【 夢年企画 】
「幽鬼の情操教育の為、作文を書かせました」
テーマは『夢』。
孔明の言葉に、十傑はやる気なさげに頷いた。
寝ないようにと立たされているのだ、小学校の朝礼か。
ぺたぺた進み出た幽鬼が、PCを操作する。
「・・・・読むのが面倒なほど長くなった」
ので、スクリーン投影。
全員読み終わらないと次頁に行かないらしい。
ぴきっとくる主張だが、イワンが微笑ましげなので我慢。
さっそく投影され始めたが、十傑は幽鬼を舐めていた。
それは、皆の頭の中を覗いて回ったレポート。
情操とか以前にプライバシー侵害だ。
夢見過ぎの十傑の脳内が今ここに、幽鬼の絶妙な筆によって。
晒しものに!!
容赦ない幽鬼に、カワラザキ以外笑っていない・・・・・。
「一応注意しておくが、今から始めるのは純愛部門」
「ぶ、部門・・・・・?」
幽鬼がにたっと笑った。
「レッドと孔明は、純愛部門」
スクリーンが、ぼやっと光を帯びた。
孔明とレッドの夢
「・・・・・・いや・・・・・酷いな」
ヒィッツが乾いた笑いを浮かべている。
伊達男にしては珍しい。
が、皆似たような顔つきだ。
セルバンテスが茶をすする。
「孔明はまぁ、兄弟イメプと思えば良いんだけど。何で私とアルベルトがレッドの子供なの」
イワン君がお母さんってのは捨てがたいけど、やっぱりねぇ。
いまいちだと言わんばかりのセルバンテスの隣の盟友も、同じような顔だ。
「それ以前に、瓦解した町と思い切り詳細を端折った割に本番ナシか」
「う、うう、うるさいっ!別に出来んのでなくただっ・・・・」
「はいはいはい、飴あげるから大人しくして。で、孔明はなんでお兄ちゃん設定なの?」
見やれば、策士が良い笑顔で微笑んでくれた。
「貴方が鬼母であるのを妄想したくて」
「・・・・・ちょ、イワン君虐待して放り出した母親私なの?!」
納得できないと喚く幻惑を、レッドが飴を口に突っ込んで黙らせる。
「ふん、ならば他人事のようにしている真空馬鹿に手本を願おうではないか!」
「わ、私か?!いや、それは・・・・・」
「ついでに直系のもだからなっ!」
ヒィッツカラルドと怒鬼の夢
「はんっ、貴様らだってそう変わらんわ、この妄想馬鹿!」
「何でもかんでも馬鹿をつけて私を名指すな!」
「煩い黙れ刻むぞ!」
半分癇癪な怒りもあらわなレッドと、矢張り妄想が露見すると恥ずかしいらしいヒィッツ。
怒鬼は黙っているが、鼻がひこひこしているので何かの匂いを嗅ぎ分けてボケっとしている可能性が高い。
「お前の薄ら寒い父親っぷりよりはまだましだっ」
「貴様こそ寝取っておいて飽きたら捨てる気だろうがっ」
喧々囂々の険悪ムードを黙らせたのは、意外にも怒鬼。
但し、床のコンセントにつっかかって懐の薬品をぶちまけただけなので、全員昏倒。
20分後にやおら起き上がり始め、皆落ち着きを取り戻しつつ再開。
「次は誰だ・・・・・くそ、頭が痛い」
「ああ・・・・・取り敢えず十常寺とカワラザキでいいんじゃないか・・・・・うっぷ」
カワラザキと十常寺の夢
「・・・・・贔屓だ、絶対に贔屓だ」
「謂れの無い事を言われてものぅ」
「ぐっ・・・・・」
カワラザキの笑顔が何とも悪い顔で詰まるレッド。
怖いものなしの殺人狂でも、人間より怖い『猛獣』には流石にビビる。
しかし、引き下がるほど柔でない。
「幽鬼も幽鬼だ、爺様だけ特別扱いかっ」
「・・・・・・・確かに私の文体にはしてあるが、見たままだ」
「・・・・・・・・・ちっ」
そっぽを向いて不貞腐れるレッドを放って、幽鬼が十常寺を見やる。
「まあ、意外と良い妄想なのには驚いた」
「是」
病ンデレ組。
耳もぎで夢の中のリアル耳なし芳一を作る勢いの十常寺と頷きあい、握手を交わす。
すると、残月が首を傾げた。
「暮れなずむのは無いのかね?」
他意なく楽しんでいる男に、幽鬼が一瞬目を逸らした。
「あるにはあるが・・・・・所詮願望だ」
「良いではないか。皆同じ穴のむじなだ」
言われ、原稿用紙を引き寄せる幽鬼。
スライドに、映る文字。
幽鬼と残月の夢(残月23禁Lv)
「ヤンデレの考える事は分からん・・・・・・」
疲れてしまったレッド。
はじめの頃は恥ずかしさから騒いでいたが、此処まで変な妄想ばかり見ているとげんなりする。
特に、幽鬼。
サスペンスなのか、世にも不思議な話なのか。
幽鬼が好きなのか、復讐なのか。
それすら曖昧な背筋が薄ら寒い話。
その上、済んですぐさま持ってこられるのは、異物狂のクッキング講座。
腹の中に入れるまでは良いが、逸物で掻き混ぜブチまけた挙句に焼いて食う?!
