【 御主人様のお気に召すまま-091 】



「ねえ、イワン君」

私の事好きかい?

笑みつつ、しかし期待を込めて問うと、彼は微笑んで頷いてくれた。

嬉しい。

だから想いを伝えた。

好きなんだ。

君を、愛している。

私と共に、歩んで欲しい。

盟友に十年以上使える彼に色恋の噂を聞いた事はない。

主に恋慕していると言う風でも無い。

ストイックと言うには些か度が過ぎるほどだ。

彼は困った様に微笑んで、僅かに俯いた。

寂しげな目で。

私もセルバンテス様をお慕いしています。

ですが、お気持ちに応える事は出来ません。

どうか、もっと出来た女性をお探しになってください。

意味が分からなかった。

好き合っているのに何故応えてくれないの?

君じゃなきゃ嫌だよ。

他なんていらないんだ、代わりにすらならない。

私の幸せを望んでくれると言うなら。

君が傍にいておくれよ。

言い募ると、彼は暫くの後に頷いてくれた。

・・・・私はつまらない男です。

お飽きになったその時は『飽きた』と仰ってください。

それをお約束頂けるならお傍に居させて頂きます。

奇妙な約束だと思った。

女じゃあるまいし、捨てないでなんて言う彼ではないのは知っている。

でも、私は男が好きな訳じゃない、遊びだって女の子だけだ。

並大抵じゃない覚悟は自負しているのに、それを信じてくれないの?

言っても詮無い事だと諦めて、それでも良いからと頷いた。

約束するよと、言った。

そうして私は、彼と『恋人』という定義域に入ったんだ。





「・・・・鬱陶しい」

「だってぇぇ・・・・」

告白から1カ月。

手の早いのに定評あるセルバンテスだが、イワンとは手を繋いですらいない。

手を握っても、向こうから握り返してくれないから掴んでいるだけだ。

キスも、勿論セックスだってしていない。

もう若い訳じゃないし、がっつく気はない。

とは言え幾ら大事にしていても、やっぱりシたい訳で。

でも、そう言う雰囲気にすらならない。

そう持って行こうとすると必ず擦り抜けて逃げていってしまうのだ。

腹は立たないがやはり不満はある。

苛々もする。


「あー、女の子と遊んでこようかなぁ・・・・」

「そうしろ。これ以上当たるな」


煩そうに手を振る盟友に怨みがましい目を向け、ソファを立つ。


「今日は足が綺麗な子がいいかなぁ」





「・・・・・詰まらないなあ」

女の子と遊んで帰っても、怒ってくれない。

勿論セックスはしていないけれど、折角やきもちを焼かせようと思ってあの子の退屈な話に1時間付き合ったのに。

部屋に帰ると仕事を終えてから自分の為に紅茶を入れる姿があった。

石鹸や水の匂いはしなくても、少し白粉の匂いくらいはする筈なのに。

本気で酷い事なんて出来ないけれど、ちょっとは怒って欲しかったからこんな悪戯をしたのに。


「イワン君」

「はい」


にっこり笑って大好きだと言えば、優しく微笑んでくれた。

嬉しそうで、寂しそうだった。

ああ、苛々する。

私を愛しているのは目で分かる。

なのに何故そんな寂しげに微笑むんだい?


