【御主人様のお気に召すまま-048】
「イワン君は君の形が好きなのかな」
ジンを飲みながら尋ねてきた盟友に、アルベルトは怪訝そうに眉をひそめた。
「容姿の好みなど知らん」
「違う違う。アレの話」
下世話な話だが、この男は気にしていない。
それどころか更に引っ掻き回してくる。
「私もかなり良い形だと思うんだよ」
「だから何だ」
「じゃんっ☆」
差し出されたのはまあ、アレだ。
電池式のアレだ。
女性の夜のお供だ。
「どっちがどっちか当然分かるよね」
「・・・・・・・・・・」
分かるに決まっている。
話の流れからして片方はこの男のものを模したのだろう。
何というか、性格同様一癖では済まないと言うか・・・・・。
もう片方は長い付き合いになる己のものを模したものに他ならない。
と言うかどうやって調べ・・・・身体検査の結果を引っ張り出したな・・・・・。
アルベルトはそれから目を上げて盟友を見やった。
「・・・・・で?」
「やだな、決まってるじゃないか」
もしかして負けるのが怖いのかい?
盟友と宿敵に対しては異常に負けず嫌い精神が強い男の闘争心を刺激する挑発。
「まあ、大きいだけじゃ駄目だよねぇ」
踊らされているのが分かっていながら、アルベルトはそれに目を落とした。
「アルベルト様・・・・?」
左手の平に右肘、右手の平に左肘がくるように手を縛られ、イワンは不安に駆られながら主を見上げた。
スラックスと下着を奪われた下半身がスースーする。
上はワイシャツが残っているが。
オイルを取る主を見ながら、言い知れぬ嫌な予感が拭えない。
主が快楽を追えれば、前戯などなくても構わないと本気で思っているイワン。
それが歯痒く毎回しつこい愛撫を繰り返すアルベルト。
噛み合わない二人はもしかしたら相性はかなり悪いかもしれない。
指を差し入れると、切なげに目を眇めた。
「ん・・・・・・・」
ぐり、と掻き混ぜ、口づけようとしてとどまる。
なるべく官能を刺激しないように慣らした。
「は・・・・・・・・」
少し嬉しそうに息を吐いた従者には非常に腹が立つ。
どうせろくな事は考えていまい。
乱れた情けない姿を見せて呆れられなくて済むとか。
溺れなければ奉仕できるとか。
互いに睦み合うのではなくただひたすらに主を優先する。
悪くはないが、望んでもいない。
求めあい、溺れたいのだ。
よく解した孔から指を引き抜き、アルベルトは盟友が寄越したものを袋から出した。
流石にいくら常識が無くても真っ昼間にそれを剥き出しで持って歩くような事はしなかったようだ。
イワンの顔は今や完全に引きつっていた。
妙な趣味はないと言い切る主に普通の事をされた記憶は殆ど無い。
毎回何故そんな事を思い付くのかという変わった事をされている気がする。
アルベルトはアルベルトで女と同じでは不味かろうと手を変え品を変えと考えている。
色々と方向性が間違った突飛さは否めないが。
・・・・本当に相性が悪い二人だ。
「あの、それは」
何ですか・・・・・?
