【 RPG-003 】



「どうか、どうか」

私の願いを聞いて頂けませんでしょうか。

潤んだ瞳で請う僧侶に、アルベルトは微妙に目を反らした。

龍鎧の下のアレが元気になってきてちょっと痛い。

持ち前の帝王気質のおかげでパーティーは常にこの苦労人で犬っころのように甲斐甲斐しい僧侶と自分のみ。

流石に可哀想だ、何か願いの一つでも聞いてやらねば逃げられそうだと危機を感じていた時にこの台詞。

叶えろと言われても、まさか魔王を倒せとは。

いや、倒せないと尻ごみしているのではない。

倒せば、一緒に居る必要が無くなるわけで。

離れ離れに、なってしまうわけで。

この僧侶・・・イワンが鉄壁ガードの寺院に入ったらもうどうしようもない。

今だって手が出せないでいるのに、どうしろと。

だが。

これ以上付きあわせたら、壊れてしまうのではなかろうか。

我儘放題の気分次第な振る舞いに必死で走りまわっているのを見て楽しんでいたが、そんな事をして好かれるはずもない。

この男は世界を救うために自分に尽くしているのだ。

世界に尽くしているのと同義なのだ。

唐突に悔しくなって、アルベルトは葉巻を噛みしめた。


「ならば願いと引き換えに」


いけない、駄目だ。


「貴様は何を」


それを使ったらもう戻れない。


「ワシに差し出すのだ」


イワンの瞳が悲しげに濡れた。


「私に出来る事なら、何でも」


ああ、取引は決してしまった。

アルベルトはイワンの腕を掴み、身体をベッドに放り投げた。

顎をしゃくって命じる。


「脱げ」

「・・・・・え・・・?」

「その身体でその気にさせてみろ」


イワンが目を見開いた。

その顎に手をかけ、開閉する口に親指をねじ込む。


「何、難しい事ではない」


口でも指でも使って、煽り立たせて。

痴態を演じて情けを請えば良いのだ。

神に許しを請うよりは簡単であろう?

