【御主人様のお気に召すまま-049】
「乳臭い」
眉をひそめたレッドに、たまたま来ていたサニーがつんとそっぽを向いた。
「サニーは子供ではありません」
おませな言葉に苦笑する十傑。
レッドが立ち上がる。
「貴様ではない」
すん、と鼻を鳴らして歩き回る。
彼は暫くうろついてからイワンの傍に寄り、白い首筋に鼻先を埋めた。
「・・・・・・うむ」
一人頷き、イワンに目を向ける。
悪魔の笑みを浮かべ、明らかに動揺する顔を覗き込んだ。
「何か隠しているな?」
にたぁ、と笑い、後ずさるイワンを捕まえる。
「女に産ませたか?」
主に黙ってガキを拵えたのだろうと言われ、イワンは必死に首を振った。
「・・・・・産んだのか?」
まさか、と集まる視線。
特にキラキラした少女の視線が痛い。
違うと首を振る。
とても声など出ない。
「・・・・・・・です」
「何」
蚊の鳴くような声で紡がれた言葉を聞き取れたのはレッドだけだ。
彼はとても興味深そうにイワンの身体を眺め回し、左肩を掴む右腕を上げさせた。
胸部に手を当て、首を傾げる。
「・・・・・確かに張っているな」
泣きそうになって俯くイワン。
全員が一瞬で勝手な妄想を繰り広げ、じとっとしたいやらしい視線がイワンに絡み付く。
レッドは純粋に卑猥な事を考えた。
怒鬼は意外とむっつりだ。
残月は中々凝った遊びを考えた。
皆一様に、にやけるのを堪えた妙に神妙な顔だ。
しかし、とんでもなくイイ笑顔で笑う男が一人。
手にはしっかりグラスを握り締めている。
幻惑のセルバンテス、三十八歳。
「味見させてくれるよねぇ・・・?」
有無を言わせぬ、凄味。
固まっているイワンにひたひたと近づく。
最近はサニーの前でも暴走を始めた幻惑を止める者はいない。
早くサニーにもイワンにも嫌われてしまえ。
「さあ、さあさあ!観念したまえ!」
完全に顔を引きつらせているイワンを捕獲し、背後から抱き締める。
もとい、羽交い締める。
「せせセルバンテス様っ」
男の乳など見苦しいですから、と訴えるイワン。
だが幻惑は全く聞いていない。
大丈夫、優しくする、痛くないから!
はあはあしながら言う様は完全に変態だ。
仕舞いには吸っていい?良いよね?などと世迷いごとを口走る始末。
これには流石の十傑もドン引きだ。
エロいんじゃない。
気色悪い。
盟友の変質的な要求を聞きながら、アルベルトは真剣に絶縁状を書こうかと考えた。
「さあイワン君っ」
「落ち着いてくださいっ、セルバンテス様!」
訴え虚しくワイシャツを引きむしられる。
樊瑞がサニーの目を覆う。
しかし。
授乳中というのは非常に神経質になり、苛々するもの。
普段おとなしい程に反動は大きい。
余りに執拗な我儘に、何か大切な線が切れる音がした。
パァンッ!
過去に戴宗をダウンさせた神速平手が炸裂する。
手が振り切られて二秒後に聞こえた破裂音が鼓膜を震わせる。
ゆっくりと倒れ伏した幻惑。
肩で息をするイワンはまなじりを吊り上げて怒り心頭といった様子だ。
普段殆ど・・・・まず出ない必殺技を繰り出す程に機嫌の悪いイワン。
魅惑の乳。
どちらを取るか真剣に悩む。
が、悩んでいないのが若干一名。
昏倒から早くも還ってきた男だ。
彼は花畑を猛然ダッシュで駆け抜け、Gをものともせずに音の壁を突き破って帰ってきた。
ひとえに盟友の従者の乳を貪りたいが為に。
「吸わせてくれなきゃ泣いてやるぅぅっ」
「勝手にお泣きになってください!」
「いいじゃないかぁっ」
「お歳を考えられますよう願います!」
まるで「勝手に泣いていなさい!お兄ちゃんでしょ!」のようだ。
しぶとい幻惑に益々言葉は刺々しくなり、眉がきりきり吊り上がる。
「吸わせてよっ」
「お断わりします!」
「やだやだやだっ」
「知りません!」
つんとそっぽを向いたイワン。
駄々をこねるセルバンテス。
アルベルトが不機嫌に言い放つ。
「煩いぞ」
セルバンテスが文句を言う前に、イワンがアルベルトの前に立った。
それはそれは、おそろしい、おかあさんのかおで。
「嫌ならお部屋に籠もられたら如何ですか」
「・・・・・・・・・」
長く傍に置いて初めての口答え。
呆気に取られていると、きっと睨み付けられた。
「お好きに振る舞われるのは結構です。実力が伴うのですからどうぞお好きに!」
でも!
「朝くらいお一人で起きられてください。アスパラの先だけ残すのはどうにかならないのですか?
