【 もしもシリーズ-012 】



「はーい・・・・・」

日曜の朝っぱらから慣らされたチャイム。

眠いのを我慢して出ると、黒いスーツの怪しげな男。

少し不気味な男は、スッと名刺を差し出した。

反射で受け取り、見てみる。


「○○○のスキマ、お埋めします。暮れなずむ幽鬼・・・・・・?」

「埋めて欲しくはないか?」


お前の埋めて欲しい隙間、私は知っている。

ひそりと囁かれ、ちょっと気味が悪いが、確かに埋めて欲しい。

壁のピン穴が目立ってきたから、石膏ボンドで埋めてくれないだろうか。

そう考えていたら、突然家に押し入られた。

吃驚して押し返そうとすると、玄関に押し倒される。

仰向けで見えなかったが、ドアの閉まる音がした。


「・・・・・何するんです」


相当肝が座っているイワンは、のしかかっている男を冷ややかに見つめた。

一因に『自分に手を出すほど飢えた男はその前に犯罪に走る』とたかを括っているのがある。

飢えた男が自分に手を出す筈がない、同じ罪に問われるなら可愛い子を選ぶ。

そう信じて疑わないのだ。

セールスマン・・・・・幽鬼はその無垢な心に笑みが隠せなかった。

こういう純粋さを穢して、泣き叫んでよがる姿を見るのが堪らないのだ。

急性に服を引き剥がしても、イワンの心は全く動じない。

だが、幽鬼が脚を開かせ内腿に吸いつくと、初めて意図が分かったらしい。

異常者だ、と慌て怯え始めるのが可愛い。

だが、もう遅い。

しっかり押さえ込んで、皮膚が引き攣るほど握りしめた脚をべろべろ舐めまわす。


「っひ・・・・・・っ」


怖いとか、変な人だとか、気が違っているとか。

まるで小娘の思考だ。

何をされるのかとか、痛くされるんじゃないとか全く考えていない。

何とも心地よいその清純さに酔い痴れながら、脚の先を口に含む。

嫌がって丸まったそれを舌でこじ開け、間を舐めまわす。

くすぐったいのか脚が暴れるから、罰するように噛みついた。


「痛っ・・・・・!」

「これぐらいで痛がっていては、先が思いやられるな」


にたぁ、と笑って舌なめずりすると、愛嬌のある顔が真っ青になっていく。

脚先にちゅっとキスをしてから、伸び上って耳に舌を入れた。

嫌がる頭を押さえつけ、両耳の穴をべちゃべちゃに汚す。

気持ち悪さに涙ぐんできた彼の立派な鼻を掴み、ぐいと上向かせ。

鼻の穴に舌を入れる。

耳鼻科とかいう次元でない異常事態、しかも変質者にという異常性から、イワンは狂ったように暴れて嫌がった。

声は出さなかった。

口を開けたら何をされる事か。

余りに恐ろしい想像に、喉が引き攣る。

幽鬼は暫く鼻を舐めていたが、その内唇を放した。

片手でベルトのバックルを緩め、下着を下ろして取り出す。

イワンは恐ろしさで気を失いそうだった。

異様に長いとかそんな事以前に、鼻の穴を舐めまわして完全に勃起しているなんて絶対に正気ではない。

歯の根が合わないまま暴れていると、今度はへそに唇があてられる。

べろぉ、と舐められて身体が冷たくなっていく。

へそなんて、普通舐めない。

怖い、この人は、おかしい。

怖くて怖くてとうとう泣きだせば、身体が一度起こされた。

今のうちに逃げ出さねばと思った瞬間、思い切り開脚させられる。

身体の柔らかなイワンでも苦しいぐらいに、思い切り。

顔が熱くなっていく。

全部、見られている。

日曜日の朝の、明るい玄関で。

初めて会った、異常者に。

自分でも見た事のない場所まで、全部。


「や、やぁ、やだぁっ」

「ふふっ・・・・可愛い色だ」


本気で泣いているイワンに興奮を覚えながら、脚の間に顔を埋める。

先ずは、雄の先を含んだ。

異様に長い舌で亀頭を舐めまわし、先の穴にねじ入れる。


「ひぐっ」

「痛いか?その割に味が濃いが」

「あ、あぁ、あ」


ずきずきする痛みに、口が勝手に開閉する。

苦しい呼吸を繰り返しながら、何度も身を捩る。

だが、男は許してくれない。

孔を好んで舐めまわしている男は、最後に可愛いピンクの穴に目をつけた。

舌を這わせてねじ入れる。


「ああああああっ」

「くくく・・・・良い味だ」


くちゅっと舌を抜き差ししてやると、掴んだ脚が力無くもがく。

