【 御主人様のお気に召すまま-099 】
最近事に及ぶ前に恋人に投薬している。
怪しい薬ではない。
寧ろ健康を促進する・・・・と、思う。
珈琲から利尿作用だけを抽出した自然な利尿剤。
しかし高濃度の強烈なやつだ。
何も知らない従者はいつもそれを飲んでいる。
滋養強壮とか適当な事を言って飲ませているが、自分にすっかり懐き切っている恋人はそれの所為だなんて夢にも思っていない。
事が長引くにつれ高まる尿意に毎回もじもじし、放して欲しいと懇願し、最終的には目の前で漏らしていく。
顔を真っ赤にして泣きながら排尿する姿は何とも可愛らしい。
噴き出していく黄味がかった液体にさえ興奮する。
それが、最近凝っている趣味。
今日も今日とてまた薬を渡したが、初めて従者は伺う様な上目遣いで見てきた。
「・・・・・何だ」
「あの・・・・この、薬は・・・・」
「強壮剤だ」
「成分は・・・・・」
「珈琲由来だが」
それが何だ、と片眉を上げられ、イワンは視線を彷徨わせた。
最近行為中に漏らしてしまう。
主はそれを面白がっているようだが、絶対にいけない事だ。
女性で突かれながら失禁するのはたまにいると聞くが、自分は男。
それももう33歳で、見目も麗しくない。
イワンはきゅっと唇を噛んだ。
こくんと喉を鳴らし、目を閉じて薬を飲み込む。
水を一口飲むと、置こうとしたグラスを取られた。
主の喉に残りの水が流れ込んでいく。
グラスをサイドテーブルに置き、アルベルトはにぃっと笑った。
イワンは頬を染めて俯いている。
ゆっくりと押し倒すと、ベッドが軽く軋んだ。
見上げてくる目は潤んでいて、身体は熱っぽい。
いつもよりやや高いように感じた。
息も熱いが、体調不良ではなさそうだ。
緊張しているのか、唇も少し乾燥気味だった。
不思議に思いながら、身体をまさぐる。
いつもと同じにしっとりと吸いつく肌。
だが、矢張りどこを触っても熱い。
「・・・・・不調か」
「・・・・・」
ふるふる、と首を振るのに首を傾げる。
本当に具合が悪い場合、従者が隠す事は無い。
自分の欲望を満たす事は優先するが、吐いたり半端でへたったりと言った粗相を気にしている。
だから、始める時点で大丈夫と言ったなら問題は無い筈だ。
途中で不調になってもそれを見たいと望んで無理強いするが、頑強に我慢し通す。
少々不服で、更に責めがキツくなってしまうのは否めない。
それが原因で医務室送りにする事が多々ある。
とは言え、大丈夫と言い張るなら大丈夫なのだろう。
そう考えて口づけると、口の中は益々熱かった。
だが、ウイルス症状系の膿んだ臭いは無い。
少々とろりと粘度が高い唾液に興奮を隠せず、たっぷりと時間をかけて貪っていく。
口の中を左の奥歯から順になぞっていき、上顎を舐めまわし、舌を絡める。
苦しそうなのが分かっていながら解放せずに舌を強く吸うと、敷き込んだ身体がびくっと跳ねた。
ちゅぱっと舌を放して唇を吸って離れると、激しく咳き込んだ。
涙がぽろっと落ちたのを舐めとり、左目の傷を軽く噛んだ。
閉じた瞼を指でそっと辿ると、聡い従者はそっと目を開いた。
触れられるのに反射でぴくっと反応する瞼を少し押さえ、眼球をねっとりと舐める。
押したり強く吸ったりはせず、ただ、柔らかく舐めていった。
甘い塩味に笑みを浮かべ、唇を離す。
もう一度口づけ、服を脱がせていく。
剥ぎ取って表れる、薄桃に色づいた身体。
確かに色っぽいが、何処か違和感がある。
尖りを吸ってみるが、反応が些か悪かった。
いつも悦ぶ小刻みな柔い吸いにも、熱い吐息を吐きだしながら苦しげに呻く。
やめたらやめたで気に病む男だが、こんなに苦しそうなのに受け入れた。
不調でないが、体調は悪い。
嫌ではないが、苦しい。
そう言った感じを受け、どうしたものかと考える。
少し考え、手早く終わらせて寝かせてやる事にしたアルベルト。
興はジェルをたっぷり手に絞ってイワンの脚を押し開いた。
きつく締まっている蕾をぬるぬると揉みしだくと、ひくひくと口を開き始める。
指を立てて押すと、少しづつ飲み込んでいった。
厚い筋肉の輪に締めつけられる指の先に触れる、複雑に絡んだ粘膜。
熱い肉の管に唾を飲み、従者の腹を宥めるように撫でて差し入れていく。
