【 もしもシリーズ-006 】



伊達男な雰囲気と、甘いマスク。

女性受けする甘いストーリー。

半端ないエロさだが愛溢れるセックス。

男性より女性に好まれるAVに定評あるヒィッツカラルド。

彼は趣味と実益を兼ね、監督と男優も兼ねている。

この前までのシリーズが終わったので、次のものを考えていた。

今日は、面接日。

毎回男優も取ってはいる。

いるが、面接で目にかなうものがいないのが現状だ。

結局自分がやる事になるが、嫌ではない。

今日は女性が4人に男が1人。

個々面談の最後が男だった。

見て、首を傾げた。

顔が普遍的とか禿頭とかは二の次だ。

どうも、こんなところに来るタイプに見えない。

生活に困っているのかとやんわり話を引っ張ると、薄々分かった。

彼はイワンといい、子供の頃から男に囲われていて、学校も行っていないらしい。

足し算引き算くらいしか出来ないし、あと出来るのは家事。

男は囲ってすぐに他の娘に手を出し、彼自身は殆ど経験がないという。

閉じ込められ家事をしていたのだと。

別に苦痛ではなかったと。

だが、突然放り出された。

30過ぎて妙に色っぽくなったイワンにもう一度手を出そうとし始めたから、女が彼を叩き出したのだ。

自由と言うにはあまりに過酷な世界だった。

保障も何もない、着の身着のまま放り出されたのは4日前。

持っていた僅かな金銭も尽き果て、あてもなく。

酷く純情な精神構造の彼が死を選ばぬのにピンときた。

純情で無垢ゆえに、その男に囚われているのだ。

犬が捨てた主人を慕うように。

それは愛でない。

だが、犬はそれが分からない。

ヒィッツは目の前の男を眺めまわしていた。

もう主たる男とのつながりを断たれているのは明白。

子供の頃の性的虐待。

大人になってからの禁欲。

何とも、色っぽい。

ヒィッツは口端を釣り上げた。


「広告していた、4倍出そう」

「え・・・・・?」

「その代わり、カメラの前で犯されてもらう」


イワンの顔がこわばった。

逃げようとするのを抱きしめ、囁く。


「いいのか?迎えに来るまでに路地裏で春を売る事になるぞ?」


自分ひとりで済んだ方が良いだろう、と誘惑する。

イワンの目が、泳いだ。

泣きそうな顔で小さく頷くのを見届け、ヒィッツはイワンから手を放した。


「特にスタジオは構えていなくてな。ホテルに行こうか」





目の前にカメラが鎮座するベッドに裸で座りこみ、イワンは小さく震えていた。

4日ぶりの入浴は安らぎなどなく、でも出るまでに時間がかかり。

今は、ヒィッツが入っている。

水音が止むのが怖い。

なのに、逃げ出す事すらできない。

もう、望みはないと知っている。

でも、死んでしまったらもっと離れてしまう。

可哀想な彼は、主以外に何も知らないのだ。

街を彷徨っていた時も、どんなにか怖かった事か。

水音が止んだ。

扉を開けて出てくるヒィッツは、上半身裸で。

逞しい身体が、怖い。

身体をこわばらせて怯える姿に苦笑し、ヒィッツはイワンの隣に座った。

頬を撫でると、おどおどと見つめてくる。

くすりと笑って首を傾げ、口づけた。

引き結ばれた唇を舐め、柔らかな弾力を楽しむ。

軽く吸うと、思わず唇を開くのが可愛い。

ちゅくちゅくと吸いついてから、ゆっくりと舌を差し入れた。

くぅと喉を鳴らすのが犬のようで可愛い。

何度も舌を絡め直して味わう。

どうすればいいのか分からないでいるのが丸分かりだ。

応えた方がいいのかと思いながら、やり方が分からずにうろうろする舌。

ちゅう、と吸い上げてみると、抱いた身体がびくんと震える。

強く抱くより、さする方が好きだ。

やんわり、しかし力を適度に込めて、ゆっくりと。

官能を煽ると言うより、安心感を与えるように。

震える体は徐々に落ち着きを取り戻し、温かみを増していく。

同時に、噎せ返るような濃厚な色気がイワンを取り巻いていく。

亀裂で氷山が瓦解するように、僅かな刺激で一気に花開いていく色っぽさ。

驚きを隠せずにいると、イワンが気まずげに俯いた。

謝られ、彼がぎこちなさに気分を害したと勘違いしていると知る。

そのぎこちなさが良いのに、まるで分からない初いさ。

可愛いな、と囁くと、吃驚したように顔を上げ、頬を染めてそんな筈がないと首を振る。

こんな可愛い生き物を放って女に手を出す男は呆れを通り越して心配だ。

病気ではあるまいか。

可愛い反応ばかりのイワンをゆっくりと押し倒すと、彼はおずおずとヒィッツに手を伸ばした。

が、引っ込めた。

首を傾げ、微笑んで促す。

するとイワンはこくっと唾を飲み、ヒィッツの手を取った。

大事そうに白い手で包んで、口元に持っていく。

目を僅かに伏せて舐め始めるのに、酷く興奮した。

ピンクの舌は薄めで、色も濃くない。

本当に『ピンク』なのだ。

桃色とか桜色でなく、ピンク。

可愛い色のそれは暖かく濡れていて、指に心地いい。

舐め方は、まるで子供だった。

飴をしゃぶるようにぺろぺろ舐めて、口に含んでちゅっちゅと吸う。