「ねえ、私の事、好きかい?」


紅茶を入れる背後に立って抱きしめる。

硬直する身体。

強く抱きしめて身体を軽く撫でると、僅かに抵抗した。

眉間に皺が寄っていくのが自分で分かる。


「私の事好きじゃないの?」


やや険を含んだ声で詰ると、彼はびくっと身体を震わせておとなしくなった。

今はそれでいいと思う。

そのうち慣れたら自分から欲しがるようになるんだから。


「イワン君、好き・・・・」


耳を舐めて、身体を柔くさする。

震える身体を徐々に強くさすっていくと、イワンの膝が崩れた。

抱き上げて寝台に下ろす。

顔は見なかった。

怯えた顔をみたくなかったのもあるし、何より長いおあずけで我慢が利かなくなっていたから。


「愛してるよ」


鎖骨を軽く噛み、胸に口づける。

ちゅ、と唇が離れた時に耳に入った不快な音。

思わず見上げて、言葉を失った。


「イワン君っ?!」

「ぅ、ぁ・・・・・」


つぅ、と口端から流れ落ちる赤い雫。

口を噛んだにしては量が多いし、呼吸音が聞こえない。

一気に身体が冷えて、わななく口を抉じ開けて親指を噛ませた。

中を確認すると、血だらけで。

傷口は舌の半分くらいの所で、やや深い。

引っ張っては傷が裂けると判断し、指を突っ込んで気道を開ける。


「げほっ、けほ、げほっ・・・・」

「そんなに嫌だったの・・・・?」


流石に落胆して思わず問う。

イワンは悲しげに眼を伏せ、掠れた声でこの関係の終わりを請うた。





「・・・・・なんだったのかなぁ」

夢の様な1か月だった。

幸せで最悪な。

自分だけ浮かれて馬鹿みたいだったな、と思うが、不思議と弄ばれた気はしない。

ぼんやりと外を眺めると、ノックがあった。

執務室なので一応ドアの外で名乗らせると、ローザだった。

入室を許可する。

いつも天真爛漫な彼女が、神妙な顔をしていた。

挨拶すらせぬままに、彼女は震える声で言った。


「まだ、あいつを愛していらっしゃいますか・・・・?」


気の強い彼女が泣くのを、初めて見た。





『あいつ、父親の顔見た事無いんです』

『私生児で』

『母親はいつもあいつを傷つけて』

『一種の対人恐怖症なんです』

『身体も酷い傷があるし』

『足は、片方は義足で』

『触られるのをすごく怖がるし』

『でも』

『どうにかこうにか頑張って、押し殺して』

『1か月、貴方の傍に居ました』

『最後の方は食事もほとんど取れないぐらい擦り減って』

『それでもとても』


幸せそうでした





私は馬鹿だ。

一人で浮かれていたんだ。

あの言葉の意味も、寂しい瞳も。

意味を考えようとしなかった。

好きだの愛してるだのと押しつけてばかりで。

一度だって彼の話を聞かなかった。

好きかなんて言う問いは無意味だ。

そんな脆い情よりよほど真摯に。

彼は精一杯の愛を私に捧げてくれていたんだ・・・・!





