【 もしもシリーズ-043 】



オロシャのイワン、33歳独身。

彼は腕の良い刀鍛冶だ。

美しい波紋と素晴らしい切れ味の刀を求めて、色々な人がやってくる。

その中の常連さんは、昔から知っているひと。

少し年下の彼は大変おっとりしていて、良く世話を焼いたものだ。

すっかり大人になって良い男になってしまったが、今も変わらず優しいまま。

そして、上得意のお客様でもある。

大変大きな屋敷に住む彼は、わざわざ鍛冶場まで拵えて自分を呼びつけ、刀を打って欲しいと強請る事がしばしば。

実は仕事場自体をここに移して欲しいとも言われたが、全く関係ない刀を彼の居住で打つのは気が引けた。

彼はとても自分に懐いているが、ちょっと懐き過ぎのきらいがある。

未だに一緒に風呂に入りたがるし、一緒に寝たがる。

しがみつかれて諦めると、4回に3回は乳を吸われてしまう。

きっと初乳を貰ってすぐに母親と引き離されたから、変な癖がついているのだ。

血筋が家系がなんて言う前に、こんな可哀想な事をする気が知れない。

食事も、出されれば食べる。

しかし、要求は全くしない。

あれが食べたいとか言わないし、唯一強請るのはイワンにだけ。

世話をする血風連達は、すっかりイワンを怒鬼の嫁扱い。

怒鬼が困るのでないかと心配するイワンだが、彼らは元々御家命の奴らとは違う。

ただただ、呑気なぼっちゃんの現当主が大事で堪らない、血でなく彼の人柄を慕う者たちだ。

イワンは彼らと一緒に針仕事をしながら、日向ぼっこをしていた。

今日はお休みだから、怒鬼に会いに来たのだ。

彼は今鍛練中。

皆揃いの格好をする血風連は、そろそろ衣替え。

それで、夏用の着物を縫い直している。


「おろしや殿は、未だ嫁に来ないのか・・・・?」

「・・・・・私は、男ですよ?」


苦笑して針仕事を進めていると、血風連が口々に言う。


「だが、怒鬼様はおろしや殿を」

「ああ、あの方の些細な我儘だ」

「何とか、叶えて差し上げられないか」


些細な我儘というか、一世一代の初めての我儘というか。

結婚の話を全て蹴って、イワンでないと嫌だと首を振る。

嬉しい、愛しい、でも、悲しい。

彼に家族を作ってあげられない自分が、嫌だ。

ぽた、と落ちた涙に、本人含めぎょっとして顔を見合わせる。

だが、その水滴の中に主人への愛と苦悩を感じ、血風連は強く言い過ぎたと謝ってくれた。

イワンが首を振って、大丈夫と笑う。

その強さが、益々魅力的で。

どうしても、主人と添い遂げて欲しかった。





夜に、また怒鬼にしがみつかれたイワン。

うとうとしている怒鬼は、布団に横になっているが変な体勢だ。

イワンは正座しているが、怒鬼がぐいぐい引っ張る。

寝ぼけていて容赦がない引きに抗わずに横に添うと、怒鬼がもぞもぞくっついてくる。

よしよしと頭を撫でてやると、頭と手のひらで服を肌蹴られた。

いつもの如くに乳首をちゅうちゅうやり始めるのを見て、苦笑する。

少し痛くてくすぐったいが、大きな子供と思えば可愛いものだ。

暖めるように抱いていると、怒鬼が腰を擦り付けてくる。

硬くなっているのを感じ、ちょっとどきどきした。

する、と手が滑り落ち、イワンの手を握る。

それが明確な意思を持って股間に押し付けられ、イワンは初めて彼が狸寝入りしていた事に気付いた。

怒るとか以前に吃驚して見つめると、形のよい唇が『刀鍛冶なのだろう』と動く。

鍛えて欲しいと微笑む顔が、何だかやけに格好良い。

手を引きかけるが、乗りあげられた。

腹の上に座られ、目の前で取りだされた男根。

剥けているし、色も濃い。

だが、妙な者を孕ませては困ると女遊びは出来ない筈だ。

もしかして、と見つめると、困ったように頷いた。

イワンは流石に初めてではないが、男との経験はない。

上手くできるか分からないし、怒鬼がそれで気持ち良くなれるかも分からない。

が、此処までされて応えないなんて言う事は出来なかった。

そっと握って、扱く。

怒鬼は軽く息を詰め、しかし笑んだままにイワンを見つめていた。

熱い幹をこすりあげ、根元から先端に向かってゆっくり絞る。

皮を引き下ろしながら扱き下げてやると、くぱっと開いた先端の孔から蜜が垂れた。

怒鬼の様子を見ていたイワンだったが、段々と息が弾んで夢中になる。

自分が扱かれている錯覚を起こしてしまって、脚が引きつってスラックスがきつい。

素早く擦っていると、突然白い粘液が飛び散った。

顔や胸に降りかかるそれに、くらくらするほどに興奮する。

が、それからが進まない。

慣らしてあげなければと思うが、身体が拒否する。

怒鬼でなく、イワンの。

気持ち悪いとか嫌とかでなく、そうするよりして欲しいという飢えにも似た願望。

