【 日用品シリーズ-005 】
久し振りに似鳥に行ったら、シングルライフ応援月間だった。
一人用の家電コーナー。
電気ポットに、電気ケトル。
ポップアップトースター、ホットプレート。
その中にぽつんとある、ホットサンドメーカー。
ホットサンドを一人暮らしで作るかが既に疑問だ。
しかも一度に一個しか出来ないらしい。
呆れて眺めていると、そのホットサンドメーカーは可愛い笑顔で笑いかけてくれた。
応援月間は今日で最後。
彼は既に20%offのシールが貼られている。
包みはぼろぼろ。
どう控えめに見たって、今季売れなければ破棄だ。
値段は、けっこうする。
2割引きでもそうそう買えないだろう。
レッドは高給取りだからこのくらいUFOキャッチャーにつぎ込む500円玉と大差ないが、使わぬものを買っても。
色々考え、そのコーナーから立ち去る。
無邪気なホットサンドメーカーは、何も知らずに手を振ってくれた。
大きくではなかったが、優しい人だ。
店内を見て回り、蛍の光がかかり始める。
かなり長居してしまった。
出て行こうとして、やっぱり引き返して。
うとうとしているホットサンドメーカーを、起こさぬように抱きあげて会計した。
無言の店員の眉が一瞬引き攣ったのにははあ、と察する。
大方売る気はなかったのだ。
だから勝手にいくつかゼロを足し、それを隠しに2割引きを掛け。
店長に気づかれぬ工作を。
が、そんな事はどうでも良い。
言い値で買うのだから文句は言わせない。
ホットサンドメーカーを持って帰り、新品のそれから擦り切れた包みを剥ぐ。
綺麗に拭っていると、眠そうに呻いた。
こてんと寝返りを打つのが可愛い。
綺麗にしてもやはり白い。
何か塗っているわけではないらしい。
片付けるのも面倒で、隣に横になってしまう。
直ぐに、睡魔は襲ってきた。
良い匂いに目を覚ます。
身体を起こすと、腹がくぅと鳴った。
きょろきょろして、立ちあがり、台所へ。
ホットサンドメーカーが朝食を作っていた。
それも、パンですらない和食。
おにぎりとたまごやき、それに大根おろし。
何もなかった台所で作れるのはこれが限界の筈だ。
だが、何ともうまそうだ。
レッドがいる事に気付き、ホットサンドメーカーは微笑んでくれた。
イワンというこのホットサンドメーカーはレッドに甲斐甲斐しく朝食を作り、望まれるまま毎日おいしいご飯を作ってくれた。
そして、ある日ふと気付く。
食べ終わって、膝枕の後。
出勤前に赤いマフラーを巻いて貰いながら。
ホットサンドは作らないのか、と。
イワンはおかしそうに笑って、説明書をご覧くださいと。
そう言って、いつもの様に温かい腕で抱きしめて送り出してくれた。
ポケットに入れっぱなしの説明書を出し、通勤路を歩きながら眺め。
目を丸くした。
毎日毎日、彼は作っていたのだ。
あたたかな腕でぎゅってして。
自分の心をとろかして。
ふわふわで、とろとろした。
恋心という名のホットサンドを。
口元を笑ませ、足を速める。
余程帰ろうかと思ったが、まあ良いだろう。
今日は、パンとチーズを買って帰ろう。
後は家の卵で良い。
とろとろのふわふわの、ホットサンドを作って貰って。
一緒に、食べよう。
***後書***
ネタで勝負的な話。流石にここまで純情テイストだとえっつぃに持ちこむのに罪悪感!!