【 もしもシリーズ-010 】



地震に見舞われた街に、セルバンテスは足を踏み入れた。

優しげな笑みの男だが、彼は人を売りさばく『奴隷商人』だ。

今ここに居るのも、良い品物を安く仕入れるため。

天災は広範囲で被害が大きく、防ぐのが難しいものだ。

だから、破格で身を売る者がいる。

母が子の為と言う場合は言うに及ばず、足手纏いの子を処分する場合もある。

目の前にも、獲物はいた。

後姿からして父親と娘か。

そう年もいっていなそうなのに禿頭の男と、10にも満たぬ幼女。

パンをせがむその子に、男はもう泣きそうだった。

大方、金も物々交換できるものも無いのだろう。

近づいて、声を掛ける。


「その子、売らない?」


言葉に目を瞬かせ、意味とセルバンテスの商売を理解した男が睨みつけてくる。

が、どこか行こうとしたって無駄だ。

直ぐに回り込んだし、第一娘はパンに未練があるようだし。

セルバンテスが何者かは分からずとも、パンの匂いは分かるのだ。

おなかがすいたと泣きだした少女に目をやって、笑む。


「ね、煩いし、邪魔でしょ?君だっておなかすいてるよね、勿論この子も」


意地悪くつつき、最後で少女の事を引っ張り出し。

男は唇を噛んだ。


「・・・・・・パン、二つ分の代金で」


私をお売りします。

セルバンテスは目を見張った。

パン二つと言うのが異様に安い。

人間の相場を知らぬのは当たり前だが、それにしたって何故2つ?

