【 御主人様のお気に召すまま-079 】



「またか・・・・・」

「今回はまた・・・・随分」

「小さい、な」

おっさん三人が集まる室内。

ここは樊瑞の執務室だ。

今日も今日とて終わらぬ仕事の手伝いに駆り出されていたイワン。

電話しながら無意識に白紙の符に落書きしていた樊瑞。

謎の立方体にすればいいものを色々書きこんでいたら。

風でびゃーっと飛び。

傍のイワンの手の甲にペタン。

ええ、全く剥げませんでした!


「何時間で戻るの?」


訊く幻惑おじさんは前に学習済みなので、テンションを抑えてニコニコしている。

怯えられたら最後だ!


「・・・・恐らく、7,8時間後・・・・」


魔王のおっさんは自信なさげにしながら、こうなった瞬間から死にもの狂いで終わらせた書類を積んでいた。

なら最初からやれと言いたい。


「・・・・・・・」


無言の衝撃のおじさま。

見上げてくる従者は3歳・・・・か、ギリギリ4歳。

小学校には絶対上がっていない。

そんな子供・・・・いや、幼児。

話しかけても首を傾げたり「うぁ?」とか「うー」とか。

完全に「幼児」だ。

そう、自分が最も苦手な年頃の生き物!

煩いし、泣くし、我儘だし、動き回ってじっとしないし、何もない所でこける、ものを破壊する、構って欲しがる。

その内「煩い」「泣く(嘘泣)」「動き回ってじっとしない」「構って欲しがる」が盟友に該当する事を忘れている。

自身にも「我儘」「ものを破壊する」が当てはまるのに気付きもしない。

因みに一応のリーダーも「何もない所でこける」が該当する。

3人揃えば幼児と変わらぬおっさん達。

集まっても知恵さえ浮かばない。

加齢臭が微妙に濃くなっただけだ。


「・・・・・おじさんと来る?」


にこーっと笑って手を出したセルバンテスを、アルベルトが退かす。


「貴様は幼児だろうが動物だろうが無機物だろうが構わん奴だからな!」

「失っ礼だな!流石に穴があっても竹輪は遠慮だよ!」

「ならば花瓶にでも突っ込んでおけ!」


ぎゃんぎゃん吠えあう二人を放置し、樊瑞はイワンの服を直していた。

ぶかぶかのワイシャツから手すら出ておらず、頭が出ているだけ。

袖を何度も折って、何とか見れるぐらいにはする。


「君だって前科あるじゃないか!私は子供に突っ込んだりしない良識はあるよ!」

「ならば何をする気だ!」

「性・教・育・!」

「殺すぞ貴様!」

「何で?!教えとかないとイワン君が大人になった時に困るんだよ?!」

「困らん!一生女を孕ませさせはせん!子の出来方も知らんで構わん!」

「馬鹿じゃないの?!子供出来るって信じさせて「出来るまでしようね」ってのがイイんじゃないか!」

「馬鹿は貴様だ!第一これがそんな・・・・・」


これ、と指差す先には、イワン。

小さな彼は、突き付けられたそれを。


ぱくっ。


「・・・・・・・・・」


一瞬ぎょっとしたが、吸いついているだけなので痛くは無い。

話の邪魔だと引き抜こうとしたが、頑固に吸いついている。


「・・・・指、鬱血してない?」

「・・・・してきた」


強力な吸いに、指先が痺れる。

そのまま指を上げていく。


ぢゅー。

ぶらん。


「・・・・スッポンみたいだねぇ」

「・・・・振ると首をやるぞ」

「・・・・分かっている」


おっさん3人は亀のように指に吸いついてぶら下げられているイワンを見て頭を悩ませた。


「イワン君」


さっと幻惑が取りだしたのは、キャンディ。

この男はいつも何かしら菓子を持ち歩く癖がある。

大阪のオバちゃんか。


「甘いの好き?」


目の前に出してみるが、イワンは全く興味を示さずに指に食いついたままだ。


