【 御主人様のお気に召すまま-073 】



カップを袖に引っ掛けて倒す事がたまにある。

当然中身が入っていれば零れる。

従者を呼べばいいが、いない場合もあるわけで。

自分で拭くのも、面倒で。

よく放置している。

が、つい最近従者が面白いものを持っている事を発見した。

液体を吸い込める小さな掃除機。

ハンディクリーナーを改造したらしいが、静かで吸引力は低いのに、液体は綺麗に吸い取れる。

こんなものを見つければ、この変態という名の紳士が次の活動を考え始めるのは必至。

よって、その二日後にイワンは夜伽を命じられてしまった。

ベッドの上のそれを見て、物凄く嫌な予感がした。

前はグラスに排尿させられたし、中に酒を流し込まれた事だってある。

今日は余り怖くなくて痛くなくて変態じみていませんように・・・・!

信じてもいない神に祈り、イワンは恐る恐る主を見た。

顎をしゃくられ、近づく。

うわ向かされて、目が合った。

赤い瞳の美しさに見入っていると、くつりと笑われた。

恥ずかしくて頬が熱い。

唇を合わせられて、身が震えた。

力強い腕に抱きしめられて唇をしゃぶられると、腰砕けになってしまう。

何でも言う事を聞きたい、何をされても我慢し通したい、満足するまでこの身体を使って欲しい。

そう思ってしまう程に、主に夢中な自分。

まさか男性に恋をするとは思っていなかったし、それが叶うなんて夢にも思わなかった。

男の唇に酔いしれて、葉巻の苦味香る唾液を飲まされ、痺れるほど舌を吸われて。

身体をさすられるとドキドキしてしまうし、胸をいじられると立ってしまう。

捩じ込まれて突かれると変な声が出る、中に出されると堪らなく気持ちが良くて、イってしまう。

恥ずかしい身体になってしまったけれど、それでもいい。

主の気に召すままに、身体を開きたい。

下唇を這う熱い舌を感じ、イワンはうっとりと目を閉じた。

小さく甘い溜息が洩れる。

すると、下唇をちゅむと吸われた。

気持ちが良くてぽーっとなっていると、舌が入ってきて口内を掻き混ぜられた。

応えたいが、軟体の様に動き回るこれに上手く絡めるのは未だに難しい。

必死に舌を追いかけて舌先でなぞると、それを強く吸われた。

僅かに走る痛みと、主の口内に舌先が入っていると言う例えようない心地よさ。

恍惚とそれに酔いながら、流し込まれる唾液を嚥下する。

腰を引き寄せられて臀部を強く握りしめる様に揉まれて、前が疼く。

立ち始めたのを隠そうと腰を引くと、引き寄せられて押し当てられた。

主の大きなものも立ちかけて熱を孕んでいるのが布越しに分かる。

ごりっと擦れ合う雄同士が凄く恥ずかしくて、思わず主のスーツを握り締めていた。

奉仕を申し出ようとするが、意地の悪い笑みが返ってきただけだった。

抱き上げられ、ベッドに組み敷かれる。

覆いかぶさるアルベルトの前髪が落ちた。

イワンがそれを直そうと手を伸ばすと、その手をネクタイに持って行かれる。

外せと暗に言われ、気恥かしさを感じながらそっと外す。

締めるのは出来ても、外すのは酷く勇気がいるのだ。

ワイシャツを肌蹴ると現れる逞しい胸元にドキドキしてしまう。

直視できなくて視線をそらすと、また、笑われた。


「38の男がそんなに胸ときめくか?」

「あ・・・・そ、それは、その」


アルベルト様は、とても端麗な容姿でいらっしゃいますから・・・・。

僅かに上擦った声で言われ、アルベルトは苦笑して従者の耳を噛んだ。

舌を差し入れて舐め、吐息を注ぐ。


「貴様のこの腰の方が」


ワシの胸元より色気があろう。

腰を這う男の大きな手に、イワンの身体が震えた。


「アルベルト様・・・・・」

「どうした」

「そ、そのような手つきで触れられると、その・・・・・」


相当いやらしい手つきで触っているから、イワンがそれを感じ取って興奮してしまうのも当たり前だ。

だが、純情な彼はそれをとても恥ずかしがる。


「イワン・・・・」


耳元で囁いてやれば、唇をわななかせて頬を赤らめた。

酷く心を震わせているようで、身体もかなりあたたかい。

ここまで無条件に恋い慕われて、男冥利に尽きると言うものだ。

容姿や能力は兎も角、性格はかなり難有りだと自覚している。

気分屋で我儘な自分によく十年も仕えているものだ。

任務で潜入に回しても、バトラー(執事)などで上手く入り込み、機転と機敏さ、そしてやんわり諌めるやり方で直ぐに気に入られてしまう恋人。

その上押し倒せば慌てっぷりも嫌がり方も生娘の様な愛らしさ。

