【御主人様のお気に召すまま-039】



「は・・・・・?君、もしかして・・・・生でしてるのかい?」

思い切り「あらら」と言う顔をしたセルバンテスに、アルベルトは怪訝そうな顔をした。


「・・・・子も出来んのだ、よしんば出来たとて構わんが・・・・問題なかろう」

「・・・・・あのねぇ・・・・・・・」


セルバンテスは眉間を押さえた。


「根本的に間違っているよ。彼は男性なんだから。当然受け入れるところは違う」

「ああ」


まだ解らない盟友に眩暈がする。


「・・・・・・・・・少し掘り下げようか」


君は健康診断の時にあるチェックを覚えているかい?

BF団に所属する者は皆受けているよね。

任務の関係から、血液型から足のサイズ、爪や髪の伸びの早遅まで調べる。

女性なら月経周期や排卵日まで。

男性なら膨張率や精液の平均排出量だ。

で、君のアレは標準よりかなり大きいんだよ。

私もそう変わらないけれど、兎角普通じゃないんだ。

当然長いきらいがあるから奥まで入る。

って事はね。


「相当奥まで流れ込んでしまうんだ。始末しても後で伝い落ちてくるだろうし」


イワン君が可哀想だよ。

言われて、アルベルトは葉巻の吸い口を軽めに噛んだ。


「・・・・・扱い方を知らん」

「はぁ?だからイワン君をどうこうじゃなくて君が着ければ・・・・まさか着けたことないとか言わないよね?!」

「無い」


セルバンテスは強烈な脱力感を覚えた。

いや、分かっている。

盟友は例え遊びだろうと、孕ませてもいいと思う女しか抱かないだろう。

だが今までの性生活でオール中出し?!

羨ましいといえばそう言え無くも無いかもしれないが・・・・・ない。

ないない。

絶対無い。

と言うかあれだけヤッておいて芽が出たのがサニーだけと言うのは命中率は極め付けに低過ぎる。


「あー、何か真面目に話してる私が可哀想になってきた・・・・・」


セルバンテスは溜息を吐いてスーツの内ポケットに手を入れた。

黒い正方形の薄いケースを取り出して開く。

勿論中身はゴムだ。

二枚取って盟友に渡す。


「面倒みきれないよ。イワン君に教えてもらうんだね」





夜に主に呼ばれたイワンは、主とその盟友との一件を聞いて非常に複雑だった。

主のデンジャラスな性生活も去ることながら、コンドームを使用した経験が一度もない38歳にはびっくりした・・・・・。

別にセックスで着けたことの無い男は珍しくない。

信仰によっては子を作らぬ射精は禁じられているのだから。

だが・・・・・・・・・・。


「あの、お一人で為さる時は・・・・・・」


自慰の時くらいは使ってもいい気がする。

別にティッシュでも構わないが・・・・・。


「相手には不自由しておらん」


アルベルトの言葉に、イワンは「はあ」と答える他無かった。

どこまでも帝王気質な主だが、それに伴うだけの魅力があるのだから仕方がない。

だが話を聞いてしまった以上、セルバンテスが言ったように教えねばならない・・・のか?