「・・・・駄目っぽい」

「釣ろうとするのが間違いだ」


言うが早いが、デコを押さえて指を引っこ抜いた衝撃。

床に下ろすと、イワンはアルベルトを見上げた。

じわぁ、と潤んでいく瞳。

可愛い、と幻惑が暴走するより一瞬早かった。


ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「っセルバンテス!黙らせろ!」

「知らないって!凄いよこれ、窓振動してるし!もう音波越えて衝撃波だよ!」

「こんな小さな体のどこからこの音を出しているのだ・・・!」


絶叫どころではすまない泣き声。

怪獣でももう少し静かだ。

耳が痛いを通り越しているためクリアに聞こえる。


「アルベルト!何とかして!このままじゃ他の連中が嗅ぎつけてくるから!」

「煩い!今考えている!」

「考えるまでも無かろうが!」


樊瑞が一喝し、アルベルトの指を掴んでイワンに突きつける。

収まる泣き声。

指先が鬱血する痛み。


ちぅ・・・・・


大人しくなって、えぐえぐしながら指を咥えたイワン。

可愛いが、あの泣きは最早兵器だ。


「・・・・イワン君ー」

「・・・・何をしている」


蜻蛉の目を回すように、イワンの目の前で指をうろうろさせる幻惑。

イワンは一瞬アルベルトの指から唇を離した。

セルバンテスの指を咥えようとしたが、アルベルトが指を引こうとすると慌ててそれに吸いつく。


「アルベルト、指の先から何か出してる?」

「出してたまるか」


興味深々でイワンを見る幻惑。

3人は今日の仕事を放棄することを決めた。

現在時刻、午前11時・・・・。





まず、3人がやった事。

イワンの着替え。

一人で着替えられない。

誰かがやれば抜け駆けの可能性あり。

よって公開お着替え。

子供らしいややピンクがかった肌に生唾のおっさん3人(年齢合計100歳突破)。

各々の喉から鳴った音に眉をひそめ合う。

が、変態と罵れないのも事実。

取り敢えず、樊瑞が出た。


「イワン、服を着替えるから少し指から離れろ」

「・・・・・・・・」


じっと見てくる大ぶりの瞳に、思わずたじろぐ。

が、ここは押すしかない。


「イワン、良い子だから・・・・」

「着替え終わったらおじさんがもっといいもの咥えさせてあげるよ!」


笑顔で幼児虐待を宣言しやがった幻惑を衝撃波と銅銭が襲う。

駄目押ししようとする樊瑞の外套がくいくいと引かれた。

見れば、イワンが指から離れてじっと見上げている。

樊瑞が着替えさせる間、イワンはおとなしくしていた。

着替えと言ってもまともなものは無いので、薄手の綿のタオルで胴を巻いただけ。

黒なので透けないが、ワイシャツよりまだ危ない格好である事は間違いない。


「暖房も効いているし大丈夫だろう」


そこじゃないな、と思うが・・・・。

子育て経験あっても駄目な魔王、子育て苦手なのに娘に好かれる衝撃、子供の扱いが上手いが欲望が先走っている幻惑。

こんなのが集まってまともな子育ては発揮されない。

イワンは着替えが終わると、ぱたぱたっと走ってセルバンテスのクフィーヤの裾を引いた。

じっと見つめる瞳は何かを「待っている」ようで。

もしや、まさか。


「い・・・・『いいもの』待ってる・・・・?」

「恐らくは」

「妙な真似をしたら殺すぞ」


いいものを、と言われて素直に来た可愛さ。

遠慮は色っぽいが、素直さは可愛い。

捨て難い二つだ。


「じゃあ、はい」


しゃがんで飴を差し出すセルバンテス。

イワンはセルバンテスの顔に両手を伸ばした。

まるでキスするために両頬を包むように。

そして。


ぎぅぅぅぅ!


