【 もしもシリーズ-007 】



ここは年中春の場所。

華咲き乱れ、色恋の舞う。

花街。

その中でも一際粒揃いの『浮揺廓』。

楼主はそこはかとなく背筋の寒くなる好々爺。

カワラザキというその男は、若い頃ここで遊び倒し、壮年を過ぎて楼を一つ買って隠居している。

何をして稼いだのか知らぬが、現金で廓を買い付けるなんて前代未聞だ。

その上、あちこちの廓から引き抜いた気に入りを揃えて商売中。

後口悪くなく、しかし強引な手口に、他の楼主は苦笑うしかない。

だが、不思議な事がある。

あれだけ若いうちに派手に遊び倒した男が、気に入りを揃えた自分の廓ではとんと味見をしない。

遊女たちはこぞってしなだれかかり構って欲しがる。

確かにカワラザキは相手をしているが、指と玩具しか使わない。

まあ、女たちが言うには、奉仕すると立つらしい。

しかもかなりの大物。

だが、入れてはくれないと。

本気でされたら壊れるかもしれないからいいけれどという女達。

一発昇天というのはこういう事だと身をもって知ったと口をそろえる。

役に立たぬわけでない、女が寄らぬわけでない。

魅力十分、未だ現役。

ならば、何故。

誰が問うても笑って年だからとはぐらかす男。

ふらりと消えれば、誰も追えぬ。

息子という男が、楼で留守を守る。

不健康そうで少し不気味な雰囲気の彼がたった一言教える行き先。


「爺様は、妾の所だ」


薄ら笑う彼は、それ以上何も。

教えは、しなかった。





「元気か」

「あっ、カワラザキ様」

針仕事の手を止める男。

彼が纏うのは、絢爛豪華な赤い着物。

上等な赤い反物には豪勢に金糸で刺繍があしらわれ、それはきらびやかで美しい。

が、まったく彼に似合っていない。

完全に服に着られてしまっている。

その上それをどうにかしようという気はないらしく、膝に大きな白布を広げて、扱う針を無くさぬように。

赤い着物も、状況も、まさしく遊女である。

そうして、どう考えても囲われ者。

だが、嬉しそうにカワラザキに微笑む姿に媚びは見られない。

心底から惚れているとしか思えぬ、生き生きとした笑み。

着物が似合わぬのはこのためだ。

こんなはしたない恰好でいるのが似合わない。

袈裟でも着ていた方がまだ似合う。

イワンは座ったまま、カワラザキを見上げた。

針は、針山に刺している。


「冬の半纏を」

「去年のがまだあるぞ?」

「ええ、でも、作りたくて」


私はいつも貴方様の傍に居られません。

火鉢のお世話も、お風呂のお世話も、出来ないのです。

閉じ込められている事に気づかないひとは、愛らしく笑って首を傾げた。


「我儘です。好きに使っていいと言われたお財布から出しましたし」


駄目でしょうか、駄目なら幽鬼様に差し上げて下さい。

ちょっと寂しそうに言うイワンを、少し強引に抱き寄せた。

崩れる身体を膝にしなだれさせ、目元を指でくすぐる。


「いや、幽鬼にはやらん」


やるとしても、お古の方じゃのう。

茶化すように言うが、本心だ。

イワンも、幽鬼がどちらでもそう気にしない性質である事は知っている。

一生懸命作ったから、幽鬼でもカワラザキでもきっと温めてくれるはずだ。


「カワラザキ様」

「ん?」

「夕飯は、食べられました?」


いや、と首を振ると、イワンは身を起した。

屏風の裏から、盆を出す。


「いついらっしゃっても良いようにと揃えているものですから、大したものではないのですが」


飴色に煮込まれた、金柑。

自分が好きで、良く煮ていた。

幽鬼にも、良く食べさせた。

