【 もしもシリーズ-040 】



ふらふらと覚束無い足取りで夜空を飛んでいる、一匹のインキュバス。

彼の名はイワン、勿論インキュバスだから牡だ。

人間の精気を吸い取って殺す淫魔でありながら、彼は心優しすぎてそんな酷い事が出来ないでいた。

お陰で空腹も空腹。

おまけに、いつも笑顔のセクハラ吸血鬼や、金棒無しでも熊と戦う白いエロ鬼さん、赤いマスクの烏天狗と、男の妖怪ばかり寄ってくる。

別に妖怪から精気を吸えないわけでは無いが、イワンは男性、インキュバスである。

教わったやり方は、実践は無い上に女性に対するもののみ。

逃げ回って飛び回り、益々おなかはすいていく。

ふらふらの状態で飛んでいた彼は、真夜中にとうとう。

墜落した。





真夜中、違和感に目を覚ましたアルベルト。

何だかムラムラするが、夢精しかけと言うには余りにも・・・・・いやまて、これは明らかに・・・・・。

ばっと掛け布団をめくると、自分の股間にむしゃぶりついている男。

ぴかぴかの禿頭が何だか変に愛嬌があるが、これは何なのか。

そう思った程度で、思考は停止した。

しゃぶり方に熱が入って、余りに巧みだ。

咄嗟に歯を噛みしめたが、超絶技巧のフェラに敢え無く陥落。

吐き出された多量のそれを嬉しそうにごっくんする姿は、可愛いからますます厭らしい。

フェラチオ中の顔も良かったが、口許に精子を伝わせて満足げにうっとりする姿は余りに魅力的だった。

正体不明の男だが、背には小さいながらも蝙蝠羽、しっぽもある。

人間では先ずないだろうし、ついでに食ってしまおうか。

これだけの技術を持っているなら相当に遊び慣れているのだろうし、見る限り身体も具合が良さそうだ。

勿論イワンは人に性的な事を仕掛けたのはこれが初めてだが、そんな事を男が知る筈が無い。

アルベルトが引き寄せると、イワンは吃驚して逃げ出そうとし始めた。

あんなに嬉しそうに男根をしゃぶっていたのが一転、可哀想なくらいに怯え始める。

変だとは思ったが、暴れるのを2、3発張り倒すと大人しくなった。

びくびくしているイワンの身体から衣服を剥ぎ取り、アルベルトは指先で肌を辿った。

何とも滑らかで、白く輝く極上ものだ。

これは良いものを拾ったと上機嫌で吸いつけば、何とも純情に震える肌。

演技だと思っているアルベルトは、その巧みさに益々機嫌を上昇させた。

天然ものならもっといいが、これはこれで良いだろう。

淡い胸の尖りに吸いつくと、それだけで腰をびくつかせる。

吸うともじつくが、べろべろと舐めると掠れた声で喘いだ。


「ふぁ・・・・・っ・・・・・」


とろとろの声で喘がれ、一度絞られていた男根は早くも復活していた。

感じやすく熟れた身体と、純情な仕草。

機嫌良く愛撫していたが、そろそろ食ってしまおう。

サイドテーブルの香油を取って男の尻にぶちまけ、乱暴に指を抜き差しする。

弾力のあるそこは、元々淫魔であるのもあって割と柔らかい。

アルベルトは彼の正体を知らないから、益々慣れだと勘違いした。

腰を掴んで差し入れると、イワンは最初何が起こったか分からないようだった。

が、僅かに窓に映る自分達の姿に、掠れた悲鳴を上げてもがき始める。


「助けて、誰か、助けて」

「おい、煩いぞ」

「怖い、だれかっ」

「っ・・・・・は・・・・・・」


もがく度に絶妙な加減で締まる肉孔に、アルベルトは息を詰めて目を眇めた。

ああ、これは堪らなく良い具合だ。

直ぐにでも出してやりたいが、楽しみたくもある。

歯を食い縛ってがつがつと突き上げると、厭らしい孔が絡みついてしゃぶってくれる。

容赦のひとつもなく犯して凌辱し、たっぷりと楽しむ。

夜が明け始めて初めて、まじまじと男を観察するアルベルト。

泣きはらした顔で昏倒している色気は中々のものだ。

そして、気づく。

腹の辺りが柔く発光している。

暫くの後に消え、男が妙に色艶良くなった。

これはインキュバスだったのかと妙な納得、同時にインキュバスと言うよりサキュバスではないかとも思う。

昨晩の良い思いを反芻しながら、別の部屋で朝食を摂り、水を持って部屋に戻る。

部屋では、インキュバスが呆然としていた。

呼んでも反応は無く、4度目にやっと目があった。


「ご、ごめんなさいっ」

「・・・・・・・?」


突然謝られて首を傾げるアルベルト。

万一謝るとすればこちらだろうし、6発7発抜かれた程度でへばる自分でも無い。

が、次の言葉に度肝を抜かれた。


「好きでも無い人とえっちな事をさせてしまうなんて、私はなんて酷い事を・・・・・」


呆れてものが言えない。

確かに一般論ではそうだが、彼の種族を考えれば、そんな事を言っていては埒が明かない。

第一、惚れさせて絞って殺す方がたちが悪いと思うが。

そう思ったが、はたと気づく。

こんな純情っぷりを発揮する男が、そんな事を出来る筈が無い。

まさかと思って問い詰めれば、昨夜が初めてであると言う。

こんなに育つまで空腹に耐えるのは何の修業だ、お前は坊主かと言いたいが、実際頭は中も外も坊主なので何も言えない。

清い淫魔など初めて見る。