アルベルトの言葉に、イワンの目から涙が落ちた。

しかし彼はそっと涙を拭うと、それ以上は泣かなかった。

さらりと軽い衣擦れの音を立てて、脱ぎ落されていく僧衣。

白い肌は純な白を保ち、穢れを知らぬと一目で分かる。

崩れたアヒル座りの膝に布を抱え、恐怖に身を震わせながら見上げてくる。

黙って見下ろしていると、それを置いて立ち上がった。

女のたおやかさとは違う身体だ。

なのにどうしようもなく興奮する。

それを押し隠して知らん顔していると、鎧をそっと外された。

重く硬い音を立てて外したそれを丁寧に床に下ろしていく。


「・・・・・・・っ」


膝まづいて下腹の部分を外し、イワンが息をのんで顔を背けた。

そそり立った男根は下衣を押し上げて脈打っている。

息を詰まらせるのは、恐らく男の匂いよりも恐怖だろう。

頑なに目を背けたまま、手で愛撫を始める。

ぎこちなく上下に扱くだけでは当然だが物足りない。

じわっと染みた先走りが面積を広げていき、白い指に触れる。

その瞬間、びくっと肩まで揺らして手を離し、布で包まれた男根を見た。

一気に真っ赤になっていく顔。

どうしよう、と先走りのついた手をうろうろさせる仕草。

落ち着きのない呼吸。

益々潤んでいく瞳。

泣きそうなくせに、泣かない。

唇をかみしめ、眉を寄せて。

唇を小さく舐めた。

期待が高まる。

男根を露出させ、膝立ちのまま顔を近づける。

息をのみ、何度か目を閉じたり唾をのみ、先に口づける。

熱さにびくっと引いた。

見上げてくるから冷たく見下ろしてやると、目を伏せて口に含んだ。

ちゅる、と先走りを啜る音がする。

くちゅっと舌で舐める動作は飴を舐めるのとまるで一緒だ。

しかし必死で舐め続けられれば、立たない事も無い。

隆々と立ったそれをぼうっと見つめているのも可愛い。

鼻に擦り付けて先を促すと、戸惑うように見上げてきた。

それでも何も言わずにいれば、手を取り、引いて寝台へ伴われた。

上がって座ってやると、向かい合わせで肩に縋ってきた。

そしてきゅっと唇を噛み、指を舐める。

下がる指に視線を絡めると、しがみつかれて見えなくなった。

きちゅ、と肉の中に指を割り込ませる音がする。


「ぅ・・・・っ・・・・・」

「・・・・・・・・・」


眉をひそめて苦痛に耐える姿を見ながら、こめかみに口づける。

きちゅ、ちゅく、ちゅ。

僅かな水音は濡れが足りないと訴えていた。

それでもイワンはそれ以上どうにかしようとはせず、ひたすらに肉孔を解していく。

その義務的な仕草が舌の上に苦味を乗せる。

切ない、という感情。


「ん・・・・・・」


頬を赤くして息を弾ませながら、イワンは指を引き抜いた。

両手で逞しい肩に縋り、ゆっくりと腰を下ろす。


「っは・・・・・ぁ・・・っ」

「・・・・腰を上げろ」


思ったより頑なな身体に溜息をつき制止すると、イワンと目があった。

酷く傷ついた瞳で、透明な雫が落ちた。


「・・・・イワ・・・っ!」

「っんんっ!」


強引に腰を落とされ、双方息が詰まる。

アルベルトが嗜めようとすると、イワンはそれを振り払って腰を使い始めた。

走る痛み。

だが到底自分の数倍は痛い筈のイワンは、吐息を震わせながらしがみついていた。

腕でしっかり掻き抱いて、腰を振りたてて。

自分が強制したのだ。

これを望んだのだ。

なのに、なのに。

こんな筈ではなかったなんて、思っている。

己に縋って必死で熱を煽ってくるイワンを見ながら、アルベルトは冷めた思いでいた。

もういい。

そう言おうと思った。

その耳に、掠れた懇願が届く。


「教えて下されば、どんな痴態も演じます・・・・・」

「!」

「朝も昼も・・・・夜も・・・・お世話いたしますから、どうか」


お傍に・・・・。

掠れた哀願に、一気に身体が熱くなる。

ああ、ああ。

こんなにも狂おしく求められていたのだ。

ならば伝えなければ。

こんなにも狂おしく求めていると。

アルベルトは痛みに冷えて強張った体を強く抱きしめた。

噛みしめた唇に唇を擦り合わせ、驚き開いた所に舌を割り込ませて絡める。

唾液を交換し合い、飲ませ飲み込み、それに酔いしれ。

耳元で、囁く。

どんな破滅の魔法も、回復の魔法もかなわぬ、互いのみを高揚させる言葉。


「あ・・・・」


泣きそうだった顔が、一度笑みになって。

やはり、泣いた。





僧侶と勇者という一点突出型のパーティーにも関わらず、勇者の異様な強さでサクサク切り進んだ二人。

最終調整装備は以下の通り。

勇者アルベルト、武器「なし」。

舐めているようだが、取りに行った伝説の剣が中々抜けないので衝撃波で台座を吹っ飛ばしたら折れてしまった。

ということは己の力(衝撃派)が伝説の剣より強いということに他ならない。

鎧は「黒いスーツ」。

この間まで龍鎧だったが、いい加減暑いと言う事でこれに。

頭部は「ハードワックスで固めた自前の髪」凄く硬いらしい。

その他は「新婚気分」(特殊アイテム)「愛妻弁当」(消費アイテム)。

オート、お任せの場合の戦闘姿勢は「帝王気質」である。

僧侶イワン、武器は「モンキーレンチ」。

何故メカニックの様なこの武器かと言うと、取りに行った伝説の賢者の杖がネジで止めてあった為にこれで取ったら(以下略)。

鎧は「スーツ」。

勇者が「貴様のもついでにあつらえておく」と言って強引に作ったのだ。

頭部は「なし」。

その他は「首輪」(獣、獣人、イワンのみ装備可能)「胃薬」(消費アイテム)である。

オート、お任せの場合の戦闘姿勢は「アルベルト様を庇う」。

当然だがこの二人をオートで戦わせるとイワンが速攻で戦闘不能になり、回復なしの勇者孤軍奮闘となる。

しかしイワンがダウンすると無敵状態になるのでまず問題は無い。

さて、二人は今禍々しい扉の前に立っている。


「・・・・ここが魔王の玉座の間・・・・」


アルベルトは躊躇なく扉を吹っ飛ばした。


「ええ?!」

「構うか。入るぞ」

「は、はあ」


入って進むと、中で一人チェスに興じるクリーム色のスーツの男。

座っているのが豪奢な椅子で、椅子はそれ一つしかないから恐らくこれが玉座と魔王。

魔王は二人に陽気に手を振ってて招き、立ちあがった。

咳払いし、魔王っぽく笑って見せる。

・・・が、どうしても底抜けに明るい。


「はっはっは!アルベルト、よく来たね!私を倒すつもりかい?高い志申し訳ないがそう簡単に・・・」

「いや、イワンに頼まれてきた」


あっさり言ってしまった勇者に、僧侶と魔王の二人は沈黙。

嘘でもいいから、世界の為とか言う気が無いのか。

魔王は大仰に肩をすくめた。


「はぁ?イワンって君いつから男色に・・・もしかしてこの子?」


近づいてまじまじと眺める魔王。

イワンがたじろぐ。

アルベルトが視線を投げ、セルバンテスが目で聞き、アルベルトが頷く。

セルバンテスは絶叫した。


「ちょっ、可愛いっ!ねえねえ、君どこ出身?何歳?好きな色は?クリーム色のスーツどうかなっ」

「えっ?あ、え」

「・・・・・・イワン、そやつはセルバンテスという。古い知り合いだ。話せば長く・・・・・イワン?」

「ありゃ、熱出して倒れちゃった」


まぁいいや、それも可愛いし。


「アルベルト、何飲む?スコッチ?」

「ウィスキー」

「うぅ・・・・魔王を・・・・うぅ・・・・」


かくして魔王が倒れる事は無く、勇者と僧侶も永遠に一緒。





***後書***

重要な事を最後まで言わないアル様は隠しているつもりすらない。