孔は激しくひくついていて、舌に吸いついてくるようだった。

堪らず勃起したものをあてがい、差し込んでやる。

一瞬息が止まり、次いで絞り出すような苦痛の悲鳴が上がった。


「ふぐっ、ぅ、ぐ・・・・っ」

「っは・・・・痛いな」


ぎゅうぎゅう締めてくる力は相当だ。

どうやら初物らしい。

身体が柔らかいのと、幽鬼のが細身なので怪我はしていないらしいが。

得をしたと思っていると、掴んだ腰がぴくっと震えた。

流れ込んでくるのは、戸惑いと自責。

ぴりっと走る快感と、それを一瞬でも求めた自分に対する嫌悪。

なんて、純な。

可愛さに笑って、奥まで入れていく。

非常に長いそれは、長い時間を掛けて挿入され、すべて入りきらなかった。

が、角度を変えて体重を掛けると、残っていた数センチがズグッと刺さる。


「あぁぐっ・・・・・!」


がちがちと激しく歯が鳴り、身体が大きく痙攣する。

そして、唐突にすべての力が抜けた。

余りに奥深くまで犯されることに耐えられなかったのだ。

失神した身体は侵入者を柔らかく締め上げ、とても気持ちがいい。

軽く突き上げると、甘えるように絡みついてくる。

嬉しくなって繰り返せば、鼻にかかった甘い吐息。

覚醒が近いと気づいて、ゆっくり抜き差しした。


「あっあ、ぁ・・・・・・ぁふ・・・・・」


起きても、精神的ショックに頭がきちんと働かない。

あ、とか、う、とか喘ぎながら腰を緩く振るひとは、半分人形のようで。

このままが良い、と突然思った。

いつも遠くから見ていた。

可愛いと思った。

欲しいと思った。

叶わないと知っていた。

自分はもてないわけではないが、それは異性の話だ。

男は寄ってこない。

来られても嫌だが、この人を寄せる要素は皆無に等しく。

その上、この人だって完全なノーマル。

もう、我慢が出来なかった。

苦しい。

執着じみた恋に終止符を打てるなら、行きつく先が何でも構わなかった。

腰を揺らして喘がせ、何度も奥を突く。

その度失神を繰り返し、イワンはとうとうすべてを投げ捨てた。

きっとこのまま殺されるのだ。

ならば、欲しいものを求めて死んで何が悪い。

幽鬼に手を伸ばし、強くしがみつく。


「あ、あっ、ちゅ、して、ちゅう、してぇっ」

「・・・・・?」


快感は相当だが、幽鬼はまだ理性があった。

イワンの頭の中は極彩色でもう良く分からない。

見えないのでなく、見えるが何か判別できないのだ。

だが、好きな人がキスをねだっている。

何度も口づけ、舌をしゃぶった。

嬉しそうに舌を絡めて、混ざり合う唾液を飲み下す人。

壊れているのかとも思ったが、彼は単に思いを爆発させただけだった。


「すき、すき、幽鬼さま、すき」


ちゅうして、とねだり続けるイワンの頭の中を注意深く覗く。

走馬灯のように流れているのは、3年前に自分が書いた本。

異常者のミステリーホラーだったが、そこそこヒットした。

その表紙の折り返しの写真。

サングラスをかけている自分。

そして、街を歩いている自分を遠くから見た映像。

流れ込んでくる、狂おしい憧れじみた恋慕。

何が捕えたかは分からない。

だが、この人は自分に恋している。

だから、自分が誰か判別し、そして殺されるのならなりふり構わないと決めた時、キスをねだったのだ。

愛していると告げて欲しい筈なのに、諦めてキスに酔っている。

切なさに、壊れかけのイワンを抱きしめて腰を押しつけた。

奥深くに突き刺さる硬いものに、肉が絡みついてくる。

たっぷり種をつけると、イワンが満足したように溜息をつく。

身体の間を濡らす白濁。

ゆっくり引き抜き、もう一度唇を合わせた。

そして、気を失ったイワンを。

そっと連れ出した。





ちょっと変わった小説家がいます。

そのそばで、失踪事件が起こりました。

小説家に疑いがかかり、彼の自宅を捜索しました。

ですが、捜査した10人の男達は黙って引き上げるしかありませんでした。

被害者とそっくりな人が、幸せそうに小説家とキスしているのを見たら。

引き下がるしか、ありません。

生温かく見守っていますが。

今のところ喧嘩一つないそうです。





***後書***

(笑)せーるすまん。幽鬼は心でなく身体(主に穴)の隙間を埋めていきます。