イワンに作り方を教えたのは、もう随分前になる。

だが、ここのところ、この辺りは金柑含め柑橘が不作だった。

自分も久しく煮ていない。

摘まんで口に入れる。


「少ぅし、渋が残っておるのぅ」

「えっ」


慌てて下げようとする手を取り、引き寄せる。

口づけて、金柑を口に押し込んでやる。

喉に詰めぬように口内を優しくかき混ぜると、イワンが小さく呻いた。

唇が離れ、金柑の蜜が金色の糸を引いた。


「渋が抜けたな」

「ぁ・・・・・」


頬を染めて俯く姿は初々しい。

買い取って、もう10年になる。

廓に隠居してすぐで、人買いに連れられてきた。

楼主達が幼女や娘を見つくろっていたが、カワラザキはその時20歳くらいだったイワンを買い取った。

イワンは服もぼろぼろで、ガリガリに痩せていた。

おまけに、体中傷だらけ。

聞けば、子供の時に売られたが、見目麗しくもないから手伝いをさせられているという。

女の具合を確かめるなんて出来なくて、暫くは人買いに殴られたが、その内諦めたか力仕事や家事になったという。

だが、いつでも役立たずと殴りつけられ、満足な食事ももらえない。

逃げる事も出来ないほど弱っていて。

二束三文で売ってやると言われ、買い取った。

いくら出しても良かったが、二束三文ならそれで構わない。

浮いた分で、幾らでも甘やかしてやろう。

浮かなくても、幾らでも可愛がる気でいたが。

異様に軽い身体を風呂に入れ、手当てをし。

装わせてもまったく似合わなかったが、自分の気が済むよう装わせた。

イワンは非常にしっかりした男だった。

財布を持たせても無駄遣いはしない。

だが、自分の為には惜しまない。

金柑だって、まだかなり高値だ。

半纏の生地も、惜しげない。

恩義かと思ったが、そうでもなく。

触れると恥ずかしがりながらすり寄ってくる姿を見れば、一目瞭然。

可愛い可愛い、自分だけのもの。

初めて抱いた翌朝は、それはそれは恥ずかしがって布団から出てこなかった。

顔も見ずに戻るのは寂しいと言ってみたら、真っ赤な顔をちょこんと出して「行ってらっしゃいませ」と。

10年経っても、愛しさは増すばかり。

イワンの身体はすっかり慣らされ花開き、相当激しい情交にも耐える。

カワラザキが本気で抱いても、二戦は頑張るのだ。

激しい悦楽に痙攣しながらしがみつく姿に、ついついいつも加減を忘れる。

今日こそは、優しく。

軽く笑って手を伸ばすと、イワンは頬を赤らめてそっと指を絡めた。

膝に引き上げて座らせ、似合わぬ着物を肌蹴る。


「んっ・・・・・・」


ぼんやりとした行燈に照らされる、ほの白い肌。

滑らかで触り心地の良いそれを指で辿る。

震える吐息に寒さを問うが、小さく首を振った。


「カワラザキ様に、温めて頂きたいです・・・・・」


恥ずかしがりながら、脚にかかる着物を肌蹴て太ももを剥き出しにした。

そう教えたからだ。

強制はしないが、してくれると嬉しいと。

健気なイワンは、いつも頑張って期待に添おうとする。

太ももを下から上に撫であげると、ぴくんと身体が震えた。

左手で背を支えて、尖りを弄り始める。


「んくっ、ぅ、く・・・・・・」


恥ずかしがりなイワンは、大きな声で喘ぐのがうまく出来ない。

だが、控えた甘い吐息が何とも興奮を煽った。

擦ると痛がる敏感な身体と心得て、くいくいと押しつぶす。

摩擦せぬように転がすと、腰がもじりと揺れる。

意地悪く指で構い続けると、息が弾んでくる。

潤みきった目が物言いたげだが、ただ笑って唇をつけた。


「んくぅっ!」


激しく震える身体から漂う甘ったるい蜜の匂い。