「イワン君っ!」

走り回って漸く、自分以外の十傑の茶の世話をする姿を見つけた。

走り寄って、抱きしめようとして、やめて。

手を強く握って、顔を覗き込んだ。


「君が好きだ」

「セルバンテス様・・・・」

「愛してる、君じゃなきゃ要らないんだ」


戸惑うイワンの手をしっかり握る。


「セックスもキスも、しなくったっていい。君が気にするなら適当に処理しておくから、そんなこと気に病まないで」


何か言おうとするのを遮りたかった。

拒絶だったらと思うと怖かった。

でも、話を聞かなければ何も変わらない。


「私に、もう一度チャンスをくれないだろうか」


それだけ言って、答えを待った。

手を軽く握り返される。


「・・・・・私でよろしいのですか?」

「ああ」


君が良いんだ。

澱みなく言いきれば、彼は笑ってくれた。

嬉しそうに笑って。

切なそうに泣いていた。


「・・・・ふん、やっとくっついたか」


ああ鬱陶しいとばかりに言うレッドも、顔はニヤニヤしている。

他も同じようなものだ。


「毎日の様にサロンで愚痴られるのが日課だったが」

「ああ、嫌な日課だった」

「・・・・・・・・」


頷き合うヒィッツと幽鬼。

怒気もやや口角を上げている。


「若いのぅ」

「青春」

「これで少しはおとなしくなるか・・・・」


笑うカワラザキも、頷く十常寺も、やれやれと言った風の樊瑞も、自分の遊びの派手さを知っている。

だが、今度はそんな楽しみを捨てても良いくらいに本気だ。


「・・・・・泣かせるなよ」


本に視線を戻しつつ釘を刺してくる盟友に満面の笑みで頷いて、セルバンテスは初めてイワンと『手を繋いだ』。





「イワン君、これあげる!」

ひと騒動から2週間。

明日から任務と言う夜に、イワンと部屋でのんびりしていたセルバンテスは包みを彼に渡した。


「えっ・・・・あの・・・・」

「ね、ね、開けてみておくれよ」


少しためらったが、包みを開けていく。

嬉しそうなセルバンテスの気持ちを無下にしたくなかった。


「あ・・・・・・」


出てきたのは、黒い兎のぬいぐるみ。

枕くらいの大きさで、とてもふわふわしたもの。

目は大きな硝子玉、口はバツ印に縫われている。

手足の縫いつけがやや甘い。


「・・・・お作りになられたのですか?」

「あれ、良く出来てたと思ったんでけど」


ばれちゃった?と笑う優しい笑みに、口元がほころぶ。


「いえ、とても良く出来ています。ただ、ぬいぐるみは手足をかなり厳重に縫いつけるものなので」


少し、緩めかと思いました。

そう言いつつとても嬉しそうにそれを抱きしめてくれるのが嬉しい。


「私だと思って抱っこしてね」

「ええ」


明日から任務に行くからだと彼は受け取ったのかもしれない。

でも、そうじゃなくて。

触れる事すら難しい彼の手に触れたくて。

身代わりを立てただけだ。

けれど、彼が喜んでくれるならそれでいい。


「沢山可愛がってあげておくれよ」


笑って頷いてくれる彼の手を握って、抱かれたうさぎの頭を撫でた。





「?」

任務明けで街に繰り出しゲーセン荒らしを敢行していたレッドは、荒らし2日目の朝9時45分にイワンを発見した。

セルバンテスとアルベルトは任務中だが、どうやら彼は休みらしい。

暫く眺めていると、イワンのすぐ後ろの時計塔が10回鳴った。

するとイワンは時計を見上げて微笑み、歩き出す。

不思議な光景に興味がわいて気付かれぬようついて行くと、パン屋に入って食パン購入後公園に行く。

海際のそこは平日10時など殆ど人がいない。

彼は食パンの紙袋を開けて、千切り始めた。

集まってくる鳩にも分けつつ、上を見る。

つられて見上げると、集まりつつあるのはうみねこ。

パンを掲げれば、咥えて取っていく。

それをとても楽しそうに繰り返し、一斤無くなるとゴミを回収して伸びをする。

パンくずは払って鳩にやってしまって、腕時計を見る。

11時半だ。

街中に戻って、昼食。

パスタの店に入って、注文したのはボンゴレ。

水は二つ貰って置いておく。

食事が終わったら、買物。

手芸店で金具を買い求めていた。

かさばるものでもなく、荷物は軽い。

用事と言うより休日を楽しんでいるのかもしれない。

3時半を過ぎ、次に入ったのはマフラーなどを扱う店。