「・・・・うん、超痛い」

「「・・・・だろうな」」


自慢のナマズ髭を引き千切る勢いで容赦なく引かれても、セルバンテスは笑ったままだ。


「いやぁ、赤ん坊の頃のサニーちゃんにもやられたっけ」

「「・・・・・・・」」


保護者も実父も黙るしかない。

本人が笑って流しているからいいのだろう。


「イワン君、これはおじさんから生えてるからとれないんだよ?」

「ぅ?」


手を離したイワンは、今度は頬の刺青を辿り始めた。

そして、眦に触れ、幻惑の邪視を覗き込み。

とても嬉しげに、笑った。

息が止まる様な幸福感。

鼻の奥がツンとする喜び。

時間が止まった様な安心感。

この眼を見てそんなに嬉しそうに笑ってくれる。

大人でも子供でも、君は君だ。

私を恐れないで慈しんでくれている。

幸せそうに笑うセルバンテスに、魔王と衝撃はそっと溜息をついた。

衝撃波を繰り出す指を口に入れ、幻惑の邪視を覗き込んで笑い。

長方形の布を持つ樊瑞に何の恐れも抱かない。

頭を吹き飛ばせる男、惑わせる事の出来る男、いつでも符として使えるものを持った男にも、愛らしく笑む。

余りに、心地好い。

だから皆こぞってこれを求めるのだ。

欲しがるのだ。

黙って葉巻を取り出し、口に咥え。

思い直して、仕舞った。





12時。

何か食べさせるべきだと思ったが、普段作る本人が縮んでいる今。

料理の腕は破壊級セルバンテス、作りたがっているが、二人で止めた。

料理の腕は普通のアルベルト、しかし彼の人差し指は使用中。

料理の腕は中級、作り始めた樊瑞、誰も止めない。

悩むが、取り敢えずフルーツヨーグルト。

余り食の進むタイプではなさそうなので、林檎はすってしまい、混ぜ込む。

桃と苺は細かく刻み、完成。

小さめの器によそって、先にスプーンを渡す。


カーン・・・・


すぐさま投げ捨てられてしまった。

が、一番キレそうなアルベルトは別段気にした様子がない。

彼自身が渡したのでないと言うのもあるが、何より食事に見向きもしないで指を吸っているのが可愛いと思ったからだ。

とは言え、こんな小さい子供は一食抜いても直ぐ体調を崩す。

柄の長めのスプーンを取ってきて、掬って差し出す。


「・・・・・・」


期待の視線(×3)の中、イワンはちゅく、と指から唇を離した。

口を開けて、スプーンを半分口に入れる。

そう多くないひと匙のさらに半量だが、彼は少し眉をひそめて直ぐに飲み込んだ。

余り食に興味がないらしい。

セルバンテスがイワンの頬を撫でる。


「いい子だねぇ」

「ぅ・・・・?」


見上げるイワンににこにこと笑い返し、セルバンテスは首を傾げた。


「もう一口、食べようか」


樊瑞が匙を差し出すと、イワンはアルベルトの膝に乗ったまま口を開けた。

ひと匙ひと匙与えながら、様子を見る。

イワンは小さな皿の3分の2程で食べなくなってしまった。

アルベルトが口端のヨーグルトを拭ってやると、その指に吸いつこうとする。

苦く笑って指を差し出す。

セルバンテスが朗らかに笑った。


「可愛いなぁ」

「ああ・・・・そうだな」





お腹がいっぱいなのか、指を含みながら時折船をこぐイワン。

しかしどうしても指を離したくないらしく、口から外れるたびに目を覚まして吸いつく。

が、とうとう我慢できなくなったのか、口から外れても目は覚まさなかった。

落ちそうなのを抱き直そうとすると、小さな体が奪われた。


「・・・・落とすなよ」

「勿論」


嬉しそうなセルバンテスの膝に抱かれる小さな体。

それを眺めながら、脚を組んだ。

乗せた身体は軽いが動かせなかったため少し痺れている。


「可愛いなぁ。いつもだって可愛いけど」


今は、憂いがないから。

全てを突然奪われた経験から、彼はどこか不安定だ。

だが、今は唯無邪気で。


「ああ、本当に・・・・・」


食べちゃいたいな。

続いた言葉はどこまでもセルバンテスらしかった。

とは言えそれが本気か戯れか判別がつく男達は、黙って眉間を揉むにとどめた。





「赤頭巾は言いました『どうしておばあさんのお耳はそんなに大きいの?』」

目を覚ましたイワンに延々童話を聞かせているセルバンテスの意外な気の長さに驚きつつ、暇な二人は茶を飲んで休んでいた。

イワンは今度は樊瑞の膝に乗り、セルバンテスの話を聞いている。

時折頷くその手は、しっかりとアルベルトの手を握っていた。

小さく温かな手を軽く握り返しつつ、アルベルトは窓の外を眺めた。

ぬくもりは、いつもと同じで心地よく。

少し、苦いと思った。





「今日こそは私の勝利だね」

「儂も本気を出すしかあるまい・・・」

「貴様ら纏めて葬ってやる」


せーの!