問うと、男は小さな声で事を語った。

この子は自分の娘でなく、仕える主の娘。

主は他の街に出かけているが、地震の事を知って帰ってきている筈。

今夜にも、着くだろうと。

でも、この子には昨日もおとといも我慢させたし、もう、自分が我慢させる事に耐えられない。

少食だしまだ小さいから、2つパンがあれば今夜まで十分おなかいっぱいでいられるから。

この子を父親に返したら、暇をもらって奴隷になるから。

そう言って、儚く微笑んだ。

あまりに直向きで、馬鹿みたいに優しい。

それでいいと頷いて、パン5つ分の代金を渡した。

どうせ、一昨日までは自分の分まで少女に与えてしまったのだろうと。

彼はパンを5つ買ってきて、4つを少女に渡した。

夢中で食べる少女が一応落ち着くまで待ち、パンを3つ抱えている上に、自分の持っていたのを乗せる。


「お父上の分です。急いで帰ってこられるでしょうから、きっとおなかをすかせていらっしゃいます」


少女は賢そうだが、如何せん幼すぎた。

素直に頷いて男に抱きついて。

今夜でお別れとも知らず。

日が暮れかけの人込みから外れて、広場の端で待つ。

最後のチャンスをやろうと思った。

逃げるなら、逃げていいのだと。

でも、彼はセルバンテスのもとに戻ってきた。

父親を見つけた少女が走り出したから手を放し、抱き上げられるのを見てからここに来たと。

暇をもらうと言ったら問い詰められるから、あの子が叱責されるから。

黙って、来たと。

伴って歩けば、大人しくついてきて逃げもしない。

門の外、同じ穴の狢達の馬車の中、一際上等な幌のそれに乗り込む。

イワンを引き上げると、彼は一瞬振り返りかけ。

寂しそうに笑って、俯いた。





「おなかすいたな・・・・・・」

宿を取らず、そのまま隣国の別荘まで馬車を駆る。

ぼやくと、何かお作りしましょうかと言われた。

玄関に入りながら振り返ると、柔らかく笑っていた。


「いつも、お作りしていたんです」


彼の主・・・・いや『元主』は、彼の料理が気に入りだったらしい。

特にオムレツが好きだったと。

それで、作ってとねだった。

基本的にセルバンテスは売り物を安く仕入れ、状態を良くしてから売りさばく。

状態とは、男なら体力や性格補正。

女なら肌やあっちの具合だ。

そのため、特に女や子供は仕入れてしばらく傍に置く。

少年少女を従順にしつければ高値だし、女は個人的に楽しい。

だから、躾易いように少人数しか保有しない。

今キープしているのは本国の館に置いているから、ここに居るのはイワンだけだ。

食事中、彼は後ろに控えていた。

お代りすればすぐに作ってくれた。

だから、まさか。

つまみ食いもしないで調理しているなんて思わなかった。

きゅう、と音がしてきょろきょろして、小さく唾を呑む音がして。

まるでお預け中の犬のように目を頑なに逸らしているのに気付かなかった。

やっと気付いて、慌てて一緒に食べようと言ったけれど、彼は酷く遠慮した。

だから、急いでもう2口食べて、もう食べれないから食べてと言った。

イワンは酷くゆっくり食事を取った。

時折小さくえづいて苦しそうなのは、卵が嫌いとかではない。

嫌いならこんなにいい具合に調理なんて出来ない筈だ。

恐らく、相当長く空腹でいたのだ。

地震があったのは10日前。

食い繋ぐには、簡単に見積もってパンが10個はいる。

二人で食べれば、3日で尽きる。

少女だけに食べさせれば、少し我慢させて5日。

我慢させたのは、3日前から。

いくつ持ちだせたかは知る由もないが、彼はきっと10日間絶食だったのだ。

可哀想で、苦しそうな食事から目を背ける意味も含め、台所へ。

料理がてんで駄目な自分が出来る数少ないもの、ホットミルク。

戻ってもまだ食事中だった。

かなり苦しそうにしていて、空腹で食べたい欲望があるのに胃が受け付けぬのだと知る。


「ね、ちょっとやめておこう?気持ち悪いのが治まったら、また食べていいから」

「はい・・・・すみません・・・・・」


フォークを置いて申し訳なさそうにするひとに、名前を聞いてみた。

イワンと名乗るから、自分も名乗る。

頷いて見せる頬笑みが可愛いと、思った。





イワンが来て1カ月。

セルバンテスはすっかり彼に懐いていた。

優しく実直な彼はなんだか母親じみているが、それ以上に魅惑的だ。

時折香る色気は例えようなく芳しく、思わず手が伸びる。

