【 もしもシリーズ-035 】
蛇の穴の中に、純白の鶏卵。
蛇はどうやら、日を浴びに出ているらしい。
知っているのだ、もうすぐ生まれると。
もうそろそろ、温めるよりそっとしておくべきと。
もう蛇は帰ってはこない。
帰れば死ぬと知っている。
猛毒を放つ幻の獣。
バジリスクが生まれると。
イワンは雄鶏、放し飼いにされている。
貰ったとうもろこしをちょっと炒って、ポップコーンにしてハンカチに包む。
キャラメルポップコーンが、今日のお弁当。
温かい春の気配に心を和ませながら、イワンは森に歩いていた。
段々と風景に緑が多くなり、森に入る。
樹海ではなく、明るい森だ。
お気に入りの陽だまりに歩いていく。
一面のクローバー畑。
その中央に、横たわる身体。
「?」
近づくと、とても不思議な生き物だった。
手足の爪は少し尖っていて、自分の鳥爪と似ている。
でも、首や所々には、鱗がある。
綺麗な輝きで、でも少し変だ。
周りに虫の声がしない。
水や風の音はするのに、いきものの気配が。
眠っている彼からは、生命の音がしていた。
生きている。
眠っている彼は、とても綺麗だった。
衣服がきらびやかなのではない、姿かたちが美しい。
他から見ても確かに整っていただろう、だが、それでも素敵な男性どまりだ。
イワンだけが感じる、魅力。
目の前でゆっくりと開いた、瞳。
黒い瞳には不思議な色が混じっていて、とても綺麗だ。
それが目を覚ました事すら気付かず、呼吸すら忘れて見つめる。
「綺麗・・・・・」
零れ落ちた言葉に、優しげな目が瞬いた。
ちらちら隠れる不思議な瞳に魅入られる。
だが、それは横たわっていたもの・・・・バジリスクも同じだった。
彼は目を覚ました瞬間、死を覚悟した。
いつも気を張っていたのに大失態だった。
まさか、自分を殺せるたった二つの存在の片割れ『雄鶏』を近づけてしまうなんて。
雄鶏の鳴き声には、バジリスクを麻痺させ死に至らしめる力がある。
バジリスクは猛毒と石化の瞳をもつが、雄鶏の鳴き声一つで死ぬのだ。
千の戦士を殺せるものが、たった一匹の雄鶏に殺される。
確かに死んだ事はない、誰かが死ぬところを見る事は自分の死を意味する。
だが、今の鳴き声は。
彼は確かに雄鶏なのに、この心と体を震わせる美しい声が。
「・・・・・君は、不思議だね」
「え・・・・・あっ」
起こしてしまった事に気づいて、イワンは身を引いた。
逃げ出そうとするから、行かないで欲しいと請うた。
にこにこしたまま座ってと仕草するから、イワンはそっと座り込んだ。
イワンはその瞳に石化の能力がある事を知らない。
彼はなぜか石化しない。
彼の声が死の音色という事も。
男が何故か死なない事も。
互いを殺すものに惹かれあい、手を伸ばす。
この可愛い生き物にキスをしようとしたバジリスクは、初めて振られた。
「だ、駄目です」
「どうして?」
「わ、わたしは、雄で、貴方とは違う生き物で・・・・・」
「関係無いよ。君が欲しい」
主張すると、イワンは嫌がって逃げ出してしまった。
追いかけて、捕まえる。
バジリスクの脚に勝てる筈が無い。
「駄目だよ、逃がさない」
イワンは頑なに目を逸らした。
何故、どうして?
