【 御主人様のお気に召すまま-068 】
「じゃあ、幽鬼様は?」
サニーと話しながらサロンに入ったイワンは、少し首を傾げた。
「割と長めな気がします。細長い、と言うか」
「怒鬼様は?」
「太さと長さのバランスが良いのではないかと」
「カワラザキ様は?」
「形容しがたい色、と言うか・・・・」
待て、何の話だ。
言いかけたが、ぐっとこらえた。
イワンは10歳の少女と真昼間っから男のアレの話をするような男ではない。
夜でもしないと思うが。
逆にサニーより赤面するような純情っぷりを発揮しそうでそれはそれで何と言うか・・・・。
「いつ見せたのだ」
レッドの問いに、幽鬼と怒鬼は首を振り・・・・かけて止めた。
「身体検査の時の世話もかけたし、いやしかし・・・・分からん」
「と言うか細長いのか」
ヒィッツの幽鬼ちゃんかわいーい、と言う言葉に、幽鬼は怒りもせずに眉をひそめた。
「身体検査では「長すぎる」と言われた」
「長すぎるって・・・・」
「○○センチ程でそう長くは・・・・」
「・・・・いやぁ、それは長いよね?」
「ワシに振るな」
投げてきたセルバンテスに知らん顔をして、アルベルトは葉巻を齧った。
「怒鬼は「バランスいい」って・・・・直系だからかな?」
「・・・・・・・・・」
「本人も困る問いだとしか思えんな」
セルバンテスはアイスティをひと口飲んだ。
「で、カワラザキが形容しがたい色って・・・・まぁ、あれだよね。リーダー時代のカワラザキはそれはもう」
「お前も人の事は言えまい」
口をはさんだのは、樊瑞。
「片っ端から声をかけ摘み食いをしてよく平手打ちを貰っていたろう」
「やだな、昔の話だよ!今はイワン君ひと筋!枕の下も」
「写真か?薄ら寒いな」
からかったレッド含め、全員ドン引きの答えが返ってきた。
「まさか!下着下着!この前盗ってきたんだよ」
最低な答えに、さらに最低なソースがかかる。
「イワン君がアルベルトにいびられて下着の中でイッちゃった時のやつ!二人が寝てる間にね、ちょっと侵入して」
「最低とは貴様の為にある言葉だ」
「何言ってるの?君こそ泣いて許しを請うイワン君の身体を服を着せたまま」
「おじさま、何のお話ですか?」
「ああ、明日の朝ご飯何かなって話してるんだよ!」
サニーの問いを思い切りかわして、セルバンテスは笑っていた。
最低男は無駄に笑みが良い人っぽいのだ。
「ヒィッツカラルド様は?」
「傾斜がきついと思います」
「十常寺様は?」
「・・・・恐らくですが、黒いのでは?」
「残月様は?」
「見た事がありませんので何とも・・・・」
続く問答に、レッドがヒィッツを見やる。
「傾斜、と言う表現が微妙だな」
「反りならまぁ・・・・些かきついかもな」
「貴様の逸物の話などどうでもいいが、イワンがそう感想を持ったと言う事は、反っている方が好きなのか?」
「どうなんだろうな」
「・・・・・・・・・」
「どうなのアルベルト」
一斉に向いた眼に、アルベルトは眉をひそめた。
「あやつの好みをワシが知るわけ無かろう」
「はい決定、今夜十人集合でイワン君の部屋に」
「待て待て待て!何の計画を立てている!」
止めたアルベルトの口元で葉巻の吸い口が潰れている。
椅子から立ちかけていたのを座り直し、彼は不服そうに言った。
「指だろうとアレだろうと身体は悦んでいる。中に液体を流し込むとなお嬉しがる」
「・・・・後半おかしくない?液体って何流し込んだの」
「湯でも無定形生物でも、疑似的中だし・・・・」
「あーあー、これだから俺様は!」
不貞腐れたセルバンテスに、アルベルトは不審げだ。
場の男もイワンを除いてやさぐれているが、アルベルトは気にしない。
「まあ、種付けされんと物欲しそうにしてくるのは可愛いものだがな」
「・・・・いいなぁ、一回ぐらい試させてよ」
「断る」
その一回で籠絡してモノにしてやろうと思っているのが感じられて、アルベルトは全力で拒否した。
この手癖の悪い男なら本当にあの手この手でいじくり倒してモノにしそうだ。
「で、十常寺は腹と同じで黒いらしい、と」
「・・・・・(にやり)」
「うわぁ、良い笑顔だったよ今。まさに悪役って感じでさ」
セルバンテスの薄っぺらい賛辞を放置して、みな話を進める。
「見た事がない、とはつれないな。幾らでも見せてやるし触らせてやるし味あわせてやるのだが」
「・・・・貴様本気だろう」
「ん?勿論」
煙管をかちりと噛んで笑う男に、全員溜息をつく。
が、続いた言葉に動きが止まった。
「まあ、味を確かめている最中に色々下から突っ込んでやりたいがね」
「・・・・色々とは明確でないな」
「アレとかソレとか」
「・・・・残月さ、異物挿入系、好き?」
「大いに」
不健康な若人に頭が痛い。
アレは兎も角緑のアレとかヌルヌルのアレはやばくないか?
