【御主人様のお気に召すまま-043】
「愛してるならSMくらい当然アリだよねぇ」
何気ない盟友の一言が、事件の発端だった。
「ぇ、あの・・・・・?」
肘から先をがんじがらめに拘束され、イワンは引きつった顔で主を見上げた。
確かに変わった主だが、妙な嗜好は無かったはずだ。
イワンの必死な視線に気付き、アルベルトは眉間に皺を刻んだ。
「相手を虐げながら抱くような趣味は持ち合わせておらん」
ですよね!と言い掛けたイワンは、続いた言葉に青ざめた。
「だが一応は試しておく」
常識が微妙にずれている主の感覚でいう「虐げながら抱く」とはどんな行為なのか。
想像する事すら恐ろしくて、イワンは必死に首を振った。
マジな目に声などでない。
「心配するな。殺しはせん」
ボーダーが死ぬ死なないの世界であることに、心配ではなく恐怖を感じずにはいられない。
それは本当に性戯なのだろうか。
肌を辿る指を必死に目で追う。
緊張に薄く汗ばんだ肌を、男の指が辿る。
「ひっ」
胸の尖りを摘まれて喉が引きつる。
千切り取られるのではないかと怯えるイワンに、アルベルトは怪訝そうだ。
「何を怯えている」
「っ・・・・・っ・・・・・・・・!」
泣きそうな顔でただ首を振るイワンは恐怖で身体が竦み上がっていた。
取り敢えず喉に噛み付いてみる。
興味の無い事に関しては全く手を付けないタイプのアルベルトは、実は正しくSMを理解していない。
鞭や蝋燭などはSMでなく通常カテゴリに分類されている男のSMのイメージは鼻フックと三角木馬というどうしようもないもの。
だがイワンの鷲鼻に鼻フックはやりにくいし、三角木馬というものは女の小陰茎を刺激するためなわけで・・・・・・。
考えたアルベルトが本日持参したのはピアノ線。
何に使うのかは伏せるが、取り敢えずベッドの上に出しておく。
恐怖に強張る身体を撫でる。
腕や腿を擦って筋肉を解しながら、白い胸に口づけた。
「んっ」
チュ、と吸って痕を残す。
一回一回顔を上げて場所を吟味しながら花弁を咲かせた。
白いキャンバスを花びらで埋めながら、味わう。
男の肌がこうも甘いと感じる日が来るとはついぞ思わなかった。
「あっ、アルベル、ト、様」
縛り上げてベッドヘッドに括り付けた腕が軋む音がした。
上がった腕の二の腕裏の柔らかいところに吸い付く。
ひ弱な皮膚に走る痛みに、黒い瞳が眇んだ。
唇を離し、赤を過ぎて紫がかった痕を指で触る。
熱を持った花弁。
もう一度胸元に顔を埋めて吸っていると、頬に硬く尖った突起が触れた。
「ひぁっ」
クチュ、と吸ってやると、感じすぎて堪らないと言った様子で悶える。
何回かに一回、力加減が成功するとこうなるのだが、非常に微妙で日によって変わるそれは未だ習得できていない。
「あっ、んっんっ」
断続的に吸ってやると、呼応するように甘い悲鳴を上げる。
身体を撫で回していた手を下げて半立ちの雄を握ってやると、目尻に涙を溜めた。
「ぅんっ、んっ」
扱く手を時折止めると、手の筒の中に擦り付けてくる。
無意識らしいが、淫らな仕草が妙に可愛い。
「はぁっ、あ」
閉じた瞼を震わせて腰をびくつかせる従者に口元を笑ませ、アルベルトは彼の脚を上げさせた。
「そのままだ」
脚をシーツに着けぬよう命じ、ピアノ線を取る。
左足首に結び付け、首を一巻きして右足首に結わえる。
「死にたくなくば足を着けぬ事だな」
「え・・・・・っあぐっ!」
堅く閉じた、濡れてすらいない後孔を割り開かれる。
しかもご丁寧に先走りまでシーツになすってしまったから、乾いた肉同士の擦れ合う抵抗は生易しいものではない。
痛みに悶絶する従者を押さえ付ける。
「死にたいか」
残虐な笑みを浮かべた主を絶望の瞳で見上げる。
流れ落ちた涙を吸われ、また身体を引き裂かれた。
「っあ、かは、ぁっ」
ずたずたに裂けた後孔からは血が溢れ、鉄錆の匂いが鼻腔を擽る。
「ひっ、ひっ・・・・・・」
痙攣しながら脚を必死に上げる姿に満足気に笑い、アルベルトは激しい抵抗を示す後孔を犯し始めた。
いくら拒絶したところで、牙さえ無い肉の孔など抉るのは容易い。
嫌がる肉を割り開き、血でぬめる男根を突き入れる。
「ひっ、ひぐっ、ぅっ」
苦しげに呻きながら嗚咽を上げているイワンを容赦なく犯し、アルベルトはイワンの中を何度も突き上げた。
「ひぅ、ぅ」
痛みの臨界点を突破したイワンの身体が暴走を始める。
身体は快楽以外を認識できなくなり、痛みは快楽にすり変わる。
「ぁあ、あんっ、あ」
興奮した雄から蜜を垂れ流し喘ぐ耳に、アルベルトが唇を寄せる。
「淫乱が・・・・・・首を飛ばすぞ」
「ぃっ、あ」
恐怖に震える度、締め付けがきつくなる。
痛みすら感じるそれが心地よい。
「あぁ、あう、あ」
腰が軋む程に掴み突き入れる。
先端を柔い肉に埋め込み、一気に出し切る。
「ぅあ、あ」
急速に色褪せる瞳。
気絶と同時にがくんと下がった脚を難なく受けとめ、アルベルトは従者に口づけた。
「・・・・・君馬鹿じゃないの?」
「最悪だな」
「それはセックスじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「勉強不足とも言えるな」
「限度を過ぎておるのう」
「露特工災難」
「大馬鹿者」
十傑は腕に痛々しい拘束跡をつけて震えるイワンを庇うようにアルベルトを睨んだ。
イワンは何とか出勤したが、主の顔を見て泣きだしてしまったのだ。
アルベルトを問い正した結果聞くことになった凄惨な情交にみな立腹である。
苦虫を噛み潰すアルベルトだが、一人だけ味方がいる。
「貴様の発想は好ましい。他に無いのか」
きらきらした瞳のレッドに懐かれ、アルベルトは頭痛にこめかみを押さえた。
「・・・・・・何が間違っていたのだ」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
真剣に悩む衝撃のアルベルト(38)に、誰も助言はしてくれなかった。
***後書***
うちのアル様は段々駄目中年になってきてる気がする。
格好いいアル様はおよそでどうぞ・・・・うちはグロエロとお笑い担当。