【 もしもシリーズ-011 】



満員電車。

3両目。

女性専用指定なし。

通勤ラッシュ真っ只中。

イワンは溜息をついてぎゅうぎゅう詰めのそれに乗っていた。

まさか、女性率が限りなく少ないと分かり切っている車両で。

女性が傍に居ないと分かり切っている状態で。

痴漢行為を受けるなんて思わなかった。

尻を触ってくる大きな手。

骨太な男の手なのが分かる。

最初は気のせいだと思った。

次は、勘違いだと。

だが、耳元にかかる生温かい息が荒くなってきて。

段々、怖くなってきた。

周りは誰も気付いていない。

助けを求めたいが、とても出来ない。

自分は男で、もう33歳で。

禿頭の鷲鼻、どう見たって見目は麗しくない。

助けてもらえても、笑い者になるだけだ。

俯いて、背後を伺う。

怖い。

尻を触る手つきはいやらしく、少し痛いくらいに力強い。

不意に、前を触られた。

ぎょっとして見やるが、人と人に挟まれたこの状態では下肢など見えるわけがない。

触っているのだから、男と分かっている筈だ。

触ってくる手は、明らかに男の手だ。

気持ち悪い。

怖くて堪らない。

はっはっと耳に息を掛けて触ってくる痴漢。

尻を揉みしだき、前をいやらしくさすってくる。

これだけ恐ろしい思いをすると、立つものも立たない。

ドアが開いた瞬間、走って逃げだした。





「何だったんだ・・・・」

溜息をついて、社に入る。

勤務先は58階なので、エレベーターを使う。

結構な階数なので、利用者は中々多い。

ずらと並ぶエレベーターの一つに乗ると、どどっと人がなだれ込む。

ボタンのところに押しやられたため、頼まれる階数を押した。

そして、その僅かな時間に。

また。

でも、今度は。

押しつけられて、いる。

勃起していると明らかに分かるそれは大きくなっていて、温かさが伝わってくる。

身体をずらすと、追ってくる。

周りは全員男性で、でも全員まともそうで。

何だか、訳が分からない。

誰がと特定するより、自分が白昼夢を見ているのではないかと疑ってしまう。

こすりつけられて尻が引き攣ると、益々調子に乗ってくる。

エレベーターが48階で止まった時に走り出て、あと10階は階段を駆け上がった。





「疲れた・・・・・」

鬼上司からの容赦ない注文に応え、疲労困憊で帰路につく。

帰りの電車では痴漢に遭わなかったから良かったが、今日は厄日だ。

溜息をついて、立ち止る。

疲れたから、ショートカットしてしまおう。

右に曲がって、路地を歩く。

それがいけなかった。

背後から近づく足音に、少し怖くなって足を速める。

ちょっと振り返り、息が止まった。

顔を見るわけにもいかないからやや下の方を見たら、飛び込んでくるもの。

もろ出しの、大きな男根。

ぼろろんぼろろんと揺れている。

小走りだから当たり前だが、異様としか言いようがない。

そこだけ露出させて追いかけてくる男。

自分は今スーツだし、禿頭。

分かっていてやっているのだから、どう考えても、変質者の中の変態だ。

怖くなって全力で走る。

追いかけてくる気配が、途中で途切れた。

結局遠回りになった帰り道を怯えながら歩いて帰る。

直ぐに風呂に入り、体中洗った。

何か纏わりついているようで嫌だった。

綺麗にして、歯も磨いて、ベッドに直行。

もう何もしたくなかった。

脱力しながら横になり、サイドテーブルの電気を消そうと手を伸ばす。


「ひぃっ」


ふとみた姿見。

ベッドの下に居る、おっさん。

それも、自分の上司ではないか。

いつも真面目で、訳あって引き取った養女を溺愛する優しく厳しいひと。

何故、何故、一体何が。

のそ、と這いだしてくるのを茫然と見上げていると、男がにやっと笑う。

チャックは全開、と言うならまだいい。

コート生装備、下の方のボタンが全開。

むさ苦しい脚から、勃起して汁塗れのものまで完全に露出している。

余りの恐ろしさに固まっていたイワンは、やっと電話に手を伸ばした。

通報!