髪がまとまらないからと櫛を握り潰さないでください。ハンカチの場所くらい覚えて頂きたいですね」
キレたイワンという、穴が無い五円玉並みに希有なものを目にし、誰も動けない。
マシンガンのような文句はどれも正当。
しかも感情が昂ぶったイワンは突然泣きだしてしまった。
「なんっ、で、いつも、朝までその、腕に、っ閉じ込めようとなさるのですかっ」
えぐえぐと泣いている姿は超怖い母親からごねる可愛い生き物にシフトチェンジ。
「な、泣くな」
微妙におろおろしだしたアルベルトというこれまたムケーレムベムベ並みに珍しいものを目にし、十傑はぼんやり考えた。
「「「・・・・・・叱って欲しい!」」」
実際叱られたら直ぐ反抗しキレるガキ共の癖に、そんな事を考える。
サロンにはえぐえぐするイワンのしゃくりと、非常に不慣れなのが一発で分かる宥め透かしの言葉だけか響いていた。
「・・・・・・っ」
髪をがりっと掻き毟り、アルベルトは葉巻の吸い口を噛み潰した。
宥め透かして寝かし付けた従者を見やる。
もはや怪獣と言っても過言でないヒスを起こした男は安らかに眠っている。
「・・・・・・・・」
頬を撫でると嬉しそうに擦り寄ってくる。
先刻残月(歩く辞典)に聞いた話だと、授乳中は非常に神経過敏になるものらしい。
疲れ切って眠る姿は可愛いものだが、起きたらまたああなるのか。
うんざりする。
が、悪くはない。
柔く耳を擽る。
ふ、と吐かれた吐息は疲労の色濃くも艶めかしく。
ぞく、とした。
甘そうな唇をそっと吸う。
想像以上に甘い。
そろ、と身体を上向かせた。
くたりとした手を両脇によけ、白い胸を見る。
少し腫れて、濡れる尖り。
そっと手を付け、全体を揉んでみる。
「ぁあ、っあ・・・・・」
少し辛そうに眉をひそめ、軽く身を捩る。
「痛・・・・・」
うわごとのような呟き。
張ってしまうと痛いと辞典が言っていた。
男の胸は上面を筋肉が覆っているから、圧迫されるのだと。
掬い上げるように揉んでみる。
「ぁあ・・・・・」
かすれた声。
温かい乳が溢れ手のひらを濡らす。
「ん・・・・・・」
目が合ってしまった。
殴られるかと身構えるが。
「アルベルト様・・・・・?」
寝惚けている。
・・・・チャンスだ。
ベッドの上に座り背後から抱き締める。
もぞもぞする身体は少し熱い。
ぐっと揉み込むと、顎がさらされた。
心地いいのか痛いのか。
「ぁあ、あ、アルベル、ト様っ」
嫌がるのを捕まえてさらに揉みしだく。
「んんっ」
びゅ、びゅく、と噴き出す白い乳。
ぶるぶる震える従者はどこか恍惚としていて。
耳を噛んで感覚を問う。
言えないと首を振るが、許さない。
先を摘むと悲鳴を上げた。
「っ、くぅ・・・・・っ」
腿が強ばっているのを感じる。
痛いようだ。
じわじわ力を加えながら、もう一度問う。
相当痛むのか、とうとう吐いた。
「抜け出る、感覚が・・・・・っ」
心地よくて。
もっと搾られたいかと問うと、顔を赤らめて恥ずかしげに俯いた。
「っく、ふぁ、ぅ」
貴方何者ですかと尋ねたい手際で搾りだされていく甘ったるい匂いのぬるい液体。
悶える様子に堪え切れなくなって、押し倒す。
「んんっ、ん」
誤魔化すように、搾乳しながら奥を探る。
乳に濡れそぼった指をゆっくりと埋め込む。
「はぁ・・・・・ふ・・・・」
淫らがましい吐息が堪らなく劣情を煽る。
乳を搾りだされていく喪失の快楽と、指で犯される増加の快楽。
授乳のし過ぎでグロッキーなイワンはされるがままに受け入れた。
その投げ遣りな様子がまた堪らない。
次第に柔軟になる後孔から指を引き抜く。
くたりと身を投げ出した従者の脚を掴み上げさせる。
「あぁ・・・・・」
きつくシーツを握り締める白い指。
乳が小さく噴き零れ、伝い落ちた。
ひくひくと締め付ける管をゆっくりと進む。
絡み付き、蠢く動きはたとえようもなく淫らで。
「ふ・・・・・・」
深くまで飲み込まされ、一杯に押し開かれ。
疲れ切った様子の従者をゆっくりと時間を掛けて味わう。
入れる時には体重を掛けて管の背側を強くなぞり、引き抜く時にはやや上体を起こし、反りを使って腹側を抉る。
蜜をぽたぽた零しながら、擦れた熱い吐息を吐く従者。
一度完全に抜き取り、引いた糸が途切れぬうちに奥に押し込む。
奥の柔い壁に亀頭が埋まり、先端が熱くなる。
鈴口がくぱりと開いて、勢い良く白濁液がほとばしる。
「ぁあ・・・・・・」
艶めかしくくねる腰を掴んで引き寄せ、最後の一滴まで飲ませてやる。
代わりのように舐め取った白い乳は、仄かに甘くあたたかだった。
「乳は血液から作られるからな」
貧血を起こしてソファに沈んでいるイワンに残月が講義している。
乳は今朝やっと止まり、疲れ切った身体に鞭打って出勤したが矢張りダウン。
イワンはセルバンテスを見上げ、泣きそうな顔をした。
「・・・・良いんだよ、イワン君」
頬をどす黒い内出血で飾った男は、優しく微笑んだ。
「出なくても良いから、吸わせてくれないかな」
とても素敵な紳士の顔で残念な事を言われて、イワンは溜息を吐いた。
「・・・・・お気が済むのならどうぞ」
次の瞬間、順番を争い乱闘が始まった。
自分の一挙一動が世界を破滅に追い込む十人をきりきり舞いさせている事に気付いていない恋人に深い深い溜息を吐き、アルベルトは眉間を押さえた。
***後書***
最近幻惑が活躍し過ぎてるんですが?
そりゃあもう残念な紳士っぷりを披露。