直ぐに本気になった変態どもがいきり立たせて撫でまわす。

その辺で大体十傑やローザに回収されるので助かっているが、本当にあれは困る。

気分次第に振舞って怒鳴るのは最近少し我慢する事を覚えた。

いや、盟友に言わせれば雀の涙どころか紙一枚分の厚さの進歩もしていないらしいが、自分はしているつもりだ。

もし、傷ついて弱っている所を優しくされて、惑わされ。

自棄になったり自分に愛想を尽かしてその男について行ったら。

その身体を捧げ、心まで捧げてしまったら。

仕えるその目が唯の「主」を見る目になったらと思うと堪らなく恐ろしい。

殺してしまえばいいが、それは望みと違う。

自分を愛した状態で時を止めたいのだ。

他の誰かを愛したまま止めて、何とする。

犯し凌辱して、拷問してでも自分に愛を誓わせ殺すだろう。

だが、この心の底から愛される歓びを知っている以上、そんなまやかしは虚しいものだ。

そう知りながら、そうするであろう自分を知っている。

自分の性格が小指の爪の先程でも嫌になる日が来るとは、米粒ほども思っていなかった。

大きな手が、イワンのワイシャツを脱がせ始める。

自分でやろうとするのを黙って目を合わせてやめさせる。

すると、どうにか何かしなかればと考えた恋人は、おずおずと手を伸ばし、自分のワイシャツを脱がせ始める。

可愛くて、余りの恥ずかしがりようが可笑しくて。

でも、とても嬉しくて。

褒美に唇を合わせ、ちゅ、とフレンチキス。

そのまま首筋にも唇を這わせ、軽く吸う。

吸い上げるたびにぴくんと跳ねる身体に愛しさを募らせながら、左胸の直ぐ下の肋骨を甘噛みした。

ゆっくりとその骨を舌で辿って、蝶番の部分で一段下に下ろして折り返す。

一番下を中央まで辿ると、左胸のやや中心に近い部分に舌を当てた。

先で、崩した筆記体の文字を。


A l b e l t


透明な文字は、ほんの少しの間、僅かに光に反射して見えただけだった。

女々しい戯れに溜息を吐いて髪を掻き上げると、小さく名を呼ばれた。

潤みきった目で、頬を甘そうな色に染めて、微笑む恋人。


「嬉しい、です」


何をしていたのか知られた事に気まずさを感じる暇も無い程に、嬉しい。

心臓の上に名前を辿られた事を受け入れ、微笑んでくれるのが。

アルベルトはイワンの肩口を噛み、薄く付いた歯型を舐め上げた。

手を下ろしてジッパーを下ろし、雄を弄ってやると、耳の近くで甘い吐息が吐き出された。

手でしっかり握ってぐっぐっと扱き上げ、先を人差し指側面と親指で軽く潰す。

溢れ始める蜜の匂いに興奮を覚えながら、震える腿に男根を擦りつけた。

従者がしっかりシーツを握り締めている事を確認し、腰から左手を離して自身のスラックスのジッパーを下げる。

天を突くものを取り出し、白い腿に直に擦り付けた。

微妙に違う男の匂いが混ざる部屋の中で、濡れた音が響く。

扱くぬちゃぬちゃという音と擦り付けて滑るずるりという音。

耳の良い従者は快楽と興奮に息を弾ませて身体を強張らせていた。

どうしていいのか分からぬらしい。

いつまでたっても初心な反応が可愛い。

鬼も十八、番茶も出ばな、というが、鬼や番茶でそれなのに、元がこの愛らしさだ。

ごくりと喉を鳴らし、アルベルトは扱いている雄の奥の後孔を探った。


「あっ・・・・・」

「なんだ、まだ入れておらんぞ?」


びくっと身体を竦めるからからかってやると、濡れた目が恥ずかしそうに逸らされた。

蜜に濡れそぼった指はすんなり入るが、締め付けは極上だ。

中の絡み具合も複雑で、今日は興奮気味らしく熱めだ。

余り奥に入れずに中をなぞってみると、腰ががくがく震えた。

奥に入れると胸を反らせて身を捩る感じ方だが、浅目は浅目で感じるらしい。

二本目の指を入れて入口を広げると、小さく息を詰めた。

痛むかと聞こうとすると、擦りつけられる腰。

無意識らしいが、雄を身体に擦り付けるより手に尻を擦りつけて奥に咥え込もうとする動きが淫らがましい。

期待に応える様にぐっと奥に差し入れると、堪らないといった風な溜息。

少し身を離して顔を見ると、上気して蕩けていた。

くちゅくちゅと音を立てて弄ると、眉をひそめ目を閉じて薄く唇を開く。


「ぁ・・・・・」


艶めかしい声に身体が熱くなる。

指を引き抜いて押し当てると、反射の様に息を吐いた。

ぐず、と先を埋めていくと、かりを超えた所で引き込まれる。

だが返しを過ぎると引き込みは当然ながら止まり、ひくひくと太い幹を締めあげてくる。

