【 童話パロ-007 】



お嬢様で盟友の男の異常性癖療養のため、『お友達』を探している、教育係のアルベルト。

まったくもって馬鹿らしいが、治療しないと自分の娘に手を出しかねない。

幼女趣味でもない癖に自分の娘に執着する姿は情けないとしか言いようが無い。

取り敢えず、アルプスのお山を登るアルベルト。

住んでいるおじいさんが何とも良い癒し系らしい。

そういうわけで標高2000mまで登ると、小屋を発見。

ぼろだが、ちゃんと手入れが行き届いていた。

ノックをすると、顔を出したのはおじいさんと言うには余りに若い男。

禿頭で人懐っこい笑みは確かに癒し系だ。

小屋から引きずり出して担ぐ。

完全に人攫いだが、帝王は葉巻をふかしながら山を下っていく。

おじいさん・・・・イワンは何が何だか分からなかったが、道すがら話をされて了承してしまう。

3キロほど隣には孔明という男性が住んでいるが、近頃加減が良くない。

男の言うようにお嬢様の話し相手になれば、白パンをたくさん買ってあげられる。

そう思っていたイワンは、甘かったのだ。





「あ、ああ、あう、あ」

「しっかり鳴かんか!」

「ひぃうぁっ」

テーブルに腹をつけた状態で手足をテーブルの脚に括られ、イワンは延々犯されていた。

説明不足にも程がある男は、お嬢様の性癖治療とは言わなかったのだ。

作法を身につけろと犯され続ける事3日、暴力一歩手前の性戯に、イワンはもう泣き叫ぶ事すら出来ないでいた。

身体は常に男の手でいじり回され、胸の尖りも雄も、擦りきれて痛い。

後孔に至っては感覚が薄くなって、ただ中を押し上げられる鈍痛の快楽だけが身体を苛んでいく。

掠れた声にも容赦はなく、嬌声を上げろと尻をぶたれる。

真っ赤に腫れあがった尻に男の腰がぶつかり、勢いよく男根が出入りする。


「あっ、あっ、あぐ、あ、ぅ」

「っち・・・・要領の悪い。締めるなと言うのが分からんか」

「あ、あ、あ、ご、ごめ、ん、なさい、ゆるし、て・・・・・」


機嫌の悪い声に、熱い涙が頬を伝う。

怖くて、苦しくて、辛くて。

敏感過ぎる身体は及第点として、締まりが強すぎるといびられる後孔。

緩めようと思ってもうまく出来ず、痛みや快楽に益々締まる。

中は精液でどろどろに穢され、入口から溢れて伝い落ちていた。


「許せ許せと馬鹿のひとつ覚えか・・・・何も学習せんな」

「あぐっ!」


突き上げられ、イワンの身体が痙攣する。

彼は必死に洟をすすって、涙を零しながら請うた。


「おっぱいを、いじくってください・・・・・」

「状況的に間違いだ」

「あっあっ、お、おしり、の、孔、もっと、してくださ、い・・・・・」

「こうか」


始まる凌辱に、掠れた悲鳴が上がる。

アルベルトの手が、イワンの顎を掬った。


「もう終わりか」

「ああ、あ、お、おしりきもちいっ、もっと、おしりにおちん、ち、ん、いれ、て、っ」

「それで?」

「おちん、ちん、から、でる、精子と、おしっこ、させ、て・・・・!」


言っている事は既に滅茶苦茶で、卑猥と言うより哀れでしかない。

強制されてわけが分からないイワンに、快楽責めがなおも続く。

引き抜いたものをしゃぶらせ、顔にかけるだけでなく呑みこませ、もう一度扱いてイマラチオまで。

最早拷問でしかなく、作法どころか調教や躾けですらない。

アルベルトは感覚が鈍っていたのだ。

盟友も同僚も、知り合いは人外魔境の丈夫なものばかり。

娘もそれは逞しく、亡き妻はもっと逞しかった。

それでてっきり、イワンもそんな風に丈夫だと勘違いしていたのだ。

快楽と命令以外、食事しか与えられないイワンは、過度の責め苦もあって二週間持たなかった。

屋敷に幽霊が出るとうわさが流れ始めて哨戒に回ったアルベルトに、真夜中、イワンは鏡の前で見つかった。

白いワイシャツ一枚の彼は、嬉しそうに鏡と話をしていた。

ぞっとするような光景だ。

その顔は花のように愛らしく、頬は桜色。

嬉しそうに鏡に映る自分に話しかけ、「もうすぐ帰るから」と。

完全に、病気だった。

これではお嬢様に差し出せない、第一。

初めて見た、笑顔が。

胸が痛むほどに、魅力的で。

イワンを背後から抱くと、彼はきょとんと見上げてきた。

抱き上げると、鏡に向かってばいばいと手を振る。

そして次の瞬間には、かくんと体の力を抜いて眠ってしまった。





アルベルトはアルプスの山をイワンを担いで登っていた。

イワンは心を病み、身体が徐々に動かなくなっているのだ。

脚はもう動かないし、自分ひとりでは生活できない。

アルベルトは盟友に暇を貰い、生活に必要なものと白パンを山ほど買って、男性を一人担いで登っているわけだ。

それを酷く心配するイワンは、怯えとともに信じられないものを見る目をしていた。

そこで初めて、一般的な人間の脆さを知ったアルベルト。

どれだけこの愛らしい男に無理を強いたかと思うと、唇を噛んでしまう。

小屋は、一か月前のままそこにあった。

