【御主人様のお気に召すまま-047】



「イっワンっ君っ!」

「せ、セルバンテス様」

いつもフルテンションの幻惑使いに抱きつかれ、イワンはよたりとよろめいた。

聞き分けの悪い子は嫌いなセルバンテス。

聞き分けよく、かといって媚びず、察し良く機敏なイワンがそれはもう気に入りだ。

最近しきりに構い、盟友に睨まれる事もしばしば。

別に痛くも痒くも擽ったくもないが。

だが盟友がへそを曲げたら始末に悪いのは知っている。

ここいらで機嫌をとっておかないと、イワンを隠してしまいかねない。


「イワン君、これあげる」


渡されたのは長い箱。


「あの」

「受け取ってくれないと泣くかもしれないなぁ」


幻惑使いは馬鹿ではない。

ふざけたように振る舞い、子供のような脅し文句。

それは計算づくの仕草だ。

僅かばかり淋しい色を混ぜた瞳で首を傾げれば、優しい人は戸惑いながらも頷いた。


「あ、明日の朝一で感想を聞くからね!」





「ふんふんふん」

「煩い」

やけに楽しそうに鼻歌を歌う盟友にうんざりしながら、四度目の「煩い」を繰り返す。

だがセルバンテスはどこ吹く風だ。


「そろそろかなぁ」


時計を見やる。

11時45分。

セルバンテスは手にしたグラスのバーボンを飲み干し、盟友に手を差し出した。


「飲み給え」


錠剤を渡され、アルベルトはちらと盟友に視線を向けた。

疑り深い視線に、セルバンテスが笑う。


「科学班に用があったんだけど面白い薬があってね、貰ったんだ」


アルベルトはそれを口に入れ酒を呷った。

視線を投げたのは何の薬か問うたのだ。

警戒ははなからしていない。

言わないなら飲めば分かる。


「・・・・・・・・・・・」

「気付いてる?」


数分経っても何も起こらないので盟友を見やると、悪戯っぽく笑いながら鏡を指差した。

自分の姿が空気に溶けるように消える瞬間を目にし、アルベルトは眉をひそめた。


「だから何だ」

「君は直ぐに結論を求めるよね。今から何をしようかとか考えようよ」


イワン君今何してるかなぁ。


「着替えかな?お風呂かな?それとも」


にぃ、と嗤う盟友に、アルベルトは舌打ちして席を立った。


「いってらっしゃい」


自分が思う壺に填まってにやにやする盟友に五回目の「煩い」を投げ付け、アルベルトは部屋を出た。





「どう、しよう」

感想を聞くと言われ、イワンは必死で考えた。

当たり障りなく、嘘とばれない答え。


「何て言い訳すれば・・・・・・」


渡された物の・・・・・張型の感想を求めるセルバンテスが理解できない。

しかも自分は男だ。

何故。


「っ・・・・・・・・」


イワンは涙ぐんで俯いた。

目を逸らしても心音は治まらず、上がり続ける体温。

夜中に、こんな物を目の前にして、疼く身体。

そんな気分になるのが普通だが、ストイック過ぎるきらいにあるイワンは酷くそれを恥じた。

ちら、と見てみる。

どきどきする。

目を背ける。

気になる。

密やかな誘惑。

誰もいない。

主さえも。

白い手が、動いた。





従者の部屋に入り込んだアルベルトは、ドアを静かに閉めた。

壁を向いてベッドに横たわる従者。

僅かな水音に期待を抱かなかった訳ではない。

だが、覗き込んで思わず息を止めた。

張型に奉仕する従者。

とても恥ずかしそうに頬を染め、涙ぐんで舌を使う。

黒い表面を這う桃色の舌。


「ん」


ちゅく、と吸い付き、目を閉じる。

甘い溜息が唇の隙間から漏れた。


「ふ・・・・ぅ・・・・・」


自身を舐められている訳でもないのに、酷く気持ち良さそうな様子。


「ぅん・・・・・・」


気が済んだのか、我慢できなくなったのか。

スウェットを少し下げる。


「あ・・・・・・・」


じわ、と先を潤ませた雄をやんわり握る。

すりっと扱き上げ、身体を竦ませた。


「ぁぁ・・・・・・・」


切ない吐息。

わななく唇。

泣きそうな顔だったのが泣き顔に変わるまでそう時間は掛からなかった。


「んっんっ」


泣きながら自慰をする事もあるまいに、と思うのだが。

痛々しい嗚咽を上げながらの自慰。

癖なのだろうが、何だかとてもイケナイ事をしている気分になる。


「ん・・・・・・・」