そのまま押し込んでいくと、時折いい所に当たるのか身体がしなった。

ぎっちりと填め込んでやり、馴染むのを待つ。

一番太い根元を締める肉の輪は痙攣じみた動きでひくついていた。

中は戸惑うようにさざめき、押し出すような動き。

かなり気持ちが良いが、馴染むとまたこれとは違った悦さがある。

次第に馴染んでくるそこは、入口がギュウ、ギュウ、と堪らない加減で締めてくる。

中は押し出すのと引き込むのを不規則に繰り返し、複雑な襞が絡みついて放さない。

熱さもぬめりも申し分なく、ゆっくりと注挿を始める。


「ぁあ、ん・・・・んぅ・・・・」


動きは大きいがゆっくりとした注挿に、イワンの口から甘いがもどかしげな喘ぎが漏れた。

ずるぅっと引き抜いて完全に引き出してしまうと、僅かに口を開いたピンクの窄まりがひくひくしていた。

赤らみ始めた絶妙な色合いの桃色はいやらしく、濡れて光るのがまた興奮を煽る。

もう一度挿入し、今度は強めに突いてやる。


「あ・・・・はぁっ、あっ、あぅくっ」

「っ・・・・そう締めるな。持たん」


くつくつと笑いながら、自分の左の手指と従者の右の手指を絡めて、囁く。

手をぎゅっと握りしめながら激しく喘ぐ従者を目で楽しみながら、奥にたっぷり種付けしてやった。


「んぁぁ、あ、あっ」


流し込む度に身体を跳ねさせて可愛いアルトで喘ぐ。

合わせて噴き零れる白い精液が、腹の上に蟠っていった。

何度も何度も繰り返し、腹の上も腹の中も精液まみれにしてやる。

失神寸前になって小さく痙攣している身体から男根を引き出し、唇を吸う。

少し意識が浮上したイワンは、主の手が持つものに飛び起きかけたが、指一本動かなかった。

この為にヤリ倒したのか、ヤリ倒したら動かなくなったからやるのか。

準備からして前者だと思うが、イワンは諦めて身体の力を抜いた。

腹の上の精液を静かに吸い取っていくクリーナー。

考えてみれば、主に始末させるよりはましだ。

自分で始末する方がもっとましだが。

が、イワンは主の次の行動に肝をつぶした。

脚を開かされて宛がわれているのが分かる。

悲鳴を上げたかったが、喉が痛くて声が出ない。

入ってくる硬い吸気口。

かちん、と小さな音がした。


「ぁ・・・・ぁ・・・・!」


掠れた精一杯の悲鳴、抵抗する弱々しい動き。

中の精液を吸いとられる異常な感覚。

出力は下げてあるが、中を吸われれば痛くなくとも感覚が異様だ。

恐怖に歯を鳴らして出ない声を振り絞って泣き叫ぶ事しか、イワンには出来なかった。





「・・・・・・・で、これなんだね」

「何故だ」

「我儘控えてるとか言ったのどの口だっけ?」

「理解できん」

翌朝意識を取り戻した瞬間から激しく怯えてアルベルトを引っ掻き噛みつく大騒ぎで逃げ出してしまったイワン。

部屋の隅に逃げるのを捕獲しようとしたが、完全に動物の様な状態。

アルベルトを敵とみなして触られるのを嫌がり、手だろうが顔だろうが引っ掻きまくった。

とは言え犬猫と同じこれを叱っても悪化するだけと思い、放っておいたからさあ大変。

ワイシャツ一枚で部屋から逃走してしまったのだ。

ワイシャツでギリギリ隠れただけで、剥き出しの腿に白濁を伝わせフェロモン全開で廊下を歩くイワンに仰天した者多数。

手を出そうとしたのも多数。

何にも分からない犬っころは、あっちにふらふらこっちにふらふらついて行き、食われそうになっては顔面を引っ掻いて逃走。

結局たまたま歩いていたセルバンテスが驚いて事情を聞こうとした結果、中身が子供どころか犬状態なのに気付いた。

やんわり懐柔するのが得意な男は、宥め透かして警戒を解き、部屋に持って帰って身を繕ってやり、水を飲ませ。

口移しで水を飲まされてもぽけっとしているのが可愛かったと言っていたが、それより。

今も犬っころはセルバンテスの膝に頭を乗せてうとうとしている。

ワイシャツはさりげなくセルバンテスのものに交換されており、黒いそれ一枚。

脚はにょっと突き出たまま、床に投げ出されている。


「イワン君可哀想にねぇ。おじさんはそんなことしないからね?」

「いい加減それを返せ」

「嫌だよ。だって今のイワン君は」


君じゃなく私を選んだんだから。

ぞっとする現実をやっと理解し、アルベルトは思わず言葉を詰まらせた。

名前を呼ばれてセルバンテスを見上げる瞳には、もう自分は映っていなかった。





***後書***

【掃除機】の表示で結果が分かってた人はいるのか?

一度はやってみたかったが最近の掃除機吸引力が半端無いからねぇ・・・・。