が、一度飼ってみても面白いかもしれない。

悪い男は純情可憐な淫魔を騙し、恋人として傍にいろと誘った。

腹いっぱいでいさせてやる、不自由させない。

そう言い募ると、イワンは戸惑いながら頷いた。

彼としては、恋人云々より、罪滅ぼしをしなければと考えたのだ。

そして始まった同棲。

朝昼晩と美味でバランスの良い食事、片付いた部屋、夜もたっぷり楽しめる。

順風満帆だったアルベルトだが、誤算が発生。

こんな冴えない男と思うのに、どうも魅かれる。

可愛い笑顔も、純な精神構造も、愛らしい仕草も、高めの声も。

たっぷりの御飯・・・・・精液を毎晩貰って、益々魅力的に輝くイワンに。

本気で、惚れてしまった。

色気もむんむんで、立ち姿さえ堪らない興奮を煽る。

完全に虜になったアルベルトだが、同時に悔しさも感じていた。

これが罪滅ぼしのつもりでいるのは分かっている。

自分が好きではないのだ。

自分とのセックスに溺れてさえいない。

おなかがいっぱいになれば、彼は遠慮し始める。

自分が嫌々やっているように取っているらしい。

腹が立つのに時間はかからず、アルベルトは躍起になってイワンを攻め立てるようになった。

快楽責めに突き落とし、気絶するまで犯す。

そんな事が続いたある日、イワンはとうとう。

家出した。





可愛い淫魔は疲れ切って歩いていた。

一晩で良い、静かに眠りたい。

あの方の事を考えて、穏やかに眠ってみたい。

イワンはイワンで、アルベルトに惚れていたのだ。

だが、始まりも経過も最悪の二人の共通点は快楽くらいしかない。

ひっそりとした高原の薄闇に包まれ、イワンは柔らかな草の上にそっと蹲った。

少し寒いけれど、静かだし、誰もいない。

柔らかい草に頬を押しつける。


「アルベルト様・・・・・・・」


イワンの瞳が、とろっと濡れる。


「お慕いしています・・・・・ずっと・・・・・お傍に・・・・・」


絶対に言ってはいけない事だから、あの方は自分に付き合ってくれているだけだから。

言い聞かせても、名前を呟く度に押し寄せる幸福感。

うっとりと草の波に身を任せ、恋人ごっこの相手を想う。


「すき・・・・・だいすき・・・・・」


目を閉じてうっとりと酔いしれる。

自分があの方を慕っていると言う事実が、自分の声でも耳に入る事が、何とも幸せでならなかった。


「もっと、いっぱい・・・・・・」


えっちな事、して・・・・・・。

ぞっとする色気の呟きが、空に霧散し消えていく。

が、自分の唇をなぞって恍惚と呟くイワンは、傍に男が立っている事に気づいていなかった。

傍にいるのは、姿を消したアルベルト。

実は彼は、悪魔である。

かなりの上級悪魔で、爵位も勿論持っている。

そんな上級悪魔が一介の淫魔など知らないのは当然だが、一介の淫魔がかの有名な悪魔公爵を知らないのは問題ありだ。

魔界の女に飽いて人間界で遊んでいたのだが、まさか男の淫魔に目覚めるとは思わなかった。

思わなかったが、この状況にはにやける。

すっかり自分に惚れ切っているくせに、隠していたなんて。

おまけにうっとりしながら自分の名を呟き、幸せそうだ。

嬉しくなって姿を現し、抱きしめる。

イワンは驚いて飛び起きようとしたが、がっちり抱かれていて動けない。

耳元に、何とも色気のあるバスが響く。


「貴様はワシのものだ。誰にも渡さん」

「えっ、えっ?」


目を白黒させるイワンを抱きかかえ、アルベルトは背中から羽を出した。

片方2m以上ある立派な翼は、イワンのちょもりとした御印の様な羽とは全く違う。

たっぷりと風格を含んだ姿に惚れ惚れするイワン。

流石にこんな些細な事まで惚れ直されると、何だか照れてしまうアルベルト。

接吻して、飛び立つ。

魔界の入口は、すぐ近くだ。





「あ、あの、アルベルト様っ」

「何だ」

もじもじする可愛い妻・・・・・にはまだなっていないが、恋人。

妃にすると言ったら、彼の保護者のローザと言う小娘がダメだしした。

小生意気だがサキュバスの長の娘は、インキュバスのうち牝役をした者も統括する。

むちむちの身体をぶりぶりさせて、指を突きつけてきた。


「イワンにおねだりもさせられない男が、ナマ言ってんじゃないわよ!」


かちんときたが、確かに事実。

しかし、この恥ずかしがりはそうそう強請らないし、強請る前に我慢し過ぎてダウンするケースが多い。

よって現在挑戦中だが、今日はイワンが乗り気でないようだ。

と、思ったが、ちょっと違った。


「あの、そろそろ試験なのです」

「・・・・・・試験?」

「はいっ」


聞いてみれば、エロテクの試験があるらしい。

淫魔独特の風習だと感心していると、イワンがしょんぼりする。


「一度も及第点をもらえなくて、指に奉仕しただけではねられてしまうのです・・・・・」

「・・・・・・・?」


この超絶フェラではねられたら、淫魔全員落第だと思うが。

そう思ったが、恋人は真剣だ。


「ちゃんと合格したら、結婚しても良いと言われています」

「何?」


食いついたアルベルト。

結婚できるなら、訓練するしかない!