すこし雪が積もり始めていたが、ドアを開けて中に入る。

簡素なベッドにイワンを降ろし、此処にいろと頭を撫でてから外に。

3キロ先のお隣さんの小屋にパンをぶちこみ、イワンからだとだけ言って帰る。

小屋の中では、イワンが火をおこしていた。

温かくなりつつある部屋の中は、空腹を刺激する匂いが漂っている。

動かない足を冷たい床に放り出したまま、床に座っているイワン。

アルベルトを見上げる目が、優しく微笑む。


「スープを作りましたから、どうぞ」

「あ、ああ・・・・・」


何故、こんなにも自分を気にかけるのか。

あれだけ苛烈な折檻を強いて、言葉のひとつもなかったのに。

そう思っていると、イワンは俯いて呟いた。


「・・・・ごめんなさい、ご盟友の方にお仕え出来なくて」

「・・・・・・・・」


漸く得心が行った。

この男は、自分が盟友に仕えられるようにならなかった事を責めているのだ。

もしかしたら途方もなく世間知らずかもしれないが、心根も優しすぎる。

自分はさほどあの男の性癖を改善したかったわけでない。

どちらかと言えば新しいおもちゃと言う人身御供をやってしまえばおとなしくなると思ったのだ。

可愛くて、切なくて、そっと抱き上げて膝に乗せる。

スープカップを持たせると、やんわり微笑んだ。


「有難うございます」





イワンの夢遊病は暫く治らなかったが、毎夜抱いて眠り、話をしてやっていると、徐々に治り始めた。

だが、脚の麻痺は広がっている。

もう左手も動かないし、このままいけば恐らくその内・・・・・。

全ての機能が、停止する。

身体が動かなくなり、見えず聞こえず、心音が途絶え。

死んでしまうだろう。

身体が生きることを拒否しているのだ。

切なくて悲しいばかりだが、それでもずっと抱いていた。

ただ抱いて眠り、余りに厳しい白銀の外界にはほとんど出ずに。

春を待った。

初めて水仙が咲いた日、イワンの目が見えなくなった。

初めて雪が溶け落ちた日、イワンの耳は聞こえなくなった。

そして初めてなずなが咲いた日、アルベルトは一時の安らぎを求めて外に出た。

恐ろしくてたまらなかった。

もうすぐだ、もうそこまで来ているのだ。

春とともに、あれを攫って行く死神が。

一瞬、盟友の顔が過った。

あの男に頼めば、忘れる事は出来なくもない。

そうだ、このまま・・・・・。

ふらふらと歩き始めたアルベルトの背後で、戸が開く音がした。

いつの間にか、雪と風が強まっていた。

この冬最後の寒波。

イワンはそんな中に出たアルベルトを心配し、必死に鼻を鳴らして探していた。

だが、風に葉巻の匂いが流されて分からない。

這ったままに右手で身体を支え、自分を探す姿。

逃げ出したい、怖い。

見ていられない。

そう思ったが、放り出すのはもっと出来ない。

抱いて中に入り、肌に文字を書く。

抱きたいのだと、言った。

イワンは頷いた。

耳も聞こえぬ、目も見えぬ、身体の動かぬ男を。

必死に、抱いた。

初めての時よりずっと必死に掻き抱いて、貪るように、しかし愛を惜しみなくこめて。

繰り返される愛の言葉に、イワンは心が温かくなるのを感じていた。

風が途絶え、何かが、終わりを告げた。





目覚めたアルベルトは、隣を見て飛び起きた。

居ない。

見回しても、この小屋のどこにもいない。

小屋を飛び出し探しまわっても、いない。

動悸が激しくなり、目の前が揺れる。

何故、どうして、何処へ?

落ち着こうと深呼吸していると、声をかけられた。


「大丈夫ですか?」


柔らかな声。

顔を上げると、優しい笑顔。


「・・・・・脚、が・・・・・」

「はい・・・・目も、耳も、大丈夫です」

「っ」


掻き抱き、抱きしめる。

水を汲んでいた桶が、イワンの手から転がった。


「アルベルト様?」

「っもう、何処にも行くな!」


絶対に手放さない、誰にも渡さない。


「貴様はワシのものだ・・・・・!」

「アルベルト様・・・・・」


感情に任せた叫びは、その分とても気持ちが籠もっていた。

イワンは、そっと頷いた。


「ご盟友でなく、貴方様にお仕えさせてください」


愛らしい申し出に、鼻の奥が痛い。

だが泣いては格好がつかないと我慢し、咳払いして顔を合わせる。

甘い唇に吸いついてやれば、ちゃんと目を閉じた。

ごくごく自然に、教えてもいないのに。





アルプスのおじいさんは、一人の男と暮らしています。

毎日のように、赤いマフラーの山羊飼いや、男の盟友、嗅ぎつけた同僚達が押し掛けてきて大変騒がしいです。

でも、男は黙って葉巻を吸っています。

おじいさんが自分から離れないのは分かっているし、自分も離れる気はない。

おじいさんが無意識に惚気て悔しがる男達も、自分が彼を自慢して歯がみする男達も、敵ではないと余裕綽々。

おまけに、長いアルプスの冬は二人きりですから、ね。





***後書***

頭から何かが芽吹いた結果、こういう話になりました。