が、引っ込めないと警戒されると、いつも我慢。

でも、裸ぐらいは見てみたい。


「お風呂ですか?」

「うん、今日の凄いよ」


ちょっと奮発したから、と笑うと、イワンは苦笑して笑う。

セルバンテスは稼ぎも大きいが金使いも荒い。

贅沢したがるわけではないが、興味があるものにはどんどん札束を突っ込むタイプだ。


「ね、一緒に入ろう」

「お背中ですね」

「ううん、イワン君もお湯に入るの」

「え・・・・・?」


目を瞬かせるイワンに、にこりと笑う。


「イワン君の身体、見せて・・・・・?」

「せ、セルバンテス様」


恥ずかしがって俯くイワン。

美人でも女っぽくもないが、愛らしいことこの上ない。

笑って抱きしめ、なおもねだる。


「ね、ね、一緒に入ろう」

「で、ですが」

「じゃなきゃ冷蔵庫のオレンジ食い散らかしてやるっ」

「だ、駄目ですっ、あれは今日の夜にゼリーを・・・・・」

「えっ・・・・・?」


聞き返すとイワンは恥ずかしそうに俯いた。


「・・・・・この前、食べたいと仰っていたではありませんか・・・・・」

「・・・・覚えててくれたの?」


あーあ、オレンジのゼリーで気分すっきりしたいよねぇ。

そう言ったのは、2日前。

気まぐれな思い付きだったのに、準備していてくれたなんて。

嬉しくて、ぎゅうぎゅう抱きしめた。

やっぱり、このひとが大好きだ。


「ねぇ、お風呂入ろう?」

「・・・・・わ、分かりましたから・・・・・」


とうとう白旗を上げたのに手を放し、軽いキスを。


「入って待ってるね。早く来てくれなきゃ、オレンジ食べちゃうから」


嬉しそうに鼻歌を歌って歩いていくセルバンテスを見て、イワンは苦笑して呟いた。


「やれやれ・・・・子供の脅しだな」





「失礼します」

「ん?ああ、どうぞ」

湯煙のこめる浴室は広々とした大理石製。

湯はなみなみと張られ、水の貴重なここでは王族級の贅沢だ。

が、セルバンテスは当然のようにばしゃばしゃやって入浴中。

イワンは昔からの癖で、水をあまり使わぬように、丁寧に身体を清めていた。

その背中を見つめ、セルバンテスは眉をひそめた。


「・・・・・・それ、鎖?」

「え?あぁ、そうです」


子供の頃に、鎖で殴打されまして。

事も無げに言うが、背中は惨たらしく抉れた傷跡になっていた。

それも一発や二発ではない。

もう、背肉が変形している。


「前の主人?」

「いえ、その前です」

「前?」


私、奴隷でしたから。


「え・・・・・?」


イワンの目が、寂しい色をたたえた。


「子供の時、地震があって」


弟がいました。

二人、双子で。

母親は一瞬の迷いもなく、私を切り捨てました。


「父親は死んでいましたし、私は余り役に立ちませんでしたから」


初めは、お兄ちゃんだから我慢するのよという言葉を信じました。

初めてもらった暖かい微笑みも嬉しかった。

でも、1年経っても連絡もなく。

売られたと気づくまで、2年かかりました。


「馬鹿な子でした」


うまく世渡り出来なくて、人買いにぶたれてばかりで。

ある朝起きたらごっそり髪が抜けて、値が下がるとますますぶたれて。


「その時に、主に・・・・前の主に買われました」


私が11、あの方が16でした。

それから、ずっとお世話をして、御結婚も見守らせていただいて、お子が出来て抱かせていただいて。


「セルバンテス様に声を掛けられたあの時、昔の事がよぎりました」


売られた娘がどうなるのかと恐ろしかった。

空腹に泣くのが、ぶたれる自分を思い出させた。

だから。


「もう一度、昔に戻るだけと覚悟したのです」


ねえ、覚えていらっしゃいますか。

こっそり私と遊んでくれた、私に優しい嘘を2年も信じさせてくれた。


「・・・・・貴方ともう一度暮らせて、幸せです」


笑顔が儚くて、出会った時、いや再会した時と変わらなくて。

何も言えなかった。

黙って出ていくイワンを茫然と見送るしか。

出来なかった。





「・・・・・・・イワン君、怒ってる?」

「何をですか?」


傍に控えて、首をかしげる人。

ゼリーをつついて、呟く。


「・・・・・・忘れていた事。それと、嘘をついた」

「・・・・・いいえ、セルバンテス様は良くして下さいました」


首を振るのが分かるが、目を向ける勇気はなかった。

父は自分より仕事が荒かった。

いつも力で商品を躾けていた。

