【 御主人様のお気に召すまま-072 】



「イ・ワ・ン・君っ」

「ひゃっ」

後ろから抱きすくめられ、イワンは吃驚して悲鳴を上げた。

幸い十傑以上とそれに直接仕える自分しか通行できない回廊だったから、人には目撃されなかったが。

セルバンテスはひとしきりじゃれついてぐりぐり抱きしめた後、イワンの耳元に唇を寄せた。


「聞いたよ?イワン君」

「えっ・・・・?」


意地の悪い声音に、反射で肩に乗ったすぐ横の顔を見る。

セルバンテスの不思議な色合いの瞳と目が合った。


「この前おっぱいいじいじされてイッちゃったんでしょ?」

「な・・・・・」


事実だ、確かに。

それにセルバンテスになら主が話してもおかしくは無い。

でも、こうやって明け透けに問い詰められると矢張り恥ずかしいし返答に困るわけで。


「あ・・・・あの、それは」

「いやいや、別に悪いとか可笑しいとかって言うんじゃなくってね」


所在無げにするからその頬に軽い音を立てて口づける。

柔らかで張りがあり、滑らかな肌だ。


「私も見てみたいなぁ、って」

「え・・・・・ぁ、せ、セルバ」

「アルベルトばかりずるいじゃないか」


するりとスーツの間から差し込まれた手が、ワイシャツ越しに肌を辿る。

酷く器用な癖の悪い指は、直ぐに突起を探りだした。

まだそう目立たないのに、僅かな感触で探し当てて刺激する。


「あ、だ、駄目ですっ・・・・こんな」

「こんな所で?こんな行為が?それとも」


こんなに気持ちいい事されたら困る?

感じ易い体質と、悪い意味で器用な男の指。

腰が震えているのは揺れると言うより座り込みそうになっている。

左腕を回して腰を支え、右手で左の突起を触る。

右の突起は時折腕で擦った。


「あ・・・は・・・・っ・・・」


目をきつく閉じているイワンは反射以外抵抗をしない。

それは快楽に酔っているからではない。

勿論自分に情を傾けているわけでもない。

ただ、恐れているのだ。

叱りなど彼は恐れない。

必要があると判断すれば首を刎ねられる覚悟で十傑でも孔明でもいさめるだろう。

恐れているのは仲互いだ。

自分と盟友が不仲になるのを恐れている。

拒んで機嫌を損ね、その事で自分達が言い合いになるのを。

実際は逃げれば一番穏便だ。

彼が、手を出されかけたと聞いた盟友の過激な性的折檻に耐えるだけでいい。

それもかなり酷い話だが、そうすればアルベルトはへそを曲げないし、盗った盗らない手を出したで喧嘩にもならない。

多少なりとも逃がす気があるなら可能性はある。

逃がす気が十傑に無い場合はB級のイワンではまず逃げられはしない。

手を出さないでいれば一番穏やかな話になるのだが、それは無理な相談だ。


「セルバンテス様っ・・・・」

「何だい?」

「お、お戯れが過ぎ・・・・っぁんっ!」

「ちょっと触っただけなのにツンってしてる。もっと弄ってあげようねぇ」

「あ、だ、駄目、駄目で、す・・・・っ!」


くりくりと弄って尖ってきたら、軽く摘まんでくいくいっと引っ張る。

びくつく腰に腰を擦りつけながら、しつこく刺激する。


「あ、あぁ、は」

「ほら・・・・・」


我慢しないでイッちゃって良いんだよ・・・・?