互いに一目で恋に落ちたのは分かりきっているのに。
逃がしたくなくて、強く抱きしめる。
骨が軋むほどに抱き、元の所へ。
クローバーの上に降ろし、押し倒す。
イワンは、泣きそうになっていた。
唇を戦慄かせ、嫌がる。
それが、男を燃えさせる。
ああ、この愛らしい生き物は自分の全てを刺激する。
抱いて眠りたい、犯したい、食ってしまいたい。
三大欲を全て刺激する、魅惑の生き物。
手放すものか、絶対に。
バジリスクは必死だった。
生まれた時から一人だった彼。
セルバンテスと自分に名前を付け、色んな場所に旅をした。
自分と鉢合わせたものは石になる。
自分に攻撃したものは毒性を持つ体液に死んでいく。
誰に触れる事もない。
女を抱いたかと言われれば、抱いた。
寂しかった、欲望があった。
温かかった、徐々に冷たく硬くなっていった。
自分は目隠しをしていた、取ったら相手は紫に変色していた。
死んでいるから、石にならなかった。
それを、抱いた。
もうそれでもよかった、異常でもなんでも、狂いそうな寂しさが埋まるなら。
それがみつけた、この素敵なもの。
石にならない、毒に侵されない、自分に好意を抱いている。
ならば、放す必要なんてない。
常の彼は、いつだって飄々としながら優しかった。
だが、死に物狂いで求める彼は、その優しさを見失っていた。
一番大事なひとに。
むごい行為を強いた。
押さえつけて服を剥ぎ、身体を舐める。
暴れるのに焦れ、殴りつけた。
焦って、脚を開かせて突きたてた。
やっと人心地ついた時には、雄鶏はぼろぼろだった。
打撲と血にまみれ、痙攣して意識は虚ろ。
急に恐ろしさに気付いたが、もう遅い。
それでも、放り出すなんて出来なかった。
身体を拭い、手当てをする。
曇ってきたから仮住まいに移動すると、程なく嵐になった。
ベッドで、雄鶏は声を殺して泣いていた。
分かっている、自分の所為だ。
無理に引きとめるつもりはなかった。
あれだけの事をした自分が彼にしてあげられるのは、逃がしてあげる事だけだ。
恐ろしい相手から慰めのキスなんてもらったって、嬉しくないだろうから。
ただ、伝えておきたかった。
「・・・・君が好きだよ」
とてもとても、大好きだよ。
本当に本当に、大好きだ。
だから、どうか。
「私の名前を、呼んでくれないだろうか」
自分で勝手につけた名でも、種族名で呼ばれるよりずっといい。
イワンは答えなかった。
壁を向いて、黙っていた。
イワンはゆっくりと衰弱していった。
少しずつ弱り、もうベッドから起きる事も出来ない。
セルバンテスは、ずっとイワンについていた。
もう、駄目だと知っていた。
でも、一緒にいるうちにまた我儘な気持ちになってしまった。
死なせたくない、逃がしてあげるから死なないで。
逃げ道が死というのがどうしても嫌だった。
だから、本気で目に力を込めて。
見つめた。
イワンはそのまま。
石になった。
それから数年。
セルバンテスは世界を旅し、どんな病にも効く薬草を二つ探しだした。
種類は違うが、効果はそう変わらない。
これさえあれば、彼を救えるのだ。
あの日から一度も帰っていない住まいに身体を引きずって歩き、大事に隠していた石像を出す。
家はぼろぼろでも、何重にも包まれていた石像に傷は無い。
薬草をすりつぶし、塗布する。
石化が解け始めたら、もうひとつをすりつぶし、口移しで呑みこませた。
大丈夫なはずだと自分に言い聞かせ、様子を見る。
目は開かないが呼吸が落ち着いてきたので、巻いていた布を纏わせた。
ベッドを片付け、そっと寝かせる。
あの日のままの彼。
自分は、見た目何歳か歳をとったかもしれない。
