【 パラレル-003 】



「・・・・・いい加減に首を縦に振ったらどうだ」

水桶に突っ込んでいた頭を引き出し、びしょ濡れでぐったりしている男の耳を噛む。

げほげほと咳き込み涙を流す癖に、強情にうんと言わないのだ。

同情などしない。

異教の徒である学者風情、軍の将校からすれば虫けら同然だった。

軍略担当の孔明が言うには、この男の能力は秀でており、どうしても引き込みたいのだと言う。

脅しに策略、色々試した。

末に同僚で盟友のセルバンテスがたっぷり時間と手間をかけた甘言で懐柔しようと試みたが、それでもとうとう駄目だった。

ならば最終手段と、自分に回ってきたのだ。

痛めつけ、従わせろと。

既に大概の水責めは済ませてある。

水から始めたのはこの男の忍耐に合わせたつもりだったが、それに耐えた事は意外だった。

直ぐに根を上げると思っていたが、強情に従わない。

アルベルトは暖炉に入っていた焼け火箸を掴んだ。

男・・・イワンというのだが、目の前にかざしてやる。


「これが何かくらいは分かろう」

「・・・・・・・・・っ」


す、と脇腹の方に移動させ、器用に先でワイシャツをめくりあげた。

ちりりと焦げ付く布の匂いで、どんなに熱を内包したものかが分かる。


「・・・・協力するな?」

「・・・・・いいえ。学問は誰も独占できません」


恐怖に吐息を震わせながら顔をそむけたイワンに片眉をあげ、将校・・・アルベルトは火箸を背中にためらいなく押し付けた。


「っあああああ!」

「煩い。口に突っ込まれたいか」

「っう、ぅぅ、う・・・・・っ」


がちがちと歯を鳴らし、喉を引き攣らせながら、まだ屈しようとしない。

暴れる体を踏んだのは悶えるのが鬱陶しかったからだ、断じて火傷が広がるからではない。


「・・・・・ふん。貴様の頭の中身がそう重要でないなら、耳から鉄串を差しこんで鼻から脳髄を出してやるものを」


火箸を放り出し、焼けた傷を眺める。

血を滲ませ、焼け焦げ付いた皮膚。

剥がしてやるのはもう少し水ぶくれが安定してからにしようか。

椅子に引き上げ、両手をベルトで拘束する。

怯えた瞳が心地いい。


「いつでも許しを請うて構わんぞ」


イワンは唇を噛んで、泣きそうな顔をした。

だがやはり俯いて黙っただけだった。

それがやけに癇に障って、傍のペンチを手に弄ぶ。

白い指の美観が損なわれるのは残念だったが、一枚二枚と半透明の爪を剥いでゆく。

イワンは引き攣った悲鳴をあげて身を捩ったが、反射以外の仕草は見せなかった。

歯を食いしばり、目からとめどなく涙を流して。


「・・・・・強情な」

「・・・・・・・・・っ」


顔を合わせると、厭がって背けようとする。

それが益々腹立たしく、アルベルトはその頬を平手で打ちすえた。

その時の、傷ついた瞳が。

その時の、掠れた悲鳴が。

その時口元に滲んだ、赤い血が。

堪らなく本能を刺激した。

気づいたら、唇を激しく貪っていた。


「んん、んむ、ふ・・・・・」

「・・・・ふん、経験は浅いか」


たっぷり唾液を飲み込ませてから唇を離すと、イワンは初めて怯えの色を見せた。

それ自体というより、何かを守ろうとするような、色。

宗教観念か何かは知らないが、これを利用しない手は無い。

これにかこつければ楽しめるだろう。

丁度欲望を持て余していた所だ。


「くく・・・・媚を売れば優しくしてやるぞ?」

「なっ・・・・・何を考えて・・・・っ」


拘束ベルトを乱暴にむしり取り、爪を無くし傷ついた指先を口に含む。

痛みに眉をひそめるのを見ながら、少しづつ吸いを強めて血を啜る。


「・・・・・つっ」


思わず漏れた声に、血が沸騰する。

床に突き倒し、服を剥いだ。


「痛っ・・・・っあ!」


背中を露出させ、焼けただれて固まった皮膚を舐める。

痛みに身を捩るのを抑えつけ、何度も舌を往復させた。

焦げた苦味と、肌の甘み。

言うなればカラメルのような、身体が菓子の様な男。


「っうう・・・・・!」


腕を噛んで悲鳴を抑えるのがとても気分が良い。

そうだ、そんな姿が見たかった。

いや、本当だろうか?