そう考えてイワンに言うと、イワンは教えて下さいと可愛いおねだり。

これだけで合格させてやりたいくらい勃起しているアルベルトだが、生憎彼は試験官ではない。

取り敢えず、ベッドに腰掛けてしゃぶらせてみた。

わざわざ根元を縛ってみたが、矢張り上手い。

吸引して口からちゅっぽんと出されると、かなり興奮する。

先の孔を開かせて尿道に舌を入れてくるのも良いし、袋を咥えて中の塊を口に入れたり出したりするのだって最高だ。

口の周りは涎だらけで、ほっぺたは糸を引く先走り塗れ。

上から皮を引き下ろしてはかりをぺろぺろやるのも、誰にも教わっていないとは信じられない。

先に舌の真ん中を押し当てて、握ったものを動かすイワン。

ぬるぬるの舌に先を激しくこすられて、蜜が多量に糸を引く。


「っは・・・・・・・」

「ふはぁ・・・・・ん・・・・・」


気持ち良さそうに亀頭にキスを繰り返し、激しくちゅぱちゅぱ。

奥に咥えて、喉を動かしてくちゅくちゅ。

顔を上げさせると、口から粘液が糸を引いて垂れ落ちた。

厭らしさに息を詰め、紐を千切ってイワンを膝に上げる。


「慣らす時も、声を上げろ」

「で、でも・・・・・あ、ぁふっ」


しゃぶって濡らした指を差し入れられ、イワンの背が反る。

奥まで入れられると、おなかの奥がずんと重くなる。

入口がもじもじして、もっと奥を弄って欲しくなる。

言うに言えずにしがみつくと、アルベルトは勝手知ったると指を増やして奥に差し入れた。


「あ、あっあ」

「ここか」

「あ、あああ、あ、だめ、そこだめっ」


半泣きで尻をもじつかせるのに頬を緩め、奥を激しく刺激した。

まるで女の様な泣き声をあげても可愛いのは、何故だろう。

惚れているからだけで無いくらいに、恋人は最近輝きが増している。


「ぅあ、ぅ、ぅぅ、あっ」

「・・・・・入れるからな」

「は、ぁっ・・・・・・んぁ、ぁんぁ」


にゅぬぬ、と入りこんでくるものに、腰が溶解しそうだった。

熱い痛みは軽く、圧迫感はきつく、快楽は途方もない。

余りの悦楽に目の前が白くはじける。


「あ、あっ、ゆるして、ゆるしてっ」

「何も責めておらんだろうっ」

「あ、あ、お尻、壊れるっ」

「ああ、壊してやる」


ワシだけにしか合わぬように、誰とやっても満足できぬようにな。

激しい突き上げに、イワンは無意識に尻を振っていた。

苦しさから逃れようとするのと、快楽を貪ろうとする動きが混じって、何とも純でいやらしい。

興奮露わに何度も犯し、結局今日も。

練習にはならなかった。





「・・・・まあ、絶望的だけど」

指を差し出すローザに従い、大人しくしゃぶる。

相変わらずの超絶技巧に、ローザは溜息をついて首を振った。


「はい、失格」


それはそれは落ち込むイワンに、ローザは先程とはちょっと違う溜息をついた。


「あのね、駄目ってんじゃないわよ。あんたが『一人前』になって結婚が許されたら、いったいどれだけ寄ってくると思ってるの?」

「?」

「吸血鬼の始祖、鬼の頭目、烏天狗の総大将?あんた無事なわけ無いでしょ」

「?」

「・・・・・その純粋な目見てると、益々不安だわ」


