【 御主人様のお気に召すまま-080 】



「悪いな、妙な方向に話が進んでしまって」

「いえ、仕方がない事ですし」

誰もいないバー。

イワンはここにバーテンとして潜り込み、任務責任者のヒィッツに情報を流していた。

が、段々と雲行きは怪しく、脱出を図った方がよさそうだ。

そうは思っても中々抜けられない状態。

イワンは自分を置いて帰還して欲しいと言うが、到底了承は出来ない。

このバー自体、隣の娼館に付属したものだ。

娼婦も男娼も、子供も、獣さえ扱うこのソドム。

主人は目ざとくイワンを見つけて、妓にしようとしつこく言い寄っている。

荒稼ぎさせて自分も楽しむつもりなのが丸分かりだ。

イワンはその度にやんわり断るが、言い寄られるイワンの困惑する様子がまた色っぽい。

それに色気を出してここに通い口説く者、それを見て息荒げる変態。

寸での所で逃げおおせているが、何回か暗がりに引き込まれたらしい。

セクハラなど日常茶飯事。

だが、イワンは余り参っていない。

些か疲れているようには見えるが、思いつめる様でも無い。

理由は簡単。

彼は己の情が傾いていないものに全く心動かさない。

十傑やサニー、孔明、ローザや同僚。

それ以外に何をされようと心をさざめかせない。

「どちらか分からない」者には優しい。

だが、一度「敵」と見なせば。

攻撃はしなくても、心動かしてはもらえないのだ。

全てを失った彼が取る『防衛』は、静かゆえに残酷だ。


「・・・・辛くはないか」

「ええ」


目を伏せて微笑み、グラスを拭く。

優しげで儚げ、そして妙に迫力ある色気。

グラスの楊貴妃をひと口飲んで、ヒィッツはイワンに微笑んだ。


「・・・・私の腕では不満かね?」

『そろそろ抜けんと本当に拙い』


近づく足音と、合わない口の動き。

イワンは微笑んだ。


「私は素人ですし、抱いてみてもそう面白味はありません」

『如何なさいますか、バイクならここから300m先です』


腹話の応用だが、監視の死角のここは問題ない。

他に監視がないのは、娼館の中で機器が不調の二部屋だけだ。


「知っているさ。もう商売女には飽きた」

『一度入る。主人を殺害し逃走する』

「では・・・・お相手いたしましょう」


カウンターから出るイワン。

ヒィッツが肩を抱く。

娼館に行き「持ち込み」だと告げ、紙幣を渡す。

視線を集めるのはヒィッツの派手だが品の良い服と整った顔。

そして何より、妙な色気のバーテンだ。

皆ちらちら伺うが、イワンは気に掛けずにヒィッツに寄り添ったままだった。

部屋に入り、鍵を掛ける。

カメラは矢張り故障していた。

「隣に聞こえては可哀想だ」と言って部屋を指定したが、実は右隣だけは音が抜けるのも知っている。

出歯亀共が集まっているのが気配で分かる。

ヒィッツはイワンの耳を噛んだ。


『本番はせんと約束する。出来ればなるべく卑猥な言葉で喘いでくれると個人的に嬉しいがね』


唇が笑んでいたのが、戯れのような錯覚を与えたらしい。

本気を悟られた方が都合が悪いからまあいいが。


「イワン・・・・・」

「・・・・・ぁ・・・・」


頬を染め、小さな悲鳴。

情を傾ける自分だから、彼の心に入り込んでいる一人だから。

彼は頬を染めてくれる。


「ぁ、の・・・・・」

「ん?」

「お名前は聞きたくないのです・・・・ですが、縋るものがないと・・・・・」


甘い我儘に、ヒィッツは苦笑した。

無意識でこれだけできるのなら、諜報部隊に移動すれば花形だろうに。


「では、名乗らぬことにしよう」


そうだな、御主人様なら問題あるまい?

