【 もしもシリーズ-044 】
大好きな御主人様が失踪した。
部屋は荒らされ、多量の血痕。
最早絶望的である。
死体が発見されていないのが救いだ、もし目にしたら気が触れるかもしれない。
自分を拾ってくれた、大切な大切な御主人様。
愛や恋ではないが、とても素敵な方だった。
死を認めながら、死体を見たくなく。
でも、どうかどうか、もう一度だけ話を。
思い詰めたイワンは、とぼとぼと街を歩いていた。
すると、声をかけられる。
「おや、君。変なもの背負ってるね」
「え・・・・・?」
「見るからに我儘そうな40前の男を背負って歩いてるじゃない」
目を瞬かせ、イワンは口を僅かに開閉させた。
そして、とうとう、この一週間我慢していた涙を。
零した。
「ごめんね、まさか君がそんなに傷ついているとは思わなかったんだ」
許してくれるかい、と不安げに問う男性は、セルバンテスと言う。
泣き崩れてしまったイワンを抱きかかえて、その辺のホテルに入って、思う様泣かせてくれている。
雰囲気がアレだが、男同士だしあまり関係ない。
透ける浴室もどうでもいいし、大音量で垂れ流しのAVも気にならない。
縋って泣いて、訴える。
「あるべるとさまが、あるべるとさまだけが、私の、存在意義でっ・・・・・」
「うんうん、とっても大切なんだね」
「あるべるとさまぁ・・・・・・」
えぐえぐと泣くイワンを胸に縋らせ、震える背中を優しく叩く。
「大丈夫、すぐに会えるから」
「え・・・・・・」
セルバンテスが優しく笑う。
瞳が不思議な色を湛える。
「私は、38歳。黒髪、髭・・・・知ってるね?」
「は、はい」
「余り気は長くないけれど、君の事はずっと見ていたよ」
霊媒師と名乗った男の話を組み合わせると、もしや、もしや。
今目の前にいるのは・・・・・?
「っ・・・・・・・」
ぎゅうとしがみつき、寂しいと訴える。
セルバンテスが優しく肩を抱き、イワンを押し倒す。
「君の心は知っているよ、でも・・・・・・」
我儘を、聞いて欲しい。
切ない瞳で訴える彼に、イワンは戸惑いながら頷いた。
主からそんな感じは受けた事がないし、自分もそういった思いは抱いていない。
しかし、これが最後なら、願いを聞いて差し上げたい。
「イワン君・・・・・・・」
「ん・・・・・・・」
ちゅぅ、と唇を吸われて、目を閉じる。
柔らかな口づけは甘く心地よい。
柔く唇を噛まれて、眉根が寄った。
する、と服が脱がされていく。
「ん・・・・・・・・・・・」
「は・・・・・気持ち良いかい?」
「・・・・・・・・・・はい・・・・」
ちょっと恥ずかしくて、俯いてしまう。
主に拾われてからまともにセックスした事は無かったから、人に性的な行為を受けると言うのが何だか不安で、でも酷く心地が良い。
「わ、私にできる事があれば・・・・・」
「うん・・・・・じゃあ、はい」
「?」
大きめのグラスを渡され、首を傾げるイワン。
その耳に、信じられない要求。
「私の目の前で、グラスにおしっこしてくれるかな」
「・・・・・・・・・・・・・えっ?!」
主に変わった趣味は無かったと思う。
主が女性と遊んだ翌日に部屋を片付けても、そういった痕跡はなかったはずだ。
戸惑っていると、男が首を傾げる。
「出来ない?」
「あ・・・・・え、と・・・・・」
これが最後と思うと、要求を通させてあげたい。
でも、覚悟を決めて宛がっても中々出ない。
人の目の前と思うと変に力が入るし、緊張してしまう。
焦れば焦るほど、下腹が緊張してしまった。
すると、男の手が太腿を優しく辿り始める。
擽るようにされて、腰がもじついた。
ぞくぞくして、出そうになる。
脚をもぞもぞさせていると、耳を甘く噛まれる。
「はい、しー・・・・・」
「あ、あ・・・・あ・・・・・ふ、っ」
ちょぼちょぼ、とグラスに溜まっていく黄味がかった液体。
暖かそうな湯気が立っていて、酷く恥かしい。
が、男は嬉しそうにそれを奪い取り、目の高さに上げてまじまじ見つめる。
「これがイワン君のおしっこかぁ・・・・・」
「あの・・・・・えっ、や、やめっ・・・・・」
「・・・・・ん、美味しい」
一口飲まれて、イワンは動けなかった。
余りに衝撃的過ぎて、何が何だか頭が認識しない。
ただ止めなければと手を伸ばすが、避けられ飲み干されてしまった。
「あ・・・・あ・・・・・」
「うん、やっぱり採れたてが良いね」
まるで山菜や牛乳のような感想を貰い、意識が遠のく。
が、男に引き戻された。
押し倒して今度こそ致そうとするが、突然動きが止まった。
「ちょ、ちょっと、今いいところなのに・・・・・」
「?」
「わんっ!」
「へっ?」
嬉しそうに吠えたセルバンテスをまじまじ見つめるイワン。
だが、男はベッドに座りこんで足で耳を掻こうとしている。
ちょっと無理そうだったから掻いてあげると、嬉しそうに顔をぺろぺろしてくれる。
が、やっぱり押し倒された。
意識が人間の時点で勃起していたから、犬になったら更に我慢なんてしない。
慌てて逃げを打つが、うつ伏せにさせられ項に食いつかれた。
走った痛みに身体を捩ると、尻を割られて舐められる。