血を吐く様な悲鳴の方がもっと甘美な・・・・


がり・・・・・


「っああああーっ!」


歯を立てて、ゆっくりと皮膚を剥がしていく。

死んだ皮膚は割と簡単に剥がれ落ちた。

びり、びり、と嫌な音を立てて口内に入ってくる皮膚。

剥ぎ取ったそれを吐き捨てて、傷口に舌を這わせる。

余りの痛みに口元をこわばらせて涎を垂らす男がたまらなく愛しく感じた。

口内を満たす血の味に酔いしれ、服を全て剥ぎ取った。

白い脚を激しく噛んでやると、痙攣する。

吸いついてやると、甘く震える。

うつ伏せの腰を上げさせて、受け入れやすい体勢を取らせる。

バックルを緩めて押し当て、狙いを定めるように数回擦った。

漸く意識が浮上してきたらしく、イワンが恐怖に慄きながらぎこちなく振り返ってくる。

それににぃと笑って、ねじ込んだ。


「うあ゛あ゛あ゛っ!!!」

「っは・・・・締める事しかできんのか」


ばちん、と尻を叩いてやる。

泣きながら首を振り、何かに縋るように手を伸ばすイワン。


「アルベルト様っ・・・・・アル、べ・・・・」

「くく・・・面白い」


何度も突き上げて苦痛を与え、快楽を貪る。

後孔を裂かれ、犯されて痛みを与えられ、無理に突き上げられて吐き出すことを強要されて。

それでも、イワンは掠れた悲鳴をあげて唯名を呼んだだけだった。

アルベルト様、アルベルト様と。

粗方吐き出した所で、アルベルトはやっと矛盾に気づいた。

この捕虜の名はセルバンテスが自分に教えた。

自分の名は捕虜風情に教えてなどいない。

アルベルトとは誰だ。

アルベルトはイワンの身体をひっくり返した。

胸に貼られた、薄手のガーゼ。

心臓の上に、何の傷を隠している?


「・・・・・・・・」

「嫌だっ・・・触るな!触るなっ」


狂ったように暴れるのを抑えつけて剥がす。


「・・・・・・・・お前は」


『穢れた血』と。

幼い字で。

彫られた傷。

紛れもない。

自分の筆跡。


「・・・・・イワン、という名だったのか」


小さい頃に、自分に学問を教えた少年。

自分より年下の癖に賢い子で、でも嫌みなく。

国の内乱が始まった時に、別れる前夜に約束した。

胸に彫りつけて、自分以外に縋れないように。

必ず迎えに行くからと。

名前も聞かなかった。

こんなに時間がかかるとは思わなかった。

諦めていた。

忘れていた。

でもこの男はそれを待っていて。

自分から逃れようと「アルベルト様」に助けを求めたのだ。

それ以外の何にも縋る事無く生きてきたのだ。

だがどうすればいい?何と言えば良い?

ああ、目の前で白い歯に舌が挟まっていく。

歯が食い込んでいく。


「アルベルト様・・・・」

「イワン!」


イワンが命を絶つ寸前で、アルベルトはその顎を掴んでいた。

力任せに掴まれて軋む顎を握り締め、失う瀬戸際の冷や汗を伝わせながら、乾いた唇を舐める。


「・・・・・太陽は昔」

「・・・・・・・・?」

「十あった」

「・・・・・・・・それは」


昔々のお話。

何故、この国の将校が異教のその話を知っている?

さして有名ですらないのに。


「イワン・・・・迎えに行けなかったな」


自嘲の様な笑みは、幼さはもうなかったが、あの夜に自分の胸に刃を突きたてた少年に間違いはなく。

驚愕に息が止まる。


「あ・・・・・あ・・・・」

「イワン・・・・」


屈しろ。そうすればここから連れ出してやれる。

イワンは首を振った。

いいえ、と。

落胆と絶望に歯をかみしめると、微笑んで震える手を伸ばした。


「私の全ては、アルベルト様の為に」


貴方が御命令にならなければ、私は何も出来ません。

いじらしさに息が止まる。


「・・・・命令だ」

「御意に」


手指を絡めて、しっかり握る。

この国の行く末を、二人で見ていこう。

お前と二人なら。

何があっても怖くは無い。

共に、生きよう。

絶対に、一瞬だって。

離しはしないから・・・・





***後書***

【鯨様→にゃチ軍服、拷問系】

やちゃった感漂うね、一時間半で書いちゃうよ!

クオリティは無い。ネタで楽しむしか。