【 御主人様のお気に召すまま-076 】
「やれやれ・・・・あれも大人げない事をする」
「か、カワラザキ様・・・・・」
人の気配に大回廊の柱の裏を覗けば、座り込んでいるイワンがいた。
目は潤み、唇は甘そうに赤らんでいる。
泣いていた、と言うより、半端に手を出されたと言ったところ。
自分の気配に退散したらしいが、途中で放り出しては可哀想ではないか。
そう、可哀想。
始末をつけてやるのが一番いい。
勝手な願望に苦笑しつつそれを抑えつけ、カワラザキは片膝を着いてイワンに視線を合わせた。
濡れた瞳が気まずげに下に落ちる。
その顎を掬い、目を合わせた。
「あ・・・・・・」
「そのまま衝撃の許に帰れば折檻を受けるぞ?」
「・・・・私が悪いので・・・・」
俯いて震える愛らしさに、頬が緩む。
肌蹴られた胸の飾りが尖りかけている事に気づき、ふっと息を吹きかけてみた。
「ぁっ・・・・!」
ぴくんと震えた身体から、一瞬にして色気が醸される。
33歳の男が何故こんなに艶やかなのか。
不思議だ。
なのに、欲望が頭をもたげる。
もう一度息を吹きかけると、睫毛に残っていた涙がぱっと散った。
目は潤みを増し、頬が赤らみ。
逃げ出そうとにじる身体の床についた左手に手を重ねると、びくっと身体を強張らせて動きを止めた。
「あ・・・・・か、カワラザキ様」
「素直でない悪童には」
仕置きが必要かのぅ・・・・・。
十傑を長く率いた経験の分、樊瑞より重く恐ろしい声。
心臓が竦み上がる恐怖感に、呼吸が上手く出来ない。
「あ・・・・あ」
「なに、取って食いはせんよ」
優しい微笑と、恐ろしく力を内包した声音。
「少しばかりの戯れじゃ」
胸に息を吹きかけられて、恐怖に微細な快楽が混じった。
直ぐに消えたが、ぬるい吐息が掛る度にそれは強さを増し、尖りがじんじん痺れ始める。
直接弄られる痛みの疼きと違い、腰が揺れそうになる抑えがたい欲望の疼き。
吐息が震え、視界がぶれる。
縋りついて弄って欲しいと身を擦りつけそうになる。
だが、身体は早求めても、心は主以外を欲しない。
震えながら柱に背を押しつけ目を閉じた。
おやめ下さいと言う事すら今は怖かった。
「心地好いか?」
「・・・・・・っ」
ふるふる、と首を振るイワンだが、微妙な加減で長く吹き掛けられて腰が跳ね上がった。
「あ、あ、あ」
「イワン」
「・・・・ぃ、です・・・・気持ち、良い、で、す・・・・」
練り上げられた手管は、吐息で十分この純な身体を煽りたてた。
ぷっくりと尖ったそこを触って欲しそうにしながら、決して言いはしない。
だが、執拗に吐息で嬲られた後にクイと指で摘ままれた時。
余りの衝撃に声どころか息が止まり、口が開閉する。
「・・・・・・!」
「好さそうじゃな」
どろ、と下着の中に広がる粘液。
摘ままれた左胸が熱くて、何も考えられない。
脱力しながら呼吸を何とか繰り返す。
カワラザキはイワンのスラックスを押し下げた。
ねちゃっと糸引く雄に目を細め奥を探る。
「あっ・・・・!」
「忍のわっぱに聞いたがのぅ」
お前さん、ここが大層好きらしいな?
意地悪く目を細めて擦ってやると、腰ががくがく震えた。
「あ、あ、やめ、て」
「入れてもおらんが?」
「擦った、ら」
小さく白状された言葉に、欲望が高まる。
だが、一気に獲りに行くのは無謀だ。
ここは手ぐらいで妥協していた方が良い。
「では、擦るのはやめておくかのぅ」
「は・・・・ぁんっ!」
安堵した瞬間指をねじ込まれ、イワンの身体が痙攣した。
鈍痛が腰を這い上がり、中をまさぐる動きで腰が砕けそうな快楽が駆け巡る。
「あぁ・・・・っ!」
堪らないと言った風に掠れた悲鳴を上げるイワンをたっぷり指で可愛がり、3回程絞り取ってカワラザキは退く事にした。
ぐったりとしているイワンを上着で包み、抱き上げる。
そのままアルベルトの執務室に向かい、声を掛けた。
返ってきた不機嫌な返事を了承と取って入ると、盟友組が茶で休息を取っていた。
が、抱えられたイワンを見て驚いた様に席を立つ。
「カワラザキ、どうしたの。イワン君また食べられかけてた?」
その問いに頷き意味深に笑う。
何処か幽鬼と似通った・・・・いや、幽鬼が彼に似たのか。
超能力系のほの暗い心の闇をのぞかせた、笑み。
ぞっとする冷たさ、その決断が目的遂行のためなら何処までも残酷な事を、この二人はリーダー時代から知っている。
「まぁ、誰に食われかけたかは知らんが・・・・その後で少々可愛がってみてな。絞り過ぎてぐったりしておるよ」
なに、突っ込んではおらん。
事も無げに言って、イワンをソファに下ろして頬を撫で、出て行ってしまう。
呆気に取られていたが、二人は包む上着を捲って見て呆れた。
殆ど腫れていないのに赤くなった尖り、派手に飛び散った多量の精液。
どんないやらしい責め方をしたのやら。
まぁ自分達といい勝負の夜の帝王っぷりだったあの男なら、このくらい戯れ程度。
本気でやったらイワンなど腎虚一直線だ。
溜息をつくアルベルトが、苛々とした様子で頭をぐしゃりと乱す。
葉巻を取り出したから、セルバンテスがそれを奪った。
やめさせようと言うのではないと知っている盟友は、黙って葉巻の先を衝撃波で発火させてくれた。
もう一本取り出して吸い始める。
二人で紫煙を吐きつつ、ソファに戻る。
「どうする?あの人は相当だよ?」
「分かっている」
手を組む気はないが、利害が一致した場合手を貸すぐらいはする。
その後で取り合いをすればいいのだ。
とは言えかなり厄介な敵に、溜息をつく二人。
「イワン君も罪作りだねぇ・・・・」
「全くな」
***後書***
爺様が暴走したらこうなる的な話。元リーダーは結構怖い。