正気でないし、残月以外がやったら許されない。
顔だけ王子の良い例だ。
これならヤンデレやカリバの方が異様さは少ないと思う。
「もう良い、次だ・・・・・・」
セルバンテスと樊瑞の夢(23禁Lv)
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え、な、何?何なのその目」
「な、何か悪かったか?」
変態と変質者が根本的に残月と違う部分は、自覚のあるなしだ。
残月は自覚があるが、この二人は天性の異常者の為、それが当然と言う節がある。
「浣腸を強請るわけがなかろう・・・・・・」
「ああ、ブルマを着て体育倉庫、しかも相手は園服か・・・・・・」
ひそひそ話すレッドとヒィッツに、セルバンテスが焦る。
「何でそんな目で私を見るんだい?!」
「聞いたかおい・・・・・」
「ああ、あれはもう駄目だな・・・・・・」
犬猿の中の二人が耳打ちしあうほどの結束を呼ぶ、変質者二人の妄想。
樊瑞とセルバンテスが首を傾げた。
「何でかなぁ・・・・?」
「さあ・・・・・?」
「気にするな、貴様等は真性変質者だからな」
さあ、お開きお開き!
そそくさ出ていこうとするアルベルトを、セルバンテスが捕まえた。
「何逃げてるの。ここまできたらもう道連れだよ」
大体のところ出尽くしたし、君の性折檻で締めようじゃない。
「今日は何の妄想なのかなぁ?」
「や、やめっ・・・・・!!」
「ん・・・・・・」
とろりと濡れた唇を軽く舐めてやると、恥ずかしそうに俯いた。
それを掬いあげて見つめると、顔を真っ赤にしてしまう。
愛らしい、深窓の白百合。
手折ったのは、もうずっと前だ。
戯れのつもりが惹かれ、そして。
この残酷な愛に、溺れている。
明日は人の妻となるひと。
自分の盟友の、妻に。
もう許嫁が穢されている事すら知らない男は、今朝も自分にこの人の自慢をしていて。
今夜も自分が腕に抱くひとも、自分の事を想っているのに。
いけないと思いつつ溺れていく人を何度も抱いて、朝日が昇る前に外へ。
一番冷え込む、闇の深い時刻に。
バルコニーから寂しげな声がして、振り返る。
「どうして貴方様は、アルベルト様なのでしょうか・・・・・」
一瞬躊躇い、響かぬ程度に、しかしその耳に届くように。
「貴様が望むなら、名など捨てよう」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な、何だ、何か悪いのか?!」
よりによって最高に似合わない事をやらかした帝王に、皆距離を取って生ぬるい笑みを浮かべる。
隣の盟友が一番近くて4m。
非常に無理をしている笑顔を向けてきた。
「いやぁ・・・・・そう言えば、君がまともに見た恋愛のお話って、ロミオとジュリエットの原作くらいだよねぇ・・・・・」
よりによって自分を当てはめるほど思いつめているとは思わなかったよ。
そう言って憐みの視線をもらい、アルベルトが切れた。
「う、煩いわ!貴様らに助言してやろうっ!」
ぎろりと睨みつける顔は、悪の帝王が最終形態に変身する時のようだ。
「まず孔明!あやつは20にもならん若造に惚れはせん!渋い中年にしか靡かんのだ!
そしてレッド!あやつが子の眠る隣室で事に及ぶのを許す筈が無かろうがっ!!
ヒィッツカラルド!ワシはあやつを処理の人形としては扱っておらんっ!
怒鬼!白無垢よりウエディングドレス!着物ではあの細い腰を見せびらかせんのだ!!
カワラザキ、十常寺!あやつの一人遊びがその程度で済むと思っているならば大間違いだからな!
幽鬼!恐怖語りがしたいなら顎から懐中電灯で照らして鏡でも見ているがいいっ!
残月!貴様のような変質者にハナから変態行為を強要されて惚れると思っているのか?!
セルバンテス、もはや貴様に言う事は無い。あやつは便秘にならん性質だから諦めろとだけ言っておくがな!
本気で中身が見たいなら、気合い入れて全身洗って陣羽織来て六文下げて出直してこい!!
樊瑞!サニーは勿論イワンに握らせたりしたら地獄を見せてやる!!」
吠えたアルベルトが、ドカッとソファに座って茶を一気した。
「兎角!あやつはワシのものだ!!」
「じゃあ、君はイワン君のものなの?」
「・・・・・・は?」
不審そうなアルベルトに、セルバンテスが首を傾げて見せる。
「いや、だってそうでしょ?イワン君は君のもので、君は自由っておかしいでしょ。犬飼ってるわけじゃないんだから」
「それはそうだが、何が言いたい」
「だから、君だって女の子と遊んじゃ駄目なんだよ?」
「遊んでおらん」
何の戸惑いもなく言い切られ、セルバンテスは苦笑して頭を振った。
「いや、それは君の感覚でしょ?」
抱かないけど、どうか一度だけって請われてキスするのよくあるらしいじゃないか。
「キスくらい・・・・・」
「そう?じゃあ私がねだってイワン君がキスするのは良いの?」
「っ・・・・・・・・・」
詰まってしまった盟友に、セルバンテスが溜息をつく。
「だから、もう少しいろいろ考えたまえよ。そうでないと、この妄想が現実になってしまうよ?」
「う・・・・・・・」
「それが嫌なら、努力する。私たちは実現に向け努力する。いいかい?」
がっくり肩を落とす盟友に頑張りま賞の飴を握らせ、セルバンテスは伸びをした。
「あーあ、大作君にこいのぼりのメッセージカード届いたかなぁ」
***後書***
でも、どう頑張っても実現できなさそうな妄想が混じってますよね?