【 日用品シリーズ-015 】



料理が好きな人間の多くは、皿を買うのも好きである。

自分が作った料理を綺麗に盛りたいと言うのは勿論、大皿が要るとか、取り皿が一枚割れたとか。

ヒィッツカラルドもその類の人間であり、今日は似鳥にお出掛け。

本腰入れるならここには来ないが、今日は取り皿が欲しい。

ボーンチャイナなら此処で十分だし、数を揃えるにはこういった量販店が一番良いのだ。

そこで、目に留まった皿。

まじまじ見ると、彼は首を傾げて微笑んでくれた。

椅子の上に置かれた彼は、白い。

スーツで包んでいるが、白磁の肌が美しい。


「・・・・・・大皿も悪くないな」


呟き、皿を撫でる。

彼は目を瞬かせ、恥ずかしそうにもじついた。

愛らしい仕草に気を良くし、抱え上げる。

値札を見ると、『iwan-\560』とある。

大皿の割にかなり安いが、もしかしたらもう投げ売りにされているのかもしれない。

レジに連れて行き、会計。

無口な店員は、名残惜しむように皿の頭を撫でて包んでくれた。





「・・・・さて。荷物はこれだけだ」

「はい」

買ってきた食材を皿と一緒に仕舞って、一息。

珈琲を渡すと、礼を言って飲み始める。

可愛い皿は、端もの処分でそろそろ始末される頃だったと言っていた。

何でこんなに可愛いのが売れ残ったのが甚だ疑問だ。

カップを置いた綺麗な白色の皿を抱き上げ、風呂場に。

いつでも使えるように洗わせて欲しいと言うと、素直に頷いて包みを脱ぎ脱ぎ。

無地と思っていたが、ワンポイント・・・・胸に二か所ピンクのドットがあった。

淡目の色遣いで目に楽しく、何だか得をした気分だ。

優しく丁寧に洗って、綺麗に拭き上げる。

くすぐったがるのが可愛い。

何とも純情な皿は、シャツが濡れて透けた自分に恥じらいを見せた。

男の裸体に恥ずかしがると言うのもやや妙な話だが、妙に色気のある皿だからその気になってしまう。

が、そこはヒィッツカラルド、伊達男。

ぐっと我慢して、着替える。

ラフなワイシャツにスラックスを穿き、黒のカフェエプロン。

これだけでまたぐっと男っぷりが上がる。

いつもスーツで決めていると知らなくても、ちょっと崩した格好良さは感じる。

どきどきしている皿に微笑むのは、わざとでなく無意識。

その気取らない優しい笑みに、皿はもっともじもじ。

何だか微笑ましく甘い空気だが、邪魔者もいないので、二人でどっぷり浸ってしまう。

一緒にパスタを食べて、ちょっと飲もうかと立つ伊達男。

サーモンのオリーブオイルがけを作って、クリーム色の皿に盛る。

それを持って、ワインも掴んで、イワンにベッドに上がって欲しいなんて強請る。

ベッドでなんて行儀が悪いが、初めて買われた皿はそんな事を知らない。

素直にベッドに上がって、ちょこんと座る。

あひる座りのその腿や腰に、たっぷりオイルを含んだサーモンを張りつけるように置いていく。

皿は恥ずかしそうにはにかんでいたが、ヒィッツが時折頬を撫でてやると、嬉しそうに目を閉じた。

びっしりサーモンの鎧を着込んでしまった腰の下部から腿。

何とも美味そうだと思いつつ、箸を持ってくる。

フォークでは可哀想だ。

仕事柄大体どんな食器でも使えるヒィッツは、器用にサーモンを摘まんで白ワインを楽しんでいた。

時折皿にも飲ませ、サーモンを口許に差し出してやる。

あーん、をしてもらって恥ずかしがる皿に気を良くし、もうひときれ。


「ぅんっ」

「おや、間違えてしまったな」


いけしゃあしゃあとのたまうが、どう考えたって胸までサーモンを置いた覚えはない。

尖りをくいくいと引っ張って意地悪すると、イワンがぎゅっとシーツを掴んだ。


「あ、あ、あの、やめ、て」

「痛むか?」

「さ、サーモン、落ちちゃ、う」

「うん?」


見れば、半勃ちの雄に張り付いたサーモンがぶらぶらしている。

感度の良い皿に微笑み、内心舌舐めずり。


「ああ、それはいけないな」

「は・・・・・え、あ、駄目・・・・・ひ、ヒィッツカラルド様・・・・」