手を振って、ローザはイワンに言った。


「結婚は許さないわ。一夫多妻制が主流のここじゃ、あんたが可哀想だもの」





帰ったイワンは、ローザに言われた事を素直にアルベルトに白状していた。

待ち構えていた帝王は『自分との結婚の許可』でなく『イワンが誰かと結婚しても良いという許可』だった事に溜息をついた。

魔界の主流は一夫多妻制。

イワンが妻と言うなら、確かに許可できないだろう。

自分が綺麗どころを沢山抱えれば、イワンが可哀想だと言うのは頷ける。

大方これは自分が幸せならと傷ついていくタイプだが、そうなったら寄ってくる男は山ほどいる。

考えに考え、アルベルトはもう一度ローザと交渉した。

アルベルトの決意の言葉に、ローザは呆れた顔をした。


「あいつもやるわね。『空の王ベルゼバブ』をモノにするなんて」


末代までの語り草だと笑って、彼女は結婚の許可を出した。





鳴り響く鐘の音。

何故かは知らないが、魔界の結婚式も教会である。

但し祀っているのは結婚に関して超不吉なベルフェゴールであり、基調色は黒。

そして、似合うからと純白のタキシードのイワン。

恥ずかしそうにもじもじしているのが、皆を和ませる。

これがどうやってあの帝王をオトしたかが不思議だが、あそこまで決意させたのだから本物だろう。

鐘の音が収まると、怒鳴り声とともにアルベルト登場。

滅茶苦茶うざったく泣いている盟友とバージンロードを歩いてくる彼は、勿論純白のウエディングドレス。


「イワン君、何でこんな・・・・・・ぅあぇぅぅうううああああ・・・・・」

「煩いやつだな!招待しろと煩いから大役までやったものを!」

「だってイワン君と結婚とか聞いてなかったんだもの!私のイワン君が、わた、わたしの・・・・・うぐっ、ひっぐぅ」

「っち・・・・もう帰れ!用は済んだ!」


キレたアルベルトはセルバンテスの腕を振りほどき、イワンに手を出した。

イワンが指輪を取り出すと、何をやっていると顎をしゃくる。


「脱がんか」

「へ・・・・?」

「貴様の肉の輪に嵌めこんでやる」


最低な事を言い出しているように聞こえるが、此処は魔界。

そんなの当たり前。

皆盛り上がるし、自分のものだという誇示も出来る。

さっさとイワンを裸に剥いて、自身のスカートをまくりあげればそれは立派な砲身。

式の前に一発ハメて柔らかくしておいた後孔に差し込めば、御開帳ポーズのイワンが泣いて恥ずかしがる。

淫魔とは思えない純情っぷりに口笛乱舞だが、その度締まりが何とも良い。

感じっぷりと見る限りの締め付けに感心し、皆確かにこれなら仕方ないと頷いた。

ベルゼバブの妃にはこれくらいで無いとと頷きあって、ウエディングドレスの新婦に犯される可愛い新郎を肴に一杯やり始める。

ローザが楽しげに唇を歪め、ブラッディメアリーを呑み下した。


「ま、頑張んなさい。飽きたら浮気していいのよ、あんたは旦那なんだから」





***後書***

某様の妄想が美味し過ぎて頂きました、さらに某様の『爺様はエロ鬼さん』発言に燃えて捩じ込みました。

さぁ皆で声をそろえて!『なんだそれ、なんだこれ!』(他力本願を叱り、目を覚まさせる掛け声)