【 日常品シリーズ-008 】
金庫を取り寄せた。
段ボールに入ったそれは相当重い。
そんなに容量が大きいものではなかったはずだが。
軽く叩いてみると、律儀に『入っています』と返事があった。
ああ、そうか、と思ってぎょっとする。
慌てて開けると、慌てて肌を隠す可愛い金庫。
「ま、まだ着替え中ですっ」
「し、失礼・・・・・・」
後ろを向くと、衣擦れの音。
いろいろ妄想を掻き立てるが、じっと我慢。
そわそわしていたら、もういいと。
振り返ると、スーツをきっちり着込んだ可愛らしい金庫。
「初めまして、イワンと言います」
可愛らしい笑顔が、一目で気に入ってしまった。
「い、いい、のか・・・・・?」
「は、はい・・・・・」
恥ずかしそうに頷く金庫。
彼は下半身をさらしたワイシャツ姿で、ベッドに上がって脚を開いている。
鍵の認識。
まるでPCのパスワードのようだが、設定するとそれ以外の鍵が合わなくなる。
指で解すのすら駄目というから、何度も柔らかいキスを繰り返し、騙すように差し入れた。
元々男性器の大きさを自慢や引けに感じることのない幽鬼。
彼の持ち物は細身だが異様に長い。
奥まで突っ込んで、よく女に白目をむかせる。
可愛い金庫が壊れてしまうのではないかと心配したが、金庫は頑張って我慢してくれた。
おなかを押さえて震える体を撫でると、はにかむように微笑んで。
慰めるように、口づけを。
金庫の言葉に甘えて気持ち良くしてもらい、中でたっぷり出し切って。
くったりした金庫を、ギュッと抱きしめた。
幽鬼は金庫を大変可愛がった。
大事に手元に置き、毎晩可愛がり。
中には特に何も入れないまま、毎日鍵を差し入れて。
そうして、ある日。
帰宅して。
家が荒らされていて。
でも、そんな事はどうでもよくて。
金庫が、ない。
慌てて探した。
訳あって、警察とは相性が悪い。
自力で探し、盗人の屯した廃屋の中に入り。
皆、問答無用で殺害し。
金庫を探した。
金庫は隅に転がっていた。
口端から唾液を滴らせ、苦しげに呻き。
雁字搦めに縛り上げられた体をよじり。
苦しみ喘いでいた。
金庫を開けようとしたのだ。
やり方を知らない盗人は、彼の中から金目の物を取り出そうと躍起になって。
指や棒でかき混ぜた挙句、刺激物を流し込んで。
その上、醜悪な玩具で栓をした。
くるくると痛々しい音を立てている腹は、筋肉がひどく痙攣している。
噴出させようなどと考えたのだろう、だが何と惨たらしい。
泣きながら悶絶するイワンを抱き上げ、車に押し込む。
すぐさま帰り、家に入り。
物が散乱したそこを抜け、寝室へ。
ベッドの上からガラガラ物を落とし、イワンをのせる。
玩具はロープで固定され、抜けないようになっていた。
縄を切って、そろそろ引き抜く。
嫌がり痛がるイワンを宥め透かしてキスを繰り返し、力を抜かせて引き抜いた。
勢い無く流れるそれは、とろっとしていて。
相当濃度が高い、グリセリン。
可哀想に、力任せに弄り回されていたそこは、酷く傷ついていた。
指を差し入れて全て掻き出し、刺激の少ないぬるま湯で軽く洗浄する。
矢張り、かなり出血していた。
可哀想になって、抱きしめた。
金庫は弱々しく抵抗した。
それは怯えではなく、幽鬼の服が汚れるからという気遣いで。
そんなものはいいから、どうかどうか、抱かせてくれ。
何がしてほしいか言ってくれ。
何だって持ってくる、何だってする。
そう言うと、金庫は弱々しく微笑んで。
泣かないでください、と言った。
「幽鬼様、でもっ」
「駄目か?」
「い、いえ、その・・・・・・」
数日後、傷を舐めたいと言い出した幽鬼にイワンはほっぺたをピンクにして恥ずかしがった。
傷は色々大小あったが、もう殆ど治っている。
大事に至るものも、痕になるものもなかった。
ただ、やはりあの場所だけは治りにくいわけで。
今も、ガーゼを挟んでいる。
が、突然それの感触が消えた。
たまにお茶を飲みに来る青年直伝のスリテクは生半可でない。
着衣の上から下着を抜く事も出来るのだ。
そうしてあれよあれよと言う内に丸裸にされてしまった。