「「「じゃんけんぽいっ!」」」


魔王→グー

幻惑→パー

衝撃→グー


「ぃやった私の勝ちっ!!」

「待て!貴様に任せるわけには・・・・!」

「絶対にヤル気だろうが!」


イワン小脇に浴室の扉を閉めようとするセルバンテスと、こじ開けようとする二人。


「勝負は勝負っ!嫌なら脱衣所で座ってるんだね!」





「イワン君目をつぶってねー?入ると痛いから」

「ぅ」

悩んだが一応頭部はシャンプーで洗ってあげ、顔を洗ってあげて。

最大のお楽しみ、洗体!

脱衣所に座っている二人のおっさんは放っておくとして、幻惑はスポンジにたっぷりボディソープを取った。

因みに幻惑も全裸である。

勿論腰にタオルなんて巻いていない。

イワンにも巻かせていない。

殺されそうな勢いで詰め寄られたが「綺麗にしとかないと!」と押し切った。

トイレは一応一人で行けるらしく、漏らさなかった。

つまんない、と言った瞬間室温が3度下がった理由を、幻惑が理解する事は一生ないだろう。

下の世話までやってあげたい変質者だ。


「痛い?」

「う?」


ふるふる、と首を振って否定するのに笑い、背中と首を洗ってやる。

腕を洗ってやると、脚をぷらぷらさせて遊んでいた。

華奢で肉薄な胸を洗って、ピンクの尖りをしっかり目に焼き付ける。

かわいいなぁ、と思いつつ、我慢。

腹を脚を洗い、爪先や指の間までしっかり洗い。

いよいよ。

いよいよメインイベント!


「今からお尻とおちんちん洗うからね」


イワンに言うようにしつつ脱衣所に聞こえる様宣言しやがった幻惑の耳に、歯ぎしりが聞こえた。


「はい、脚開いて。そうそう、もっと」


洗いづらいからおじさんの肩に脚乗せて。

一瞬で脳内に展開した卑猥な体勢。


「待たんかこの変態!」

「もう貴様に任せてはおれん!」


傾れ込んできた2人から守る様にイワンを抱きしめるセルバンテス。


「嫌だね!中も外も洗い倒す!」

「「ふざっけるなー!!!」」


キレたゴツイおっさん二人は大変恐ろしく、酷く恐怖を感じた。

当たり前だが幻惑はそんな繊細な神経持っていない。

イワンの頬を湯では無い雫が伝う。


ぴぎゃー!!!





浴室に木霊した絶叫から10分。

キンキンする耳を時折指で掻きつつ、脱衣所待機だった2人は濡れたスーツを着替えていた。

考えた末にC級エージェントを呼びつけ、アルベルトは服を持って来させた。

樊瑞は執務室に泊まる時のため何枚かある。

貸すとは言わなかったが、貸さないとも言っていない。

どうせ拘りがあるだろうと特に声を掛けなかったのだ。

黒いワイシャツにスラックスの衝撃に苦笑し、白いワイシャツにスラックスの樊瑞はイワンを抱き上げた。

小さな怪獣は風呂場で泣き叫んだあと、力尽きて眠ってしまった。

可愛い寝顔に微笑って、ベッドに運ぶ。


「・・・・これは簡易と言えど儂の寝台だ」

「じゃあ連れて帰るから」

「『帰る』ならワシの寝室だ。貴様らだと『行く』になる」


第二回じゃんけん大会!


「「「じゃんけん・・・ぽいっ!」」」


幻惑→チョキ

衝撃→チョキ

魔王→グー


「正義は勝つからな」

「悪の結社の幹部リーダーが何言ってるの?」

「ロリコンの上ショタコンか?罪状を減らすためにもそれを渡せ」


言い募る二人を綺麗に無視り、樊瑞は寝台にもぐりこんだ。





「うぅ・・・・」

眠って1時間後、イワンはうなされていた。

煩い。

いびきが煩い!