引っかかっていたサーモンを摘まみ上げるが、オイルが少し切れ気味だった。

斜めになった雄をたっぷり伝っているが、それは置いておく。

戸惑う皿ににっと笑い、先に滲んでいる透明な汁をサーモンにつける。


「食べるか?」

「えっ」

「私に譲ってくれるかね?」

「あ、え、あ、あの・・・・・」


自分の蜜がついたサーモンを、食べるか食べられるかの二者択一。

迷った一瞬に、ヒィッツはそれを口に入れてしまった。


「時間切れだ」

「あ、あの・・・・・」

「ああ、良い味だ」

「っ・・・・・・・」


かぁっと顔を赤くする皿が、俯く。

それの顎を掬って、目を合わせる。


「ひときれ如何かな?」


ぱくりとサーモンを咥えたヒィッツに微笑まれ、イワンはこくんと唾を飲んだ。

そっと唇を開いて、口に端を咥える。

すると引き寄せられ、サーモンはヒィッツの腹の中。

口に残る甘いオリーブオイルを味わうキスに酔っていると、ヒィッツが手を取って股間に押し当てた。

硬く勃起した大きなものに、イワンが耳まで赤くする。

くすりと笑って、触らせる。


「皿に私のものも受け止めてくれるか?」

「あ・・・・・・・」


恥ずかしそうに俯き、こくんと頷く皿イワン。


「あの、割らないでください・・・・・」

「ああ、善処しよう」


押し倒し、オリーブオイルまみれの下腹を触る。

半立ちの雄は相変わらずぴくぴくしていて、後ろの可愛い孔が丸見えだ。

興奮しつつ、だが焦らず、ゆっくりと指を差し入れる。

柔らかに、しかし強く絡みつく柔肉。

奥を探ると、益々嬉しげに締めつけてくる。

壁を辿るように触れていると、もどかしげに腰を揺らす。

顔は泣きそうだが、身体は欲しがっているようだ。

奥を触ってみると、息が弾んで蜜がぽたぽた落ちていく。

大丈夫と踏んで、取り出したものを慎重に差し入れた。

イワンが必死に手を伸ばすから、そっと指を絡めて引き寄せた。


「ヒィッツカラルドさま・・・・・」

「ん・・・・・?」

「とても、暖かい、です・・・・・」

「ああ・・・・・そうだな」


処分を待っていたなんて何でもないように言っていた彼の、本当は不安だった気持ちを垣間見た気がした。

処分への薄ら寒い気配に震えていたイワン。

恋多き男と言いながら、本心は誰も知らないヒィッツカラルド。

暖めあうように身体を擦り寄せ、快感というより心地よさを追う緩い腰遣いで攻める。

ひくひくと締めつけてくる肉孔は柔らかく温く。

縋る指と吐息は甘く。

汗を伝わせながらの泣きそうな微笑みが、心を満たしていく。

何度も何度もキスを繰り返し、唇がじわりと痺れるまで吸い合う。

舌を差し入れて戯れるように絡め合い、息を弾ませて。

何度も何度も、飽きる事もなく。

心の底から、愛し合った。





皿を綺麗に洗って、ヒィッツは出掛けた。

スーツに着替えて香水を纏うのを、イワンは優しく見守っていた。

自分ひとりを愛してなんて言う気はなかった。

第一、自分はお皿。

大事にしてもらえるだけで、幸せだ。

そんな皿の考えを薄々感じながら、ヒィッツは部屋を出た。

花屋をはしごし、沢山の百合の花を揃えた。

淡いオレンジ色の、百合。

自分の髪の色、彼に似合う花。

大きな花束を抱え、部屋に戻る。

イワンはベッドの上でうとうとしていた。

その傍に、花束を置く。

そして、誰も知らない、自分以外の誰も知らない。

誓いのキスを、する。

皿すら知らない、誓いのキスを。





伊達男ヒィッツカラルド。

彼は恋多き男、いつでも多数の女性と交際しています。

しかし、彼女達は首を傾げ、口を揃えて言うのです。

まるで娼婦のように、頑なにキスを嫌がるのだと。

きっと伊達男なりの変な操立てだと言いますが、実際それは大当たり。

やる事もやりながら、しかし唇はあのひとのもの。

帰ったら一番に、足先から頭の天辺まで。

恋多き男でいさせて欲しいという我儘を許してくれる優しい人に。

何度も何度も、愛を込めた接吻を。





***後書***

伊達男の変な操立てがお気に入り。