【御主人様のお気に召すまま-051】



「今から六時間、貴様は犬だ」

退屈を持て余したレッドに無理矢理付き合わされたトランプ。

ババ抜きだったが、負けている間は何も言わず、勝った瞬間にこれ。

何歳なのかと思うような・・・・・。

だが基本的に幻惑と赤忍がごね始めたら従わないと放してもらえない。

イワンは困ったように曖昧に笑み、小さく「わん」と鳴いてみせた。

時間が止まる。

視線が集中する。

直前の行動を中断し、グラスを置いたり本にしおりを挟んだりし始めた十傑。

そして皆一様にゆらと立ち上がり、イワンに近づいた。

機嫌を損ねたかとおろおろするイワンの肩掴んだのは幻惑。


「イワン君、もう一回」

「ゎ、わん」


戸惑いながらも素直に鳴いたイワン。

セルバンテスの理性のたがが飛んだ。

元々壊れかけのたがだが、狩猟民族系の彼はたまにコアなツボを発現させる。

今までは誰かが居たから何とかなったが、もし誰も居なかったら。

イワンの肋骨は強すぎる抱擁により最低二桁の回数は折れている。


「可愛い、可愛いよイワン君!」


アルベルトが若返って派手にイワンを傷つけて以来、幻惑は何か開眼したらしい。

小耳に挟んだところでは、かなり際どい事をやったらしい。

まあ自業自得の盟友は流石にぐうの音も出なかったらしいが。

普通は庇護欲が出るのだろうが、何か違う。

セクシャルハラスメント的な・・・。


「・・・・あ、もしもしっ?」


電話を掛け始めた。

続いた言葉にイワンの顔が青くなる。


「首輪を買ってきてくれるかな。あぁ、うん。首輪。ん?大型犬用で茶色の鞣し革。鎖は任せるよ」


後ずさるイワンに、変態という名の紳士セルバンテスが笑いかける。

背がつかえて振り返ると、ヒィッツが意地悪く笑んでいた。


「あのっ」

「犬なのだろう?」


皆して苛めるのに泣きそうになってしまう。

じわ、と滲む涙。


「わ、わん」


尻尾があれば巻き込んで怯えているだろう。

色めきたった十傑につつき回され、おろおろと走り回る。

そのたび誰かにぶつかり、意地悪を言われ。


「わん・・・・・」


ぽろ、と涙が落ちた。

セルバンテスが近寄る。


「・・・・苛め過ぎたね」


泣かないで。

君が泣くと悲しいよ。

涙を唇で拭われる。

びっくりして目を瞬かせると、最強を誇る幻惑の凶眼が優しく細まる。

泣いたら目が溶けてしまうよ?

