【 日用品シリーズ-014 】
一子相伝の刀打ちがいる。
彼の名は怒鬼。
整った容姿と確かな腕に、男女問わず人気の刀工だ。
が、一言もしゃべらない彼は、実はかなりおっとりしている。
坊っちゃん気質で、がっつかない。
世話をする血風連という者達だけが、彼の本当の姿を知っているのだ。
今日も今日とて、拾ってきた子猫のトイレを制作中。
プラ製を嫌がるのが何匹かいるから、段ボールで作っているのだ。
世話は下手だが、工作は得意の怒鬼。
通常の世話は血風連に回っているが、何もしていないわけではないのだ。
2個作ったが、もう一個作っておこうか。
蔵に段ボールを取りに行った怒鬼は、不思議なものを発見した。
封の張られた、長い箱。
刀の鞘入れだが、そういえば先代が沢山予備を置いていた。
もう久しく開けられていない箱を興味から開けてみて、怒鬼は目を瞬かせた。
中に入っていた多量の鞘の一番上、白く美しい、鞘。
惚れ惚れする極上の純白。
思わず手を伸ばし、抱き上げる。
鞘はまだ、深い眠りに着いていた。
蔵から出した鞘を部屋に運んで、綺麗にしてやる。
包みはぼろぼろだったから、はがしてしまった。
綺麗な肌は少し埃がついていたから、湿した布で綺麗に拭う。
もっと輝きを増した肌に惚れ惚れしていると、鞘が小さく身じろいだ。
寝がえりを打った肩、肩甲骨には、小さな銘が。
『イワン』と彫りつけられていた。
大ぶりな目が薄らと開き、真っ黒な瞳と目が合う。
にこりと微笑むと、鞘は泣きそうな顔をした。
「でてこないで・・・・・」
また、目が覚めたら。
一人なのでしょう?
一人ぼっちに疲れ切っている鞘に、そっと接吻を。
イワンは暫くぼんやりしていたが、はっとしたように起き上がった。
頭同士が派手に当たって、双方蹲る。
「いっ・・・・・あ、あのっ、怒鬼様ですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
こく、と頷くと、イワンはもう泣かんばかりの顔で抱きついてきた。
だが、今度は嬉しそうな笑みだ。
「ずっとずっと、想っていました。どうかどうか、私にもひとふり刀を打って頂けませんでしょうか」
「?」
一瞬意味が分からなかったが、よくよく考えれば彼は刀の鞘。
存在意義である刀の入れ物になる憧れはあろう。
この可愛い鞘が気に入っていた怒鬼は、一も二もなく頷いた。
イワンは嬉しそうだった。
報酬はそれで、十分だった。
可愛い鞘に御世話されつつ、3か月ほど頑張ってみた。
依頼の合間にだが、その分じっくりと。
しかし、気が済むものは出来なかった。
あの可愛いお願いに対していい加減なものは渡したくないし、でも気に入らない。
あの鞘に対して、余りにみすぼらしいと思った。
とは言え、気に入らないだけで失敗作ではない。
格安で投げ売りしたため、怒鬼の名が一気に広まった。
今まで埋もれていたのが、広告的なパフォーマンスで一躍有名になったのだ。
人が来るわけでないが、依頼はみるみる増え始める。
怒鬼は、修練を兼ね、鞘のための刀の練習を兼ねて精魂込めて刀を打った。
それがまた、評判をあげる。
いつの間にか、3年が過ぎていた。
暇さえあれば、暇がなければ睡眠を削ってでも時間を作ってイワンの刀を打ったが、まだ駄目だ。
躍起になる怒鬼に結婚の話も舞い込み始め、二人の仲は悪化した。
いがむのではないが、イワンが離れようとし始めたのだ。
迷惑をかけていると勘違いした彼は、血風連が縋って引きとめてやっとここにいる。
血風連は、主人がどんなに鞘に執着しているか知っているのだ。
それに、こんなに出来た人で、自分達でも時折迷う主の言いたい事を、さっと察知する。
どうかどうか、怒鬼様と添い遂げてくれ。
そう言う話にもなったが、イワンは怒鬼の血筋を絶やすわけにはと首を振るばかり。
困った血風連は、一計を案じた。
イワンは長らく閉じ込められていた鞘、おまけにこの山奥の屋敷から出た事はない。
世間知らずもいいところ、主人も同じようなもの。
二手に分かれ、画策。
3日後の夜、2人は布団を挟んで向かい合っていた。
白い襦袢に包まれた身体は薄ら湿っていて、風呂上りと知れる。
「怒鬼様の刀を、身体に受け入れさせてください」
「・・・・・・・・・・・・・・」
頷いた怒鬼は、酷く嬉しそうだった。
彼もまた、血風連に『相応しい刀は、お腰に』と言われている。
実際まあ何とも立派らしいが、イワンはそんな事は知らない。
鞘として頑張ろうと、やる気満々。
「お願いします」
「・・・・・・・・・・・・」
頷き、イワンを引き寄せる。
イワンは幸せそうに笑って、大人しく胸に抱かれていた。
鼻先に口づけ、そっと耳を撫でる。
