【 日用品シリーズ-006 】



部下からヒス男扱いされたので腹が立って。

買物に行った。

買物狂の気は無い。

叩いても変質者に見えぬものを買いに来たのだ。

とは言え。

そんなものあるのか。

布団を干す時に叩くのとはわけが違うのだ。

持ち運べて、お手軽に殴打できるもの。

そうそう無いかと溜息をついていると、楽器店のショーウインドー。

何とも可愛らしい笑顔で道行く人の気を引いている、タンバリン。

良い品らしく相当高いが、楽器なんてそんなものだろう。

さっさと店に入って、他の何も見ないでタンバリン購入。

連れて帰られるタンバリンは、今から何をされるのか知らないような無邪気さで自分に懐く。

帰って、部屋に放り込んで包みを剥ぎ取った。

四つに突き倒し、思い切り尻をひっぱたく。


「うぁっ」

「ふふっ、タンバリンならいくら叩こうが構わないのでしょうっ」


ばちんばちんと容赦なく叩きまくると、タンバリンが逃げ出そうとする。

それを押さえつけて叩けば、とうとう我慢出来ずに泣きだした。

尻はもう真っ赤だ。

叩いても構わないと言う余りの嬉しさに何も見えなくなっている孔明は、手が腫れあがって感覚が無くなるまで叩きまくった。

2度程失禁したのを始末しておくように言って、さっさと仕事に行ってしまう。

保証書と言う拘束具は、ポケットに入れて持って行って。





それから孔明の変質者評価はやや下火になった。

右手はいつも手袋をして、腫れて青黒くなっているのは隠している。

にこやかさに磨きがかかり、部下からの人気も上がり。

順風満帆。

そして、帰っては一日の鬱憤をタンバリンに向ける。

悲痛な悲鳴と泣き声に、気付きもしなかった。

ある日帰ったら。

タンバリンは、壊れていた。

叩いていない、でも、彼は。

嬉しそうに、可笑しそうに。

明るく愛らしく、笑っていた。

我に返って見れば、彼はもうぼろぼろだった。

尻はおろか身体中に青あざがつき、内出血ででこぼこ。

ぶよっと変な感触がするそこを触っても、益々可笑しそうに笑うだけ。

急に、叩く気が失せた。

あのタンバリンが良かったのだ。

壊れたタンバリンが欲しかったんじゃない。

でも、このタンバリンを手放す気はない。

保証書は、昨日で切れていた。

きっと知っていたのだ。

売ったあの男に迷惑がかかると、必死になって正気を保っていたのだ。

今日になって、期限が切れて。

何を我慢する必要があるのだろう。

やっと壊れて、彼は今幸福の絶頂なのだ。

何も分からないまま、ただ嬉しくて笑っているのだ。

余りに酷い現実に、目が覚めた。

どうでも良い人間からの評価を上げるために、この可愛いタンバリンを壊してしまった。

大事なのはタンバリンの方だったのに。

悲しくて、自分の馬鹿さ加減に腹が立って。

そっと、抱きしめた。

タンバリンはそれでも。

笑っていた。





子供のように、全てが愉しくて笑っているタンバリン。

名前を、つけてみた。

イワンと。

イワンは自分の名前も認識できないまま、嬉しそうにオレンジを食べていた。

そう言えば、何が好きなのかも知らない。

適当に食べていなさいと言っていただけで。

本当にオレンジが好きかも、何も。

知らない。

そっとタンバリンに口づける。

タンバリンは嬉しそうな笑顔でそれを受け入れた。

オレンジと狂い咲きの花の香りがした。

笑っているだけの彼。

キスが嬉しかったのかさえ、分かる筈もなかった。





タンバリンは夢現の中にいた。

ふわふわして気持ちが良い。

もう随分、痛い事も怖い事もされていない気がする。

何だか、嬉しい。

何だか、可笑しい。

笑ってしまう。

ああ、ああ、幸せだ。

大好きな御主人様が自分を見ている。

何度も何度も、キスしてくれている。

優しく触れてくれる。