耳元で囁かれる声は、恋い慕う主とは違う。

だが、同じ年頃で同じくらい魅力的な男の、欲望に僅か上ずった声。

身体以上に、精神面で興奮してしまって。

三日と空けずに主に開発され躾けられている身体は、二週間の主の不在に欲望を湛えていて。

自慰を禁じられていたから、心は求めていなくても身体が我慢できなくて。

勝手に暴走する身体。

目の前がぶれるほど感じてしまい、イワンはセルバンテスに拘束されたまま身を丸めた。

もう、我慢できない。

回廊で、着衣のまま、主の盟友の手で。

雄も、前立腺も、唇も触れられぬままに。

甘く細い悲鳴を上げ、イワンは身体を強張らせた。

下着の中がぬるりと濡れて、張りつく。

気持ち悪いと感じる事すらできない。

火が点いた身体は、激しく震えていた。

頑なに目を背けて、欲を満たして欲しいと縋りそうになるのを堪えているのが分かる。

眦を鮮やかに染め、息を弾ませて。


「・・・・・部屋に来るかい?」


意識して色気たっぷりに誘惑したが、イワンはそれを拒んだ。

セルバンテスが苦笑する。


「イワン君のそんな所、好きだよ」


今盟友に向くこの忠誠じみた愛。

自分がこのひとを手に入れた瞬間からそれは自分に向くのだ。

それを思えば、憎くは無い。

愛しい頑なさだ。

それなら、手に入れるまで柔く懐柔していくしかない。

馬鹿なふりをして、過剰に触れて、ギリギリで退いて。

繰り返して、いつかこのひとが疲れ果てた時に。

自分を真っ先に見る様に。

泣いて縋る先が自分である様に。

だから、今日はこれが『ギリギリ』。


「少し、おやすみ」


幻惑の眼差しが、優しく細まった。





眠らされている従者の頬を指で辿る。

届けてきた盟友がアホ面で「自慢」して行ったが、分かっている。

目の中に沈む狂気じみた愛。

隠しているつもりか、わざと垣間見せているのか。

だが、仲互いをさせれば上手く転がりこまないと知っている男は、これが余り酷い折檻を受けぬようフォローを入れた。

最後まで強情に縋らなかったと。

痙攣を起こしかける程に我慢して、主以外の男の与える快楽の誘いを拒んだのだ。

三日と空けずに、それも毎回夜明けまでしつこく愛撫して花開いた身体に自慰すら禁じたのは2週間前。

戯れのつもりだったが、思った以上に熟れていた身体には酷だったのだろう。

もう服を剥いでベッドに転がしているが、眠る従者の下肢は派手に白濁で汚れている。

銀糸に糸引き絡みつく白い粘液。

一度しかイっていない筈だが、随分な量だ。

かなり濃いし、いやらしい匂いがする。

胸の尖りは硬さは些か抜けたが、赤みはまだかなり含んでいる。


「・・・・・・イワン」

「ん・・・・・・」


薄らと開く大ぶりの目。

瞬きで短い睫毛がちらちらする。


「アルベルト様・・・・・?」

「・・・・・・ああ、帰った」

「お帰りなさいませ・・・・・」


はんなり微笑んだ顔がとても嬉しそうで、心が浮つく。

口づけて唇を吸ってやると、寝惚けているせいで躊躇いのない腕が首に回される。


「ん・・・・・は・・・・・」


くちゅくちゅと濡れた音を立てて口内を探り合う。

目を閉じうっとりと酔いしれる姿か愛らしい。

唇を離し、胸に手を這わす。

数回目を瞬かせ、顔色を変えた。


「あ・・・・・・」

「・・・・今回は奴が悪い。咎めんでおいてやる」


耳元で囁くと、小さく喉を鳴らした。

這わせていた手をずらして突起を摘まむと、イワンが息を詰めた。


「ん・・・・・っ」

「貴様はこうされるのが好きだったな」

「あ!ゃ、ぁ・・・・!」


指先で軽く弾いてやる。

刺激に腰を捩るが、気付いているだろうか。

触って欲しくて仕方がなくて、上半身は殆ど揺れていない。

もどかしいくせに、弄って欲しがっているのだ。


「心地良さそうだな」

「あっ、あっ」


ぽたたっと雄から蜜が垂れた。

もう完全に立ち上がってしまっている雄はぴくぴくしながらそそり立っている。

左手で胸を押さえつけて、その人差し指で突起を弄る。

右手は下ろして蜜を掬った。

後孔に塗りつけると、窄まりが激しくヒクつく。

指に吸いつくようなそこを摩擦すると、白い脚がぎくしゃくと曲がった。

二週間も禁欲を強いられ、胸を弄り倒されて、我慢の限界の身体。

差し入れてやると、激しい悦楽の悲鳴。


「あ、あ、ああ、あ」

「硬いな」

「ふぁ、あぁ・・・・!」


感極まるような甘い声。

中の襞は複雑な動きで指に絡みつき、蠕動して煽ってくる。

入口は些か硬くなっているが、切れる程ではない。


「どうだ?」


痛むか、と聞いたつもりだったのだが。

快楽に溺れ始めたイワンには正しく伝わらなかった。

唇が僅かに動いたのに気付いて耳を寄せると、小さな呟き。

じんじんして、中が苦しくて、もう出そう・・・・・。

余りにいやらしい言葉に、息が止まる。

理性を総動員して我慢した。

2週間の禁欲とどちらが辛いか疑問な程の頑張りだった。

柔くほぐし、滾るものを取り出す。

十分に立っていたが、まだもう少しだけ我慢が利きそうだった。

我慢のし過ぎで若干勢いが落ち着いたから。

少し考え、イワンの身体を股ごして胸に男根を擦りつけた。

柔く気持ちの良いここで乳ズリも良かったが、今回は。

尖りを、男根の先でつつく。

擦りつつ潰すと、きりきりと音がした。

従者の手がシーツを握り締める音だ。

自身も中々心地の良い感覚で、少し強めにリズムを刻んでやる。

ぐりっぐりっと潰れる尖りが男根から滴る透明な粘液に濡れていく。

鼻を突く男の欲望の匂い。

2週間の禁欲は此方も同じだ。

他の人間ではその気にも殆どならないが、従者を見ると直ぐに火が点いてしまう。

両方とも尖りを先走りで汚してやり、身を退く。

脚を上げさせて宛がうと、焦点の合わぬ目で震えながら力を抜いた。

躾けられきったその仕草が好ましい。


「んんんんっ」

「っ・・・・・・」


ゆっくりと差し入れると、激しい締め付け。

襞がぞわぞわ絡みついて来て、蚯蚓千匹など話にならない快楽だ。

幹を締める入口の厚い肉の輪は、良い締まりで食いついている。

奥に辿り着くと、殊更柔い肉に先が埋まる。

そこから括れているのか曲がっているのか、いつか確かめたいものだ。

引き抜いて行くと、組み敷いた身体がビクンビクン跳ねる。

差し入れると、絞り出すような甘ったるい悲鳴。

堪らず動きを速める。


「はぁっ、ああっ、あっあっ・・・・ひぁぁんっ!」

「っは・・・・・・・・!」


トポットポッと吐き出す度、合わせてぴくっぴくっと跳ねる身体。

腹の上には白濁が蟠り、力を失いかけの雄と糸を引いていた。


「2週間分可愛がってやらねばな・・・・」


主の言葉に、従者は小さく身を震わせて答えた。

この状況では恥ずかしくて口には出せないが、拒まない。

それが、精一杯の「どうぞお気の召すままに」。





***後書***

ぱいぱいネタ連チャンか・・・・まぁ、いいよね!