【 パラレル-007 】
ここは海に面した国。
豊富な自然の恵みに助けられて、大国ではないが強国ではある。
国王は樊瑞と言い、中々良い君主だ。
軍には軍師の孔明をはじめ、将軍の怒鬼、諜報や暗殺に長けたレッド。
他にも国史に詳しい残月、医師長の十常寺、外交に秀でたヒィッツカラルド。
周りには同盟国も有り、カワラザキと言う人と、義理の息子の幽鬼がいる。
中立国に関しては、セルバンテスという人が治めている国がある。
恵まれている国。
そこに、火の粉が降りかかる。
「絶っっっ対に、イ・ヤ・!」
「で、でも・・・・・」
上の姫君のローザはつーんとそっぽを向き、下の姫君のサニーは戸惑いを隠せず。
対岸の大国が要求してきた、結婚と言う名のもとに人質にされる姫。
何でも王は既に38歳の男で、戦場に立つのが好きな血に飢えた将軍でもあるらしい。
「嫌ったらいや!」
「・・・・でしたら・・・サニーが・・・・」
「い、いや、やはりイカン!」
どちらの姫も猫っ可愛がりの上、特にサニーは遅い娘で溺愛の樊瑞。
やはり嫁には出せないと首を振った。
しかしやらなければ国自体潰され、どちらにせよ姫は向こうの手に渡るのだ。
ああ、どうすれば。
「ねぇ、樊瑞」
良い事教えてあげようか。
セルバンテスの言葉に、樊瑞は胡乱な眼を向けた。
たまたま来ていたセルバンテスは何故か嬉しそうに言葉を続けた。
「あの男はさぁ、とっても我儘なんだよ。勿論ローザちゃんじゃ反発する。サニーちゃんでも駄目だね。でもさ」
君の所にはそういうの得意なひとがいるよね?
樊瑞は非常に渋い顔をした。
「・・・・・イワンか」
「御名答」
イワンとは、姫二人の教育係だ。
実直で勤勉な男で、とても純でストイック。
姫二人を任せても信頼に足りたし、実は自分が後添いにめとってしまおうと思っていた。
男でも関係は無い。
あれだけ可憐なら。
姫でも王子でもこの国は王位継承できるから、姫二人が居る今世継ぎはいらない。
まぁ出来なくても毎晩・・・・いや。
「どうするの?国が立ちゆかないんじゃどちらにせよイワン君は手元に残らないんだ」
たまに会って、そろーっと連れ帰るまでの辛抱だよ?
「ぐ・・・・・」
樊瑞は、折れた。
「・・・・イワンを呼べ」
「・・・・・・・」
イワンは一人海岸に立ちつくしていた。
ここはもう知らない国だ。
送ってくれた船も早々に引き揚げた。
樊瑞やセルバンテスは心配ないと言ったが、一国の姫を所望して一介の世話係を寄越したのでは到底了承すまい。
恐らくは、この命も今日限り。
イワンは海水に脚を浸けて沈む日を眺めた。
水平線に溶け込んでいく太陽が綺麗だった。
自身の故郷の国は内乱で滅んでしまった。
家族もすべてなくした。
樊瑞に拾われて、姫君の教育係なんていう大役を任せてもらえて。
気が強いけれど、最後まで自分が行くのを反対して、とうとう自分が行くからと泣いたローザも。
行くと言ったけれど、最後の最後で本当は怖いのだと泣いた幼いサニーも。
とても、大事だ。
自分の身で時間が稼げるのなら、その間にあの姫君たちが誰かを愛せるならば。
それで、いい。
ぽつん、と最後の光が水平線に消えて、闇が満ちる。
暫くぼんやりしていると、砂を踏みしめる音がした。
目を閉じる。
首筋に感じる、剣の感触。
「・・・・姫君を、と言った筈だが」
「・・・・私の血で償わせては頂けませんか」
ぐいと肩を引かれ、顎を掴まれて顔を合わせられる。
想像していたよりもずっと整った顔の男は、眼光鋭く。
「・・・・・よかろう」
「・・・・・・・・」
ぽちゃん、と水の跳ねる音がする。
湯の貼られた大理石の浴室には花の香りが満ち、水面にも花弁が浮いている。
ここに押し込まれて、何が起こるか分からぬほど愚鈍ではない。
身を繕って、差し出すためだ。
何が気に行ったのかなど分からない。
柔らかな胸も、金糸の髪もないのに。
「・・・・・・」
二人の姫の幸せを願って、それだけを考えて恐怖を振り払い。
イワンは湯からあがった。
「何を突っ立っている」
簡単な作りの薄い夜着で椅子に座る男に、イワンは止まりがちな脚を叱咤して近づいた。
自分に与えられたのは、とても上質な絹の布。
紐も切れ目も無いそれを纏って握りしめて、近づく。
「ふん・・・・」
「・・・・・・・・・っ」
絹の上から這う視線に身が震える。
怖い。
震える吐息と潤む目を必死で隠し、そっと目を向ける。
濡羽色の短髪は少し乱され、赤い瞳は睨むように見つめてくる。
