【 御主人様のお気に召すまま-084 】
袋から出されたイワンに思い切り説教された十傑。
叱り倒した後に我に返って不敬罪と自己嫌悪から首を吊ろうとするのを何とかはがい締めた。
「もっと普通に遊んでください!」
「よし、いいだろう」
11本のこよりを持ったレッド。
「「「王様ゲェェム!」」」
嫌な予感に、意識が暗くなりそうだ。
しかし、しかしここは!
誰か一人くらいの常識と、自分のくじ運に賭けるしかない!
「王様誰だ!」
「よし、私だ!」
勝ち誇ったレッド。
彼は真剣にイワンのこよりの辺りを見詰めた。
「・・・・・十番、全裸」
「微妙だねぇ。生温くない?」
「外れた時が問題だ」
「では、脱ぐしかあるまい」
ニヤニヤ笑うヒィッツは脱ぐのが嬉しいわけではない。
レッドが外した事が嬉しいのだ。
「あぁ、目の毒だな、劇薬」
「見たくない」
「包みが無くなって香水臭い」
「まぁそう言うな。シャネルの5番と同じだ」
某女優と同じにするな。
そう言いたいが、ヒィッツは既に全裸。
堂々と晒している姿はある意味勇者だ。
「次行くぞ!」
王様だーれだ!
「あっ、私私!」
嬉しそうなセルバンテスはすぐさま宣言した。
「八番、私に愛をささやいて!」
「躊躇い無いな」
「だって君たちじゃ私の心は震えないし。爺様は遊び人って知ってるからふーん、だし」
「そうか」
ゆらと進み出たアルベルトは、頬に青筋立っている。
「・・・・・うん、聞きたくない」
「そう言うな・・・・セルバンテス・・・・・」
「いや、本当遠慮・・・・」
「貴様が恋しい、ああ、本当に貴様は愛らしく可愛い!この手で抱きしめて背骨をへし折り殺してやりたいくらいに愛し・・・・」
「本気でやめて!マジで嫌過ぎて泣きそうだし!」
「こうして盟友から恋人になった二人は末永く幸せに・・・・」
「「そこ勝手にナレーション入れて締めくくるなぁぁぁ!」」
締めようとする幽鬼に絶叫し、次のこより。
「王様だーれだ!」
「わしじゃな」
カワラザキ。
彼は一瞬思案して宣言した。
「3番、8番にセクハラ」
完全に苛めっ子モードに入った爺様。
誰だ、3番は兎も角8番は!
「3番は?」
「・・・・私だよ」
白昼の残月。
痴漢行為をさせたらピカイチの異物挿入マニア。
では・・・・
「4番」
「6番」
「7番」
「2番」
「5番」
「11番」
「9番」
「1番」
「10番」
皆の視線が集まる。
「良かったね、アルべ」
「黙れ」
ぎろりと睨みつけるアルベルト。
その背後に回る残月。
さわさわ。
「まぁ、硬い男の尻だな」
「なら触るな」
不満そうな二人に生温かい視線を送る8人と、心配している若干一名。
「次いくよー!」
王様誰だ!
「今のでツキが回ってきたか」
残月、始動。
「・・・・・3番が7番の『容姿の造作を褒める』」
「3番私!」
褒めるのは得意だし!と笑っているセルバンテスの肩に手が置かれる。
「・・・・いやぁ、やっぱやめ」
「早くしろ」
盟友組再び!
セルバンテスは少しアルベルトから離れて立って、上から下までまじまじと眺めた。
「えぇ・・・・禿げる気配の無い黒髪が素敵だよ。毎日セット大変そう」
「分かっているのならわざわざ言うな」
「赤い瞳が兎の様だよ。寂しいと死んじゃうかな」
「兎は基本的に単体行動の動物だ」
「髭が鬱陶しいね」
「鏡を見てこい。鼻の下にもっと鬱陶しいものがぶら下がっている」
「この鳩胸!」
「悪いのか?!」
「尻が硬いって言われた癖に!」
「構わんだろうが!」
「俺様!帝王!我儘!早く捨てられてしまいたまえよっ!」
「貴様にやるくらいならヤリ殺しておくわ!」
「・・・・・御二方」
収集付かない怒鳴り合いに、おかあさん出陣。
「だって!」
「こやつが!」
「お黙り下さい」
丁寧語なだけに十分怖くて黙る二人。
「次に行かせて頂きます」
王様・・・・だれだ!
