【 御主人様のお気に召すまま-077 】
「御加減は・・・・・」
「・・・・問題ない」
今にも泣くのではないかと言う程に睫毛を震わせ、唇を噛み締める従者。
分かっている。
いつでもそうだ。
どんなに自身が傷付こうとこれは笑って見せる事を厭わない。
ほんの掠り傷でも自分が負えばこうやって今にも泣きそうな顔をする。
昔はこれが不可解だった。
今も不可解だ。
そしてどうしようもなく愛おしい。
心配させたくないと思う。
こんなくだらない事で泣かせたくも無い。
失う事に怯えるのは仕方ない。
突然全てを失った経験をもう一度繰り返せば、恐らく。
壊れる。
アルベルトはイワンに手を伸ばした。
上手く動かない手で、あたたかな頬に触れて撫でる。
ゆっくりと手を往復させると、少しづつ震えが治まっていった。
「・・・・その時は連れて行ってやる」
必ず。
二度と独りきりにさせない。
アルベルトは手を離してベッドに横になり、イワンに背を向けた。
この空気を壊したくない。
どうしたって言えよう筈がない。
こんなに格好つけておいて。
勃ってしまったが身体が上手く動かないので押し倒せないなど!
言えな・・・・言ってたまるか!
不機嫌な主の雰囲気を感じ取っている筈のイワンはしかしそこを動く気配がない。
苛々しながら拗ねていると、肩に手を置かれた。
振り払う事すら出来ないから怒鳴ろうとすると、呟くような言葉がかけられた。
「・・・・我儘を聞いて頂けませんでしょうか」
「・・・・何だ」
涙を堪えさせている詫びのつもりで一応聞くと、イワンは仰向けになって欲しいと言った。
説教かとうんざりする。
が、イワンは黙っていた。
ベッドに膝をついて上がり、頬さえ染めぬまま、追い詰められたような瞳を向ける。
だがそれは一瞬で、矢張り羞恥に頬を染めた。
そして、そろりとワイシャツを脱ぎ落す。
「・・・・何のつもりだ」
「・・・・淫乱と罵られても構いません。どうしても我慢が出来ないのです」
アルベルトは溜息を吐いた。
自分の衝動も身体変化もばれているのだ。
その上で泥を被って自分の我儘だからと己を慰めようとしている。
こうまでする程の価値は自分にない。
無いが、あると信じてそう気取るしかない。
そうでもしなければ到底この直向きな愛に目を合わせられないのだから。
「・・・・よかろう」
「・・・・有難うございます」
「だが無理は許さんぞ」
イワンは頬を益々紅潮させて頷いた。
スラックスを脱ぎ捨てて生まれたままの姿を晒し、アルベルトの寝巻を緩める。
取りだしたものはもう完全に立っていた。
生命の危機と、従者の献身、そしてこの白い裸体。
全てが混ざってそれは硬くそそり立つ。
「ぁ・・・・・」
まざまざと見せつけられる男の欲望に、イワンはこくんと唾を飲んだ。
そして、一瞬躊躇いつつもそれを口内に含む。
舌を這わせず、咽頭の奥にも引き込まず、口いっぱいに含んで揉む。
とんでもなく興奮する絵面だ。
身体が動かない自分を殺してやりたい。
「ん、んむ、んぐっ」
「は・・・・・嬉しいか?」
苛立ち紛れにからかうと、イワンは苦しさに涙を滲ませながら頷いた。
唾液が溢れぬめる口内からぐじょぐじょと音がする。
益々硬くなるそれを口から出して先だけ含み舐めまわす。
そうしながら、幹を伝う先走りと唾液の混合液を指にたっぷり絡め、白い手をびちょびちょにしていく。
身体の下に腕を通して、自身の尻の奥を探る。
イワンの雄は立っていない。
興奮しても、心が喪いかけた恐怖に竦んでいるからだ。
ぽてっと垂れた袋を押しのけ、窄まりに指を入れる。
拒まれたが、ぐいぐい押しこんで探る。
アルベルトは咎めなかった。
早く存在を確かめたいと言う思いに急き立てられているのを分かっていたから。
「んっ、んん」
「・・・・・乗れ」
苦しげに口淫と後孔自慰をする従者に許可を出してやると、すぐさま首に腕を絡めて乗ってきた。
はっはっと息を吐きながら、急いた様子で腰を落としてくる。
支えてやれないのが歯痒い。
「っは・・・・・・」
「あ、っ・・・・」
根元まで咥え込んで涙を流す従者を呼ぶ。
手すら上手く動かぬから、命じるしかない。
「接吻の一つも無いのか」
「あ・・・・・ん、ふ、んむ」
唇にむしゃぶりついてきた可愛さに笑いつつ、応えてやる。
柔らかい唇を吸ってやると、もっととばかりに舌を差し出してくる。
その割に恥ずかしがって舌が震えているのがアンバランスだ。
「んん・・・・・んむ、ん」
「ふ・・・・・・」
伝う唾液を拭いもせずに、繋がったまま激しい口づけを繰り返し続ける。
身体は進めたがっているが、今はこうしているのも悪くないと思う。
何度も何度も唇を合わせて舌を絡めていたが、不意にイワンが唇を離した。
そして、泣きそうな顔で僅かに微笑む。
「今、御奉仕を・・・・」
ずるっと引き出される感触に息が詰まった。
腰を必死で上げる従者の方が辛かろうが。
だが、身体の辛さを抑えて、イワンは腰を振り立てた。
縋っていた手を離して主の腿に後ろ手を付き、激しく腰を揺らす。
興奮を煽ろうと見世物の様に身体を晒し、結合部すら隠さずに。
苦しい呼吸で口が閉まらなくなり、涙が頬を伝う。
それでも、やめない。
早く、確認させて欲しい。
中で、いっぱい出して。
貴方がまだ生きているのだと言う事を証明して・・・・!
泣きながら苦しげに腰を振るその姿は余りに痛々しい。
だが、狂おしい思いが伝わってくる。
その激しい恋慕は身を焼く快楽の毒だ。
完全に中毒を起こしている自分。
失えば禁断症状で死ぬだろう。
「っイワン・・・・!」
「んんっ・・・・・・!」
中に排出される熱い精液に、イワンは瞼を震わせた。
「あるべるとさま・・・・・」
首に縋ってもけして泣かぬ従者に首を動かして頬を押しつけてやり、アルベルトは苦笑した。
「全く元気な怪我人だ・・・・・」
***後書***
・・・・本当にな!