機嫌を損ねているのは明白だった。
当たり前だ。
美しい姫君でなく、こんな貧相な男が来たら怒りもする。
だが、ここで頑張らないと姫君たちが、樊瑞様が、国が。
「何でも、お命じになってください・・・・」
蚊の鳴くような声で言ったイワンに、男・・・アルベルトは鼻を鳴らした。
「賢い考えだな。機嫌を損ねる確率が少なく、期待に添いやすく」
「そんな、つもりは・・・・」
「男娼か、或いは樊瑞の男妾か」
「・・・・・っ!」
イワンの瞳が初めて恐怖や戸惑い以外の感情を見せた。
燃えるような瞳が、アルベルトを睨みつける。
その護る為の直向きな一途さが、ぞっとするほど好ましい。
漸く機嫌を直し、アルベルトは顎をしゃくった。
「脱げ」
「・・・・・・」
「自分の身体を撫で回して愛撫してみろ」
「なっ・・・・・」
余りにも酷い命令に、イワンは思わずアルベルトを見詰めた。
すると、この暴君は片眉上げて命令を変更した。
「胸でも尻でも好きに触るがいい。だが直接的な刺激は与えるな」
変態的な自慰の命令に、イワンは愕然とした。
しかし、従わなければならない。
のろのろと絹を落とし、そろっと腹に手を這わせる。
「・・・・・・・・・」
どうしていいのか、分からない。
自慰だって処理という意味合いが強かったのに、自分で自分を愛撫するなんて。
上にずらし、胸を撫でる。
ぞくんとした痺れが走るから、そうなのだろうと繰り返す。
だが、当たり前だがそんな児戯でどうなる筈も無く。
反対の手で、腿を辿る。
「んっ・・・・・」
ぞくぞくした感覚が背筋を駆け抜け、雄がぴくんと反応した。
臀部を軽くなぞりあげると、ひきつる。
ぞわっと項が粟立った。
「・・・・・面白い」
アルベルトは葉巻を取りだし火をつけ・・・・直ぐに思い直して消した。
イワンの身体を寝台に引きずっていき、圧し掛かる。
「樊瑞自慢の男妾の味を確かめるとするか」
「っ樊瑞様はそんな・・・・っ!!!」
抗議しかけた口が強張り、身体が激しくもがく。
アルベルトは違和感に動きを止めた。
「・・・・・・・・・貴様何を考えているのだ・・・」
「あ・・・・あ・・・・」
目を見開いて身体を痙攣させる男の後孔は裂けて真っ赤に染まっていた。
風呂で慣らしておかなかったのか。
男娼ならそれくらい当然と心得ている筈だ。
いや、男妾にしては何とも・・・・そう言えばさっきからそう言う事を言うと睨みつけてきた。
もしや・・・・。
「貴様・・・・経験がないのか」
「うぅ、う・・・・・」
話しかけられるのすら怯えて顔を背ける。
どう考えても経験など無い。
傷ついた瞳で逃げを打つ姿が、どうにも可愛い。
だが暴れればもっと傷が深くなる。
抜こうにもこう力が入っていては。
少し考え、アルベルトはそのまま奥に差し込んだ。
イワンの背が反って激しく締め付けられたが、やめずに。
奥まで押し入ると、先ほどまでの拒絶が一転、さあさあ、もっと頂戴と言わんばかりの媚肉の歓迎。
歯を食いしばらないとすぐにでも達しそうだった。
腰を抱えて激しく抜き差ししてやると、身体の下で白い裸体が身悶える。
たまらずに奥で出してやると、それに反応して肉が絡んで来て、また血が集まり。
「や・・・・中、なに、か・・・」
「くく・・・・混乱して精液も分からんか?」
男を狂わせる魅惑の身体。
甘い声、吐息。
濡れた瞳。
「・・・・厄介なものを掴んでしまったな」
白い身体に溺れながら、アルベルトは低く笑った。
「世の中って上手い事出来てるわよねぇ」
「サニーはイワンが幸せそうで嬉しいです」
「あ・・・有難うございます・・・」
二人の姫君とお茶会をするのは、対岸の国のお姫様になってしまったイワン。
身体が仲を取りもち、その内献身に気を許し、いつの間にか惹かれあって互いにすっかり骨抜きのアルベルトとイワンに、意外な事実。
実はサニー、樊瑞の実子ではない。
戦場で拾ったのを奥方が育てたのだ。
しかもサニーの本当の父親はアルベルトと言う顛末。
結局同盟を結び、ローザが嫁に行く事になったらそれを蹴ったのはアルベルト。
イワンを嫁に据えてしまったのだ。
大々的にはしなかったが、知り合いを呼んだ結婚式は無駄に騒がしかった。
ちゃんぽんの酒を一気飲みし、額にバットで三十回、平均台を走って先の・・・・いや、まあこれはいいか。
兎角、何だか円満な方向に行って。
不服な人もいますが。
二人は、幸せなのでした。
***後書***
何だかよく分からないけれど、お姫様らしいよ!