ぶたれない。

ああ、御主人様が。

悲しそうに、見ている。

悲しそう。

に。

何故。

何で笑ってくれないの。

あんなに嬉しそうに叩いていたでしょう。

気が晴れるんでしょう、お仕事がんばれるんでしょう。

私を叩く為だけに買ったのでしょう。

思わず手を伸ばして主の涙を拭った瞬間、突然意識が浮上した。





「どうして、泣いているのですか・・・・・・・?」

もう何か月振りだろう。

タンバリンの声を、笑い声以外を聞いた。

頬を伝う涙を放ったまま、微笑む。

こんな夢でも、幸せだ。

タンバリンが、自分を見ている。

いつの間に眠ったのかさえ、どうだっていい。


「貴方が、治らないかなどと虫の良い事を考えて、勝手に泣いているんですよ」

「治る・・・・・・?」


そう言えば、何だか暖かい。

買われた時は、冬の始めの割に酷く寒かったのに。

たった数日でこんなに暖かくなるなんて、と見回し、イワンはぎょっとした。

桜が咲いているのが窓から見える。

壁のカレンダーはもう4月になっている。

身体からは、痣が消えていた。

慌てて、主人に聞いてみる。


「あ、あのっ、砂漠の作戦は、あの作戦の策は・・・・・」

「・・・・・・・・・・・イワン?」


イワン、と言われて首を傾げる。

彼は自分の名前を知らない。

我に返った孔明は、漸くこれが夢で無い事を認識した。

手が震えるほど嬉しくて、タンバリンを強く抱きしめる。


「帰ってきてくれたのですね・・・・・!」

「え・・・・・?」


この4カ月余りの事を聞いたイワンは、真っ青になって孔明に謝罪を繰り返した。

が、プライドの高い孔明が、今回ばかりは謝罪を受け付けなかった。

彼が、頭を下げた。

悪かったと。

許してくれなんて言わないと。

でも、どうかどうか。

自分のタンバリンで居て欲しい。

必死な願いに、イワンは泣きながら頷いた。

嬉しい。

たとえ叩かれるばかりでも、御主人様の役に立てるのが嬉しかった。

それでもいいと、我慢した。

でも、こんなに優しくしてもらえるなら。

そっちの方が、当然良い。

それに、もっともっと。

御主人様が、好きになった。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

タンバリンの保証書は持ち歩いていたが、説明書は読んでいなかった孔明。

このタンバリンは叩くものではないらしい。

触ったり、舐めたり、要は可愛がってやると良い音で鳴くのだ。

さっきから無言なのは、どうやって可愛がるかを考えているから。

色々考え、台所に行く。

自分の為にタルトを作ってくれていた。

後ろから軽く抱きしめて、今夜寝室に来るように言った。

タンバリンは、耳まで赤くして、小さく頷いた。





「孔明様・・・・・・」

恥ずかしがるタンバリンが可愛い。

タンバリンイワンは、いやらしい目で見てくる御主人様の前で服を脱いだ。

恥ずかしいのに、ドキドキしてゾクゾクする。

下着が脱ぐに脱げなくなってもじもじしていると、椅子を立つ音がする。

叱られるかと思ったら、御主人様は優しくてとても格好良い笑みで、見つめてくれていて。

頬が、熱くなる。

そっと縋ると、唇が合わさった。

ゆっくりと口の中をまさぐり合って、戯れる様に絡め合う。

ちゅ、と濡れた音を立てて離れると、とろ、と銀糸が伝って切れた。

イワンは孔明を見詰めていた。

孔明は、そんなイワンに首を傾げた。

頬をなぞっても反応はなく、ぽーっと自分を見詰めているだけ。

その純情さが可愛くて、くつり笑って口づける。


「ん・・・・・・んん・・・・・」


ちゅぷ、と舌を絡め合わせて、吸い上げる。

びくっと跳ねた身体を抱き上げ、ベッドに連れて行った。

ほっぺたを赤くして怯えたように、しかし拒絶の色無く見詰めてくる大ぶりな瞳。