その中で酷くぶたれる一人に気付いたのは11の時。

商品を入れている館に行けば、皆少しでも扱いを良くしたいとセルバンテスに媚びへつらった。

だが、酷くぶたれるそれはそうしなかった。

その素直すぎる不器用さが、ぶたれる原因だ。

7つくらいの男の子は、毛髪がまだらに抜けていた。

遊ぶようになって、話を聞いて。

売られたのを知らないと知った。

あまりに純粋なその子が傷つくのが怖くて、嘘をついた。

次に2月の29日が来たら、お迎えが来るんだ。

浅はかだった。

閏年まで2年あった。

子供は2年を永遠のようにながいと勘違いしていたのだ。

嘘でないと信じさせようと、沢山約束を、些細でも約束をして、けして破らなかった。

そして、2月29日が来た。

イワンが売られて、2年半後だった。

迎えは来ず、彼はそれが嘘だと知った。

詰られるのが怖くて会いに行けなかった。

行った時には、もう売られていて。

ただただ自分が、悔しかった。

だから、自分は奴隷商人になった。

奴隷は荒廃したこの国に溢れかえっている。

ならば、優しくしつけて品質を高め、少しでも過酷でない場所に押し込んで。

実際、セルバンテスの売った者たちは他の奴隷より格段に扱いが良い。

良い品は大切にされるのだ。


「・・・・・・・ねぇ、イワン君」

「はい」

「あれは嘘じゃないんだ」

「セルバンテス様、もう・・・・・」


良いのです、と言う前に、抱き寄せて、座っていたベッドに押し倒す。

ベッドに沈め、目を合わせ。

そっと、唇を合わせた。


「言ったよね、お迎えが来るって」

「はい、仰いましたが・・・・・」

「誰が来るか、言った?おかあさんって、言った?」

「い、いいえ・・・・・」


真剣な瞳にたじろぐ。

いつもふざけているセルバンテスの真摯な瞳に鼓動が頭に響いた。

もう、昔の話だから、いい。

恨んでない。

前の主人よりあなたと一緒にいたいのに。

でも、言えなかった。

パン5つで売った身を引っ張りまわそうが他所へやろうが、彼の自由なのだ。

嬉しそうにパンを食べていたあの少女の笑顔が結果で、後悔はないのだから。


「・・・・・・迎えに来たよ」

「・・・・・・・?」


静かな夜の音しかしない。

時折馬が嘶いて足踏みするのが遠くから聞こえるだけだ。

戸惑って、胸に額をつけるセルバンテスの頬を包み、上げさせる。

セルバンテスは、怖気づいていた。


「・・・・・・迎えに来たのが、私だったら、嫌?」

「あ・・・・・・・」


思わず、ぎゅっと抱きしめた。

誰が迎えに来るより、嬉しい。


「あの、ただ、私が想っているだけですが」


セルバンテス様の事が、好きです。

この世で一番、大好きです。

可愛い告白に、一瞬呆けた。

そして、一気に舞い上がってしまう。

こんなに可愛いひとが、好きだと言ってくれた。

嬉しくて嬉しくて、思わず唇を吸う。


「ん・・・・・・」


一瞬目を眇め、そしてゆっくりと閉じて口づけに酔うイワン。

間近の愛らしい仕草が愛しい。


「ん、はぁ・・・・・・・」

「気持ちいい?」


とろりと潤んだ瞳で見上げてくるイワンに問えば、微笑んで頷いてくれる。

頬がピンクだが、一生懸命求めようとしてくれていた。


「ねぇ、イワン君」


大好きだよ・・・・・・。

結構自慢にしている甘く低い声で囁けば、ぴくんと震えてもじもじする。

可愛い反応が嬉しくて、服を脱がせた。


「あ、あの・・・・・・・」

「分かってる。うつ伏せにはさせないから」


不安そうな顔を覗き込んで約束すれば、イワンは小さく頷いて首に手を回してきた。

すり寄ってきて甘える姿は、可愛いが何とも色っぽい。

支える手に感じる抉れた肉からそっと手を離し、胸をさする。


「痛い?」

「ん・・・・少、し」


胸を弄ると眉が軽く寄る。

色々と試して、軽く練ると反応が良かった。


「んっ、く・・・・・・・」

「大丈夫、声出していいから」

「でも・・・・・・ひんっ」


突然下に手を延ばされ、脚が引き攣った。

甘く立っているものを握られて腰が痺れる。


「せるばんてすさまも、しないと・・・・・んくふっ」

「私は良いから。後でイワン君の可愛いお尻に入らせて?」

「ん、は、はぃ・・・・・・」


必死で返事をするのが微笑ましい。

実際怖いだろうに、受け入れようと頑張っている。

握ったものを軽く扱くと、イワンの腰が一緒に揺れる。

