【 御主人様のお気に召すまま-085 】
「さて、茶も飲んだし」
締めといくか。
立ち上がったレッドは、サロンの隅に置いていた60センチ四方の箱を引きずってきた。
色は黒。
正月番組で必ずやるアレ。
「ブラックボックス!」
言うが早いが光速で『何か』を突っ込んだ。
「一番は」
「強制参加なの?」
「無論だ」
頷くレッドに、一番乗りのお祭り男セルバンテス。
躊躇い無く手を突っ込んだ。
「何これ・・・・・」
「当たったらくれてやるぞ」
「くれてやるって・・・・・これ靴下でしょ?」
そのまま引っ張りだせば、やっぱり靴下。
「提供、残月」
その言葉に、幻惑は動きを止めた。
残月提供だが残月の臭いで無い。
洗濯物を盗む男が、提供。
イイ匂いの靴下。
「イワンのだぞ」
「出汁とろう!」
使用済み靴下を煮込んで煮汁を飲む気満々の変態は薄ら寒い。
しかし使用済みの衣服など喉から手どころか全身出て走りだしそうな勢いだ。
何てレアなお宝!
「次」
「・・・・・!」
颯爽と進み出た怒鬼。
イワンはもう呆然として光景を見詰めている。
自分が着た衣服が、洗濯もせぬままに男の手に渡ってゆく・・・・。
「・・・・・・・・・・」
しっかり探って真剣に当てに行く怒鬼。
「答えは」
幽鬼を見やるレッド。
基本怒鬼は筆談か幽鬼経由の会話だ。
「・・・・・タオル?」
「ああ、風呂上がりのだ」
口を挟んだ残月。
微妙に肩を落とす怒鬼の肩を叩く。
「綺麗になった身体を隅から隅まで拭き上げたタオルだ」
「!!!」
一気にるんるんになっていそいそ仕舞いこむ怒鬼。
絶対に洗濯しないように血風連に言っておかねば。
洗濯したら切腹させる。
「次」
「私が行こう」
ヒィッツカラルド。
彼はやけに楽しげに手を突っ込んだ。
「ふむ・・・・・柔らかめの布だな」
袖があり、ゆったりめで、薄手。
「パジャマか?」
「当たったな」
引き出せと顎をしゃくられ、引っ張りだせばやっぱりパジャマ。
「うむ、いいな」
寝ている時に着ていた服特有の、生温かく甘い体臭。
「中々の逸品だろう。最近は魔窟に引き込まれてパジャマの出番が少ないのでな」
中々収穫できんのだ。
既に衣服を作物感覚で盗ってきている変質者に突っ込むものはいない。
貰えるものを貰えれば構わないのだから。
「次」
「ではわしも参加するかのぅ」
よっこらしょと腰を上げるが、触る気満々で手をぱきぱきさせる爺様。
やる気だ!
「ふむ・・・・随分かさばるな」
手触りもなんとなく覚えがある。
「シーツかね?」
「正解」
引き出せば、純白のシーツ。
「それは骨を折った。何せ無体を働かれた翌日のイワン独りきりの夜に血がついたという逸品だ。中々あるものではない」
私もまだ3枚しかないのでな。
一枚しか寄贈は出来ん。
まだ複数枚持っているのが問題だが、良しとしよう。
第一あんな所から出血したいわくつきなんて魅力的だ。
「次」
「参加」
進み出る十常寺。
彼もためらいなく手を突っ込んだ。
「・・・・・毛糸・・・・セーターと思わしき」
「うむ、そうだ」
残月、と振られ、煙管から唇を離す男。
「それは今年の初めに買ったらしい。去年は無かったからな。毛糸物はひと冬に一度か二度しか洗わぬものだよ」
つまり、ひと冬中イワンを温め、体臭を吸ったセーター。
十常寺はいそいそとそれを仕舞っていた。
「次っ」
「儂だ」
のそっと出てきた魔王も参加する気満々。
手を突っ込んで考える。
「・・・・・硬いな。だがジーンズにしてはかさがあり過ぎる」
考えて考えて、過去に一度か二度だけ見た姿を思いつく。
「ツナギか・・・・・?」
「良く分かったな」
「オイルと汗をたっぷり吸って洗濯されぬ一品だ」
基本汚れに汚れるまで着て破棄するこれ。
破棄した所をあさってきたので、オイルもそうだが、汗がたっぷり。
しかし酸っぱいと言うより『イワンの匂い』でしかない。
ぐっと握り締めて即座に仕舞って戻ってきたリーダー。
世も末だが全員そんなのが揃っている。
「次」
「私か」
出てきた幽鬼は、手を突っ込んで眉をひそめた。
「・・・・・・」
「何故睨む。貴様のは大当たりだぞ?」
「新手の嫌がらせだろう。この感触で喜べるものなど精液まみれの下着くら・・・・」
「当てたじゃないか」
笑う残月。
「主が不在で疼く身体に耐えきれず、しかし自慰もせずに夢精した下着だ」
「・・・・まだヌルついているんだが?」
「勿論。気づかれぬよう盗って真空パウチしたからな。開けたてだ。期限はきていないさ」
そもそもこれはパウチするものでない。
開けたてってなんだ。
期限があると言う事は何を意味する。
不安過ぎて聞きたくない。
しかし確かに大当たり。
4回はカタい。
爺様にも少し触らせてあげよう。
「しかし気付かれはしたんじゃないか?朝起きたら穿いていないんだから」
代わりを持って行ったかと聞かれ、残月は爽やかに笑った。
「ああ、私が一日履いたものを履かせておいたよ」
どんな興奮の仕方だ!
薄ら寒いどころか極寒だ。
類稀なる変質者っぷりを余りに極めているため格好良い錯覚を起こす。
「衝撃の、貴様もやるか?」
言われ、黙ってソファを立つ。
手を突っ込んだ瞬間。
ばつん。
ねずみ捕りらしい。
滅茶苦茶痛い。
引っかかって穴から抜けない。
外している間に九傑逃走。
残った憐れなイワンは八当たりに怒鳴り散らされたが、精神がどこかに行っていて聞いていなかった。
「もう、嫌だ・・・・・」
***後書***
残月兄さんも結構な根性しています。