そう変わらないが、髪が少し伸びた。
甲斐甲斐しく世話をして、一週間。
イワンは目を覚ました。
自分を恐怖の対象と見る目に切なさを感じながら、謝る。
彼の故郷は、焼けている。
あのクローバー畑も、何もかも。
彼は時間においていかれた。
床に手をついて謝ったが、イワンは茫然と涙を流すだけだった。
本当に、何もかもを、彼は一瞬のうちに奪われたのだ。
黙ってうつむく彼に手を伸ばし、引っ込め。
やっぱり抱きしめた。
何度も好きだと繰り返した。
イワンがぽつりと呟いた。
「もう、一人にしてください」
だって、だって、どうせ、貴方も。
「私を、置いていくのでしょう?」
ぽたぽた落ちる涙を舐めとって、優しく抱きしめる。
「置いていかないよ、絶対に。君以外の何もいらないんだ」
そっと、指を絡める。
過酷な旅でぼろぼろの指先を、白い指がぎゅっと握る。
「・・・・貴方が、好きです」
酷い事をされても、馬鹿みたいに想っている。
貴方以外の何もいらないから。
「側に置いてください・・・・」
想いを伝えあって、イワンに名前を知らないと言われてしまい。
名前を教え、呼んでもらって。
寄り添って暮らしているが、やっぱりその、欲望もある。
ちょっとお触り程度なら許してもらえないかなと勝手をやっているが、イワンはあまりいい顔をしない。
でも、我慢できない。
だが、ある日イワンに抗議された。
中途半端に触って苛められると苦しいと。
一気に舞い上がってしまう、それはすなわちお許しだ。
嫌なら嫌と言うだろう、苦しいのは、続きが無いから。
その場で押し倒したら大変良い雄鶏キックを貰ったので、夜まで我慢。
水浴びを済ませ、ベッドに陣取って今か今かと待っていた。
水場から帰ってきたイワンにとても良い笑顔を向け、おいでおいで。
人の良い笑みでも中身は狼。
分かっていながら、ひよこは食べられに行ってしまう。
押し倒され、こくんと唾を呑んだ。
彼にしてみれば、強姦からまだ数カ月の感覚。
セルバンテスの身体の傷や、薬草の事を考えれば、どんなに頑張ってくれたか計り知れない。
そんなに寂しかった時に寝顔を覗き込んでいた自分も自分だし、それに。
相思相愛、だし。
恥ずかしいが、嬉しい。
この格好良いバジリスクが、ただの雄鶏の自分に愛を囁いてくれる。
頑張って見つめ返すと、優しいキスをくれた。
柔らかく唇を啄ばまれ、思わず瞼が落ちる。
目を閉じて酔ってしまうほどに心地の良い口づけ。
唇を離すと、瞳がうっすら開いて甘い溜息。
ぞくりとする色気に、セルバンテスは唾を呑んだ。
首を舐めると、軽くもがく。
服を脱がせて、自分も脱ぎ散らかす。
熱い肌を触れ合わせ、擦り付ける。
とろりと滑らかな肌が心地良かった。
夢中になって身体を撫でまわし、舐めて味を確かめる。
酔っ払うどころか頭がおかしくなりそうに幸せだ。
赤子のように胸の尖りをしゃぶっていると、髪を引かれる。
視線だけ上げると、イワンはすっかり息を上げてしまっていた。
かり、と噛めば脚がぎくしゃく曲がる。
ぎりっと歯が鳴ったのに、セルバンテスは苦笑した。
「噛んだら痛かったね、ごめん」
この雄鶏はとても上等な身体だから。
柔らかく温かく、敏感。
噛んではいけない、舐めて、吸うのも柔く。
優しくさすって、感じさせてあげないと。
「ね、声出して」
「ん・・・・・・」
こくっと頷きながら、やっぱり恥ずかしいらしい。
もじもじするから、何度も尖りを舌先でつつく。
「ふ、あ、っ・・・・・・」
腰が小さく跳ね、腹に当たるものが濡れ始める。
脇腹を舌で辿って、そっと含んだ。
雄をしゃぶられる刺激に、イワンが悶える。