スウェットを足をもぞもぞさせて脱ぎ落とし、指を舐め始める。

ちゅうっと吸う仕草がいやらしくも愛らしかった。


「ぁ、っ」


ぬめる指先で後孔をなぞる。

ひくひくと動くそこを擦るのが好きなのか、焦らすように擦り続ける。


「ふ・・・・ぅっ・・・・・・」


くちゅん、と差し入れる。

入ってくるタイミングは分かっている筈なのに、びくっと身を竦ませた。


「は、ぁ・・・・・・」


自分で後孔を愛撫する姿が淫猥だ。

抜き差しはゆっくりだが、完全に引き抜いたり深く入れたり。


「ぅうんっ」


二本に指を増やすと、深く差し入れにくくなる。

抵抗もだが、体勢が苦しくて奥に届かない。


「ぁ・・・・・・っ」


引き抜き、戸惑う。

最後の理性が暴れる。

だが肉の疼きに耐え切れず、イワンは唾液で濡れ光る張型を手に取った。

横向きのまま身体を丸めて押し当てる。

覚悟を決めるように息を呑む。


「ぁんん」


ズチュ、と先端が埋まり、涙が落ちる。

拡げられた桃色の窄まりに食い込んだ黒い淫具。


「は、ぁ、う」


ず、ず、ず、と埋め込み、息を吐く。

腰が痺れる快感。

刺激される官能。


「ん・・・・・っ、んっんっ」


誰も見ていないと思うと、はしたなく快楽を追ってしまう。

粘液の掻き回される音を聞きながら、強く抜き差しした。

奥に入れて、突く。

早さを欲すのではなく、強く奥を突き上げる。


「ぁあ・・・・!」


どろ、と糸を引いて飛ぶ粘液。

張型をくわえたままくたりとベッドに沈んだイワンは、涙を拭いながら起き上がろうとし、ぎょっとした。


「・・・・・っ」


半透明の、主。

次第に色が鮮明になり、目が合う。


「面白い事をしているな」


咄嗟に布団を被ったイワンは、中で羞恥に死にそうになっていた。

見られた。

あの、浅ましい姿を。


「イワン」


主は機嫌が良さそうだ。

だが到底顔を見る勇気は無い。

震えて身を縮めていると、布団の中に手が入ってきた。


「っあ!」


彷徨う手の甲が、張型に当たる。

衝撃に震えると、それを掴まれた。


「あ、ぁあ」


ずるずると引き抜かれ、腰が疼く。

抜け落ちた質量を求める喪失感。

布団の下の方が捲り上げられた。

腰を掴まれ、脚を上げさせられる。

下半身だけを見られるのは堪え難い恥ずかしさだったが、顔を見られるくらいなら死んだ方がましだ。


「ぁあ、あ」


熱い楔が、突き刺される。

ひりつく入り口に相反し、悦びあらわに絡み付く内壁。


「あれはどうした」


張型の事を問われているのだと分かって、イワンは喉を震わせた。


「セル、バンテス、様に」

「使ったという事は迷惑でもなかったらしいな」

「感想を、あ、す、に」


言い訳をせずにいられないでいる従者から布団を剥ぎ取る。

真っ赤になった顔を覗き込んで、鼻先に歯を立ててやった。


「玩具が好きか」


強く腰を使い、問う。


「自分の好みに快楽を追いたくば構わんぞ。何時間でも眺めてやろう」

「そん、な」


涙ぐんで首を振る従者に、更に問う。


「どちらを選ぶのだ」


興奮して蜜を垂らすものの根元を締めて突き上げる。


「っあ、あ、放し、っあ」

「選べ」


絡み付く肉による射精感を堪えて責め続ける。

悶えながら、涙ながらの返答。


「ぁあ、あ、アルベ、ルトさ、まが、っあぁはっ」


腰骨が軋む程に突き上げられ、同時に戒めが解かれる。

激しい悦楽に痙攣しながら、イワンは熱液を噴き出した。

同時に流し込まれる、大量の精液。


「ぁあ、あ、あ」


張型では決して味わえぬ感覚に震える従者の耳に口づけ、囁く。


「ワシの何が好きなのだ」


言えないと首を振る従者が快楽責めに耐え切れず卑猥な言葉を紡ぐまで、甘い拷問は続いた。





「やあ、お早う」

流石に今朝は起きていない従者を抱いたまま、アルベルトは迷惑な来訪者を睨んだ。


「煩い」

「酷いなぁ。いい思いしたくせに」


布団を捲って従者の脚を撫で回す手を叩き落とすと、けち、と言われた。


「感想くらいは聞かせてよ」


盟友の言葉に、アルベルトは少し考えて言った。


「あの大きさでは満足出来んようだな」





***後書***

40話近くあいての自慰ネタ2はとうとう張型ネタっていう残念な脳内クオリティ。