四つん這いのままお尻を押さえてガードするが、手で掴まれ引き剥がされる。
晒された鍵穴。
鍵穴を見られているのが恥ずかしい。
思わずひくひくさせてしまって、もっと恥ずかしい思いをした。
ごく、と唾を飲む音。
え、と思ったら、足の間を通してご主人様の腰のあたりが見えて。
スラックスを押し上げて勃起した、もの。
顔が熱かった。
鍵穴に、興奮されている。
生暖かい息がかかって、益々ひくつく。
ぴちゃ・・・・・・
「ひっ!」
「ああ・・・・・血の味だ・・・・・・」
「んく、ぅ・・・・・・・」
傷口を柔らかく這う舌もかなり長い。
薄い皮膚と薄い粘膜の境に明確に感じる、舌の感触。
恥ずかしくてくらくらした。
軽く吸いつかれ、思わず尻を振って逃れようとする。
すると、抱え込まれて舌を入れられた。
「あぁ、ぁ・・・・・・!」
「は・・・・お前の中は、熱いな・・・・・」
ぢゅうっと吸われて、身体ががくがくした。
「こちらでも、キスができるんだな・・・・・」
「え・・・・・きす・・・・や、そ、そんなっ」
反芻し理解した瞬間、イワンは恥ずかしがって泣き出してしまった。
ひくひくする肉孔に舌と唇を遊ばせ『キス』を繰り返す幽鬼。
感じて締めてしまうたびに、幽鬼の舌を甘く噛んでしまう。
やめて欲しいと懇願し、ようやく解放された時はぐったりしていた。
すっかりほぐれてしまった後孔に軽く口付け、幽鬼は自身を取り出した。
すっかり興奮しているものは天を衝き、びくびくと震えている。
押し当てて少し押し付けると、ずるっと先が入った。
亀頭を一気に含み、幹の半ばまでいけたが、さすがに途中で止まった。
それでも苦しそうなイワンに甘く口付けながら、彼の腰に手を添え軽く体重をかける。
「あ・・・・ああ・・・ん・・・・・ぐ、っ・・・・・」
「辛いか」
苦しげに喘ぐイワンを気遣うと、彼は頭を振ってしがみついてきた。
「ゆうきさま、だいすき・・・・・・」
「っ・・・・・・イワン」
心臓が止まりそうな程に心が震え、心音が高鳴る。
イワンをかき抱き、急性に奥まで押し込んだ。
意識が落ちそうになっているイワンを気遣うこともできぬまま、若さにまかせて腰をゆする。
喘ぐイワンの中に流し込み、腹に掛る温かな液体を感じ。
久しぶりに、金庫を手元に置いて眠った。
「・・・・・駄目、か?」
せがむ幽鬼は、まるで子供だ。
たまに狂気を見せるが、彼は基本的に素直だ。
子供のころの特殊な環境で些か歪んでいるが、それでも可愛いもの。
イワンに叱られて言い訳し、しゅんとし、謝る。
イワンに褒められて、嬉しそうに微笑む。
その格好良い笑顔が好きだ。
ちょっと顎に特徴があるが、なかなかのイケメン。
第一、自分をとても大事に扱ってくれるご主人様だ。
一生他の金庫は買わないと言い出した時は、嬉しいがそれはと渋ったのだが、聞かない。
それなら金庫は買うが、女は買わない。
嫁もどうせ来ないから、お前と二人で一生暮らす。
そんな引きこもりじみた事まで言い出す始末。
疲れるが、可愛い我儘。
両親に恵まれなかった彼が初めて執着したのが、自分というのが何とも言い難いが。
腹を括ることにした。
要らないと言われるまで、一緒にいよう。
自分も男だ、お別れしてもちゃんと金庫としてやっていける。
幽鬼も、家族と歩めばいい。
だから、それまで。
いつ来るか、来るかわからないそれまで。
頑張ろう。
苦笑して、エプロンを締め直す。
「駄目ではありませんよ。オムライスで構いません。でも、ちゃんと一人分食べてくださいね」
言い聞かせると、幽鬼は僅かに笑んで素直に頷いた。
優しい金庫と、一人の青年。
その愛らしい金庫をいくら出してもいいから譲れというものは少なくありません。
金庫はそれを知りません。
自分の魅力も、愛らしさも。
そして。
幽鬼の部屋という大きな金庫に、金庫の自分が大事に入れられていることも。
***後書***
幽鬼を選んだのは鍵は長い方がいいから。浣腸ふぁっくがやりたかったけど、同意が少なそうでやめましたっ(正解!)