くすくす笑って鼻をかむと、イワンも柔く苦笑した。


「ごしゅじんさま・・・・・」


甘い声に、くらくらする。

しかしがっつく事無く、伊達男はイワンの身体を擽った。


「ん・・・・・」

「イワン」

「ぁんっ」


服の上から雄を撫でると、イワンの腰が跳ねた。

余り演技の得意でない彼に嘘の痴態を演じさせるのは難しい。

本当に煽ってしまった方が早いし、何よりとても楽しい。


「どうして欲しい・・・・?」


顔を覗き込んで問うと、、イワンは頬を染めこくんと唾を飲んだ。

出来るだけ、卑猥にしないと。


「ぃ、いじっ、て・・・・くださ、い」

「こうか?」

「んっ・・・・」


それでも恥ずかしさを捨てきれないイワンが頑張る様子が可愛くて、わざと焦らす。

軽く擦るように揉むと、腰が揺れた。


「も、っと・・・・強く」

「こうかね?」

「あぁんんっ、い、痛、ぁっ」


ぐっと力を込めると悲鳴を上げた。

痛むそこを、今度はことさら優しく撫でる。

悶える身体を楽しみながら、巧妙な手管で服を脱がせた。

白い肌を晒す事に恥ずかしがるが、任務中私情を挟まない彼は抵抗はしなかった。


「ぁ、は・・・・」

「此方は放っておいても?」

「ぁ・・・・・・」


彼が何を卑猥と認識するかを知る機会でもある為、ヒィッツはわざと代名詞を用いた。

イワンが頬を染めて俯く。


「おっぱい・・・・吸って、欲しいです・・・・」

「ふふ、いいだろう」


可愛いおねだりに笑んで、尖りを軽く吸ってやる。

びくびく跳ねる身体を押さえつけてたっぷり吸ってやると、唇を噛んでいたのがとうとう外れる。


「あぁ、あ、そんなにしたら、千切れ、ちゃ、ぅ」

「それは大変だ。反対に変えておこう」

「ぁんんっ」


執拗に胸を吸われて跳ねる身体。

やっと解放された時には、両方赤っぽくなって濡れていた。

涙の滲んだ目元を指で拭ってやり、甘く誘惑する。


「次は何をお望みかね?」

「ぁ・・・そ、そん、な・・・・」


恥ずかしがるが『任務』が念頭にある為に、彼はそれを口にした。


「おち、ん、ちん・・・・扱いて、くだ、さ、い・・・・・」


ぎゅぅっと目を閉じて言い切り、彼はシーツに半顔を埋めた。

真っ赤な頬をひと舐めし、立ち上がったものに指を絡める。

甘い蜜に濡れたそれを緩やかに扱くと、鼻先を甘い吐息が擽って消える。


「あ、ぁあ、ぁん」

「心地好いか?」

「んっ・・・・は、い・・・・きもちい、です・・・・」


喘ぎ喘ぎ言うイワンは、快楽に溺れ切ってはいない。

仕事モードなのが少し悔しい。

もっと、もっと。

溺れればいい。


「弄って欲しいかね・・・・?」


甘い毒を内包した声に、イワンはそっと頷いた。


「お尻、弄っ、て・・・・」

「どうやって?」

「指・・・・入れて、ください・・・・」


恥ずかしがりながらも頑張る彼に苦笑し、ヒィッツは蜜に濡れた指を硬い蕾に差し入れた。


「んっ・・・・・」


苦しげなイワンを宥める様に腹を撫で、奥を探る。

指一本で奥を突いてやると、入口がびくびく締まる。

ゆっくり掻き混ぜて奥を探り、軽い抜き差しをして入口を痛めぬよう解していく。

緊張が緩んで締めが甘くなってきたら、もう一本。

人差し指と中指をそろえてリズム良く突いてやる。


「あっあっ、あっあっ」

「良さそうだな」


可愛らしいアルトが耳を擽る。

三本に増やして奥を強く突き始めると、イワンが喘ぎ喘ぎ潤んだ目を向けた。

掠れた、甘い声。


「待っ、て・・・・そんな、に、したら・・・・お尻、壊れちゃ、う・・・・」


愛らしい怯えは、主の指で無い違和感からだろう。

中は貪欲に絡みついて男の指を離さない。

ぐっぐっと突き込んでやると、甘ったるい悲鳴。


「あぁっ、あぁっぁっ」

「一度イっておくか?」

「ふぁ、ぁあ、んんっ」


くたんと沈んだイワンにシーツを掛け、ヒィッツは右隣の薄い壁に向かって指を組んだ。


「拝聴料は一人につき断末魔一つとしよう」





「貴様も大概薄ら寒い奴だな」

「おや、今頃気づいたか?」

本部廊下で一緒になったレッドが、嫌そうに眼を細める。


「あの独占欲の塊が盗聴くらいすると見当はつく筈だ。今頃折檻されているぞ」

「それは是非見たいな」


ぬけぬけ言い放つヒィッツに、レッドは鼻を鳴らした。


「同感だが、どうせなら自分で泣かせたい」

「苛めっ子か」

「貴様が言うな」


楽しげなヒィッツに嫌そうな顔をして、レッドは先に歩いて行った。

振り返りもせずに、一言。


「獲りに来るなら容赦はせんぞ」

「それは楽しみだ」


良き隣人は、良くも悪くもライバルであり。

けして叶わぬ恋の辛さを知る、同朋。


「あぁ、闇が深いな」


夜の闇にあの人の真黒な瞳を重ね、真白な瞳を、細めた。





***後書***

ヒィッツカラルド出陣!