防寒具なら彼自身の手作りの方が余程上等だし、買うにしても本部のショップの方がまだ作りが良い。

そう思ったら、買っているのは原料の毛皮自体。

わざわざここで買うと言う事は本物の獣の皮だ。

何なのかよく分からないと思いつつ、ここまで来たら最後まで見届けたい。

そう思ったのをレッドが後悔するのは明日の朝6時だった。





「イワン君とすれ違いなんて・・・・!」

「衝撃のはそのまま任務だぞ?」

「そっちのが良いよ!イワン君と一緒なんだもの!」

喚く幻惑に呆れる十傑。

そこに、ドアを開けてレッドが入ってくる。

風呂上がりらしく髪が濡れていた。


「酷い目に遭った」


溜息をついてソファに座る彼は疲れ切っている。

身体が資本と言い切る彼にしては珍しいと思って見やると、相当愚痴りたかったらしい、聞いてもいないのに喋り始めた。


「意味が分からん。朝っぱらから鳥に餌をやるのは自由だ。だが夜中じゅうクソ寒い海岸に座って一人朝日を待つか?!」

「何だいそれ」

「イワンだ!」

「へ?」


一瞬呆け、言葉の意味を理解したセルバンテスは眉をひそめた。


「一晩海岸って・・・・今真冬だよ?風邪ひいてるんじゃないの?」

「引くわけなかろう」

「君じゃないよ」

「一晩海岸でぼけっとする奴なぞ馬鹿に決まっている。馬鹿は風邪を引かん」


不服そうなレッドの愚痴を聞いていると、残月が苦笑して紫煙を吐いた。


「まあ、彼らしいと言えば彼らしい。穏やかじゃあないか」

「穏やか・・・・?」


レッドは不意に考え込み、首を傾げた。


「ああ、まぁ・・・・」


うさぎのぬいぐるみとデートする姿は可愛いものだがな。





何でもない様な顔をして、野暮用とサロンを出たセルバンテスは一人廊下を歩きながら顔を覆った。

頬が酷く熱い。

恥ずかしい、でも嬉しい。


「反則だよ・・・・・」


二つ貰った割にそのグラスは最後まで満たされたままだった理由。

一日連れて歩いてくれたんだ。

朝日を二人で待っていたんだ。


「ああ、会いたいなぁ・・・・」


早く、帰ってきておくれよ。

そして私にもひとつ、何か作って欲しい。

そう思いつつ自室のドアを開けたら、机の上に。

狐の、しっぽ。

ちょっと前にはやった尻尾のキーホルダーのよう、というかそのもの。

でも、作りがああいう玩具じみた装飾品よりずっと丁寧だ。

直ぐに、作ってくれたのだと分かった。

頬に押し当てると、ほんの少し、あの人の匂いがした。

直ぐに、自室の鍵につける。

あの人と部屋に帰る時に、見て欲しいと思ったから。





「セルバンテス様」

「ん?何だい?」

夜食にミネストローネを作って貰っていると、イワンに呼ばれた。

カウンターに座って首を傾げる。

イワンは珍しい事に、自分の方を見ないで喋った。


「・・・・・泣かないと、お約束します」

「え・・・・・?」

「舌も噛まないようにします。どうか・・・・今夜・・・・」

「・・・・イワン君・・・・」


了承できないと首を振ろうとして、気付く。

イワンの顔は怯えに引き攣ってはいない。

俯き加減で頬を染めているのはガスの熱ではなかった。

彼も、自分の事を想ってくれているのだ。

無理はさせたくない。

でも、想いを無下にするなんて出来ない。


「無理は、絶対にしないでね」


出来るところまで、二人で幸せだと思える所まででいいから。


「約束してね」


頷くのを確認し、台所に入ってガスを切った。

顔を見る事すら出来ないで恥ずかしがる人をそっとそっと抱き上げて、ベッドに攫う。


「怖いかい?」

「・・・・・・・ぁ」


ふるふる、と首を振るから、微笑む。


「顔を上げて」


おずおず見上げるイワンの両頬を手で包んで、額を合わせる。

鼻先を擦りつけて、今度は頬を。


「キスしていいかな」

「・・・・・・っ」


緊張して頷く事しか出来ないイワンの唇に、ゆっくりと唇を押し当てる。

擦り合わせるようにして一度離し、もう一度。

何度も繰り返して唇が綻んできても、舌は入れなかった。


「は・・・・・」

「気持ちいい?」

「はい・・・・・」


恐らく初めてのキスなのだろう。

ぽーっとしてしまっている。

可愛くて嬉しくて、何度も口づけた。


「口の中にね、舌を入れるから」


吃驚しないでね。

気持ち悪いって思ったら、胸とか腕を叩いて教えておくれよ?