下手をしたら不能になる勢いの「異物」だ。
「じゃあ、樊瑞おじさまは?」
「樊瑞様は・・・・凛々しい感じでは」
りりしい・・・・脳で正しく変換をかけ、一斉に噴き出す。
「絶対に返答に困ったんだよ!凛々しいって!」
「凛々しい?絶対に嘘だな!笑える」
「貴様ら・・・・」
溜息をつく樊瑞は意外と大人だ。
馬鹿笑いしているセルバンテスとレッドを放置して珈琲を啜る。
「じゃあ、レッド様」
「レッド様は・・・・この間検査の前に少し抜かせて頂きました」
「「「?!」」」
殺意に満ちた九の瞳に睨まれ、レッドはここ最近の事を思い出してみた。
何と言うか、妄想と現実の線引きはきっちりしている筈だが、どこかで「妄想」の区分にこのオイシイ出来事を放り込んでしまったのだろうか。
しかし深くは考えない。
忘れたのならまたやらせればいいのだから。
「お父様は?」
「アルベルト様は太くて短くて濃くて、とても格好良いです」
形容が徐々に悪化してきている。
そんなにコメントに困るか。
「太いのと濃いのは良いけどね、短くって格好良いって」
良かったね、と肩を叩かれ、アルベルトはそれを払いのけた。
「貴様よりは長い」
「いやいや、それはないよ、比べてみる?」
「いい度胸だ」
「膨張時でいいよね?」
「構わん」
「じゃあ見届け人はイワン君でいいよね?」
「ああ」
「イワン君に立たせてもらうのはなしね?」
「当たり前だ」
「でもイワン君の前でもろ出しで扱いちゃっていいわけでしょ?」
「・・・・・・・・何の話だ」
「うわー、興奮するなぁ。絶対イワン君顔赤くして目を逸らすよね!でも見届け人だから絶対見なきゃいけないわけで!」
変な方向に走った露出狂に、一同は沈黙した。
一気にまくし立てて誘導尋問に引き込んだのはこういう事か。
「っイワン!こやつはどうなのだ!」
「えっ、あの、セルバンテス様ですか?」
慌てて主の方を見てイワンは目を瞬かせた。
「あの、色が薄くてよく分からないのですが」
「・・・・・・」
「短いと思います。でも、よく、まじまじと見ないと肌と見分けがつかないと言いますか」
最高にプライドを傷つける言葉だ。
良く見ないと発見できないらしい。
色が薄くて、短くて。
セルバンテスの方をちらと見たら、クリーム色のスーツ含め真っ白になって砂塵に帰している。
何と言うか、流石に哀れだ。
「イワン、何もそこまで・・・・」
「セルバンテスが立たなくなるぞ」
「立たなく・・・・?」
不思議そうなイワンが、目を瞬かせ、慌ててセルバンテスに駆け寄って頭を下げる。
「あの、眉の事をそんなに気にしていらっしゃったとは思わなくて・・・・!」
「・・・・眉?」
眉、まゆげのことだ。
確かにこれなら「凛々しい」「格好良い」等でも構わないし「短」くても「薄」くても問題はない。
が、風化しているセルバンテスに音声は届いていなくて。
ただ、目の前に心配そうな顔で立っている可愛い生き物がいて。
なんかいい匂いがするので。
「せ、セルバ・・・んっ」
抱き締めてちゅうしてしまったら。
九人の同僚から様々な攻撃を貰い、盟友の娘からは「お父様のです!」とお説教され。
可愛い生き物は盟友が回収して行ってしまいましたとさ。
***後書***
私のは下がり気味のへこたれまゆげ。