が、やはり慌てていたようだ。

こんなに近くに変質者がいる状態で許される筈がない。

手を掴まれ、ゆっくりとのしかかられる。


「あ・・・・あ・・・・・樊瑞様・・・・・」

「イワン、待ちわびたぞ」


毎日毎日、お前が愛らしさを増していくのを見ていた。

我慢していたが、もう限界だ。


「露出ではもう、足りんのだ」

「や・・・・やめっ・・・・!」


服を引き裂かれ、暴れる。

痛々しい音を立てて破れるパジャマ。

薄緑のそれから白い肌が見えて何とも卑猥だ。

嫌がるイワンに体重を掛け、強く拘束する。

胸の尖りに舌を伸ばすと、怯えて見つめていた。

ぬる、と含む。


「ふくっ・・・・・!」


ちゅ、ちゅ、と吸って舐めると、脚がもがく。

軽く噛んでやると、唇から熱い溜息が零れ落ちる。

だが、ストイックな精神の彼はそれを頑なに認めない。

歯を食いしばって抵抗する。

敏感だが、慣れでもなさそうだ。

身体を眺めても、変色も変形も無い。

男に対する反応もなっていない。

彼が秘書をしている社長との噂もあるが、ガセの様だ。

尖りの先をちろっと舐めて唇を離すと、イワンが益々真っ青になる。

どうやらすぐさま突っ込まれると思っているらしい。

女と違うのだから、そのまま突っ込める筈がない。

何も知らないのに薄く笑み、耳を唇で挟む。


「優しくされたいか」


優しくして欲しいと請わねば、そのまま犯すぞ。

イワンは唾を飲んだ。

そそり立ってびくびくしているものは相当な大きさだ。

入るとは思えなかった。

捻じ込まれたら、死ぬかもしれない。

怯えるイワンににやついていると、イワンはギュッと目をつぶって顔を背けた。

緊張に顔が白くなっていく。


「・・・・・いかんな」

「はっ、は・・・・は・・・・っ」


余りの恐怖に貧血を起こしかけている。

まるで怖がりが病院に連れて行かれたように。

歯の根は合わずがちがちと鳴り、身体もこわばり。

肌は冷たく湿って、激しく震えていた。

流石に可哀想になって、噛まれる覚悟で口づけた。


「ん・・・・・・」


ちゅくちゅくと舌を絡めると、素直に身を任せた。

至近距離の大ぶりな目が、一気に潤んでいく。

ぽろぽろと涙を流すから、頬を包んで問う。


「・・・・・・儂が嫌いか?」

「・・・・・っ」


必死で首を振り、しゃくりを我慢する姿。


「まえ、に」


樊瑞が連れてきた娘が、おじさまと仲良しなの、と聞いた。

そうだと答えると、おじさまは貴方が好きよ、と。

いつ、おかあさんになってくれるの。

複雑で、嬉しくて、悲しかった。

きっと勘違いしていると。

自分が勝手に恋している人は、魅力的な男性で。

部下に檄を飛ばして、自分に厳しくて。

憧れていて。

人づてに運良くもらえた樊瑞の写真を、いつも持ち歩いていた。

大好きな人。

叶うとは思っていなかった、それでも良かった。

なのに、娘は自分が好きと言う。

違う。

この前だって美人と歩いていた。

第一、自分なんかに興味を示す筈がない。

誰か、好きな人がいるのだ。

この少女はそれが自分と勘違いしている。

樊瑞様が迎えに来て下さったらと、泣きそうなのを我慢して微笑んだ。

少女の笑顔がつらかった。

つかえながらそう言うと、樊瑞は驚いたように目を瞬かせた。

そして、その精悍な相好を崩す。


「ちゃんとサニーに教えていたのだ」


好きな人がいて、その人はこっそり自分の事を思っている。

いつか好きだと告げて、連れて帰る。

おかあさんに、なるひとだ。

その言葉に、イワンは眼を瞬かせて茫然とした。

理解しても、やっぱり涙が溢れてきて。