なめらかな耳は僅かに産毛が触り、心地よい。
鼻先を近づけ、匂いを嗅いだ。
良い匂いだが、もっと犬の耳の様な匂いでも良かったと思う。
襦袢を脱がせもせず、押し倒して裾から頭を突っ込む。
「ど、怒鬼様?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・?」
くんくんと匂いを嗅いでも、イワンは何がしたいのかいまいち分からないで戸惑うばかり。
匂いを嗅ぎたいとは察せても、それで興奮するなんて夢にも思わないのだ。
風呂上がりの湿気を含んだ腰紐を、襦袢裏から嗅ぐ。
濡れた匂いとともに、僅かに汗の香りがした。
嬉しくなって、脚を開かせる。
股間に頭を突っ込んで深呼吸していると、イワンが身を起こして、襦袢越しに頭を撫でる。
「あの・・・・楽しいのなら、嬉しいです」
こくりと頷く頭を見つめるイワン。
蟻の戸渡りを視姦しつつ臭いを嗅ぐ怒鬼は、それだけでいけそうなほどに勃起していた。
が、余り自分勝手ばかりではいけない。
この人に刀を仕舞わなければ。
襦袢から頭を出し、イワンを丸裸に剥いてしまう。
自分も脱ぎ捨て、目を合わせた。
「怒鬼様・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
不安と期待の入り混じった瞳のイワンに優しく微笑み、接吻を。
脚を開かせ、雄を口に含む。
「んんんっ」
「・・・・・・・・・・・・」
口に含んだだけで芯を持ち、震える雄。
ちゅっちゅっと吸ってみると、甘く苦い蜜が舌に乗る。
嬉しくなって奥まで咥えると、柔らかでむちっとした太腿が側頭部を挟みこんだ。
「あ、ぁう」
ぢゅるる、と音を立てると、可哀想な悲鳴を上げる。
しかし、口の中の甘みは増していく。
かりをつぅっと舌先でなぞると、腰が激しく跳ねた。
「んんっ」
軽く吸いながら、何度も亀頭を舐める。
かりを辿り、尿道に舌を。
「あ、あ、あ、だめっ、それだめっ」
「?」
舌先で唾液を尿道に押し込んでいると、イワンが激しく身を震わせた。
「で、でるっ」
「・・・・・・・・・・・」
ぢゅう、と吸い付くと、イワンが泣きながら達した。
唇を離して身を起こし、半ば放心状態のイワンの後孔を探った。
十分濡れていたが、一応香油も垂らす。
世話焼きな血風連が選んできた、金柑の香りの香油。
ゆっくり指を差し入れると、かなり激しく絡みついて来る。
狭さに驚くが、心配だ。
これでちゃんと入るのだろうか。
一応経験はあるが、女性だし、これよりかなり緩かった。
困ったと思いながら、中を探る。
が、心配は杞憂に終わった。
みるみる柔らかくなってしゃぶりついて来る後孔。
柔らかに開いて指を咥えこみ、指を三本入れても貪欲に飲み込む。
おまけに締め付けは最高、これなら生半可な事では抜け落ちまい。
嬉しくなって指を引き抜き、濡れた指の匂いを嗅いだ。
粘膜と金柑の匂いが混じって、何とも興奮する。
軽く扱いて、男根を宛がう。
イワンはすっかりとろとろで、怒鬼に抱っこを強請った。
苦笑して抱え上げ、対面座位で挿入する。
「ぅんっ・・・・は・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
ぬぬぬぬ、と入っていくものは硬く熱い。
良い形のものは、初心な身体を簡単に熱くさせてしまった。
腰をもじもじさせるイワンに微笑んで、腰を揺らす。
ごり、と当たる感触がする度、激しく締まった。
刀を受け入れてすっかり勃起している雄をやんわり握り込むと、また締まる。
リズムを取って扱き始めると、断続的に後孔が締まった。
心地よさに目を細め、奥を強く突き上げる。
「ぅんっ、んっく」
「・・・・・・・・・・・・・」
上向き気味のイワンにこちらを向かせて、甘く優しく、厭らしく接吻する。
イワンはすっかり夢中になって、必死に怒鬼の唇に吸いついていた。
「んっんっ、ん・・・・・・」
ちゅっちゅと口づけ合いながら、高みに向かって駆けあがる。
激しく締まった中に出すと、イワンも白濁を噴き零してくれた。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、笑って抱きついて来る。
しっかりと抱き返し、彼の名前をそっと呼んだ。
人気の刀打ち、怒鬼。
一子相伝の刀工ですが、彼には結婚の予定がありません。
ですが、恋人はいます。
可愛い白い鞘と、朝から晩まで一緒。
起こして貰ったり、御飯を作って貰って一緒に食べたり、一緒にお風呂に入ったり。
そして、夜はしっかり。
鞘に自慢の刀を入れて、眠るそうです。
***後書***
うちの怒鬼は基本的に喋りません。