可愛い。

スッと首筋に手を這わせ、思わず動きを止めた。

今の音は、何だ。

甘く弾んだ、愛らしい音。

ごくりと喉を鳴らし、もう一度同じように触れてみた。

さっきとは違う、同じくらいに心地好い『声』。

ぞぞぞっと肌が粟立ち、急性に目の前の身体をまさぐる。

もっと、もっと。

そのすずやかな音色を。

肌に赤い花びらを残しながら移動し、胸の尖りに吸いつく。


「んぁんっ」

「・・・・・・ああ・・・・良い音ですね・・・・・」


恍惚感を味わいながら、何度も尖りを舐め上げる。

タンバリンは、新品だった。

まっさらの無垢な身体。

男も女も知らぬ、柔らかで初心い肌。

軽く噛みながら、頭を下げて行く。

甘そうに立った、雄。

ちゅるっと含むと、何とも良い音色で鳴いた。


「んああ、だ、だめ、孔明さまっ、だめっ」

「は・・・・どうぞ、構いませんよ」

「あっあ、っあ」


ぢゅ、ぢゅ、と吸い上げてやると、もどかしげに身を震わせる。

が、頑張る。

ならばと趣向を変えて先を舐めまわすと、悲痛さの混じった短調を奏で始める。

先を舌先でしつこく弄りながら、口で吸う。

びくんと跳ねる腰を抱え込んで深く咥えると、タンバリンはとうとう陥落した。


「ああ、あ、あぁ、あ」


ぴゅくっと蜜を漏らして達する声が可愛い。

口内に残った甘いそれを飲み下しながら顔を上げれば、すっかり濡れた目で余韻にびくついていた。

軽く唇を湿し、脚を開かせる。

考えたが、負荷や呼吸のしやすさ、声を出しやすいかを考えれば、四つに這わせた方が良いだろう。

うつ伏せにさせゆっくりほぐしたが、初めての射精に呑まれてしまっているイワンは余り抵抗しなかった。

奥まで広げてみたが、身体は柔らかい。

時折、揺れる鈴がねの触れ合う様に、小さく鳴くのが何とも可愛かった。

腰を少し上げさせ、後ろから寄り添ってあてがう。

顎を取って耳に囁けば、こくっと喉を鳴らして小さく頷いた。

ぐぐ、と差し入れると、肉が絡みついてくる。

抵抗というよりは誘い込むように、だが激しい締め付けで。

焦らずじっくり攻め込んで、奥まで差し入れる。

根元まで埋めて、息を吐いた。

小さく震える尻に、思わず手が出てしまった。


ぱちんっ


「あんっ」

「・・・・・・・す、すみません・・・・・つい・・・・・っ?!」


ぎゅぐぐ、と絡みつく媚肉。

イワンの呼吸は不規則に乱れ、身体が仄かに染まっていた。


「や、やさしく、なら・・・・・」

「っ・・・・・・イワン・・・・・っ」


酷く興奮した。

男根が熱い。

じんじんする程にそそり立っているのが分かる。

軽く、白い尻を叩く。


ぱんっ


「ぁんんっ」


ぎゅっぎゅっと締まる孔は堪らぬ快楽を与えてくる。

はっはっと息を弾ませながら、ヒスとは比べ物にならぬほどに優しく、しかしやや強く叩いた。


「あっあっ、んっ」

「イワンっ・・・・・・」


きゅうぅ、と締まった肉の管の中に、思い切りだした。

消え入りそうな甘ったるい悲鳴を上げて、イワンが膝を崩した。

ずるっと抜けたものは、まだ吐精している。

久し振りだ、こんなに興奮と快楽を感じたのは。

嬉しくなって、タンバリンを仰向けにひっくり返す。

下肢を白濁で汚して恥ずかしがる彼に口づけ、顔を覗き込んで微笑んだ。


「矢張り、私のタンバリンは世界一ですね」





孔明の評価は安定し始めた。

ヒスは下火のまま、嫌味には磨きがかかり。

私生活が充実しているのだと言う彼は、家でタンバリンを叩いています。

優しく叩いて、可愛がって。

たくさんたくさん、音を出させ。

演奏が、精神衛生に大変良いそうです。





***後書***

孔明の責めっていっつも動き少なで『…策士』って攻め・・・・を、心掛けています(願望だ!)