動きは控えめだが、彼にも性的な欲望があると感じられて嬉しい。


「ん、息吐いて、力抜いて」

「あっ、あ、だめ、おしっこ、でる・・・・・」

「ふふっ、じゃあこうしようか」


涙ぐんでベッドに漏らすのを嫌がるイワンにいやらしく笑い掛け、握っていた雄を口に咥えこんでしまう。

嫌がって腰を捩るから、両手でしっかりつかんで舐めしゃぶる。


「ひ、っ、んく、ふ、くう、ぅ・・・・・・・」


ちゃぶっちゃぶっと卑猥な水音が上がり、射精感とごちゃ混ぜの尿意が押し寄せてくる。

我慢しているのに執拗に吸われ、我慢でひくひくしている蕾までつつかれて。

我慢できずに、とうとう漏らした。


「あっ、あぁ、あ、あ・・・・・!」


急速な解放に唾液が溢れる。

必死で飲み下すが、追いつかない。

微かに届く音で、小水を飲まれているのが分かる。

でも、何も考えられないくらい気持ちが良くて。

吸われるままに、漏らしていく。

終われば、芯を持ったものの鈴口を舌で抉られて悶える。

そのまま、口の中で射精してしまって。

精液を飲み込んでいる音に目眩がした。

唇が離れ、耐えきれずに顔を隠す。

耳元で男の色気を内包した甘い声が跳ねる。


「顔見せて・・・・・キスしたいから・・・・」


おずおず手を退ければ、優しい微笑みを浮かべた大好きな人。

キスしようとして一瞬戸惑うから、引き寄せて口づけた。

男の精の味が残る後内で舌をまさぐり合い、薄まる味の代わりに濃くなる煙草の味。

水煙草が好きなのだと知っている。

吸っている姿が優雅で、とても好きだ。

なのに、自分が行くとすぐに火を消してしまうから。

気を使ってくれるのは嬉しいけれど、残念だ。

夢中で舌を絡め合っていると、下肢をまさぐられた。

脚を開かされて恥ずかしいが、目を閉じてキスに集中する。

ぬめる指を入れられて痛んでも、悲鳴が口づけに消えていくから。

奥まで突かれて喉が鳴ったが、宥めるように掻き混ぜて、甘やかすように唇を吸ってくれて。

幸福感が押し寄せてきて、抱きついて腰を擦り付けた。

少し締まったが、それは興奮を煽ったらしい。

ごくりとなる喉が嬉しくて、耳元で小さくねだった。

それは自分の欲望と言うよりは我慢させたくないという思いからだったが、察してもセルバンテスは怒らず乗ってくれた。

ゆっくりと沈められる男根は酷く熱く、硬く反っていた。

温かい汁がまとわりついているから、相当興奮していたのだろう。

痛みにこわばる身体を動かし、下衣だけ緩めているセルバンテスの身体から服を落としていく。

少し驚いている様子だったから、恥ずかしいのを我慢して脚を大きく開く。

そそり立ってぴくぴくしているものを、自分で握って見せた。


「私も、セルバンテス様の身体に興奮しているのです・・・・・」

「っ・・・・イワン君・・・・・!」

「んんっ、は、ぁ!」


始まった突き上げは、まだまだ衰えぬ若々しさと、気遣いを垣間見せていた。

疼くような痛みと、思わず締めてしまうような気持ち良さに喘いでいると、腰を掴んでいた手が離れた。

苦しい呼吸を繰り返しながら見上げると、笑ってくれる。

両手をベッドに押しつけるようにされ、指を絡められ。

今度は、ゆるく腰を揺らされた。

もどかしい快楽に思わず腰を揺らせば、合わせるように突き上げてきて。

甘くて、でも酷く気持ちが良い、交わり。

指を強く絡めたまま、上り詰める。

締まった中に吐き出される熱い滴が、とてもとても。

愛しいと、思った。





「ごめんね、返す事は出来ないんだ」

「・・・・・・・・そうか」


奇しくも2月の29日。

迎えが来た。

返せと迫った男は奴隷が12、3人は買えようと言う金を積み上げたが、セルバンテスは断った。

あっさり引き下がるのに首を傾げると、金を置いて葉巻を咥えて歩き出す。

受け取れないと突き返そうとすると、つっけんどんな返事。


「イワンの退職金だ。あと、貴様に」


祝儀として、くれてやる。

察しのいい男に、振り返る。


「ねぇ、名前は」

「アルベルトだ」

「そう」


今度、遊びに行っていい?

陽気な男に自分と同じ匂いを感じ取り、アルベルトは片眉を上げた。


「イワンを連れてくるならな」


たまには、あれのオムレツが食いたい。





***後書***

書いてる途中で色々要素を詰め込んでいたら、幻惑の楽しい浣腸タイムを完全忘却!(不幸中の幸い)