只でさえ怪しい主の常識・・・・それを引っ掻き回すセルバンテスに、イワンは途方に暮れた。





「ん・・・・・・」

ちゅぱっ、とそそり立った男根から唇を離し、イワンはベッドに座る主の隣に置かれた二枚のコンドームの内一枚を取った。

何だか恥ずかしくて落ち着かない。

興味深げな視線は感じるが、今顔を上げたら恥ずかしくて泣いてしまう。

封を切って取出し、裏表を確認する。

先の部分を摘んで空気が入らないようにしながら被せた。

丁寧な口淫で血管が浮いた男根をまざまざと見せ付けられて、イワンは涙を滲ませた。

恥ずかしくて、恥ずかしすぎて。

輪の部分をくるくると伝わせて幹を薄膜で覆う。

恐らく持ち物も主と同程度に非常識な盟友が渡したものはかなり大きなサイズ。

変なオプションはついていないが、このどぎついブルーは何とかならないのか。


「あの・・・・・・・」


根元まで着けて怖ず怖ず見上げると、主の逞しい腕にベッドに引き上げられる。

既に肌は晒され、身体は解されていた。

勃起した猛々しい男根を舐める間、無意識の期待にひくひく動いていたそこをまさぐられ、指で今一度確かめられる。


「ぁ・・・・・・・」


薄膜を隔てて入れにくいのか、何度か孔を亀頭が擦る。

だが矢張り挿入しづらかったようで、くにゅっと指で拡げられた。

めくれた孔に亀頭が擦り付けられる。

皮膚と粘膜の境を刺激され、イワンは吐息を震わせた。

腰に力が入って抜けない。


「ぁっ・・・・・・!」


ずずず、と入ってくる剛直による痛み。

管を押し拡げられる苦痛。

必死に息を吐くが、うまくいかない。

妙にヌメヌメしていてづるりと滑る感触。

中に変なものを入れられているようで苦しい。


「あっ」


ゴムの留めがあるためにいつも程深くないところで抜かれてしまう。


「ぅあ、う」


グチュ、と突き込まれ、イワンは苦しげに呻いた。

息がしづらい。

身体が冷たい。


「っあ、あ、あっく」


薄膜を隔てたために感覚が鈍いのか、いつもより長い注挿。

暫くは我慢したが、とうとう堪え切れずに涙が伝う。


「痛、っい、た、苦し・・・・・・っ」


泣きながら痛いと訴えるイワンに、アルベルトは眉根を僅かに寄せた。

白い尻の桃色の蕾を出入りする、青い膜を被った剛直。

身体は高まっている。

だが、直接繋がっていないと思うと満たされない。

痛々しく跳ね上がる身体を押さえ付け、ぐっぐっと突き上げる。

耐え難い激痛に、管が引き絞られる。

いつも声を殺そうとする従者の、堪え切れぬ責め苦の絶叫。


「あぁぁあああ!」


身体に掛かり過ぎた負荷のために声量はなかったが、血を吐くように悲痛な声。

一応熱を吐き出して動きは止めたが、イワンの身体は痙攣して冷たい。

引き抜くと、執拗な注挿でこそがれた粘膜と血液の混じり合ったものが一緒に出てきた。


「あ、あ、あ」


おまけにイワンの身体は中途半端で放り出されている。

前立腺を突き上げられたために無理に立たされ、痛みに萎えそうになるが許されない。

半端に勃起しているくせに先走りの蜜まみれになってぴくぴくしていた。


「ひぅ、あ」


ひくつく孔に指を入れ、くちゅくちゅと抜き差しする。

時折また、血の混じる粘膜が出てきた。


「・・・・・・・・・」


アルベルトは段々腹が立って・・・・・と言うより馬鹿らしくなってきてしまった。

物足りなさを覚えながらでは欲望は満たされない。

従者に至っては余りの痛みに痙攣を起こしている。

互いに苦痛を感じるセックスに何の意味がある。

目的は子を為す事でもないのに。


「イワン」


わななく唇に唇を押し当てる。

柔く吸い上げて、食む。

流れ落ちる涙を舐め、アルベルトは精液のたっぷり溜まった避妊具を無造作に外した。

べちゃりとイワンの腹の上に落とす。

どろりと精液が零れた。


「んんっ」


粘膜の剥がれた管に挿入される痛みに、イワンが身を捩る。

アルベルトはイワンの腰を掴んだまま、もう一度唇を吸った。

抜き差しは余りせずに、奥を押し上げて圧迫する。


「んっんっんっ」


深いところをぐりぐり圧され、呻き声が漏れる。

じわじわと高まる快楽に、雄の先端がひりひりした。


「っあ・・・・・!」


鈴口がぱくりと開いて精液が飛んだ。

イワンの腹の上で、二人分の精液と使用済みでぐちゃくちゃのコンドームがべちゃべちゃに混じった。


「は・・・・は・・・・・ぁ・・・・・・」


イワンは熱く震える吐息を吐き出しながら、注ぎ込まれる精液を感じていた。

この感覚がないときっとイけない。

身体でなく、心が。

どんなに身体が辛くても構わないから、あんなもので隔てられたくはない。

とても言えない事だが、主は全て知っているのだろう。

イワンは苦しい呼吸に目を閉じ、ベッドに身を投げ出した。





「・・・・・・うわー」

「知るか」

貴様が原因だと暗に言われ、セルバンテスは肘掛についた肘を立てて指を組んだ。


「いや、まあねぇ。そういう酷いセックスになったのは避妊具の所為かもしれないけれど・・・・・それ以前にさ」


中出しされなきゃ満足できないなんて可愛すぎるよ。

自分の辞書に「反省」という言葉が無い以上、盟友の辞書にもそれを期待してはいけないということを、アルベルトは今日初めて学んだ。





***後書***

可哀想って言った舌の根乾かぬ内に丸投げしたバンテスおじさん。あんた鬼だ。

第一ブルーのコンドーム愛用とか本当にもう・・・・!