「ぅく、ふっ、あ・・・・・」
「我慢しないで良いんだよ」
「あ、あっ、く、くち、くちのなか、だせない・・・・・!」
何とも可愛い事を言われ、にやけてしまう。
ずぞ、とわざと音を立てて吸い上げると、脚がもぞもぞ肩を押す。
「や、やぁ、だめっ、あ、あっ」
鈴口を執拗に辿って、舌先で弾く。
叩くように刺激すると、腰が性的な揺れ方をした。
「ぅあ、あ、あぅ」
我慢強いが、セルバンテスにかかれば蝶々結びを解くより簡単だ。
我慢しても先走りは溢れるし、それを使って音を立ててやれば羞恥と興奮はすぐに高まる。
「んっ、んくっ」
ぴゅ、と噴いた蜜を口の中で転がし、味わってから飲み込んだ。
唇で絞るように扱いて口から出すと、イワンは身体を薄ピンクに染めて喘いでいた。
愛らしい姿は、大人なのにどこか幼い。
生娘というか、幼児というか・・・・・。
生唾飲んで、脚を開かせる。
可愛い窄みは、怪我は治っている。
くにゅくにゅ動いて、厭らしい事この上ない。
ぺろっと舌舐めずりして、唇を寄せる。
イワンは抵抗しなかった。
すっかりこのうそつき男に騙され、此処は舐めるものなのだと教えられてしまったのだ。
真実と嘘を混ぜるから性質の悪い男は、性行為に疎いイワンに嘘と本当を混ぜて教え込んだ。
窄みを軽く吸ってやると、孔がひくひくする。
吸引された事なんてないし、してはいけない気がする。
でも、雄同士だから当然なんだよと教えられ、舐めてもらう時は少し力を入れなさいと言われている。
肉管が開いて、それと外界を区切る窄みが僅かに膨らむ。
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐めると、恥ずかしがってシーツを掴む。
まだ硬いそこに、少し考えて唇を押し当てた。
尻の狭間に顔を埋め、思い切り音を立てて吸引する。
「ああ、っそん、な・・・・・!」
恥ずかしがって尻を振るのを掴み、舌を入れる。
筋肉の輪を内側から舐めまわすと、激しく締まる。
目の前には、立った雄が揺れる絶景。
にやけながら、大事な雄鶏の後孔を濡らす。
べちゃべちゃになるまで弄って、舐めながら指を入れて。
すっかり柔らかくなったら、我慢のしすぎでぴくぴくしている男根を宛がう。
ごくっと喉を鳴らし、焦らないように気を付け、沈める。
柔らかく温かな肉に包まれ、歯を噛みしめた。
直ぐにでも出てしまうくらいに、気持ちが良い。
断続的に締めながら絡みつく肉。
息を荒げ、奥まで。
ぴったりと包んで絞るように揉んでくる肉に、腰を揺らす。
「ぅ、あ・・・・・」
「は・・・・痛い?」
「んん・・・・・」
大丈夫、と首を振るから、キスをして腰を揺らす。
締まりが強くて、扱きも最高だ。
自分の手よりずっと気持の良い肉の輪に扱かれ、腰を打ちつけながら耳に接吻する。
「好きだよ・・・・君が大好き」
「ん・・・・せるば、ん、てすさま・・・・」
しがみつく身体を抱いて、奥の奥に放つ。
猛毒の体液を受け止めても死なない雄鶏が、高く鳴いた。
バジリスクは、それでも死ななかった。
「ねえ、休憩しよう」
せがむと、笑って頷いてくれた。
焼け野原の中に、二人。
煤で黒くなりながら、土を柔らかくして種をまいている。
クローバーの種。
いつか、あの日のように。
森の中で一緒に過ごしたい。
二人で、いつまでかかるか分からない森の計画を立てながら。
彼が今朝、ハンカチに包んでいた。
キャラメルポップコーンを、食べた。
***後書***
盟友組が他の奴らと違うところは、容赦なくイワンさんを殴ってしまうところです。帝王はミミックに蹴り(マジ)幻惑は雄鶏にぐーぱんち(夢中)