「大人なり」
進み出る十常寺。
彼はにぃ、と嫌な笑みを浮かべた。
「6番、8番に平手打ち」
「「「・・・・・・」」」
これなら当たろうが当たるまいが面白い事に変わりない。
が、進み出たのはアルベルト。
この手で張り倒されたら相当痛い。
「何故そんなに籤運が悪・・・・いや、いいのか?」
「さあな」
溜息をつくアルベルト。
名乗り出ないもう一人。
直ぐにイワンが捕獲されたが、くじを確認したセルバンテスはぎょっとした。
「アルベルト、君・・・・何番?」
「8番」
そう、8番『叩かれる』アルベルト、6番『叩く』イワン。
「あぁ、しっかりしたまえ!まだルーベンスの絵には早い!」
「牛乳積んだ荷車引く犬もおらんしな」
「無理です、無理、無理で・・・・」
口から魂吐きかけのイワンを抱き起すセルバンテス。
彼はイワンを無理矢理立たせてアルベルトに突きつけた。
「さあ、一発ばちんと!」
「そんな・・・・」
この世の終わりの様な顔のイワンは、幻惑の手が離れるとそのまま座り込んでしまった。
「そんな事をするくらいなら・・・・・」
私をぶって下さい、と言うかと思ったら。
「自害します!」
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
いつでもどこでもフル装備のイワンも流石に本部では軽装。
違法出力に改造済みのスタンガンくらいしか持っていない。
押しあてれば一発昇天、十傑でも昏倒は免れないだろう。
「待って待って待って!」
「やめろ馬鹿者!」
止めるが、イワンは嫌々と首を振る。
「もう、もう、これしか道はないのです・・・・!」
「ええいやめろと・・・・!」
「放して下さいっ!」
すぱんっ
平手打ちは見事アルベルトに命中。
威力は軽いが、イワンは茫然と自分の手を見詰めていた。
「あ・・・・そん、な・・・・」
「イワン」
アルベルトがイワンの顎を掴み、目を合わせた。
「次こそ当たりをひいてくれる!」
そこかよ!という話だが、本人がそう言うならいいのだろう。
「王様」
だーれだ!
「・・・・・・・・・・・・」
手を上げた怒鬼に、皆溜息。
怒気は幽鬼に何やら言葉なく話しかけているらしい。
「・・・・1番が2番にキスだそうだ」
「げっ・・・・」
「よし」
当たったのはセルバンテス、2番。
アルベルトは4番で当たらなかった。
が。
「あ、あの・・・・」
「いやったぁぁぁぁ!」
1番、イワン。
狂喜乱舞している幻惑、本当に38歳なのだろうか?
「さあさあ、ぶっちぅといっちゃってくれたまえ!」
「えっ、あ、し、失礼します・・・・」
イワンが頬を染める。
愛らしい様子は見て楽しい。
自分で無いのは癪だが、目の保養としては悪くはない。
ちゅ・・・・・
「え・・・・・?」
幻惑の手を取ってそっと口づけたイワンに、目を丸くする。
「な、何で手?」
「えっ・・・・?」
目を瞬かせるイワンに、脱力しつつ笑ってしまう。
「イワン君王子様みたい」
「姫がナマズ髭か、嘆かわしい」
「38歳、行き遅れ過ぎる姫だな」
「さっさとアルベルトと政略結婚されてしまえ」
微笑ましさの欠片も無い突っ込みも気にしない。
「じゃあ、私がとっても気持ちいいのを一発・・・・」
「させるか」
イワンに近付けた顔の額に、イワンの背後から出た手が葉巻を押し付ける。
絶賛点火中で滅茶苦茶痛熱い。
「痛いな!痕残ったらどうするの」
「大仏殿を立ててやるから座っていろ」
「私仏教徒じゃないし!」
ぶーぶー言う盟友を捨て置き、次のくじ引き。
「王様だーあれ!」
「おや、私か」
進み出た露出きょ・・・・ヒィッツカラルド。
彼は律儀にもまだ全裸だ。
「いい加減着ろ。見苦しい」
「そうかね?」
服を着つつ、彼は命じた。
「10番と9番、抱擁」
「どうせ盟友組だろう」
欠伸するレッドに、二人は顔を見合わせた。
「私6番」
「ワシは7番だ」
聞いて回ると、9番はカワラザキ。
だが10番がいない。
全員耳を掻いているレッドを見た。
「レッド、何番?」
「あ?」
見やった彼は硬直し、すぐさま逃げようと地を蹴って・・・・落ちた。
「ぐぁ、っ、肋骨、が、がはっ」
「爺様・・・・?」
「抱擁しておるよ?」
念動力で。
笑っているが、後でヒィッツカラルドがどうなるかはあまり知りたくない。
明日の朝に敷地内の壁にめり込んでいる可能性すらある。
「つ、次・・・・!死、ぬ・・・・!」
「せーの!」
王様だれだっ!