でも、それは嬉しい涙で。

必死にしがみついて、好きと言った。

樊瑞は格好良く笑って抱き返してくれて。

凄く、幸せだった。

腿に感じる勃起したものに、段々愛しさがわいてきた。

放っておいては、可哀想だと。

でも、触る勇気が無くて。

そっと、脚を開く。

こくんと唾を飲んで、いれてください、と言った。

樊瑞が苦笑する。

一途で優しいひとだ。

貧血を起こすほど怖かったのが変わるわけでもない。

だが、心が繋がったから耐えようとしてくれていて。

嬉しくなって、口づける。

ちゃんとすれば怪我をしたり痛い思いはしないのだと教え、触れる。

きゅんと窄まったそこに、自分の雄からどろどろ垂れている先走った汁を塗りつけた。

ゆっくり指を差し入れて、掻き回す。

きゅっきゅっと締まるそこは可愛いピンクで、何とも興奮した。

指一本でゆっくり掻き混ぜ、軽く抜き差しする。

掴んだ脚がぴくっと反応する箇所を責めてやると、甘い呟くような喘ぎが零れ始める。

可愛さに高揚しながら、二本三本と増やして。

たっぷり柔らかくした。

自分のは相当大きいから、良く拡げておかないと痛い思いをさせてしまう。

初めてで頑なだが、身体は柔らかい。

締まりは良いが、拡がりも良い。

益々興奮してぬるぬるになっているものを押しつけ、少し強く当てる。

ひくひくしている孔ににゅる、と入り込む亀頭。


「はぅっ・・・・!」

「っは・・・・・!」


亀頭をにゅぐにゅぐ包む肉は、温かくたっぷり濡れて、例え様のない快楽だった。

じわじわ押しいれば、奥に行くほど柔らかく濡れていて。

根元まで填めると、先が柔らかい壁に埋まる。

限界まで広がったピンクの孔は、強く根元を締めつけている。

だが、幹をにゅくにゅく揉んで亀頭をピタリと包む。

何とも心地よい。

女など到底比べ物にならぬし、こっちの玄人の女でもここまで良くはない。

彼が男性と言うのもあろうが、素質もある。

仕込めば、もっと育つだろう。

楽しみな育成計画に目を細め、ゆるく抜き差ししていく。

イワンの腰がよじられ、背が少し浮いた。


「あぁ、っあ・・・・・・」

「そんなに、いいか・・・・・」

「あっ、あ、ぁぁ・・・・・あ・・・・・」


猫の鳴くような声で身体を震わせているのが可愛い。

息を詰める男の耐えと言うより、突かれてよがる女・・・・それも娘の様だ。

声は高いが男声だ。

身体もまごう事無く男性。

だが、余りに愛らしい。

匂い立つのは色気と愛らしさ。

あふれる愛情のままに奥に種付けする。

イワンはぴくぴく震えながら緩い射精をしていた。

流石に初めてで勢いよくところてんは出来ないようだ。

だが、種付けの刺激でかなりの快楽を得ているようで。

愛らしさに優しく微笑み、濃厚な接吻をした。





寿退社したイワン。

樊瑞の家に引っ越して、嫁に。

娘のサニーは大変喜んで、すっかり懐いている。

戸籍上は樊瑞の我儘により、イワンが樊瑞の息子に養子縁組。

勘弁してほしかったが、でないとストリートキングを敢行すると言いだしたので泣く泣く役所に。

樊瑞と家族になるのは嬉しいが、それで彼に迷惑がかかるのが怖かった。

だが、何の困ったことも無し。

たまに社長と重役達が樊瑞にくっついて押しかけてくるので、お酒のお世話。

そして、夜は布団に引っ張り込まれて、樊瑞の息子のお世話。

彼の息子はイワンのお尻が大好きだし、樊瑞も。

中に入れられたままお尻を揉まれるのが気持ち良くて、恥ずかしくて。

慣れていく身体が怖いけれど、樊瑞が嬉しそうだから。

やっぱり、幸せなのでした。





***後書***

イワンさん、騙されてる気がする。