言われて見やるのは夜の玩具(セルバンテスver.)。
まあ、微妙に何か分かりづらい形ではあるが、本人は自慢らしい。
だが事前情報で結果が変わっては困る。
勝負に勝ちたいのではなく、従者にとって自分の形が一番である事が証明したいのだ。
「力を抜かんと痛むぞ」
「まさか入れるのですか・・・・・?」
否定して欲しさ一杯の目で縋られた。
が、ぐっと堪えて無視する。
「ひっ、あ・・・・っ!」
大きさはそう主と変わらないが、反りがキツいそれに痛みが走る。
かりも返しが強く、圧迫感より違和感があった。
「は、ぅ」
奥まで入れられ、苦しい息をつく。
衝撃が治まると、主に頬を撫でられた。
「ぁ・・・・・っあ、あ!」
激しく動き始めた玩具に、目を見開く。
地上でのたうつ蚓のように激しくうねるそれに、身体が跳ね上がった。
「あぁ、あ!」
雄は見る間に立ち上がり、蜜を垂らし始めた。
位置が良かったのか、形が合うのか。
眉を引きつらせながら眺める。
「ぅう、ぅ」
頭を打ち振り強烈な快楽に耐える姿は中々良いが、それが盟友を模したものだというところが面白くない。
「ぁ、ぅん、くぅ」
歯を食い縛り飲めなくなった唾液を口端から垂れ流す姿は酷く色気がある。
悶え苦しみ喘ぐ従者を眺め、アルベルトはゆったりと葉巻を吸っていた。
だがふと気付く。
これは何本目だったか。
眺めだしてから二回は火を点けたはずだ。
「ぁあ、あ、あ」
お許しください、と擦れた声が耳に届く。
お許しください、許してください。
うわごとのように繰り返す従者が達せないで苦しんでいるという事に漸く気付き、アルベルトは玩具の電源を切った。
がくんと力が抜けた白い身体。
「あ、あ」
がたがた震える身体を宥めるようにさすり、ゆっくりと引き抜く。
ぶる、と身体が震え、弛緩した。
「は・・・・・・・・」
ゆるりと胸元を撫で上げ、蜜を垂らしてヒクついている雄を柔く握る。
腰が捩られるが、扱き始めるとおとなしくなった。
「ふぁ、は・・・・・ぅあっ!」
根元をきつめに握って強く搾りだすと、多量の白濁が噴き零れる。
なめらかな腹にそれを塗り拡げ、アルベルトはイワンの脚を開かせた。
懲りないこの男が掴んだのは、自身ではなく自身を模した玩具。
同じ条件で測ることに拘っているらしい。
「ぇあ・・・・ひっああ!」
ぐずず、と埋め込まれたものは慣れた主の形。
だがそれは先刻のものと同様に、律動ではなく掻き混ぜるように中でのたうつ。
「ぅあ、あぐっ」
きしきしと腕を拘束する縄が軋む。
伸びやかな脚がシーツの上を滑った。
「ぁあ、あぅぅ・・・・!」
吐き出される白濁。
アルベルトは藻掻く脚を掴んで上げさせ、玩具の電源も切らずに引き抜いた。
口寂しそうにぱくぱくしている孔に、剛直を突き入れる。
「っあ!」
きつく目を閉じたイワンの身体が丸まる。
主だけに反応する憐れな身体が余りに愛しい。
強めに抱き、耳の淵を舌でなぞる。
愛を請わぬこの男に、せめて身体を求めさせたい。
亡き妻を想う姿が好きだと言う、悲しいくらいにいじらしい恋人。
彼の中に本当に自分が占める場所はあるのか。
「んん、っ、あ、アルベルト様」
むせび泣きながら身体を擦りつけてくる。
珍しいと思っていると、首に埋められた唇が肌を柔く噛んだ。
言葉にならぬ想いを、獣のように伝えてくる。
「・・・・・・・・」
アルベルトは一瞬切なげに目を眇め、従者をしっかり抱いた。
愛していると言えればどんなにか良いだろう。
言えない自分に愛を捧げる恋人。
搾り取れるだけ搾り取り、ひと雫も与えない自分に。
一方的な略奪を許す恋人。
「イワン」
悲しいか、とは聞けなかった。
悲しいと答えられるのが、怖かった。
全て汲み取りただ柔い甘噛みをくれる恋人に、万感の想いを込めて接吻する。
それが、それだけが。
想いを伝える手段なのだから・・・・・。
「どうだった?」
わくわくしているのがもろに分かる。
そんなに自信があるのか。
「貴様ので相当苦しんだぞ」
「イキ過ぎ?」
「いや」
形が違うと駄目らしい。
そう言うと盟友はえー、と唇を尖らせた。
「じゃ、次はテクで「死にたいか?」
***後書***
玩具ネタ続き過ぎ。
分かってるけどやめられない・・・・てへ☆