【 パラレル-009 】



「イワン、香水の場所が分からんのだが」

「ヒィッツカラルド様、少々お待ちを!」

「イワン!腹が減った!」

「レッド様、お待ちくださいっ」

「イワン君、手伝・・・」

「セルバンテス様、どうかご自身にお構いになってください!」

三人の娘が舞踏会に出かける準備を整え送り出し、イワンはようやく一息ついた。


「はぁ・・・・はぁ・・・・あぁっ、次は洗濯をしないとっ」


三人の娘は自分の娘ではないが、それくらい大事だと思っている。

この家に嫁いだ日に、夫の樊瑞は消息を絶った。

家同士が決めた結婚だったから、あちらには好きな人がいたのかもしれない。

独りぼっちの家に次々帰ってきた娘達は、まぁ個性的で騒がしいが、良い子達だ。

長女のセルバンテスは、色々と事業を起こして国内外を飛び回っている。

次女のヒィッツカラルドは国の外交を担当、重要な役割を担っている。

末娘のレッドは国の機密に関わる仕事を請け負い、やはり誇れる娘だ。

三人が未だに自分と同じベッドで寝たいとごねたりやたら身体を触るのが目下の課題。

やはり父親がいなくて情緒が不安定なのか。


「はぁ・・・・・」

「あの・・・・・」

「え?」


顔を上げると、困ったように微笑む少女。


「こんばんわ」

「こ、こんばんわ・・・・」

「舞踏会に行きたいのですね?」

「いいえ?」

「ではかぼちゃとねずみを取ってきなさい」

「え、あの」

「取ってきなさい」

「は、はあ?」


いいからもうっ!と可愛らしくぷんすかされ、イワンは持ち前の機敏さでねずみを捕獲し、カボチャも裏の畑から持ってきた。


「では、これに魔法を」


ねずみは豪奢な寝台に。

カボチャはひと切れのパンプキンタルトに。

・・・・関連性が分からない。


「このタルトを食べて、寝台に横になって待ちなさい」

「え、え?」

「お風呂は好きずきです」


そう言って可愛く笑い、魔法使いは消えてしまった。

イワンは寝台のねずみにそっと謝った。

寝台だからか元々無口なのか、なにも返っては来ない寡黙なねずみだ。

取り敢えず眠ってしまった時の為にお風呂に入り、タルトを食べて、寝台に入る。

仰向けで天井を眺めていると、段々と身体が温かくなってきて。

眠くなってくる筈が、何だか。

身体がむずむずしてくる。

娘達が気になって自身に構わなかったせいだろうか。

そっと部屋の気配を探る。

当然だが誰もいない。


「・・・・・・」


そっとスラックスに手を入れて、雄を撫でる。

柔く愛撫して快楽を味わっていると、疼くのは誰にも言えないような場所。

嫁ぐのだから自分で慣らせるようにしておきなさいと孔明・・・母に言われて習慣的にやっていたが、変な癖になってしまって。

誰にも暴かれた事のないままに熟れていく蕾。


「ん・・・・・っ」


ちろりと舌先で指を濡らし、目を閉じて眉を寄せ、ゆっくり差し入れる。


「あ・・・・・っ」


ぞくぞくっと背筋を這いあがる寒気にも似た快感。

いけない一人遊びにふける未亡人。

それを見る者が一人。

戸口に立つ男。

男はアルベルトと言い、この国の王。

今日の舞踏会は無くした妻の後釜を選ぶための催しだ。

正直興味はない。

ああいうものは探すものでなく、見つかるものだ。

と、いうことで抜け出て街に出たのだが、近衛兵のカワラザキを始め幽鬼、残月、十常寺に追いかけ回されて逃げ込んだのがこの家。

そうしたら間の悪い事に奥さんが一人遊びに耽っている所で。

出ていくべきだろうが、しかし。

余りにも愛らしい姿。

頬を染めて一生懸命になって自分を慰める姿は、淫らな癖に酷く清純だ。

時折呟く旦那の名も・・・・待て、樊瑞だと?

