【 御主人様のお気に召すまま-092 】



「ああ・・・・だらだらしたいなぁ」

サロンでぼやくセルバンテス。

彼は立て続けの任務から帰って泥の様に眠る事一日半の後にサロンに顔を出した。

喋っていないと死ぬんじゃないかと言うくらいお喋りが好きな男にまともに付き合うと疲れるので、皆聞き流すのが基本スタイル。

しかし、珍しくレッドが構った。


「貴様の『だらだら』はどうせ中途半端だろう」

「・・・・だらだらしてるのって元々中途半端な状態じゃないの?」


首を傾げたセルバンテスに、レッドが転がっていたソファから身を起こす。

3分かからずに、イワンが砂糖12個入りの冷たいミルクティをストローなしで前に置いた。

それを一口すすって、彼は少し得意げに唇を歪めた。


「まず、ぐうたらすると決めた日は朝早く起きなければならん」

「なんだい、それ」


不思議な取っ掛かりが興味をひいて、尋ねる。

他の面々も本や詩集から顔を上げていた。


「5時には起きて朝一番で部屋を片付けるべきだ。1時間以内にな」

「全然休めないよ?」


言いながら、目は次を聞きたがっている。


「次に部屋に布団を敷き、必要なものを集める」


私はTVを置いてある部屋に布団を二枚敷いておく。

ゲーム機を接続し、ソフトは任務前に買っておいて放置していたものなどを最低4本だ。

水や茶はボトルで用意し、基本的に500ミリ以下の飲みきりを最低6本。

ちり紙とタオルは必須、この時点で空調も調整しておく。

余り温めすぎると眠るので『ぐうたら』ではないぞ。


「本格的にだらけると言う事かね?」


聞いた残月は楽しげだ。

割ときっちりしている男だが、一度『正しいぐうたら』をやってみようと思っているらしい。


「次に一日摘まめるものを用意する」


私はディップソースとチップスや、蜜柑などだ。

蜜柑はあらかじめ皮を剥いてタッパーに入れておけ。

バナナなどならその場で剥いても良いがな。

余談だがチップスのディップソースに挽肉などを入れておけば腹もちが良いぞ。

私は他にプリンも作っておく。


「そして、風呂だ」

「お風呂?」

「ダルくなってきた所で痒みなんぞ起こしたら最悪だからな」

「完全計画だねぇ・・・・」


笑って呆れたように言っているが、結構楽しそうだと思っているセルバンテス。


「君は、一日だらだらしつつゲーム三昧をする訳だね」

「まあな。で、寝る前にプリンだ」

「あれ?まだ食べてなかったの?」

「寝る前に好きなものを食って一気に寝る至福を知らんとは哀れだな」


ふっと笑うレッドが何だか格好良い。

話題は完全にぐうたらするには、と言う話なのだが。


「いいなぁ、私もやろうかなぁ」


ねえ、アルベルト。君はどう思う?

振られたアルベルトは、考えもせず当然の様に答えた。


「自分で用意せんでもイワンがする」

「・・・・・・あのねぇ」

「第一好きなものを寝る前に食うと言うなら」


あやつがおらんと話にならんしな。

その帝王学が


イワン=プリン

なのか

イワンの作ったもの=プリン

なのかは誰も聞かなかった。

ちょっと考えてしまった幻惑に、レッドが欠伸をする。


「まあ、一日ボケっとレベル上げをしつつ『今は何をしているか』と考えるのも悪くはない」

「なっ・・・・レッド、君変なもの拾い食いした?!」


突然食いついた幻惑に、レッドが怪訝な顔をする。


「何故そうなる」

「君最近鬼畜属性外れて純愛属性が付加してるよ!本当、いつから偽物になったの」


心ない一言に、レッドが目を瞬かせて噛みついた。


「わっ・・・・私とて色々考えているのだ!いつも膝を借りてばかりでは情けないし、腕枕とか・・・・!」

「ないないない!君はその場で食っちゃう男だったんだよ!」

「煩い!あんなに一生懸命に世話をされれば多少優しくしてやろうと言う気にもなろう!」

「そりゃそうだけど、君はそんなポジションじゃないよ!」

「似合わず悪かったな!迷惑ばかりかけて世話をさせ後始末まで押し付ける貴様らを見ていると非常に教訓になるわ!」

「・・・・・・・・えっ」


ぽかんとしたセルバンテスは、次の瞬間おずおずレッドに問い掛けた。


「貴様ら、って、私も入ってる・・・・?」

「何故疑問形だ。自信もって『私私!』と言っていいのだぞ」

「そんなに、酷い?」

「自覚がないのか?てっきりわざとだと・・・・」

「うわぁぁぁぁぁぁ!どどどどどどうしようっ!?」


無意味に小走りで動き回って慌て始めたセルバンテスに、他の皆は呆れてものも言えない。

本や詩集に目を戻し始める。

この場にいる本人に聞く事はおろか、優しい本人もどうしてもフォローのしようがない状態。

結局セルバンテスは歩きまわって片っ端からカップやグラスをクフィーヤの裾でひっくり返していき、イワンが片付ける。

その度頭を抱えて呻いているが、その前にじっとしたらどうか。

泣きそうなセルバンテスに、イワンがやんわり微笑んだ。


「あの、よろしければお座りになってくださいませんか?」

「えっ、あ・・・・ごめん」

「いえ。差支えなければ」


何か、お話をお聞かせ下さいませんでしょうか。

優しい言葉に、思わず笑みが零れた。


「うん・・・・聞いてくれる?」

「はい」


にこにこしながら皆に代わりの飲み物を入れ始めるイワンに聞かせる話。

いつも他愛ない話で、でも沢山感じた事を詰め込んで。

状態を把握するためでなく、思い出を。

嬉しそうに聞き、相槌を打ち、時折質問しつつ、手際良く茶を入れるのがとても好きだ。

盟友は一つ溜息をついて足を組み変え、十傑は穏やかな雰囲気にまどろむように自分の好きにしている。

レッドは昼寝を始め、幽鬼は爺様と将棋。

残月は古びた本をめくり、十常寺は小さな人形を彫っている。

樊瑞は古文書をめくりつつ時折船を漕ぎ、怒鬼はすげ変える為の下駄の鼻緒を選んでいるらしい。

ヒィッツは詩集を眺めつつ日向ぼっこ。

アルベルトは手元の手帳を見ている。

いつもの、光景。





***後書***

いつものサロンってこんな感じじゃないかと言う話。