いつもの甘い嬌声が少ないのに気付きつつ、掠れた呼吸音を聞きながら奥を探った。
軽く捩られる身体は力無い。
奥の粘膜はとても熱く、中の粘度もいつもより高い。
肉の擦れ合う感触を大いに楽しめる状態だった。
指二本でほぐし、三本で軽く抜き差しして、アルベルトは指を引き抜いた。
手のひらに残ったジェルを自身の男根になすって、宛がう。
「んっ・・・・・!」
息を詰めて挿入される痛みを堪える顔が堪らない。
腰を掴んで、注挿した。
激しくしたいのをぐっと堪えて、なるべくゆっくりとした単調な突き上げで射精感を高めていく。
幹にぐり、と当たった感触に、アルベルトは唇を歪めた。
イワンの耳を柔く噛む。
「膀胱が張っているぞ」
「は・・・・は・・・・はぁ・・・・っ」
聞こえない様子のイワンに笑み、ぐぐ、と膨らんだそこを圧迫する。
「あぁ、ぁ、あ・・・・・」
ぴしゃぴしゃと飛沫を上げる液体。
湯気が立つそれは、いつもより少しだけ色が濃い。
勢いは悪く量は少なかったのが不思議だと思いながら恋人の顔を見たアルベルトはぎょっとした。
ほんの僅かに開いた目に光は無く、瞼も痙攣している。
だが、涙は異様に少なく、唇が乾ききっていた。
体温が一気に上昇し、汗すら掻かず。
痙攣を始める身体。
完全に脱水症状だ。
慌てて引き抜き、水差しから水を含んで口移しで与えた。
ぼたぼた零すのを少しずつ喉奥に押し込んで、飲ませる。
医務班に脱水症状を起こしたと伝え、すぐさまシーツに包んで部屋を出た。
「はい、アルベルトが悪いと思う人」
上がった9本の手に、アルベルトは文句も言えず、言い訳も出来ずに黙って葉巻を咥えていた。
因みに火は点いていない。
セルバンテスが自慢の邪視を嫌な感じに細めて盟友を見やる。
「イワン君お小水漏らしちゃうの気にして丸2日水飲まなかったんだって」
食物から摂っても知れている水分で身体が動く筈は無い。
それを無理に酷使した結果、重度の脱水症状を引き起こしたのだ。
小水は膀胱に大量に溜まるものではない。
膀胱に溜まり始め、排尿時に一気に血液が漉されて尿となるのだ。
薬と共に一口飲んだ水と、体内に辛うじて残っていた分を吐かされ、一気に体調が崩れた。
イワンは一時重体、炎天下に放置されたような状態で死線を彷徨い、アルベルトは戦々恐々だった。
側についていたが、目を覚ました従者が状況の説明を受け激しく泣き出したのには大変ばつが悪かった。
ご迷惑をお掛けしました、申し訳ありません、私が至らないばかりに。
泣き事の方がまだ気が楽な謝罪。
どうにかこうにか宥め透かして寝かせたが、しばらく入院らしい。
括っておくか命令しないと自分の世話をしようとするから、書き置いて休養を命じている。
面と向かってもう一度あの泣き顔を見る勇気は情けないが無い。
「・・・・イワン君何で君が好きなのかなぁ」
「・・・・ワシもそう思う事がある」
自分で残念な事実を吐き、アルベルトは肩を落とした。
自分を優先してぼろぼろになっていく恋人をどうすればいいのか。
どんなに汲んで気遣っても噛み合わない自分達。
相性が悪いのを従者の献身と言う自己犠牲で凌いでいる。
別に我儘を言いたい訳ではない。
当たって怒鳴るのも大抵は甘えぬ不満を発露させているだけだ。
あれが少し甘えてくれれば全ては丸く収まるのに。
そんなに自分は頼りないのかと歯痒い。
そうして子供のように不貞腐れて当たり散らし、また悪化していく。
前に、戴宗と陽志に大人になれと言われた。
確かに自分が子供じみた独占欲や我儘で恋人を縛りつけている事は承知している。
だが、恋人は自分の怒りに風を送って油を注ぐような『我慢』ばかりするのだ。
理不尽な怒りや折檻に怒りもしない。
泣きながら許しを請うだけだ。
恋人としての事以外なら、頭を吹き飛ばされる事すら恐れずにまっすぐ目を見ていさめる。
まるで子育てのようだ。
『怒り』は感情だ、『叱る』のは理性だ。
どうして感情的に怒ってくれないのか。
寂しげな目で髪をぐしゃりと乱したアルベルト。
今、その側に恋人兼従者はいない。
素直に胸の内を伝える難しさを噛みしめ、深い深い溜息を吐いた。
***後書***
お小水ネタがまさかの恋愛相談室。