樊瑞と言えば国軍の指揮を取る男だが、無理に決められた婚姻が嫌で結婚した日から家に帰っていないと言う。

嫁はイワンと言った筈。

家には生死不明と伝えているらしいが、それでこれは樊瑞に縛られているのか。

会った事も無い旦那に愛を請うて、触れもしない手の幻想を求めて。

憐れと言えばそうだが、何と可愛い事か。


「・・・・・・イワン」

「・・・・・っ!?」


飛び起きようとするのを寝台に沈めて、アルベルトはその身体にのしかかった。


「ゃ・・・・・っ!」

「ワシの顔を知らぬのも仕方は無い、か」


樊瑞が一度も伴ってこなかったから面識も無いし、式典も面倒くさくて影武者を立てているから国王の顔を知らぬか、という意味のそれが。

取り方によっては帰ってきた旦那様に責められていると取れなくも無いわけで。

双方の間に誤差が発生。

イワンは慌てて旦那さまだと思っている人に手を伸ばし「いかないで」と呟いた。

アルベルトは人恋しい人妻の誘いだと思った。

唇を合わせ、しがみつくイワンを宥めて身を離す。

まじまじと目を合わせ、やはり、と思う。

運命は探す物ではない、見つかるのだと。

人のものでも知った事か。

必ずものにしてくれる。

長年培ったこの技術で!

神の右手が服をはだける。

悪魔の左手が肌に触れる。

きめ細かで滑らかな肌をなぞると、それだけで震える初心なひと。

つぅっと指を滑らせて胸の尖りにふれると、ぴくんと震えた。

くりくりといじり、押しつぶす。

腰骨が軋む僅かな音がした。


「あ・・・・っ」


シーツを握り締める手、特に指がいい。

しつこく胸を攻めていると、目を潤ませて小さく鼻を鳴らした。

どうやらこの手の行為が初めてらしい。

ねだり方を知らない癖に、身体は誘っている。


「あっ、あ・・・・・」

「此方の方がいいか?」

「あぁっん!」


直に雄を握りこまれ、イワンは甘い嬌声を上げて身体を跳ねさせた。

腰を引きそうになるが、旦那様が望むなら差し出さないと・・・!


「あぁ、あ、あ」


喘ぎながら必死に身を差し出す姿が好ましい。

アルベルトはイワンの足を掴んで開かせた。

解された蕾は、蜜をたっぷりと溜めたピンク色で誘いかけてくる。

スラックスを緩めて押し当て、泣きそうになっているのを宥める様に抱きしめる。


「っああ!」


ぐぐぐ、と侵入される痛みは、想像よりはるかに酷かった。

痛くて、苦しくて、目の前がちかちかする。


「あぁ、あ」

「っは・・・・・」


ぐっぐっと注挿を繰り返し、真っ白な身体に男を刻みこむ。

イワンの白い指が、アルベルトにすがった。


「樊瑞様・・・・!」

「・・・・・・っ?!」


そこで漸く双方の行き違いに気づいたアルベルト。

だがもうこの魅惑の身体を途中で放り出すなんて言う事は出来ないわけで。

結局朝まで貪ってしまった。





「・・・・・・・どうしたものか」

取り敢えず自分が樊瑞で無いと言う事だけ告げた結果、イワンは不義に真っ青になり、自害を企てた。

そこで縄でぐるぐる巻きに拘束して玉座の間に持ってきて考えているのだが。


「激動の、良い案は無いか」

「身から出た錆じゃのう」

「十常寺、良い案は・・・・」

「これに懲りて遊びは控えるべし」

「残月、良い・・・・」

「間男が代わりに自害すればいいのではないか?」

「幽鬼・・・・・」

「お悔やみ申し上げる」


誰も良い案は無いのか。

溜息をつき、アルベルトは国軍長を見た。


「樊瑞、どう思う」

「どう思うと言われても・・・・」


妻に可哀想な思いをさせておいてアルベルトを責めるのはお門違いだと言う事は分かっている。

ひと時でも幸せなぬくもりを感じた妻は、アルベルトの腕の中で安心しきって眠っていた。

連れて来られて夫の前で不義を暴露された時の狂乱ぶりは見るも無残で。

泣きながら壁の手斧を取って喉に押し当てるほどに一途で。

樊瑞は自分の浅はかさを悔やみながら、溜息をついた。

仕方ない、妻の身は一時、不本意ながら「一時的に」この男に預けるほかなさそうだ。


「・・・・アルベルト、責任は取る覚悟があろうな?」

「責任も何も、これ以外めとる気はない」

「・・・・なら、いい」


樊瑞は泣きながら「殺して下さい」と訴える妻に近づいた。


「イワン」

「っ樊瑞様」

「お前は不義は働いておらん。儂はお前を妻とは認めなかった。お前はアルベルトと結ばれ、アルベルトはお前を欲している」

「・・・・樊、瑞、様・・・・」


ぽたぽた落ちる涙を唇で拭ってやり、樊瑞は妻になる筈だった人に微笑んだ。


「・・・・幸せにな、イワン」


いつか迎えに行くその日まで!

それはその場の衛兵+ここに居ない娘3人も同じ心境なわけで。

これからもこの国は、騒がしい王妃様争奪戦を繰り返す。

不思議な不思議な、お話。





***後書***

童話パロもやっておきたいと思いました。