そう言って首をかしげて見せると、イワンはぎこちなく頷いた。

唇を合わせ、するりと舌を差し入れる。

引っ込んでいく舌を無理に追ったり絡め取ったりせず、口の中を隅から隅までなぞっていく。

軽く腕を叩かれたので唇を離すと、咳き込んだ。


「ああ、ごめん」


鼻で息するの教えてなかったねぇ。

謝るセルバンテスに、イワンは首を振った。

そして、きゅっと喉を鳴らしておずおずセルバンテスの首に腕を絡めた。

その直向きな努力に、胸が熱くなる。

どんなに怖かったろう、覚悟が要っただろう。

切なくなってしまって、少し強く抱きしめた。

背をさすっていると、そっと腕が離れる。

イワンが俯いたまま小さく呟いた。


「身体はとても醜いのです・・・・どうか・・・・照明を・・・・」

「・・・・消さなきゃ駄目かな」


口をつぐむイワンに、セルバンテスは続けた。


「私は君の綺麗な部分が好きなんじゃない。全てが愛おしいんだ」


見せてはくれないだろうか。

そう頼むと、イワンは俯いたまま小さく頷いた。

ワイシャツをそっと脱がせていく。

酷い傷跡に胸が痛んだ。

切り傷ならまだ良かった。

火傷だったら我慢できた。

この肉を抉り取る大小さまざまな傷の酷さ。

抉れた肉で身体はでこぼこだ。

彼が夏でも上着を手放さない理由が分かる。

スラックスと下着を脱がせ、ローザの言葉を思い出した。

右足は根元から義足だった。

これでよくあのバランス感覚を発揮できると感心する。


「・・・・外した方が良い?」

「・・・・・・・・はい」


義足の種類は様々あれど、外し方がそう複雑なものは滅多にない。

簡単に外れたそれを静かに置き、傷口を見詰める。

骨ごと叩き潰されたらしいそこは、変形が酷かった。


「・・・・・もう」


誰も君を苛めない。

私が必ず守るから。

そう言って、潰れた傷跡に口づける。

見上げると、イワンが泣いていた。

宥めるように抱き、唇で涙を辿る。


「大丈夫だよ」


何度も何度も繰り返して、呪文のように擦り込んでいく。

少しして泣きやんだイワンは、セルバンテスを見詰めて唇を噛んだ。


「あ、の・・・・・」

「もうやめる?」


ふるふる、と否定に振られる首。

覚悟をそこに見て、イワンの顎を掬った。


「痛かったら、言うんだよ」


指にたっぷりと唾液を絡ませ、差し入れていく。

強張る身体をさすりながら、奥まで入れた、

中は初めての侵入者に怯え混乱して絡みついてくる。

押し出す動きに逆らいながら指でかき混ぜると、イワンの身体が跳ねた。


「あ・・・・・」

「変じゃないよ。ここは気持ちいい筈だからね」


安心させるように言葉を掛けながら探って暴き、柔らかくしていく。

処女どころか童貞ですらある彼の緊張を解けるところまで解して、乗り上げる。

怯えるイワンの顔を覗き込んで目を合わせた。


「力が入ったら、私の背中に爪を立てて逃がすんだよ?」

「は、ぃ・・・・・んぅぁ・・・・!」


ズズズッと犯されて身体がしなう。

焼ける痛みはどちらかと言うと鈍痛であり、我慢出来ない痛みではない。

とは言え無意識に爪を立てて縋り、セルバンテスの背は僅かに傷ついた。

それさえも愛しい。


「イワン君、触って」


結合部に触れさせ、微笑む。

セルバンテスの頬を汗が伝って落ちた。


「今、ひとつになってるんだ」

「あ・・・・・」


きゅ、と受け入れた孔が締まる。

イワンはセルバンテスを見上げた。

上手く笑う事は出来なかったが、精一杯気持ちは籠めた。


「嬉しいです・・・・・」

「うん、私も嬉しいよ」


ゆるく腰を使って、余り動かずに吐精を促す。

不規則な締まりに思わず中で出して、しまったと思った。


「待ってね、始末するから」


引き抜いて、孔をそっと広げる。

少し血が混じっている精液が零れ落ちた。


「・・・・・お尻で気持ち良くなれないのに、ごめんね」


私が女性だったなら、こんな思いはさせなかったのに。

そう言うと、イワンは首を振った。


「女性でしたら・・・・もっと、怖かったです・・・・」

「・・・・そっか」


真実でありながら慰めのそれを噛みしめて、セルバンテスは恋人を抱きしめた。





「ねえ、イワン君」

「はい」

「・・・・・それでもこの人が好きなの?」

「・・・・・・はい」

墓地の中の墓石。

名前を読む気すらない。

イワンの母親。

いや、自分は絶対に認めない。

あんな事をしておいて親を名乗る資格など無い。

あの尊大な盟友ですら娘を守ろうと縁を切ったのだ。

結局上手くは行かなかったが、あの二人の絆は強いままだ。


「・・・・・どうして?」

「・・・・私を産んでくれました」


イワンは墓の上の僅かな砂を払って、花を置いた。

エーデルワイスだった。


「この人がいたから、私はセルバンテス様と一緒に居られるんですから」


そう微笑んだ顔がとても綺麗で。

強く強く、手を握った。

握り返す手はとても。

やわらかであたたかだった。





「・・・・・・って言うのはどうだろう?」

「延々4時間も妄想を話すのには感服しますが、どうしろと?」

尋ねる孔明は真面目に聞く気すらなくテトリスをやっている。

最近十傑の話を聞き流す時の為に持ち歩いている携帯用だ。

セルバンテスはそれについて何も突っ込まず、力説している。


「本部の壁紙単色じゃつまらないじゃないか」

「その壮大過ぎる妄想を印刷してそこかしこに張りつけたいとおっしゃるのですか」

「おじさんは聞き分けの良い子は好きだよ」

「少しでも好意があるなら働きなさい。第一」


貴方、純情より凌辱の方がお似合いです。





***後書***

ええ、長い話ですが全て妄想です。