唾を飲んで見上げると、怒鬼が優しく微笑んだ。

するっと手が腹を滑り、彼が腰を上げる。

服はいとも簡単に脱がされ、脱がせようと思った時には彼は逞しい裸体を晒していた。

もじもじしながら脚を曲げて隠そうとすると、右足を掴まれてしまう。

ゆっくり開かされ、頬が熱い。

きゅっと唾を飲んで目を堅く閉じ、全てを晒す。

じっと見られて、恥ずかしかった。

でも、先がじんじんして蜜が垂れていくのが分かる。

冷たい空気の動きに、益々目が開けられなかった。

彼の行儀の悪い癖を知っているから。

何でもかんでも匂いを嗅いでしまう、悪い癖。

変な匂いの方が好きらしいが、複雑だ。

自分から変な匂いがするのは嫌だが、直ぐに興味を失われても悲しい。

緊張しているイワンに、怒鬼は苦笑を禁じ得なかった。

手に取るように分かる、このひとの思考。

物心ついた時から見ているのだから、分かる。

別に悪臭ばかりが良いわけじゃない。

その方が好き、というだけで、このひとの匂いはどんな匂いでも一番上等な香りだ。

殆どの香りが湯あみで流れてしまった局部や尻の割れ目の匂いを執拗に嗅ぎ、枕元の煙草盆から軟膏を取る。

指の手入れ用だが、自分が調合したから安全なものだ。

指に掬って、今日初めて花開く小さな窄みに塗りつける。

イワンの吐息が震え、脚がもじついている。

可愛い仕草に頬を緩め、ゆっくり揉む。

少し緊張が和らいだら、騙すようにして差し入れた。

直ぐに強く締めあげられるが、歯牙のない肉の孔の抵抗など知れている。

ぐぐっと奥に差し込んでやると、泣きそうな呼吸を繰り返していた。

余りに初心で、愛らしい。

実際初めての自分より、余程純情だ。

嬉しくなって、ぐいぐい指を差し入れて奥を触る。

根元まで差し込み、それでもまだ強く押し付けて探っていると、白い腰が酷く厭らしくうねり始める。


「はぁ、っぁ・・・・・」


敷布に横顔を擦りつけ、苦しそうな顔。

なのに、身体は厭らしい匂いをさせて花開き始めている。

くい、と指を動かすと、腰がびくっと跳ねあがる。


「ぅあ、は・・・・・それ、だめ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


駄目と言われればやりたくなる、特に普段誰にも反抗しないなら尚更に。


「は・・・・・・ぇっ、あ、あんっ、ど、どきさ、まっ!」


手のひらを上向きにして、中指一本で激しく突き上げる。

咎めていた声は、直ぐに泣き声に変わった。


「ぁぅ、あっ、い、っあ」

「っ・・・・・・・・・・・・・・」

「あ、あ、ぁうぁっ」


厭らしい水音がしている、このひとの体液だ。

こんな場所を弄られて、勃起して。

厭らしい事この上ない。

堪らぬ欲望を感じながら、激しく抜き差しする。

暴れる身体を押さえつけて奥を突き上げると、勢いよく白濁を噴いた。

あぐあぐと口を開閉させて酸素を求めるイワンにそっと接吻し、余韻の残る身体に差し入れた。


「あ、あ、なんで、そんなっ」

「・・・・・・・・・・・・・・・っ」


締めても、たっぷりの軟膏と体液でどろどろになっている孔は拒めない。

ずる、と飲み込んでいくのが信じられないでいるイワンの手を握り、大丈夫、と微笑んだ。

既に泣きかけのイワンの腰をしっかり支え、なるべく真直ぐに、奥を狙って突き込んでいく。


「あっあっあっ、ああっ」

「っ・・・・・・・・・・・・・」


ずぷずぷと音がして、激しく肉が擦れあって。

このひとの身体の中に差し入れていると思うと、酷く興奮してしまう。

悶えるイワンの腰を自身の腰にぐっと押しつけ、我慢を解く。


「ふぁ、ぁうぁ・・・・!」

「っ・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・」


びゅっと吐き出される熱い精子に、イワンの腰が激しく軋んだ。

締まり絡みつく肉に絞られるままに、たっぷりと出してやる。

誰が何と言おうと、自分はこの人以外に子種をやらぬ。

自分だけの決めごとに苦笑しつつ満足感を感じ、怒鬼はくたっとなっている初恋の人に接吻した。





初恋は叶わない。

イワンの初恋は幼稚園の先生でした。

怒鬼の初恋は小さい頃から面倒を見てくれる、ちょっと年上のひとでした。

イワンの初恋は卒園とともに自然に終わり、その頃良家の坊ちゃんに出会ってお世話を始めます。

怒鬼の恋はそれは大きく育って、今でも続いています。

イワンの恋は、怒鬼と殆ど同じ年月を経て花を咲かせました。

二人の恋の花は忙しく動き回る血風連によって実を結び。

果実は実らずとも、優しく香っています。





***後書***

純愛要員レッドに対し、喋らない怒鬼はエロ要員。やり倒して無言でも許される唯一の男。