犬だと思うと気は楽だが、獣にされているとなると何だか複雑だ。
が、そこでセルバンテスの意識が復活。
「はぁ・・・・・危ない危ない、イワン君の初めて取られちゃうところだった・・・・・」
「あ、あの・・・・・」
「ああ、大丈夫、今はちゃんと・・・・・・けろっけろっ」
「か、かえる?」
「けろっ」
蛙なら逃げおおせるんじゃないか、そう思ったイワンは、非常に甘かった。
クーラーの効き過ぎている室温は、10℃無い。
当然蛙は低温状態では動けないが、安全に過ごすために。
『冬眠』する。
目の前の孔をじっと見つめる蛙セルバンテス。
勿論自分の体の大きさなんて考えていない。
あったかそう、柔らかそう、気持ち良さそう。
びくびくしているイワンににこーっと笑いかけ、蛙バンテスが指を差し入れる。
「あ、あっ、痛」
「けろ?」
小さい孔の意外な深さに首を傾げ、蛙バンテスが益々嬉しそうにする。
入る気だ、身体の中に。
腕でも突っ込まれれば激痛の果てに絶命する事は目に見えている。
怯えていると、蛙バンテスはそこを舐めながら指を動かし始めた。
何のつもりか知らないが、くすぐったい。
もぞもぞしていると、蛙バンテスは人差し指と中指を揃えて突っ込み、中を掻き混ぜ始めた。
腰が重くなって、背筋がぞくぞくする。
「あ、あ、やめて・・・・・おねがい・・・・・」
「けろろっ」
「あんんっ、ぁ、だめ、だめ・・・・・!」
激しい注挿に、むちぷりの尻がぷるぷる震える。
弾き返す弾力の尻に、蛙バンテスは夢中だったが、またしても意識が入れ替わる。
但し、今度は猫らしい。
ごろごろ喉を鳴らしながら、引き抜いた指を舐めている。
厭らしい目つきは猫独特の色気だ。
「にゃぉん」
「あの・・・・・・ひぃっ!」
振り返った先の端っこに僅かに映るもの。
形は変わっているが、それより。
目の前で、返しが生えてきている。
無数の棘の様なものが逆刃状に生えているから、挿入は楽でも引き抜いたら激痛だ。
もがき暴れるが、項をしっかり噛まれてしまう。
ぶつりと歯が食い込んで、熱い感触がする。
首を伝い落ちる、温かいもの。
覚悟を決めて目を閉じると、差し入れられる。
熱い痛みだけしか感じないが、我慢できない事も無い。
歯の音が合わぬままに、シーツを掴む。
「ぅ、あ・・・・あ、あぐ、あっああああっ」
「にゃぁ・・・・・・」
愛おしそうに肩口を噛んでくる猫バンテスは、容赦なく腰を使っていた。
イワンが絶叫して悶絶しても、嬉しそうに犯すだけ。
前足で背中を踏みつけ、粘膜がこそげて血の混じる中を執拗に掻き混ぜる。
「にゃ・・・・・っ」
「あ、あ、あ、あぅあ、ぅぅあ、あ」
口の端から僅かに泡立った唾液を零し、涙を流すイワン。
抵抗する気力すらもう無く、がくがくと揺さぶられている。
「にゃぁぁん・・・・・・にゃっ」
「ふ・・・・・っ、く・・・・・・っ」
中に吐き出されるものの痛みを伴う刺激に耐えられず、小水を漏らしてしまう。
そのまま前立腺への刺激で強制吐精させられ、イワンは視界がゆっくりと闇に閉ざされていくのを認識した。
「・・・・・大丈夫か」
「・・・・・・・・・・・・・あるべるとさま・・・・・?」
とうとうあの世に来たのかと思って身を起こすが、激痛に倒れてしまう。
主は、溜息をついて左手を差し出した。
掴んでいるのは、セルバンテス。
首根っこ掴まれて大人しくなっているのは、未だ猫のままだからか。
「こやつに監禁されていた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?!」
聞けば、セルバンテスと主は旧友。
だが、イワンに懸想したセルバンテスが邪魔なアルベルトを不意打ちで刺し、イワンを口説く時間を稼ごうと監禁。
じゃあ嘘をつかれたのかと泣きだしたイワンに、悲しいフォロー。
セルバンテスは大変口が上手い。
38歳、黒髪、髭に間違いはないが、それは盟友と自分に共通。
霊媒体質は自分が保証する本物。
気が短い男だが、イワンの事はもう何年もずっと見ている。
「要は、適当な事を言って適当に生きている男だ」
「はあ」
「だが、貴様に関しては本気らしい。手に入るなら、何だってすると言っている」
「何だって・・・・・ですか・・・・・?」
イワンの瞳に僅かな迷いが見えた。
従者が欲を出した事に意外さを感じたが、早くくっつけてしまわないとまた刺される。
盟友も従者も気に入っている男は、すぐさま焚きつけた。
「こやつは大概のものは持っている。金も、地位も、名誉も、何もかも。貴様が強請れば、国すら買い取るぞ」
「なんでも・・・・・・」
イワンが泣きそうな瞳で、たったひとつの願いを口にした。
霊媒師セルバンテス。
いい加減な事を言っていい加減に生きている男の傍には、誠実で実直な人がいます。
朝から晩まで一緒・・・・ではないですが、プライベートな時間は殆ど一緒。
甘えて抱いて、泣かせて鳴かせて。
必死で手を伸ばして自分を呼ぶ人の望みを、今日も彼は叶えます。
「イワン君、愛しているよ・・・・・」
***後書***
霊媒体質でもなんでも、スカ将軍は健在。