「む、儂か」
樊瑞は少し考え、言った。
「6番、10番にかんちょ・・・・・」
「馬鹿者!」
炸裂する衝撃波を交わす樊瑞は驚き顔だ。
「な、何故だ」
「このボンクラ魔王!」
「取り敢えず10番は?」
びくっと震えた一人に、視線集中。
幻惑笑顔、MAX。
「私6番」
イイ笑顔で何処かに隠し持って携帯する400ミリ硝子浣腸を取り出すセルバンテス。
完全にそう言う嗜好用の器具登場に皆ドン引きだ。
「これはもろにそのものだし、恥ずかしかったら普通の個包とか、ポンプでペットボトルからとか!おすすめはコーラ!」
こんなのと盟友やってていいのかと悩むアルベルトは、自身のくじを見て目を瞬かせた。
「セルバンテス」
盟友のくじを覗き、上下入れ替えて持たせてやる。
短いこよりで間違えているのを、正しく。
「6番はワシだ」
言いつつベルトのバックルをガチャとやる男。
公開プレイか!?
と思いきや。
「あっ・・・・上下逆」
持ち直すイワン。
「「「?」」」
覗きこめば、こよりの長さから言ってそれは01番。
では、10番は・・・・?
「・・・・・私だ」
幽鬼!
彼は自分がそうされないと知っているから普通にしていた。
「痔なんだ。勘弁してくれ」
あっさり言ったよこの子!
逃げるために痔って嘘ついた!
しかし幽鬼の浣腸などどうでも良いため、皆流して次に進む。
「王様ー」
だれだっ!
「私か」
すぐさま出たのは幽鬼。
そして間髪いれずに。
「4番、私に縋りついて泣け」
「今ズルしたでしょ」
「だからこのくらいで妥協している」
ふんと笑う幽鬼は、どこかカワラザキに似ていた。
似てはいけないものに似てしまったらしい。
「し、失礼します・・・・」
促されておずおず幽鬼の膝に乗り、首に縋るイワン。
そして、何を考えているのか頑張って泣き始めた。
頑張って泣く、のがまた可愛いのだ。
「イワン、何をそんなに悲しんでいる」
ここで読心しておけば面倒な事にならなかったのに。
「幽鬼様がお部屋に閉じこもって一週間、を考えていましたら、涙が・・・・」
「・・・・心配有難う」
なんだか複雑だ。
これからは拗ねて引き籠るのは控えよう。
この間赤ペンキで自室のドアに『天の岩戸』と落書きされたし。
「次こそワシか・・・・!」
意気込みこよりを持つアルベルト。
「王様誰だぁっ!」
「あっ・・・・私です」
引いたイワンはとても可愛い笑顔だった。
「そろそろお茶にしませんか?」
「・・・・・・籤運悪いね」
「ああ、そうだな」
温かで口当たり良い紅茶を飲みうなだれるアルベルトを見つつ、セルバンテスは十傑の御茶の世話をするイワンを眺めた。
「くじ引きなんかしなくっても命令できる特権持ってるくせに」
アルベルトは深く溜息をついた。
「だからだろう。拒む事が出来る『遊び』でどう出るかが知りたかったのだ」
「・・・・御主人様の苦悩、彼は知らないんだろうね」
「一生分かるまい」
遊びに潜んでいた真摯な願い。
珍しく帝王気質以外を発揮したのに感心する。
だが、協力してやる義理はない。
「ま、頑張りなよ」
私も頑張るから、ね。
***後書***
幻惑が変質者過ぎる。盟友組HIT率高い。