【 御主人様のお気に召すまま-059 】



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

刷毛を持ったレッドと、じりじり逃げようとするイワン。

不敬罪云々も気にならなくはないが、明らかに悪戯をされた場合は逃走くらいは許される気がする。

この場はどうしても逃げたい。

と言うのは主に叱られるのを防ぎたい為である。

ならば葉巻をふかして盟友とブラックジャックをしている主に助けを求めれば良いのだが、この生真面目な青年は主に頼るのをよしとしない傾向にある。


「何を逃げる」

「いえ、雑務を思い出しましたので」

「後にしろ」

「急ぎますので!」


だっと走りだそうとしたが速攻で掴まった。

俯せに引き倒されて腰に馬乗りされる。


「レッド様!お放しください!」

「煩い」


つぅっと首筋をなぞる毛の束に、ぎくんと身体が突っ張った。

刷毛だ。


「どうした?」

「っいえ、何もっ」

「ならば続行だ」


すりすりすりっと耳を擽られて、身体が逃げを打った。

更に擽ると逃れようとのたうつ。


「ほれほれ」

「っあ、あははっ、れ、レッ、あ、あははは!」


擽ったさに耐え切れず笑っているが、楽しくはない。

現に段々苦しくなって涙をまなじりに滲ませている。


「あは、あははっ、けほっ、は、はぁっ、あ」

「・・・・・・・予定とは異なるが面白いな」


ひぃひぃ笑っているイワンを擽り倒し、レッドはうむ、と頷いた。

カードを引きながらセルバンテスが見やる。


「色っぽい感じも良いけどあれも何だか可愛いよねぇ」

「まあな」


カードをすり替えようとしている盟友の手をぎっとつねってやる。

横目で見やりながら、鼻で笑う。


「あやつをダシにイカサマか」

「いやいやいや。ダシとか酷いよ」


手を引っ込めてニコッと笑う盟友。

悪怯れないのは美徳なのか欠点なのか。


「っ、は、あは、は、けほっ」

「もう降参か?」

「レッド、様・・・・・・」


勝ち誇るレッド。

イワンは笑い過ぎで頬を紅潮させながら困ったように眉尻を下げて力を抜いた。

そろそろ助け船を出すかとアルベルトが葉巻をもみ消す。

が、イワンの切り札の方が早かった。


「フロランタンを、作ろうと思っていたのですが・・・・・」

「・・・・・・何?」


甘味に目が無い忍者とイワンのフロランタンが何よりも好物の幻惑の目付きが変わる。


「いえ、もう間に合わないと思」

「作れ!」

「作って!」


素早い反応速度で退いたレッドと、カードを投げ捨ててイワンを抱き起こすセルバンテス。

イワンは呼吸と服の乱れを整え、にこりと笑った。


「出来上がりしだいお持ち致します」


おとなしくお待ち頂ければ、沢山お作りしますから。

もはや母親じみている台詞だが彼が言うと違和感はない。

はいっ!と元気良く言った二人に益々愛らしい笑顔で頷いて出ていくイワン。

もしかしたら彼がBF団最強なのではなかろうかと思いながら、アルベルトは新しい葉巻に火を点けた。





***後書***

どうもイワンさんを最強にしたい。だっておかあさんだから!