【 御主人様のお気に召すまま-089 】
「お土産だよ!」
満面の笑みで差し出された包み。
盟友は人に土産をやるのを好む。
そこから土産話に持って行きたいのだろうが、実際話術の巧みな男は面白おかしく語るので退屈はしない。
包みを開けると、こぶし大の滑車。
綺麗な装飾だが・・・・滑車は滑車だし、そもそも何故滑車など。
見遣って視線だけで問うと、セルバンテスは喜んで語りだした。
長く脚色された話を纏めると、滑車が好きで好きでたまらずに滑車しか作らなくなった職人がいるらしい。
それがまた愛と熱意こもったとんでもなく上等な出来で、収集家までいると。
とは言え本人は装飾をたっぷり施した揚句「滑車は滑車。美術品に非ず」と言い切る大変な変わり者。
変人としか言えないが、確かにこの滑車は素晴らしい出来だ。
しかしやはり『滑車は滑車』である。
「あ、捨てないでね」
呪うよ?
泣くとかでない所がアレだが、この男は本当にやりそうな気がする。
溜息をついて苦笑し、簡単に包み直してテーブルに置いた。
このグラスが空になったら、忘れぬよう持って帰らねばと思いつつ。
「・・・・・・・・・・」
数日後、アルベルトは滑車を眺めていた。
これを何処かにつけておかねばなるまい。
でないとごねる男が明日酒を飲みに来るからだ。
とはいえ部屋の天井に滑車がぽこんとついていてもかなり間抜けである。
使用しなければもっとへそを曲げるだろう。
大概面倒臭い男だが、拘らない部分は呆れるくらい「あ、いいよ」で済ませる。
そんなだから付き合っていられるのだが。
さて、滑車と言えばテコの原理だろう。
とはいえ吊るものなどあっただろうか。
一個しかないのだからイワンを吊るにはちょっと弱い。
吊れても30分程度で壊れるだろう。
「・・・・・・・・・・・・ふむ」
しかし形あるものが壊れて行くのは世の真理。
壊れた事に関しては何も言うまい。
楽しく使って壊れてしまえば誰も文句は言わないのだ。
アルベルトはイワンを呼びつけ、天井に滑車を取りつけさせた。
「10時半にここに来い」
「・・・・・・・・あの」
「何だ」
天井から吊り下げられたイワンは動くに動けないでいた。
滑車を取りつけたのは自分だし、それを肴に話している盟友組に茶を入れていたのも自分。
当然自分の真上の滑車がセルバンテスが渡したものだと知っている。
そう大きくはないから、暴れれば簡単に壊れるだろう。
今だって小さく軋んでいるから、もって後30分。
前で腕組みの様な状態で腕は雁字搦め。
脇の下に太い縄を通して支えにし、吊っている。
悪の秘密結社幹部は手首を吊ると脱臼すると心得ているのだ。
とは言え、脚も縛られている。
脹脛を腿に付けた状態だ。
開脚はさせられていないが、一番負担少ない体勢は膝を下に向けてバランスをとりぶら下がる事だ。
しかしそうすれば当然丸見え。
仕方なく、脚を上げて体操座りの様にしたままぶらぶらしている。
相当キツイが、元々身体が柔らかく身軽でバランス感覚も良いイワンは30分程度なら頑張れると踏んだ。
地面からは30センチ程度しか離れていないが、中々大変だった。
「・・・・・イワン」
「はい・・・・っ?!」
尻を撫でられ、思わず身を捩りかける。
しかし滑車が軋む音に我に返って動きを止めた。
「あ、あの・・・・」
控え目に視線で訴えるが、アルベルトは小さく笑っただけだった。
尻を撫でられるのを我慢していると、奥に手を入れられ袋を柔く掴まれた。
「あっ・・・・!」
ぎゅっと唇を噛んで我慢する。
滑車が壊れてしまったら、きっとセルバンテス様ががっかりする、そう思って。
「ふ、あ・・・・」
頬が熱くなってくる。
袋だけを柔くさすられるのは、もどかしくも心地が良い。
少し強めに揉まれると、思わず後孔が締まってしまう。
主の目から隠れているのが救いだと心底思った。
「あぁ・・・・」
蟻の戸渡りをなぞられて、吐息が震えた。
腰ががくがくするのを必死で抑えるが、滑車の軋みは僅かずつ大きくなっていく。
泣きそうになって主を見詰めると、軽く支えてくれた。
小さく安堵した瞬間、奥に指を差し入れられた。
「っ!」
油でぬめるそれは然程痛くない。
手際の良い主はたっぷりと絡めたそれが馴染んだ指で、中を探ってくる。
腰が疼くような快感。
喘ぎ喘ぎ快感を逃がすように力を抜くと、たっぷりと可愛がられる。
しつこく解されて柔らかくなり、しかし異物には強く絡みつく。
引き抜かれて気が抜けたが、主が自分の下に腰を入れて座ったのにやっと今日の趣向を理解した。
脚と手を縛った意味も。
つりさげられた意味も。
主がここに座る意味も。
滑車の意味も。
ポルノ小説の様な状況に一気に恥ずかしさが押し寄せた。
小さく喉が鳴るばかりで何と言っていいのか分からない。
主の指がジッパーを下ろして、そそり立つ男根を軽く扱いた。
位置を調整し、孔との距離は一センチないだろう。
滑車を経由して寝台の足に括られていた紐が衝撃波で打ち切られるのが、コマ送りの様に見えた。
「んはぁぁぁぁっ!」
「っは・・・・!」
大きな水音を立てて突き刺さった男根に、イワンの身体が反りかえる。
孔は激しく締まり、痛みすら感じる。
しかし状況興奮で、そう気になるものでもない。
滑車から紐の端が抜け落ちる。
降りかかるそれから守ってやるついでに組み敷いて突き込み始める。
悶え狂う従者は元々相当ストイックだ。
ポルノ小説じみたこの行為に激しい羞恥と興奮を覚えているようで、それがまた可愛い。
「んんは、ぁっあっ」
「好いか」
「あぁ、や、は、恥ずか、し、です・・・・!」
身を捩って涙を滲ませるのに口端を歪め、アルベルトはイワンの中を思う様突き上げて吐き出した。
中を満たしていく熱い液体に、イワンの雄も熱液を噴き零す。
「ああ・・・・・」
頬を真っ赤にして涙ぐんだまま射精するのは相当いやらしい姿だ。
益々気分が良くなって、二度目の行為に入る。
滑車は、半端に壊れて天井からそれを見ていた。
「壊しちゃったの?」
不服そうなセルバンテスに『イワンを吊った』と言ってやる。
盟友は一瞬呆け、ついで満面の笑みになった。
「モノは使ってこそだよね!壊れるまで使ってくれるなんて嬉しいじゃないか!」
どうやら自分が抱かなくても間接的に加わった事が嬉しいらしい。
変わった男だなとしみじみ思いつつ、アルベルトはイワンの入れた紅茶を飲んだ。
イワンは何も聞こえないと自己暗示をかけ、次の紅茶を入れていた・・・・。
***後書***
滑車で吊るのに小さな頃は憧れたものでした(?)