【 御主人様のお気に召すまま-054 】



任務先の街は高地の要塞都市のため、交通手段は徒歩以外に馬かバイクだ。

盟友には白いお馬さんで行ったら?なぞと言われたが軽くいなしておいた。

馬くらい扱えんでもないが、誰がわざわざ。

第一白いのは貴様のスーツと従者の肌で間に合っている。

そういう訳で。

現在彼は従者の運転する大型バイクで移動中。

後部に後ろ向きに座って流れる景色を眺めている。

おとなしい従者は意外な事に飛ばし屋だ。

250オーバーは普通。

ヘアピンはドラフト多用。

面白いのは面白い。

従者の腕は信頼に値するし、思い切りのいい判断も丁寧な運転も悪くない。

不意に減速した。

横向きにして滑らせ、更に減速。

タイヤから火花が散った。

土砂崩れで途切れた道。

従者は少し考え、振り向いた。

腰にお掴まり頂けますか。

異論もないので、座り直して腰に腕を回す。

百メートル程後退し、二回ふかして一気にアクセル。

急加速しながら、右端の不安定な土砂の上を走り抜ける。

乗った先から崩れる土。

その崩壊より先に向こう側に着く。

休みもせず、それが何でもない事のようにそのまま走りだす。

後部座席で腰から手を放しながら、葉巻に火を点けた。

陽が沈む迄に着きそうだ。





街に着いたのは夕刻だった。

宿を取り、身体を休める。

自分より余程疲れている筈の従者はまだ忙しく動き回っていた。

高地のため食料の乏しいこの街は原則宿でも食事は出さない。

携帯食を口に入れ噛み砕いていると、沈みゆく陽が見えた。

粉っぽいそれを水で流し込み、頬杖をつく。

背後に立つ気配がした。


「湯量は些か少ないですが、どうされますか?」


仄かに湿った匂いのする浴室。


「貴様が先に入れ」


言い放ち、見やる。


「上がったらベッドを暖めておけ」


従者は目を瞬かせ、次いで頬を染めて頷いた。


「お心のままに」





スラックスだけ履き、指で髪の水気を飛ばす。

ベッドに近づくと、気付いて見上げてきた。

起き上がるのを押し留め、見つめ合う。

無垢な黒い瞳。

時折瞬きで隠れ、短い睫毛がちらちらする。

頬を撫で下ろし、唇を人差し指で辿る。

薄く開いたら少し指を入れた。

前歯を軽く引っ掻いて催促する。

少し頬を赤らめて口に招き入れ、吸い付いてくる。

ちゅぅ、と柔く吸って、硬い爪を甘噛みで愛撫し。

柔らかい舌を這わせて指紋を慰める。

ゆるく口内を掻き回すと、反射で舌が絡んできた。

人差し指と中指で摘むと、逃れようとする。

放してやり、ゆっくりと抜き差しした。

ちゅぽ、ちゅぽ、と音を立て、疑似的なイラマチオ。

息苦しさでない頬の紅潮。

潤み始める目。

ベッドに着いていた膝を脚の間に入れる。

閉じようとするから昂ぶったものをぐり、と押し潰してやると、指に歯が食い込んだ。

舌根から舌先をつうとなぞって引き抜いた。

舌根のやや粘度の高い唾液が糸を引く。

ぺろ、と舐めて見せると、泣きそうな顔をする。

ゆっくり口に含み、卑猥さを意識して舐めしゃぶった。

手首まで伝う唾液。

濡れ光る手のひら。

僅かな流れを導く生命線の溝。

ふやけて白みがかる指先。

純情で自分の事を容姿含めて慕う従者は、目を背ける事も食い入る事も出来ずに酷く狼狽えていた。

唇と吐息をわななかせ、視線は彷徨い。

時折唾を飲み。

揺れそうな腰を、肉の疼きを、必死に隠す。

ゆっくりと、一度口づけ。

離す。

舌が触れたのは去りぎわ唇を舐めてやった時だけ。

それを思い返すように舌なめずりしているもの欲しい仕草に気付いていないのだろう。

恍惚と、少し目を眇め、ゆっくりと右から左に這う桃色の薄肉。

舐め終わると小さく喉を鳴らし、艶めかしい吐息。

堪らない、堪えようがない。

誘惑としか思えない。

首筋に顔を埋め、べろりと舐めた。

甘い。

女の肌とは味が違う。

だが余りに舌に心地よい。

軽く吸い、四度目と六度目に強く吸った。

痛みに震える身体。

咲き誇る紅紫の花弁。

ちろ、と花弁を舐めた。

鎖骨を噛みながらゆっくりとワイシャツを脱がせる。

男にしてはやや柔らかい胸に前髪と額を擦り付け、息を吐く。

掛かる熱い空気に竦んだ身。

淡い尖りは、熟れていた。

色はそう酷くは変わらぬ。