着物に手を差し入れて握ってやると、無意識に腰を擦り付けてくる。

だが、意地悪な男は握っただけで動きはない。

もどかしくて腰がゆらゆらするが、叱るように尖りを吸われた。


「ひぁふっ」


吐息と混じった声が出て、恥ずかしくて堪らない。

早く扱いて気持ち良くして欲しいという欲望が身体の中を暴れていた。

まるで読心したように、大きな手が動く。


「んは、は、はぁっ」


扱かれる気持ちよさに腰が砕ける。

もっとと突き出せば、激しさが増した。


「あぁあ、く・・・・!」


びちゃびちゃと吐き出される白い精液。

袋までぴくぴくさせて達する姿は相当刺激的だ。

着物を敷き込んで押し倒し、脚を開かせる。

濡れそぼった雄に舐めるような視線を這わせていると、萎えたそれがぴくぴくし始める。

首を振って恥ずかしがるイワンに意地悪く笑って、蕾に指を這わせた。


「あ・・・・・んっ」


きゅうう、と締まる肉の孔。

指を締め上げるそこは、受け入れるのには慣れている。

慣れているが、10年かけてこれだけというのは相当頑なだ。

ちょっとプライドが傷つくが、初々しいのは良い事と自分を納得させている。

ゆっくりと指を差し入れていき、柔らかい肉を刺激した。


「ひ、っ、ひぃ、ん」


弄られる度にきゅっきゅっと締まる孔。

挿入するとそのまま出してしまいそうになる名器だ。

たっぷり時間を掛けて柔らかくしてやると、鳴きも良い。

しつこいほどに弄り倒し、カワラザキは下衣を緩めた。

隆々天を突くものを軽く扱いて、すっかり油断している蕾に押し付ける。


「ふぁっ・・・・・」

「っ・・・・・・・」


柔らかくなっている蕾は、ゆっくりと男根を飲み込んでいった。

しわを引き延ばして受け入れる淫猥さと、可愛い顔で喘ぐ清純さ。

興奮に益々硬くなった男根で中をごりごりやれば、激しい悦楽に鳴きながら身を捩る。


「あっ、あ、ま、まって、苦し、い・・・・・んふゅっ」


苦しいと訴えているのに奥をぐりりとやられて悶絶する。

声も出ない。

呼吸なのか声なのか分からないものが喉から押し出されるばかりだ。


「ふ、ふぅ、く、ふくっ」

「気持ちよさそうな顔じゃのぅ」

「んっ、んく、く・・・・・ひぐぅっ」


突然中に広がる熱いもの。

一体何歳なのか疑わし勢いのそれが刺さるように当たって、イワンは堪らず達してしまった。

涎を飲み込むのも出来ないで口端から垂らしたまま、ぴくりぴくりと痙攣している。


「ぅあ、あ・・・・ぁは・・・・・」

「おや、意識が飛んでしまったか」


目は開いているが、黒目が蕩けて完全にイってしまっている。

昇天した女が白目をむくのはよく見るが、イワンがそうならないのは非常にプライドが傷つく。

だが、癇癪を起こすような年でもない。

死ぬまでのライフワークと勝手に決め、もう一回。

開いている襖を閉める時、暗闇に紛れる一匹の蝶に嗤い掛ける。


「誰にも、言ってはならん」


それがぎくりと身を竦ませて飛んで行くのを見やり、イワンを抱き直す。

自分が死んだって、渡さない。

死ぬ時は。

どこまでも。

連れていく。

冷めた部分のある自分は狂気じみた愛など一生縁がないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


「・・・・さて・・・・もう少し可愛がってやろうかのぅ」


くたりとした体を抱き、耳を噛み。

男はとても、楽しげだった。





***後書***

枕詞…『ぬばたま→黒』『カワラザキ→ゴッドハンド』『最近の作品→フリーダムにも程がある』