樊瑞はサニーが認める大鼾の持ち主だ。

それはそれは煩い。

鼻に弾丸詰めたら一人や二人射殺できる勢いの鼻息だ。

が、しっかり抱き込まれ、苦しくはないが身動きとれない。


「ううぅ・・・・・」


苦しげなイワンは夢うつつの中を彷徨っていたが、とうとう眠りの方に引きずり込まれた。

しかも無意識に、目が覚めないよう、深く深く。

朝まで、起きぬよう。





起きて伸びをして気付いた、隣の重み。

すっかり大人に戻ったイワンは、自己暗示じみた状態で深く眠っていた。

白い脚が短すぎるタオルから突き出し、胸も尖りを晒し。

少し苦しげな寝顔は物凄い色気だ。

薄く開いた口から覗くピンクの舌、甘い吐息。


「うぅ・・・・ん・・・・・」


寝返りをうとうとするのを押さえ、思わず口づけた。

目覚める気配も無いのに、唇を貪る。


「んん・・・・ん」

「ふ・・・・・っ」


甘い唾液を味わいつつ、腿を撫でる。

滑らかな肌に時折引っかかるのは、自分の手が荒れているからだ。

柔らかで温かい身体。

女と違う甘さ。

征服欲が、牙を剥く。


「・・・・・・・イワン」


甘く冷たく耳元で囁き、ゆっくりと胸を揉む。

男の胸だがやや肉の盛りが良いそこは、弾力が格別だ。

何度も揉んで、揉みながら内腿を撫でさする。

さすっていたのが揉む動きに変わり、激しく握り締め始める。

柔い肉を掴まれて、イワンの身体が痛みに震えた。


「あ・・・・・ぃ、た・・・・・」


ぞくぞくする。

甘い訴えは無意識なのに何故こうも嗜虐心を刺激するのか。

激しく揉みながら肌を唇で辿り、噛みつく。

びくっと震える身体を押さえつけて噛み続ける。


「んん・・・・・」


嫌がり捩る身体に酷く煽られた。

胸の尖りをねっとりと舐め、軽く吸い。


がりっ


「んぁはっ」


辛そうな声に欲望が燃え立つ。

燃え立った故に我に返り、樊瑞は身を離した。


「い、いかん・・・・つい・・・・」


そそくさと自分のワイシャツを着せてやり、イワンを起こす。

彼は現状を理解して真っ青になったから、掻い摘んで説明し、絶対に不義は働いていないと言い含めて部屋に返した。

振り返って申し訳なさそうに頭を下げるのを見やり、ドアを閉める。


「あ、危なかった・・・・」


あんな状態を食ってはまるで悪人だ。

食うならしっかり意識のある状態!

決意も新たに、樊瑞は執務の為に机へ向かった。





「すみませんっ」

息を弾ませて入ってきた従者に、盟友組は顔を上げた。

酷い顔だ。

完全に二日酔いだ。

思わずもう一度謝る前に聞いてしまう程に。


「あ、あの、薬は・・・・」

「頂戴・・・・死にそう・・・・」

「・・・・寄越せ」


呻くような二人に、薬と炭酸水を差し出す。

が、二人はイワンをまともに見た瞬間薬もグラスも投げ捨てた。

酔いも完全にさめている。


「「あんのクソ親父!」」


一瞬身を竦めたイワンの首筋からはしっかり噛み痕が覗いている。

捕獲して身ぐるみ剥げば、噛み痕噛み痕指の痕!

指の痕?!どれだけ強く揉んだんだ!


「常識人のふりして・・・・!」

「あやつも所詮男だったか・・・・!」


酔いは冷めてもさすがに頭痛は治まらないうえ、割増。

割れそうな痛みと戦いつつ、二人は絶叫した。


「「カワラザキに言いつけてやる!」」


爺様が既に悪戯しまくっているのだが。

しまくっているが、あの人は棚に上げて説教するくらいなんでもない。

樊瑞に灸を据えるのはあの人かサニーが一番効くのだ。

何故か怒っている二人を取り敢えず宥めようと、イワンは曖昧に微笑んだ。


「あの・・・・・」


オムレツ、お食べになりますか?

二日酔いの朝はこれに限る一品の誘いに、二人の男は頷き、頭痛に呻くのだった。





***後書***

ほのぼのと見せかけて魔王暴走。

格好良いおじさま3人に可愛がられるイワンさん(年上好きには贅沢なハーレム)