煽り立てようとかいう意図がないのは、それを仕込まれる前に放り出されたからだろう。

必死になって指を舐めるのは、卑猥というよりイケナイ感じだ。

素人というより、幼児モノというか。

指を引くと、一瞬追いすがる目。

うるりと濡れた目は、それでも確かに男を知っている。

胸を弄るが、酷く痛がった。

感じやす過ぎる。

開発より仕込み甲斐のある身体だ。

体中眺めまわしてみるが、触れればすぐに反応する。

敏感な身体。

胸で痛がったから身体はそっと触れたのに、今度はその程度で勃起していて。

アンバランスで、イイ。

驚かせぬように緩やかな動きで雄を握ると、泣きそうな目が見つめてくる。

やんわり扱くと、軽く息が弾んで目がもっと潤んだ。

ぴくっと跳ねる腰を楽しみつつ、微妙に加減して扱いた。

初心な身体に負荷をかけぬよう、手の込んだ事はしない。

リズムよく上下に扱きたてるだけでも、上がる声は十分に甘かった。


「んっんっ、ふ、んくっ」

「ふふっ、変質者になった気分だ」


笑いながら口づけ、少し強く絞った。

口の中に悲鳴になる筈だったものが流れ込んでくる。

手に残る白い蜜を、舐める。


「甘いな」

「や・・・・っ」


恥ずかしがって泣いてしまったイワンに苦笑し、脚を上げさせた。

震えながら大人しくしているのが、ちょっとだけ可哀想だ。

指を差し入れれば、柔らかく濡れた肉が激しく絡みついてくる。

何とも言えぬいやらしい動きで、思わず舌なめずりしたくなる。

ゆっくり入口を揉み解し、緩んできたところで奥に。

苦しそうに喉を鳴らすのが聞こえて、一旦止める。

落ち着いてきたら、根元まで差し入れた。

抜き差しせず、指先を動かしてみる。

左手で持った脚が、宙を蹴った。

もう一度同じようにすると、身体を捩る。

嫌悪なら、もっと苦しそうな筈だ。

掻き混ぜる度に、甘い匂いが増していく。

見下ろせば、立ちあがった雄は蜜塗れになってぴくぴくしていた。

指に力を込め、奥をぐりと突く。


「んくぅっ・・・・・!」

「おや、中々勢いが良いな」


びゅっびゅっと噴き出す精液は、一度目よりも勢いが良い。


「では、もっと奥を」


弄ってやろうか。

その言葉にぞくんとした期待を覚え、イワンは自身を恥じた。

だが、脚を広げられても抵抗はしない。

錯覚でも良いから、愛が欲しかった。

来た時は、主と同じように道具として扱うのだろうと思っていたのに。

こんなに優しく抱かれた事など、無い。

幸せな錯覚に微笑み、力を抜く。

ジッパーの音と、突き刺される熱い男根。

大きなそれにかなり苦痛が大きいが、我慢した。

後孔を押し開かれる痛みに混じる快感に溺れながら、イワンは霞む意識の中で手を伸ばし、男に口づけた。

主に一度だって許されなかった、接吻。

主の代わりではない。

ただ、錯覚の中の優しい男に、偽りの愛のお礼に。

沢山沢山、愛を込めた。





「・・・・・・何とも懐かしいな」

「・・・・・ヒィッツカラルド様・・・・」


あれから、1年半。

イワンは今もヒィッツと一緒にいる。

報酬を受け取った次の日、イワンが泊まる安宿にやってきたヒィッツ。

デートのお誘い。

戸惑いながら、でも何もすることもなくて。

初めての『デート』。

時折それに付き合い、残金が尽きかけると見計らったように『仕事』に誘われ。

字も書けないイワンは、ヒィッツに言われるまま例の仕事をした。

ヒィッツはカメラをセットしては、イワンを優しく抱いていた。

段々と世間の事が分かってきて、ヒィッツの作品と行為の差に気づき。

そっと、カメラを確かめた。

メモリは、入っていなかった。

から回るカメラと、デートや食事の誘い。

浴室から出てきたヒィッツに問う前に、抱きすくめられた。

机の上の薔薇の花は白。

大きな花束から一本抜いて、持たされて。

急性な事は言わないから、せめて一人で暮らせる常識が身につくまで、一緒に暮さないか。

途中で放り出したり、しないから。

声も出ないほど驚いた。

でも、頷いた。

考える前に、頷いていた。

確かに、常識を得たいのもあったけれど。

それより先に、ヒィッツに何かしてあげられると思った。

自分などに真摯な愛を与えてくれる、男に。

家事で何でも良いから、尽くしたい。

そう思ったのが、1年前、出会ってから、半年の時。

今も二人、一緒に寄り添っている。

ヒィッツは女好きで、伊達男を気取ったままで。

やっぱり彼の作品の男優は、彼のまま。

でも、プライベートでは、イワン一筋。

遊び人なりの変なけじめに、ちょっと笑ってしまう。

でも、大好きだ。

もう、主の事は記憶がぼやけて顔がかすんでいるけれど。

ヒィッツがいれば、いい。

お別れの時までに、早くいろんな事を学ばないと。

そういうたびに、ヒィッツは笑いながらどこか寂しそうで。

伊達男最後の恋を信じてもらうのは難しいな、と思っている事を、イワンはまだ知らない。





***後書***

伊達男は純愛ではないが割と、やや、ノーマル・・・・・だといいな!(曖昧)