だが果実と逆に、熟れる程に硬くなり。

果実と同じように、甘さは増し。

収穫する時の音は余りに甘美。

唇で挟んで、少し突き出た先をちろちろと舌でなぶる。

速くなる呼吸。

震える吐息。

歯で軽く挟んで扱く。

粟立つ肌。

悶える手足。

加減しながら吸う。

泣きの入った嬌声。

跳ね上がる腰。

何度も一連を繰り返した。

跳ねていた腰は次第強ばり。

痙攣を起こし。

熱い精液を噴き溢した。

袋や内腿、蟻の戸渡りを伝い落ちる粘液。

忙しない呼吸に上下する胸を今一度吸い、少し頭を下げる。

なめらかな腹に数枚花を散らせ、愛らしいへその窪みに舌を入れる。

捩られる腹を抑え、奥の絞りを溝まで舐めまわしてやる。

円を描くように舐めて唾液を溜めた。

ゆっくりと抜き差しする。

くちょくちょという水音は、粘膜を掻き回すのに比べて軽い音だ。

だが何故かもう一つ下の孔を犯しているような錯覚を起こす。

舌を抜き、唇を押し当て唾液を吸い取る。

啜り泣き始めて暫くになる。

そろそろ解放してやろう。

立ち上がってふるふる震える雄を握ってやる。

蜜まみれのそれを唇と舌と指で愛してやる。

指で揉み、指で扱き。

唇を押し当て、銜え込んで締め付け。

舌で舐め、舌をねじ込み。

がくがく震える腰をがっちり掴んで、強制的にフェラチオを受けさせる。

扱くように口から出し、吸い込みながら含み。

引く腰を追って奥までくわえ、甘噛み。

悲痛な悲鳴がほとばしる。

疾うに限界など越えているはずだ。

袋を揉みながら、ゆっくりと、力を込めて吸ってやる。


「ぁん、ぅく、くっ、ふ、く・・・・・っ」


しぶとく頑張ったが、気持ちを伴う情交でこう激しく責め立てられればおちるに決まっている。

口内を満たしていくあたたかな精液。

含んだまま伸び上がり、口づけ。

一滴残さず飲み込ませる。

混ざる事のない遺伝子なら、せめてこの男の中で血と肉となって交じればいい。

見せ付けるように指を舐めてやる。

たっぷり唾液を絡ませ、下に下げる。

少しのずれもなく触れる。

蠢きながら肉槍を待つ孔。

揉むと、きゅうきゅう締まる。

擦ると、ひくひくして欲しがる。

浅く差し入れただけで、甘過ぎる吐息。

奥に進めると、顎が仰け反って白い喉が晒された。

中指で届く一番奥の斜め上方の肉壁をつつく。

泣きながら首を振る従者。

もう一度つつく。

あああぁ、と吐き出すような嬌声。

強く締まる入り口で指が食い千切られそうだ。

指先で色んな場所をつついてやる。

快楽責めに悶え苦しむ姿は堪らない。

鬼灯を破くような快楽。

一度破れば元には戻らぬ。

花柘榴のような身体。

はぜて中の甘い粒で誘いかける。

黄泉の国へと引き込む芳しさよ。

ゆると引き抜き、喪失感に震える身体を抱いてやる。

じわじわ差し込むと、むしゃぶりついて吸い込もうとしてくる。

揺れる腰を固定して、たっぷり時間を掛けて挿入する。

ああ、と吐息に交じる悦楽の声が耳を擽った。

しっかり銜え込み、ぴったり押し包まれ、深く深く繋がり。

抱き締めてやる。

慈しみを込めて身体をさする。

愛を込めて接吻する。

必死に何か返そうとするのを押し留め、ゆったり、強く突き上げる。

涙声で喘ぐのが途方も無く愛しくて。

何度も何度も、交わった。

陽が昇るまで、飽きもせずに。





「・・・・・・まぁ似合わないねえ」

最寄りのヘリポートに別任務帰還途中に拾いに来た盟友は、人を上から下まで眺め回して言った。


「仕方なかろう」


肩に顎を乗せてくるつぶらな目の白馬の鼻面を軽く叩いてやる。

任務遂行中に銃撃の盾にしたバイクは見事に破損。

増えた荷物。

手に入ったのは馬一匹。

仕方なく馬で・・・・白馬で帰還中。

無遠慮な盟友の視線に段々と腹が立ってきた。


「もういい。貴様は勝手に帰れ」


見世物にされるのは願い下げだ。

あぶみに足を掛けて飛び乗る。


「イワン」


見上げて目を瞬かせる従者に手を出させ、引き上げる。

自分の前に乗せ、馬の脇腹を軽く蹴る。

軽やかに走りだす白馬。

風で髪が乱れた。

手綱を扱い、葉巻が吸えんな、と思いながら、従者の腰に片手を回す。

走る先には。

沈み始めた。

陽。





***後書***

白馬の王子様なんて都市伝説だよ。