それは遥か昔に小さな少年にも言った、子供用の脅し文句。

イワンはその優しさにほんの僅か微笑み、わん、と鳴いた。





「・・・・・何事だ」

余談だが、犬命令事件は午後九時のサロンで起こった。

偶然にも場に居なかった唯一人の十傑、衝撃のアルベルト。

彼は盟友の部下が持ってきた鞣し革の首輪と鎖を手に途方に暮れた。

従者が帰ってきたら速攻で押しつけてやる。

そう考えて床に投げた首輪と鎖。

それを眺め、少し思案する。


「イワンが帰ったらワシの部屋で待っているよう言っておけ」


使用人にそう言い、アルベルトは部屋を出た。





イワンは主の部屋で椅子に座っていた。

憂鬱な視線は床に落ち、床の上には首輪と鎖。

色からしてセルバンテスが注文したもの。

戯れだ。

戯れなのだ。

だが、心の隅に「所詮犬」という卑屈な考えが閃く。

窓の外は闇に沈んでいて。

主の香が満ちた部屋で一人待つ自分。

まさに、犬ころだ。

どんなにか哀れな姿だろう。

だがそれでも。

主を待ち続けてしまう。

ドアが開く音がした。

はっとして振り向き椅子から立つ。


「お帰りなさいませ」


コートを受け取り掛ける。

物思いに僅かに緩慢になった動きで手を下ろすと、後ろから抱き竦められた。


「犬になったらしいな」


主の言葉にぼんやり頷く。

少しかさついた熱い唇が首筋に押し当てられた。


「イワン」


返事を求められている。

イワンは一瞬迷い、寂しげに目を伏せて、わん、と鳴いた。

主が首輪を拾い上げる。

首に巻かれる鞣した革。

例えよう無い惨めさが込み上げてきて、唇がわなないた。

鼻の奥がつんとする。

伏せた目から溢れる熱い涙。

主の唇がそれを吸い取る。

セルバンテスの仕草と似ているようでいて全く違うそれ。

薄く目を開けると、主は全てを見透かした赤い瞳で見ていてくれて。


「くれてやろう」


ちゃり、と小さな金属音。

摘み上げられた小さなプレート。


「iwan-by albelt


イワンは目を瞬かせ、ついで切なげに笑み、泣いた。

タイを引いて緩めた主の胸元にも、同じものがあったから。





「ゎん・・・・・っ」

少しだけ元気を取り戻した従者に口づけたら、傾れ込んでしまった。

胸元を甘く咬みながら、手にした鎖を引く。

少し上がった頭の後頭を支え、深く唇を味わう。

角度を好き勝手に調整し、たっぷり舌を絡ませる。


「ふ・・・・ゎぅ・・・・・」


律儀に犬に撤するのは、主にそう言われたからだ。

舌をなぶられて悶える身体。

薄く開いている目は潤みとろけながら酷く幸せそうに細められ。

ちゅぱ、と唇が外れた。

口端から垂れた唾液を拭おうとすると、珍しく・・・・・いや、初めて、従者が抱きついてきた。

しがみつくのでも縋るのでもない。

首に腕を回し、慕情を滲ませて身体を擦り付けてくる。

柔く濡れた舌が、垂れた唾液をぺろっと舐めた。


「わん」


首筋に顔を埋めて幸せそうな溜息を吐くのが、どうしようもなく愛しい。

こんな、横暴な所有の印に涙を流して喜ぶ。


「イワン・・・・・」


ちゅ、と耳の縁を吸い、がり、と噛む。


「わん・・・・・・」


可愛い犬は擽ったそうに身じろぎ、主を見上げていた。

頬を撫でてやると、嬉しそうに目を閉じうっとりと酔う。

唇に触れると、伺うような上目遣い。

叱られないかとドキドキしている様子で、指をぺろっと舐めた。

何も言わずにいると、もう一度。

更にもう一度。

怒られないと思ったのか、そっと唇にくわえた。

ちゅく、と吸い付く水音。

いじらしい甘噛み。

首から外れた手で少し大きな主の手を大事そうに握って、指を愛撫する。

必死というより、懸命。

官能というより、献身。

だが忠誠でなく、恋慕。

唾液塗れの手を幸せそうに舐めている姿が狂おしく愛しい。

堪らなく、おかしくなりそうなくらいに。

愛している。

手を引くと、骨を奪われた犬のように物欲しげにする。

服を脱がせる時に抵抗はなかった。

ぬめる指で尖りを弾き、雄をつつき。

俯せに返して腰を上げさせた。

曝け出された、口と同じくらいに物欲しげにしているピンクの窄まりを撫でる。


「ゎぅ、う」


少し強めに指を押しつけて、擦る。

ひくひくするのが指の腹に伝わる。

焦らすように何度も擦ると、無意識に腰が突き出されてくる。

咎めたり指摘して苛めたりはせず、ひたすら焦らす。

腰がゆらゆらと揺れていた。

時折比重の重い体液がシーツに落ちる音がする。


「は、ぁ、はぁっ」


きつく眉根を寄せ、頬を赤くして、熱い吐息を吐いて。

ご褒美を待つ、可愛い犬。

ゆっくりと差し入れると、激しい悦楽に腰がくねる。


「ぁあ・・・・・・っ」


腰の揺れでちゅぽん、と抜けてしまった指。

腰は相変わらずびくついていた。

またゆっくり差し入れてやる。

反射的に、左十センチ振られた腰。

抜け落ちかける指。

第一関節の半分程度に入り口がきたところで、腰を掴む。

犬と反対に身体を向けて座ったまま、左腕を回して腹を拘束する。

むき出しの白い尻を存分に目で楽しみながら、抜けかけの指を殊更ゆっくりねじ込んでいく。


「ひ、っ、あ」

「イワン」

「ぁあ、わ、わん・・・・・っ」


察しよく振る舞ったのに笑み、たっぷりと指で愛撫してやる。

解すのでなく、感じさせてやる。

どうせ犬さながらに振りたてられる動きで指を軸に解れるのだから。


「わん・・・・・わ、ん」


快楽に溺れかけながら、必死に犬の鳴き真似を繰り返す従者。

執拗に行われた後孔へのみの愛撫に、何度か勢いの弱い吐精は済ませていた。


「はぁ、あ、わ、わん、わん」


びくびくと震える白い尻を撫で回し、ぬぽりと引き抜く。

唾液と体液の混じったものがたっぷりと絡み付いた指を舐め、従者の真後ろに膝立ちになる。

押しつけてやると、腰が揺れ動く。

少し強めに押し込んでかりを一気に通すと、犬は悲鳴をあげた。

だが奥に斬り込んでやると、酷く甘ったるい拒絶が漏れる。


「ぁあ、ゃ、いゃあ」


焦らしに焦らされ、少し酷くされ。

動かずにいると、とうとう自分で腰を使い始める。

鎖を引こうと思えば引けた。

だが、必要はない。

離れる事が出来ぬ程に自分に懐くこれを拘束する必要など。


「はぁ、ぁは」


きちゅ、と小さな水音がたった。

円を描いて揺らされる腰。

暫くは楽しんだが、矢張り我慢は出来なかった。

腰を掴んで激しく注挿する。

絡み付く肉。

絞られる管。

官能に殺される絞りだすような絶叫。


「ぁあああ・・・・・!」


流し込まれる液体を、引き絞られた肉管は飲み下せずに溢れさせた。

腿を伝う大量の精液。

しゃくり上げる犬に甘く口付け、タグを首輪に付けてやる。

どこに迷っても、帰ってこられるように。





「絶対無理だろう」

「無理だ」

「不可能じゃないか?」

トランプを椅子に積んで会話するレッドとヒィッツと幽鬼。

何事かと思っていると、呼ばれた。


「呼び付けてすまんな」


ヒィッツはトランプを指差した。

上に軽く座って、腰の動きだけで扇形に広げられるか?


「?」


不思議な要求。

よく分からないが一度やれと言われ、言われるままやってみる。

二十秒後、椅子の上には綺麗に扇円を描いたトランプ。


「・・・・・・・すごいな」


呆気にとられた三人。

他の七人は淫らすぎる腰の動きに悶絶中。


「何か意味があるのですか?」


イワンの問いにレッドは呆れ顔で答えた。


「昨晩のTV特番でやっていたのだ。楊貴妃が皇帝を落とした手管の訓練法を」


訓練どころか免許皆伝並みの動きを知らず披露したイワンは、いたたまれずにサロンから逃走。

十傑は暫くその話題で楽しんだらしい。





***後書***

『鯨さんからわんこプレイネタ』なんでそれなのに腰のエロい動きの話に。。。

夜中にこういう20禁やってたんだ。AVを幻想物語仕立てにする必要性が分からない。