
ぴくんと跳ねた身体をゆったりと撫でる。
胸腔を包む肋骨を辿ると、ぎゅっとシーツを握り締める。
項を押さえて後ろ襟を強く引く。
上手くするとワイシャツの釦が半ばまで飛び、背が半分出せるのだ。
手慣れた男が匙加減をそんじる筈もなく、ワイシャツの釦が飛び散った。
後ろ襟から手を離さずにそのまま引き、浮いた胸の下に手を入れて起こす。
自分の胸に背を預けさせて座らせると、アルベルトはイワンのベルトに手を掛けた。
恥ずかしさからイワンの手が無意識に主の腕を掴む。
「あ・・・・・・・っ」
スラックスの中に入った手が雄を擽る。
少し乾き気味の指先はざらつき、敏感な部分にはかなり強い刺激だった。
「は、っあ・・・・・・」
脚をもぞもぞさせてシーツに皺を作りながら、後頭部を主の肩口に押し当て擦り付けてしまう。
軽く勃起したものを突然握られ、イワンは鋭く息を吸い込んだ。
「っんあぁ」
扱かれて身体が跳ねる。
手慣れた男の手に翻弄される姿は、旋風に巻き上げられる蝶のようでもある。
「あっあっ」
激しく動く手によって、中途半端に下がっていたスラックスのジッパーが下まで開き、雄や膨らんだ袋が剥き出しになる。
扱く手はそのままに、アルベルトはイワンがしぶとくシーツにつけている左手を掴んだ。
強引に手の中の写真を奪う。
「ぁ・・・・・・・・・!」
泣きそうな顔をしたイワンをひと睨みして写真に目を落とす。
どこの女かと思えば。
「・・・・・・・・・」
写るのは年若い自分。
アルベルトは僅かに目を見張り、意地悪く笑った。
「男の写真を見て頬を染めていたのか」
アルベルトの言葉に、イワンは恥ずかしげに頬を染めて俯いた。
アルベルトの口端が吊り上がる。
イワンのすぐ前のシーツに写真を置いた。
「あの・・・・・?・・・・・っあ!あっ、あ、ゃ、あっあ!」
いきなり激しく扱き立てられ、イワンは身を捩った。
弱いところを心得た指が、急性に射精を促す動きをする。
だらだら涎を垂らす雄を擦り立てられ、ヂュクヂュクと濡れた音がした。
「どうした?貴様も男なら例え写真でも汚してみたいとは思わんのか」
アルベルトの言葉に、イワンは激しく首を振った。
「そんな、そん、な・・・・・・・!」
とうとう零れた涙にニィと笑い、アルベルトは手を早めた。
「ああっ、ああぁ!」
痛々しい悲鳴。
イワンの見開かれた目からは涙が流れ落ち、薄く開いた唇の端には唾液が垂れ掛けている。
身体は水から上げられた魚のように激しく痙攣していた。
とうに我慢の限界を超えているのは明白だ。
アルベルトは幹から手を離し、蜜を内包してぷっくり膨らんだ袋をすくい上げた。
左手の人差し指と中指を揃えて、下から上に数度さする。
「ひっ、ぃ・・・・・・・・!」
イワンの喉が引きつり、勢い良く精液が噴き出す。
それは派手に写真に飛び散った。
「っ、ひっく」
泣きだしてしまったイワンを緩く抱き込み、耳の縁を吸う。
手に零れた粘りを指に絡め直して、袋を上から下に辿り、きゅくっとひくついている孔をなぞった。
指先で抉じ開けると、内壁は拒絶して押し返してくる。
ぐいっと突き込むと、イワンが細く鳴いた。
「ぁぁぁ・・・・・」
ぬくぬくと絡む肉に気が昂ぶる。
今直ぐねじ込んで犯したい。
奥の柔いところに先を突き刺したい。
アルベルトは唇を舐めて指先に意識を集中した。
ゆっくり引き抜き、強く突き入れる。
入れる時は揃えた指を、引き抜く時には開く。
何とも言えないいやらしい動きで指にむしゃぶりつく孔に喉を鳴らし、アルベルトは指を引き抜いた。
「あぅ・・・・・・・」
ちゅぽんと抜かれた指に、孔がもの欲しげに小さく開閉した。
背を押され四つん這いにさせられる。
「あぁ・・・・・・・・・・っ」
スラックスを引き下ろされ、侵入が始まる。
ギチュプと抉じ開けて入り込む男根に、イワンの背に汗が浮く。
息を吐く度にズッズッと犯され、苦しさに耐えられずに僅かに息を吸えば、言う事を聞かないふしだらな身体が男根に絡み付いてしまう。
「んぁ・・・・は・・・・・・」
背から抱かれて犯され、イワンは身体を震わせた。
奥に当たる硬い亀頭。
管を拡げる太い幹。
限界まで拡がった入り口を擽る下生え。
焼けた棒で突きぬかれたような恐怖に、身体が震える。
「ぁ・・・・・っあぅっあ、あっあ」
始まった注挿で声が漏れる。
粘膜を擦られる快楽など知らなかった。
突き上げられて射精する事も最初は出来なかったのに。
「ひぃぅっ」
脇下から回された手が肩を掴み、強く腰を押し付けられた。
奥深くを突かれて身体が強張る。
「ぁつ、ぃ・・・・・・・・」
びくびく跳ねる男根から噴き出す精液を感じ、イワンは雄から白濁を噴き溢した。
身が竦み自分の下の空間に視線が下がる。
自分の二度目の射精に写真が汚されていく。
主の似姿を汚す背徳感にしゃくり上げていると、アルベルトが写真を摘み上げ、イワンの目の前に置いた。
「泣く程なら拭うがいい」
イワンは躊躇わずに舌を伸ばした。
例え自分の精汁を飲み込むことになろうと、主の姿を汚したままでいるのは耐えられなかった。
涙を零しながら己の精液を舐め取る姿に、アルベルトは小さく笑った。
「・・・・・・・・・」
イワンは部屋の窓際に写真立てを置いた。
何事か知らないが、十傑達に次々写真を押し付けられたのだ。
昔から目付きの悪い子供なレッド。
少し髪の長めな若いセルバンテス。
それぞれ綺麗に並べる。
薄黄緑の十のフレームの中、一つだけ微妙に色の違う鶯色のものがある。
イワンはそれを見て柔らかに頬を染めた。
「・・・・・・・・・・・」
アルベルトは机の引き出しを開けて一枚の写真を取った。
破天荒な弟子が、満面の笑みで押しつけていったもの。
私服で雑誌をめくるイワンと、ちょっかいかけるローザが写っている。
弟子はわざわざ自分の顔にハートマークのシールを張って隠して行った。
困ったように、だが嫌でもなさそうに相手をする従者の姿。
アルベルトは写真を指先でなぞり、小さく笑った。
***後書***
男なら汚してみたいって決めつけないで。
イワンさんはおっさんと違って普通の性癖しかないんだ。